王都滞在6

 次は毒の本をあさってみるとすぐに見つけてしまった。鉱山で採れるもので、鉱山ではこの石が含まれた水を飲んでいたので中毒になったそうだ。他から持ってきた汚染されていない水を飲むとなくなった。初期は疲労感や腹痛など。最終的に働けなくなってしまうので、奴隷の最終処分場として現在は機能しているそうだ。鉱物自体も触ったりしていて働いていたら絶対に死ぬよ。重犯罪者や死刑のかわりに行かされるそうだ。

 調べ終わったので薬師ギルドに降りるとメイドさんがいた。

「ずっと待ってたの?1人でも帰れるよ」

「奥様から問題のないように付き添うようにと仰せつかっております。ですので、ランス様が当家に滞在される間はご一緒させていただきます」

「そ、そうなんだ」

 薬師ギルドを出ると薄明かりの中、街灯がついていた。歩いていると馬車が横付けされた。

「そんなに根を詰めなくてもいい。まだ帰っていないので迎えに来た。乗れ、帰るぞ」

 普段着ドレスのエロイーズが馬車の窓から見下ろしていた。開けられた扉から乗り込む。

「今まで調べていたのか?」

「そうだよ。薬の本になくて、毒の鉱石に入っていた。疲労感や腹痛とかそういうものが症状。とり続けて出てくる症状がひどくなっているようだね。それで使うのはやめたほうがいいよ」

「なるべく使わないようにしよう。使わないといけないのもあるし、今のところあれが1番使いやすい。すぐに使うなというのは、替わりの物があるならだ」

 それは中毒よりも毒を体に塗るほうがいいってことだよね。信じたくないけど、毒でも使わなければならないの?

「使わないといけないの?」

「そうだな、貴族だからな。ドレスと一緒だ。使わなければ、家の評判を落とすことになる。そうしたくはない。それがわかっていてもだ」

 毒でも使わなければならない貴族って変なの。毒なのに。

「ある程度、解毒用のポーションを使って、なんとか出来るだろう。誤魔化し誤魔化し使っていくしかない。使わないのは出来ない」

「だけど」

「誰になんといわれようと、使いやすい替わりの物がないのなら使い続けるしかないんだ」

「それは。困ったね」

 使い続けるのなら、貧血、頭痛、人格の変化もするのに。あとは麻痺を起こしたり。毒の中にあったけど、昔は外用薬としても使われていたみたいなことが書かれてあった。解毒用のポーションで症状が出ないのなら、僕が止めることは出来ないみたい。

「ランス、替わりの物を作ってくれるならいいのだけどな」

「替わりの物?化粧品って何が必要なの?」

「顔にくっついておく必要がある。粉みたいなのをつけて落ちてしまうなら、意味がない。あと、パリパリにならない。彫刻のような物で塗り固めて、しゃべろうものならひび割れて落ちてしまったら、それこそ笑いものだ。あとは肌を白く見せるためにつけているから、塗って白くすること。肌の悪さを隠すための物だからな」

「エロイーズにはいるような肌に見えないけど。それでも使うの?」

 急にう、うるさいとメイドさんに説明を任せる。

「お嬢様に代わりまして、あとは使いやすさかと。粉物でしたら、使い勝手があまりよろしくなく。クリーム状で肌に伸びていって、肌を隠す今の白粉が使いやすいのです。肌にのばすのは様々ありますので、どうということはないのですが、うまく肌につかないのは敬遠されます」

「わからないけど、面倒なんだ」

「そうなのでございます」

 薄く塗っても白くて、肌につけても剥がれず、かといってひび割れが出ないこと。仮面でもかぶってもらった方がいいと思うんだけど。好きな顔になれるしね。

「難しいね、まずは白い物を探さないといけない。その辺にあるものなら試されるはずだから、卵とか牛乳とかじゃダメだね。そうなると何が候補になってくるのか、変化を起こしにくい、変わらない物がいいんだよね?そうなると石かな?毒にも薬にもならない、そういうのはあるはずだけど。本には載せられていない、そういう石」

 集めてから作ってみるしかない。誰に頼めばそういう石が手に入るんだろうか?

「いろいろな石を買い付けるのなら商業ギルドか、宝石を扱う店か。鍛冶屋は特定の石しか扱わないから、金を出せば商業ギルドがもっともいいだろう。頼むのなら一緒に行こう」

「あ、うん。そうだね、手配は早いほうがいいし」

 何を使えばいいのか全く見当がつかない。白っぽい石を使えばいいのかな?粉にして、クリームにする?どうやって?頭の中をぐるぐると考えるけど、最初に戻ってどうやってになる。

「ランス、商業ギルドだ。ついたぞ」

 考え事をしながら馬車を降りると中に入って、受付のお姉さんがよってくる。

「おいでくださいましてありがとうございます。警備隊隊長エロイーズ様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「肌のあれが気になるのだ。最近巷ではやっている化粧品があるだろう?あれをつけると肌が荒れてな、よい物がないのかとよったのだ。どこかでいい物は作られていないか?」

「少々お待ちください、取扱品を確認して参ります」

 別の人が来て、部屋に連れて行かれる。商業ギルドの取扱品ならいい物があるんじゃないのかな?別の物を用意しなくてもいいかな。きっと肌荒れしないのもあるはずだから、考えなくてもいいかな。

 しばらくお茶を飲んで待っている。いつもギルド長の部屋だったから別の部屋に入るのは初めてだった。貴族用ということもあって、高級品っぽい物がたくさんある。貴族用の部屋ってあんまり落ち着かない。

「ランスも商業ギルドは初めてだろう?」

「ここは初めてかな」

 貴族用の部屋は初めてだよ。満足げにしているエロイーズの横でお茶を飲んでいく。時間がかかっているようだった。受付のお姉さんとは違う人が書類を持ってやってきた。分厚い紙の束を机の上に広げる。

「お待たせいたしました、エロイーズ様。こちらが商品の目録になります。各国で作られている化粧品になります。様々な材料方法で作られた物をこちらに載せてございます」

 書類の商品を説明し始めた。

「1つ、鉛白の含まれていないものを求めている。鉛白は毒と聞いて、毒を塗り続けるのは気分的にも優れぬからな」

「お時間をいただければ、中に入っているものを確認して参ります。どうされますか?これだけの量を調べますので、どうしても時間がかかってしまいます。できる限り早く調べますが」

「いらない。白い石を各種集めて私の元に持ってきてくれ。これから先はこちらで行う。どれもそう、かわらんだろう」

 諦めたように言い放つエロイーズ。目録を持ってきた人は静かに一言、かしこまりましたとだけ告げて部屋から出て行った。外に出ようとするとギルド長がいた。

「エロイーズ様、うちの紹介が気に入りませんでしたかな?」

「本部長、そういうわけではないが、何というか、鉛白が使われていない物を求めていてな。この王都で流れている物は全て同じではないか?他の国の物で全く違うものが作られ売られているとは、考えにくいのでな。ならば、それを看破したランスに作ってもらおうと思ってな。薬師でもあるのならば、毒の類いは扱わぬと思ったのだ」

「うちのギルド員が作るのならば、問題ありません。よい物を期待して待っております」

 エロイーズはこちらを目を細くして睨む。

「ランス、ここは初めてだといったじゃないか。いや、ギルド員だったな」

「貴族用の部屋は初めてだったよ。いつもギルド長室に行くから他の部屋は初めて。ウソは言ってないよね」

「それで商業ギルドで何を取り扱っているのだ?教えろ。しかし、有名どころのギルドばかり。本当に話題に事欠かない男だ」

「エロイーズ様、ランスのことは誰にも誓って、いえ、誓約していただきたく思います。漏れるのは困るのです」

「それほどのことなのか?」

 真剣な表情で頷いている。ばれると貴族が来るかも知れないって言ったよね。エロイーズは少し考えて、わかったと告げた。先ほどの部屋に戻された。

「先に誓約を」

「誓約は出来ない」

「ではお教え出来ません。申し訳ございません」

 食い下がろうとするエロイーズだったが、ギルド員を守るためだとピシャリと言い切った。

「なお、販売戦略についても宰相様に許可をいただいておりますので、調べまして情報が漏れようものなら、手を回されますのでご理解ください」

「気をつけよう」

 すでに宰相には話を通しているんだ。ギルド長凄いね。エロイーズは僕を睨みつけてから、部屋を出て馬車に乗り込む。

「ランスよ。手広くやっていて、なかなか面白いじゃないか。何か他に言わないといけないようなことはないのか?」

「なにかあるのかな?あってもいわない。エロイーズは言わないといけない人ではないからね。シャローザは教えておかないといけないけど、違うよね?」

 そう言うと黙り込んだ。知りたいというのなら誓約は絶対に必要だ。

「自分の強さは見せたつもりだけど」

「それは、十分に見た」

「十二分に見せられる人もいないしね。しかたないか」

「あれで不十分なのか」

「今の本領は魔法で、本気を出したのはワイバーン討伐の時だけ。そのあと魔法を見せたときかな。あとはミスリルの盾を蒸発させたらしいとき。全部、辺境伯関係者しか見ていないよ。他には誰も見ていない」

 辺境伯領の偉い人っぽいのには全員誓約をさせたから漏れることもないけどね。本気といえば、ずっと戦えてない。

「あの武術でスキルなしとは恐れ入る。一体どのような修行をすれば、あんな風なことが出来るんだ?」

「同じことをすればいいんだよ。2人だったのを剣が、振られる速度に合わせて分人を用意して、ソードスラッシュを撃ってもらえばそのうち出来るようになる。普通に教えてもらえるんだから、あんなこと出来なくてもいいんじゃないのかな。僕は教えてもらうために必要だったから身につけただけ」

「教えてもらうのにあんな技がいるとは、どういうレベルの師匠なんだ?」

「それ以上は確認されていないレベル。そういうこと」

 間の抜けた音が聞こえた。

「ま、まさか、師匠はレベル10だというのか?」

「そういう人に会ったら、教えを請うて自分で確認してみて」

「剣の達人でもそこまでのことは」

「それは本当に達人なの?」

「いや、あの方に至るなどと思わないのだが」

 泊まる場所について、食事を食べてからすぐに寝ようとしたら、エロイーズが修行に付き合えという。生活魔法をバシバシやって、成果はあまりなかったけど、小さいのはそらせているのでいいのかな。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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