王都滞在3
ドタバタとした足音が響いて、扉がいきなり開いた。全身装備したエロイーズがこちらを睨んでいた。
「どうしたの?」
「感じたことのない魔力を感じたので、急いできた。攻撃的ではないようだが、それは何をしているんだ?」
「魔法の練習。剣を振るようなことだよ。ある程度の魔力を一定時間とどめる練習。魔力の扱いを鍛えるために練習しているんだ。人の家だから、一定にする練習しかしてないけどね。狭い場所なら魔力を込める練習をするんだけど、ここにいる間はしてないよ」
「この魔法で練習というのか?ひと区画ぐらいは甚大な被害が出そうだ。破壊行為を行うのかと思って、あわてて来たじゃないか」
破壊行為をするならって前置きをして、魔力を追加していく。少し不安定になったところでやめる。
「このくらいは欲しいかな?もうちょっと大きくしていいなら、魔力はもっと込められるけどね。この小さいのにどのくらいの魔力を入れ込めるかだから」
「ランス、もう少し手加減してくれないか?」
「練習に手加減なんてしないよ。1人でやってるだけなんだから」
「一体何事なのです?」
廊下からエロイーズのお母さんの声が聞こえてくる。扉から部屋の中に乗り込んでくる。いつものように4属性を浮かべたままだけど。
「何をしているのです、4属性?しかも上位属性。説明なさい、今のこの状況を」
「魔法の練習中。魔力を一定に保つ練習。エロイーズにはいつもやってる、魔力を込める練習を少し見せたよ。そうだよね?」
頷くエロイーズに何か言いたげにしているが、練習ということもあって何も言われることはなかった。
「主人に相談してから決めます。本日はお戻りになりましたからね。エロイーズ、夕食の準備をしなさい。そのような格好で来るのではないですよ」
「はい、お母様」
全員出て行ってから少し練習をして、夕食に呼ばれたので案内されるままに誰かしらない人の横の席に通された。髪を下ろしたドレス美人のお姉さんだ。エロイーズのお母さんに似てる。姉か妹か、エロイーズはこないのかな?反対に男の人達が並ぶ。偉い人の席には武人って感じのおっちゃんが座っている。
「父上、ご紹介いたします。私の客人として冒険者のランスをこの家に宿泊させたいのですが、よろしいでしょうか?」
「エロイーズ、そのような年端もいかぬ少年をここにとどめる意味はあるのか?それ相応の理由があるのなら許そう」
隣の美人がエロイーズと呼ばれて見上げるとエロイーズだとやっとわかった。こんなに印象が変わるんだね。
「ランスは私と張り合えるぐらいの剣術を使え、見たこともない生活魔法を扱える魔法使いなのです。また、冒険者ギルドにもS級扱いと認められたF級冒険者なのです」
「S級扱いの冒険者といえば勇者もそうだが、どう違うのだ?勇者など、片手間で訓練を行うだけで、あれがS級扱いの意味がわからん」
「勇者っていうのはわからないけど、祝福前はどんなことがあってもF級なんだって。祝福をもらったらS級になるって、辺境伯の冒険者ギルド長に教えてもらったよ。能力はS級だけどS級に出来ないからS級扱いってことみたい。詳しいことはギルドで聞いて」
テーブルに座っている全員の視線がこちらを向いた。
「輝く太陽を倒して、エインヘニャル様にその実力を認められたのです。滞在中は私の訓練に付き合ってもらいます。相応の理由としては不足でしょうか?」
「剣術で認められたのか?スキルはないはずだ」
「生活魔法で認められたそうです」
「そのような戯れ言を信じるほど耄碌しておらん。もっとましな理由をつけろ、まだ人形として買ってきたという方がましだ」
エロイーズはわなわなと震えている。お怒りのようだ。
「決裂したのなら泊まるのはやめておくね」
「実力を見せればお父様も納得してくれるはずだ。1日は我慢してくれないか?」
「悪いけど、魔法の才のかけらもない人は痛めつけられるまでわからないよ。じっちゃんは強そうな感じがしたから、全力で戦ったら本気でやれる。ここにいる人達は戦うまでもない」
「待て待て、私と剣術でいい勝負をしていたのは手加減なのか?じっちゃんとは誰なんだ?」
エロイーズにそう言われる。凄い怒りで睨んでくるよ、おっちゃん。
「スキルがないのに手加減じゃないけど、1番は魔法なんだから不得意分野だよ。同じ魔法で戦う?詠唱ぐらいはまってあげるよ。じっちゃんはさっきいってた、エイン、ヘルニャル?じっちゃんだよ。呼びにくい」
「魔法使いが剣士に剣術でいい勝負か。それよりエインヘニャル様をじっちゃんと呼んでいるのか?」
「本人も冒険者ギルドの誰も何も言って来なかったけど。別にいいんじゃない?認めたくない人はいるものだって聞いているし、ねえねえ、エロイーズのお母さん、これって凄いこと?」
目の前に火の玉を高魔力で生成する。
「それで地区ごと破壊するつもり?」
「これなら?」
「!?!?」
驚きすぎて言葉を失っている。周りの男共は物珍しいものを見ている様子だ。
「うっ、とめ、て頂戴」
「どうしたんだ?」
「魔力酔い」
消してから立つとふらふらしているエロイーズをイスにきちんと座らせる。少しだけ、魔力に当てられているようだ。座らせるときに火の魔力を抜けるだけ抜いた。かなり繊細な作業なので、完全には抜けないけど楽になったはずだ。
「すまない、楽になった。はあ、驚いた。魔力酔いなど初めてだから、どうしていいものかと。戦場でなったら困りものだな。役に立たなくなる」
「それこそ、気合いで飛ばせばいいんだよ」
「気合いでなんとかなるのなら、治療も何もいらない」
すでに元に戻っているような感じ。安定している様子。隣の母親はよっぽど酷いのか、身を投げ出して唸っている。息も浅く、苦しんでいる。
「ランス、治せるんだろう?頼む」
「しかたないか、自分でやったしね」
苦しそうにイスにもたれている。
「少し、魔力を抜くね」
手を取ると体内の魔力を感じる。火の魔力が結構入っている。これを僕の方に移していく作業をする。自分に合わない魔力っていうのかな、それと自分の容量を超える魔力を体に入れられると酔うような症状になる。これを魔力酔いと呼ぶ。
いいかな。火そのままの魔力をのけて、残っている全体の魔力を半分にしておいた。半分ぐらいなら普通に過ごせるはず。
「本当に自由自在なのね。魔法使いでも出来る人は少ないのに。一流の魔法使いなのは認めるわ。近くで見ると可愛い顔をしてるわね」
いきなり顔を手で押さえられて、じっと見つめられる。
「ランスでもいいわね」
「何?いきなり」
「エロイーズのお婿さん。S級冒険者なら十分に養ってくれるだろうしね。貧乏な貴族に嫁入りするよりよっぽどいいわ。他に何かいってないことはある?所属ギルドは冒険者ギルドだけ?」
「薬師ギルドと商業ギルドでふ」
しゃべっている途中で頬をこねくり回される。目が真剣なので怖いんだけど。
「F級薬師ってことは、薬師でも十分に食べていけるわね。将来有望ね。冒険者じゃなくてもいいなんて、それで商業ギルドはどうして所属しているの?」
「いえぇないぃ」
「秘密なの?教えてくれてもいいじゃない。それなら商業ギルドに聞いてみるからいいわ。このほっぺたすべすべで気持ちいいわよ、エロイーズ」
手が離れたと思ったら後ろから手が伸びてきてこねられる。
「そぅぃうのは人形なんかでやぁぁてよぉ」
「お母様残念ながら、ランスは辺境伯4女シャローザ・エルミニドの婚約者なのです。紋章官の認証印をもらうまで、私の稽古に付き合わせるのです。これほどなのですが先約があります」
「それは残念ね、貴方、ランスは魔法使いとして滞在をさせますね」
にこりと笑いかけると苦々しい顔で頷いていた。頬が赤くなるほどムニュムニュされて、やっと夕食を食べさせてもらった。来るところを間違えたのかも知れない。
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読んでくれてありがとうございます。
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