正式な書類を1

 体が少しだるい。体を起こすとシャローザがいて、ハンナさんがいた。

「起きられました。お食事にでも行きませんか?それとも体調が優れませんか?」

「まだちょっと、眠い。ご飯を食べて寝たら書類を確認させて」

「はい、お食事はどこでなさいますか?王都のお店でいただこうかと思っておりました」

「今の時間、出歩くのは危なそうだからここで食べる。酔っ払いも多そう」

 夜に出歩くのは危ないからしない。シャローザは貴族だから護衛とかついていいかもしれないけど、調合の疲れでまだ本調子ではない。戦えるかどうかなら出来るけど、安全な宿から出る必要はない。

「出歩くのは久しぶりなんだろう?行っておいでよ」

「ランス様を差し置いて行けるはずがありません。私もここで食べます。一緒にいたいのです」

 ここの食事は美味しいと思うんだけど。シャローザも貴族だからいいもの食べているからか、それとも出歩けるようになったからかな?今まで行けなかったから、行きたいんだろうけど疲れが残ってて。

「一気に作ったから疲れたよ。ギルドの人にはすごく怒られたけど。食事はいつも任せて持ってきてもらうだけだから、頼めば持ってきてもらえるはずだよ」

「それでしたら、一緒のものをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「いいんじゃないかな」

 ハンナさんが出て行って、2人になる。

「ランス様はどうのような生活がお望みなのですか?」

「普通に暮らせればいいよ。そんなに派手な生活とか贅沢な暮らしとかは望んでない。貴族のような生活もね。シャローザには耐えられない生活になると思うよ?」

「使用人はおいていてもいいのでしょうか?ハンナには、いて欲しいのです。ずっと支えてもらいましたので、暇を出すのは」

「ハンナさんは辺境伯爵のメイドだからシャローザについてこられるの?成人までとか?その前に僕の家って狭いから3人も住めないよ」

 ハッとした顔でこちらを見られる。

「そういわれましたら、ランス様はご活躍めざましくお金を稼いでいると思っていたので、立派なお屋敷を持っているとばかり思っていました。どのような家にお住まいなのですか?」

「田舎の一軒家でこの部屋より少し広いぐらいの部屋だよ。ベットが1つだけあって、暖炉と机とイスぐらい。必要なものは持ち歩いているし、家で使うものは外でも使えるような物しか持ってない。こっちに帰ってから家の家具や道具を揃えるほどの時間を持てなかった。村から離れているから、たくさんの人がいてもいいけど、森からは近いし、動物や魔物から襲われるなら家だし、シャローザが住むには厳しい環境になると思う。今までのように住みやすいと思わないこと」

「塔に閉じ込められて、月に1度出してもらえるかどうかより自由に出歩けるなら、そちらの方が快適に決まっています。私のベットはご用意してもらえるのですか?」

「必要なものはここで買って帰るのがいいよ。村や領主街じゃ品揃えがないからね。頼んでも時間がかかるよ」

 何が必要なのかしらと首をかしげて考えている。何がいるんだろうか?鍋とか、ベット、イスの追加。あとは何だろうか?収納が必要かも棚みたいなの。作ればいいか。何がいるのかわからない。

 食事とハンナさんが戻ってきたので、必要そうなものを考えながら食事を食べていた。まとめるとベット、イス、家具、食器に調理用具。畑などはあとで考えるとして、地下の保存用の倉庫などもあるとよいらしい。その辺は作ろうかな。服などは辺境伯領から持ってくるが、町娘のような服はないので動きやすそうな物を買う。

 どれだけのお金がかかるんだろう?足りるのかな?商業ギルドで聞いてみよう。書類を見せに行くついでにね。明日の朝に集合して、今日は辺境伯領に帰って行った。シャローザが一緒にいたいとごねたがすぐに一緒にいられますとハンナさんに窘められて帰って行った。


「まずはどこに行きましょうか?」

「商業ギルドかな。いりそうな物とか、資金のこととか相談する。薬師ギルドはそのあとかな」

 辺境伯邸の馬車に乗って移動するのに違和感がある。馬車に乗って連れて行かれるのに、まず慣れていない。

 商業ギルドの受付で残高の確認、各ギルドカードにどれだけの残高があるのか確認をしてもらう。それを頼んだら商業ギルド長に呼ばれた。

「それで各ギルドの残高照会を頼んだみたいだが、そんなことをしてどうしたんだい?」

「正式な書類が出来たから生活するために必要なものを買いに来た。物の善し悪しはよくわからないし、ここで買えば間違いはないはずだしね」

「それはそうだね、よくわかっているじゃないか。品質は保証しておこう。それで何が欲しいんだい?」

「僭越ながら説明をさせていただきます」

 欲しいものを並べていく。いくらかかるか。

「いくつか聞かせておくれ。そうだね、暖炉か窯はあるかい?」

「暖炉とその横にパン焼くための窯を作った」

「そうかい。貯蔵庫はどうする?地下に作るのがいい」

「自分で作る。石を生成して貼り付けておく。深さはどのくらいがいいの?」

「ひんやり一定の温度なら十分さ。変に深くても行き来が大変だろう。そんなに深くなくていい」

 なるほど。説明に聞き入る。

「まずは書類の確認をさせてもらおうか。辺境伯には顔を潰されているのでね」

「こちらになります」

 封筒に入った書類に目を通して、それから机の上に並べる。

「正式というには足りない物がある。ここに本来なら紋章官の認証印がいるはずだ。それをもらって正式な書類として成立する。それがどのくらいかかるのかわからないけど、それをもらったらまたおいで。いるものは用意しておくよ」

 シャローザの顔色が優れない。どうしたんだろう?紋章官の認証印をもらうだけなのに。帰りの馬車の中、落ち込みが激しいので辺境伯邸までついて行って、魔力を補給した。

「どのくらいかかるのかわからないけど、とりあえず1週間はもつはずだよ。あんまり落ち込むと早く切れるから、ちゃんと前見て。そう」

 いつまでもうつむいているシャローザの顔を無理矢理上げて、目を合わせる。ほっぺを優しくペシペシして、髪をなでる。

「あとはその紋章官の認証印だけなんだから落ち込まない。辺境伯って偉いんだから頑張ればねじ込めそうだけどね。どのくらいかかるのかな?」

「はやくて1、2ヶ月。長いと数年もあるそうです。ですので早く行けないのが苦しいのです。王都にはどのくらい滞在されるのでしょうか?」

「いや、もう帰ろうと思っていたけど。王都での仕事は終わったしね。数年はちょっと無理だよ。祝福を受けたら行きたい場所もあるから、1、2ヶ月なら、誰かに相談してみる。薬師ギルドにいってみるね。どのくらいかかるかわからないんだよね?」

「すいません、その紋章官がどのくらいで終わるのか存じませんので。調べてみますので、ぜひ、ぜひ王都に。いっそのことこの邸宅に滞在されてはいかがでしょうか?家族になるわけですので」

「家族になってもそれはない。辺境伯家は敵には変わりないんだから。家族なら、ちょっとぐらい力押しでも大丈夫だろうしね。同じ条件で戦えるならいいんだ。貴族ってことでなるべくケガなく加減しないといけないのは面倒だからね。そう思うよね、サンデイヴ」

 殺気の籠もった目でサンデイヴを見つめる。睨まれるとそそくさと家の中に引っ込んでいった。

「敵とか、婚約しましたらお控えください。お願いします」

「前だったらいいんだ」

「そういうことではなくて、もう少し仲良く、和解をしていただきたく思っています。少しずつでいいので、お願いします」

「考えておくね」

 顔色もよくなって、もう大丈夫かな。手を振って別れ、貴族街を出ようとしたところで警備隊に止められる。

「もしもランス様がお通りのときは隊長にお会いいただくことになっております」

「何もしてないし、止められる理由もないんだけど。僕には隊長に会う理由がない。何の用なの?わからないなら行くからね」

「しばしお待ちを、すぐに伺って参ります」

 門兵は急いで走って行った。何があるんだろうか?しばらく待ってから隊長がニヤニヤしながらやってきた。

「婚約したんだってね。それにしては。婚約者がいないのに帰るのか?連れて帰らないのか?」

「正式な書類が出来ていないから無理かな。正式な手順を踏んでいない貴族を連れて行くほど無知じゃない。ただ、買い物に付き合うとは違うんだからね」

「どこで躓いているんだ?」

「紋章官の認証印っていうの。他は出来ているっぽい」

 なるほどと隊長はつぶやいている。

「ねじ込んでやろうか?」

「は?」

-------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る