王都滞在7

 朝食前の訓練を見に行って、知らないじいさんが剣を振っていた。隅っこで魔法の練習をしていよう。

「マクガヴァン先生、こんなに早くどうされたのですか?月例訓練には参加させていただいておりますのに。特別指導を受けられるのでしょうか?」

 朝からエロイーズの声がよく響く。

「ブレアがしてやられたというのでな、どのような人物か見に来ただけのこと。自分のことに集中するがいい」

 視線を感じるが一切合わさないようにする。昨日のような手本を見せる必要もない。

「して、エロイーズ。あの子どもはどのような技を見せたのだ?」

「私と兄のソードスラッシュを木刀で相殺し、避けながら私の剣に合わせました。木刀ですので、合わせたときに木刀は切れました」

「なんじゃと?ソードスラッシュで木刀が切れずに相殺し、剣を合わせたと?一体どのような、なぜそんなことが出来るのだ?」

「それを見破るだけの技量はなく、見ていた兄か父にお聞きいただいたほうが、詳しくわかるのではないでしょうか。ただ不思議なことに自然にしか見えなかったということです。歩いているかのような、不思議な感覚でした」

 ふむとだけ返事をしていた。

 今日は何の練習をしようか?土を出して、水をかけて、土を出して、水をかけて。大きな山。自分の背丈ぐらい、山盛りの土。土を濡らしているからべちゃっとしている。べちゃっとしている意味はないから温かい風で乾燥をされていく。今日はこんなものかな。

「ランス、ちょっといいか?」

「何?」

「昨日のを見せてくれないか?」

「おっちゃんにやったヤツだね。このおじいちゃんにすればいいの?死んじゃわない?」

 エロイーズは顔面蒼白になり、口をパクパクしている。

「この方はな」

「実はばあちゃんだとか?」

「違う、男性だ。おちょくっているのか?」

「じっちゃんと同じぐらいの人?」

「エインヘニャル様と比べるな。ほとんどの人間がかすんでしまう」

 エロイーズは深いため息をついた。

「国軍剣術指南員のマクガヴァン先生だぞ。何も知らないんだな。昨日のソードスラッシュのヤツを見せてくれ」

「昨日見せたからもういいでしょ。あとは自分たちで練習して。スキルなしで出来ることが、出来ないなんて。それならエロイーズが、魔法を使って見せてよ」

「我々では出来ないのだ、スキルがあっても相殺など出来ないのだ」

「だから、僕は剣を教えてもらうために覚えたの!出来ないのはスキル以前にやる気と剣を覚えようとする心、そういう1番大切な物がないからだよ。つまり、僕からしたら教わる資格のない人しかいないってこと。どれだけ剣を振った?剣の握り方から振り方まで教えられたんじゃないの?剣を教えてもらうとき、木刀を渡されて終わりだったよ。木刀を渡された日に師匠に振るのを止められたけど、そのくらいは振った?出来ないのはそれだけの努力をしてからにして欲しいな。だいたい、こんなところで素振り出来る時点で、まだまだなんだから」

 こいつは何を言っているんだという空気が流れる。

「そこおじいちゃん、剣を振ってみて」

「なんじゃ、指導でもしてくれるんか」

 スッと剣を構えるとあげて降ろす。

「振りに変な癖がついてる。あげるときに刃先を動かさない。上げたときに余分な力が入ってる。主に右手に頼りすぎ。振り上げたときに1度静止。変なブレがある。降ろすのはましだけど、ぶれてるんだよね。自分でわからないの?わからないなら、うまくならないよ」

 悪いところを教えて、唖然とする周囲を置いてけぼりにして練習場から出て行った。メイドさんには薬師ギルドに行くといって屋敷を出る。貴族街は静かで、朝食を取る貴族が起きてきている時間だろう。グレンフェル家は朝練のために特別早い。貴族街を抜けると一般の普通の人達が動き出している。

 パン屋と何かつまめるような、サンドイッチが露天に売っていたので1つもらう。そこで開けて食べると、何かよくわからないクリームが挟まっていたりしていて、かぶりつくと口の中においしさが広がった。ハムや葉野菜。それにチーズのヤツ。どれにもそのクリームが挟まって美味しかった。全部食べるともう1つもらって、薬師ギルドの中に入って、図書室に入っていく。毒になりそうな白い石だけは覚えておかないと。本を読みあさって、積み上げていく。

「ランス君、お客さんが来ているわ。貴族街の警備隊長が何の用なのかな?」

「エロイーズの家に泊まっているの」

 用事はわからないけど、下に降りるとちゃんとした装備のエロイーズと隊員の3名が後ろに立っていた。

「ランス、マクガヴァン先生がお呼びだ。出頭するように」

「国軍と関わる気はないよ。呼び出したいなら、冒険者ギルドを通してくれる?国の人達に呼び出される理由がない」

「今朝は何だったんだ」

「気まぐれ。その場にいたから。もうしないから安心していい」

 後ろの隊員が前に出る。

「貴様、隊長のいうことが聞けないというのか!」

 薬師ギルドの中に怒声が響く。階段を降りて、正面に立つ。

「貴族の当主扱いとされているのに、その口の利き方はこの国が僕に戦いを望んでいると受け取って構わないね?ちゃんと得意分野の生活魔法で戦うから大丈夫」

「何が大丈夫なのだ。スキルなしの剣で私といい勝負をするのに、魔法など絶対に無理なのはわかっているだろう。口の利き方は申し訳なかった。この通り許して欲しい」

「隊長、このような子どもに舐められたらおしまいです。俺が教育を」

 この発端の男は剣に手をかけた。殺気を抑えずに解放する。エロイーズは鎧をガチガチと鳴らしながらたっている。後ろの3人は冷や汗を流しながら硬直していた。

「ここで抜くなら、薬師ギルドに敵意ありと見なしていいんだよな」

「そ、そのようなことは、絶対に、あり得ない。薬師ギルドとことを構えるなど、申し訳ない。早く、剣から手を離せ」

 他の2人が腕を掴んで、剣を取り上げたので殺気を収める。

「宿はどこでもよかったし、だからといってエロイーズの家のいいなりになる気はないよ。便利に使いたかったら、冒険者ギルドに依頼に行くんだね。わかった?」

「わかった」

 青ざめた様子で薬師ギルドをあとにしていった。迷惑な人達だ。図書室に戻っていって、調べ物を続けてお腹が空いたらサンドイッチを食べる。今日はこのくらいにして、外に出るとエロイーズ達が冒険者ギルドに入っていくのが見えた。

 興味本位でこっそりと後をつけて入っていく。気配遮断まで使って侵入する。普通にギルドに入っているだけなんだけどね。受付に依頼を頼みたいというと上からギルド長が降りてきて、こちらへどうぞと上に行った。ギルド長室までは行けないな。

 暇つぶしにレスタの受付に行ってみる。

「あの貴族達は何の用なんだろうね?」

「貴族がらみだとだいたい魔物討伐だな。高位の魔物が現れたとか、大量発生したとか。王都では国軍がだいたい対処してしまうから、ギルドまで降りてくることはないんだけどな。少し変わって、会場の警備とかか。ってランスじゃねえか。王都に住み始めたのか?」

「婚約の手続きが済むまではいることになっているよ。終わったら帰るけどね」

「ふーん、呪い姫とは物好きを通り越して、よほどの狂人か。ランスなら、ありか。仲良くやれよ」

 そういえばどんな生活になるのか全くわからない。貴族から平民に降嫁して、裕福な生活はしていないんだけど。もうちょっといい暮らしをしたほうがいいのかな?

 上の方から大きな声が聞こえる。揉めているようだ。

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