正式な書類を2

「ねじ込んでやろうか?」

「は?」

「ランスが訓練に付き合ってくれるのなら、1ヶ月以内に仕上げてもらえるように頼んでもいいんだが。どうする?」

「どちらかというと武官に知り合いが多いと思うけど、本当に出来るの?」

 完全に武官、騎士とか近衛兵とかそっちの人達と知り合いだと思うんだけど?どういうこと?本当に出来るのならして欲しい。

 家族、ちゃんと家族になれる人が出来るのならお願いしたい。シャローザは本当にそばにいてくれるのかな?住んでいるところを見たら、帰るって言う気もするけど。なんか不安になってきた。

「学園の頃の友達が紋章官の1人なんだ。辺境伯自体も地位は高いから早くする理由になる。なんなら、今から会ってみるか?」

「こんな昼間から抜け出していいの?」

「ランスと訓練が出来るんだから、いいんだよ。1人で訓練するよりは充実していい」

「シャローザと書類も持ってきていい?」

 ああというので、辺境伯邸に急ぎ戻って事情を説明すると馬車に乗って、すぐに王城に向かう。

「ランスはいつもこんなにせっかちなのか?」

「そうですね、すぐに行動に移せる方です。私のために色々してくれて」

「ふむふむ、なれそめは何だ?」

「ランス様が私の呪いを抑えるために、私の手を取ってくれたところからです。あとは寝られるようにお薬を作っていただいたのです。あとは一緒に散歩していただいたり、お休みの日にお話ししたり」

 エロイーズの眉間にしわが寄る。

「ランス、どうして受け入れたのだ?辺境伯の4女呪いのシャローザを。王都に来るときすら警戒の態勢がひかれるのにだ。普通なら絶対に断る。誰か紹介してやろう。他の嬢で手を打たないか?」

「うーん、呪いはたぶんなんとか出来るかも。シャローザはね。それに知り合いがシャローザのこと、悪くない相手だと思ってるんだよね。呪いについては大丈夫って言えるかな。他の人は呪いをどうこうしようって気がないから無理なだけで、複雑にしたり解いたりするのって出来ると思うんだ。頑張ればだけどね」

「出来るのか?出来るのならすぐしてやればいいだろう」

「無理無理、スキルがないと出来ない。魔法の知識や呪いと解術の知識があっても解くためのスキルがないと出来ないよ。祝福を受けてから取得を目指すつもりでいるけど、生活魔法で解くとか考えたこともない」

 出来るのかな?酷くする可能性もあるから祝福までは待っていよう。

「出来ているのなら嫁には出さんか。ランスの器の大きさに救われたな、これほどの男だ、祝福後は争奪戦が起こるかもしれんな。無理に嫁をとらされないように気をつけることだ。その辺は正妻の腕の見せ所か」

「友達の紋章官の人ってこんな時間に行っても問題ないの?」

「もちろんだ。遊びではなく、仕事で行くのだからどこに問題があるんだ?土産も持参したから早めに仕上げてもらえるようクギはさしておく。あとはそうだな、ランスが条件を守るだけだ。そんなに難しいことじゃない。ここに連れてきた時点で受けるんだな?」

 そうなるよねと生返事をして隣のエロイーズを向く。箱を持っているのは、どうも前食べていたクッキーのようだ。前見たことのある箱だ。お茶仲間みたいな感じかな?

「前に食べていたのだよね?一緒にお茶でもするの?」

「お互いに忙しくてな、休日が合えばいいのだけどね。たまには一緒にお茶でもしたい。あいつがどこかに嫁入りすればいいんだ」

「貴族の結婚って、当主が決めるって聞いたことがあるけど、そうなの?」

「そうだ。シャローザもそうなのだろう?」

 突然質問されたので、少し間があって、ハイと聞こえた。

「ですが、私にはランス様しかおりません。他の誰も差し伸べてくれなかった手を差し伸べて、とってくださったのですから。呪いのかかった状態で、止めましたのに痛みすら乗り越えて、原因を探ってくれました。他の誰もマネ出来ない、ランス様だけがしてくださったことです。ランス様だけが私の特別な人です」

「ほう、痛みというのはどんなのだ?」

「体験してみる?シャローザのは寝られないぐらいの痛みだよ?」

 シャローザはイヤな顔をした。痛いのはイヤだから薬も飲み過ぎようとして、気をつけるようにいったんだ。

「シャローザがいやがっているからやめておく。あの痛みは苦しくて寝られないようだったからね。持続的に痛みを感じさせるのは厄介だよ、本当に。断続的なのや突発なのは、痛まない時間があるから気が紛れるかも知れないね」

「自分が受けたようにいうのだな。呪いには詳しいのか?」

「まだまだ知らないことはたくさんあるけど、その辺りの子どもよりは詳しいと思うけどな」

「薬師ギルドで呪いのもやに躊躇なく突っ込んで、落ち着かせたそうじゃないか。呪いを知っている者からすれば、狂気以外の何物でもない。しかし、落ち着かせたというのが広がっているから、呪いの対処に困っている連中に目をつけられるんじゃないのか?」

 神殿でなんとかしてもらうしかないと告げた。何も関係のない人の呪いを解く理由がない。スキルがないのに呪解を行うのは、自分の考え的には毒沼に対策なしの普通の装備で突っ込んでいくようなことだと思っている。

「祝福前の僕に頼むのはおかしいしね。自分でやって欲しい。受けるとしても代価はいただかないとね」

「お、ランスにも欲しいのがあるのか。言ってみろ」

「魔法の知識か古代遺跡だね。遺物じゃダメ」

「おお。魔法の知識はどうにか出来そうな人間はいそうだ」

「僕の知らない知識ね。それ以外だと大切な人かな。家族とか師匠達」

 少しだけ顔が引きつったような。無償で行う人もいるけど、この国の王だとしても交渉は変わらない。

「ランス、師匠がいるのか。どんな人だ?剣ですら高レベルの私に勝つほどの実力を持ち合わせるのに、それを教えたという人がいるとは。出来れば教えを請いたい」

「秘密。魔法と武で2人いる。運良く教えを受けるとしても、剣を交えることなく死ぬよ。剣の到達点は人に直接教えられなくなる。そういう人を探したら、その人が剣術レベル10だよ。何が起こるかは、出会ってからのお楽しみ。簡単な見分け方は剣を普通に振ってもらえばいい。それだけでわかるから」

 眉間にしわを寄せて、考え込む。

「剣の最高で知っているのはティワズ様、北の大剣使いサイラーク様。火剣使いイドリアム様、細剣のアレグレッグ様。イドリアム様は振ると炎が辺りを焼き尽くすと有名だな。イドリアム様のことか。だがあれは剣の力と聞いている」

「何その剣。どんな魔方陣が書いてあるんだろう?魔法剣っていう部類の剣だよね?本人が使えなくても魔法が出るっていう」

「そうだ、そう。その剣と相性がよくて、1人で群衆突撃を止めたとも聞いた。そのような力を振るわれては無理だろう」

「棒でも振らせればわかるよ。剣を替えたって、隠せない。剣術なんだから」

 窓の外の風景が変わる。王城の中へと入っていく。石の壁を抜けると高そうな像やら建物やらがある。豪華絢爛な正面玄関を通り過ぎると普通よりちょっとよさげな、そこを進んでいくと止まる。

「ついてこい」

 裏口の門塀がエロイーズ隊長に敬礼をして、普通に通してもらった。エロイーズ様のお連れになる方なら大丈夫ですといっている。通してもらえるのなら、何でもいいけどね。

 絨毯の上を歩いて、すれ違ったメイドに何か話してどこかわからない部屋に入っていく。

「今呼んでもらった。ここで少し待て」

 王城の1室に入れられて、無駄に豪勢だなと思いながら眺めている。これってどのくらいかかるんだろうか?

「ランス様の家ってどのくらいの広さなのですか?」

「前に言ったけど、そうだな、ここぐらいだと思うけど、物がないからな。なんだったら新しく作ってみてもいいけど、時間がかかる」

「そんなに狭いんですか?」

「家自体も父さんが作ったものらしいって、母さんから聞いた。元々、父さんと母さんは村の人間ではなくて、流れ着いてあの村で暮らしているって聞いたよ。別の村から来たのかな?村はずれだしね」

 そういえば、母さんの形見があったはず。家の床に埋めていたんだ。お嫁さんになった人になら見せていいって。シャローザにはまだ見せないほうがいいね。探して空間倉庫に入れとかないと。自分専用倉庫だし。

「そうなんですか、それは大変なことです。他の村からの移住でも村に溶け込むのは大変と聞きます」

「離れたところに住んでいるし、村の連中にはいい思い出がないからあんまり関わらないようにしてる。行き帰りに雑貨屋に報告して行くようにはしているけど、そのくらいかな」

「買い物も出来るのですか?」

「大麦と小麦があるぐらいかな。あとは農具とか?注文しても回ってくる行商の人に頼んで、それを待つって感じだからだいぶ時間がいる。領主街へ買い出しに行ったほうが早いと思うよ」

 不便そうですとこぼすシャローザ。辺境伯領は一通りの物は揃う場所だ。隣の国へ続く通り道でもあるので、色々揃っていたからな。必要なものはここで揃えてから帰りたい。

「足りないものとか、必要な物があったら王都に買いに来よう。時間はかかるかも知れないけど」

「そうですね、それがいいです」

 王都での買い物に嬉しそうにしているシャローザ。ハンナさんは少し渋い顔をしている。なにやらシャローザに耳打ちしているけど、声が聞こえることはなかった。

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読んでくれてありがとうございます。

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