王都でお仕事中6
薬師ギルドが開くと滑り込むように入っていく。ちゃんと薬草が準備されていた。一気に作るためにビーカーを用意して、煮出しを開始する。調合室がすぐに灼熱になって、汗をかいていく。火の調整をすると同時に水の補給。扉を開放して風を炉に向かって流れるようにして涼む。汗は止まらないけど、その分水は飲んでいく。
「ランス君、大丈夫なのか?外はそうでもないが、部屋の中は陽炎が見える。汗もすごい。外に出て、涼んではどうだろうか」
「見てないとどのくらいで出来ているかわからないから、部屋の中にいないといけない。ちょっとは涼んでいるし、水は飲んでいるよ」
水を出して口に入れる。氷を出して手で握る。ちょこちょこ火の加減を変えながら、抽出の工程を進めていく。
ガラ取りまで終わらせて、粗熱をとる前に薬草を調合室前に出しておく。放置するだけだから、調合室の鍵を閉めて外にでる。お昼を取るのにどうしようか考えていると受付のお姉さんに話しかけられる。
「服がびしょびしょじゃない。風邪引くよ、拭くものあるか探してくるから待ってて」
「大丈夫」
引き止めると水を出して、その中を通過して服と履いていている靴を乾かしてクリーンで仕上げる。さっぱり。
「えーすごく便利ね」
「うん。お昼のおすすめのお店ある?お腹空いた」
「うちでおすすめは3軒隣のちょっと路地に入ったパスタのお店よ。たくさん食べたいなら追加で他のも頼めるからよく食べる子でもいけるの。行ってらっしゃい」
送り出されるとパスタのお店を探して、すぐに見つかった。名前はスタフド。中に入ると店員さんが席に案内してくれて、メニューを持ってきてくれた。見ても何を頼んでいいのかわからずにいた。こういうところは初めて。
「店員さん、こういうところ初めてだから何を頼んだらいいかわかんない」
「パスタのお勧めはミートソース。あっちのお客さんに運ばれているのが1人分。多いのがいいなら2人分とかにも出来る。他にも唐揚げや串焼き、エールは早いね。お任せの果汁飲料もある。パンもあるし、パスタに細かいチーズをのせるのがおすすめ。おいしいよ」
「ミートソース。チーズのせて、唐揚げタレがけと果汁飲料」
「1人分ずつでいいかな?」
返事をしてしばらく待っている。何人かで来るのが普通なのかな?楽しみに机の上に料理が並ぶのを待っていた。
「お客さん、ちゃんとお金は持ってる?」
「お金?あるよ」
銀貨を出して見せる。薬師ギルドのカードも出して渡す。
「カードが使えるならこっちがいいかな」
「先に精算させてもらうね」
「うん」
後ろからついて行って、精算機のある場所にやってくる。カードを置いて、手を置くとすんなり精算終了した。
「子どもが1人で来るのは珍しくてね。支払えるかと心配だったんだ」
「わかった。席で待ってるね」
祝福前の子どもは親と一緒に行動することが多い。親を亡くしているか、すでに働いているか。働いていても祝福前は給料が安いと聞いている。こういうことがあるかも知れないと、ティワズが教えてくれていたので気にしない。向こうもお金がもらえないと困るからね。
頼んだ品が目の前に運ばれてくる。すぐに全部持ってこられた。頼みすぎたかも知れない。パスタを食べ始める、ミートソースっていう上にかかった茶色っぽいのがうまい。唐揚げ自体も美味しいのに、タレもやや刺激的なピリッとくる感じが混じった食欲をそそる味だ。夢中になって食べていった。お肉の味ってなんで美味しいんだろう。
量が多いと思っていたけど、ペロリと食べきってしまった。ただ、お腹が満杯だ。ちょっとお腹が出てる。精算はしているからそのまま店を出て、薬師ギルドへ戻っていく。受付のお姉さんに美味しかったってお礼を言っておいた。
調合室は粗熱で熱くなってた。換気をしてまだ冷めていないのを触る前に感じ取ったので、しばらく時間が出来ることになる。お腹がいっぱいで動きづらい。イスに座って熱が下がるまでは時間がかかると思っていた。美味しかったな。
いきなり激しく扉を叩く音がして、開けるとギルド長が立っていた。
「ランス君、君に会いたいと呪われた子が来ているんだ。どうしたらいい?追い払ってもいいか?貴族だがギルド員に危害が加わるとなると帰っていただくのがいい」
「呪い?シャローザかな?」
「そう、シャローザ・エルミニド様が直接来ている」
「迷惑をかけてごめんね。婚約者になる予定なんだ。来るのが早いけど、どうしたんだろ?とりあえず直接触らなければ害はないから安心して。呪いが移ったりそういうことはない」
ざわついたギルド内に中心にシャローザが黒いもやを出しながら苦しそうな顔で立っていた。痛みが出ているのだろう。みんなが壁際によっている。
「近づくな、呪い持ちだぞ。どうなるかわからん」
その中を突っ切って、手に光の属性をまとわせ彼女の手を取る。彼女と目が合う。
「ランス様、私、来てはいけないのに」
絞り出すような声が耳に届く。
「次は抑えているときにしてくれればいい。みんなが怖がるからね」
ふっと力が体から抜けたのがわかったので、抱き寄せて支える。黒もやはもう出ていない。静かに息をしながら体を預けている。光属性の魔力を吸収出来るだけさせて、吸収しなくなるまで注ぎ込んだ。後ろに控えていたメイドに渡し、彼女の手を離す。
「ハンナさん、来たのなら僕を呼べばよかったんじゃないの?」
「大変申し訳ございません。お嬢様がこうなってしまってから神殿からも見捨てられ、魔力を分けていただけなかったのでございます。急ぎランス様をお捜しして王都まで駆けつけた次第です。お嬢様も安寧を覚えてしまってから、一刻も早くランス様にお会いしたく薬師ギルドに駆け込んでしまいました。ご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます」
「僕は慣れているからいいんだけど、ギルドの人達は気味悪がるから僕を呼んで欲しい。こんなに早く来たのは、魔力切れのせい?それとも書類が出来たから?」
「やっと書類が出来たからでございます。それと魔力も切れてしばらく経っておりました。後ほどお嬢様と共にお伺いいたします。どちらにいらっしゃるでしょうか?」
宿のことを教えて、引き上げる2人を見送る。普通の人達は驚くと知っていたはずなのに、あとでちゃんと言っておかないと。
「一体何が起こったんだ。ランス君説明はしてもらえるか?」
「ええと、書類は出来たって言ったから婚約者になったって言っていいのかな」
ギルド長が厳しい目で見てくる。
「正式な書類を受け取って、婚約の成立になる。僕がそばにいるなら呪いはある程度抑えられるんだけど、どうしても効果が切れると出ちゃうよね。知り合いに呪いの解析をしてもらって、魔力で抑えるようにしている。そのための魔法もシャローザにはかかっている。だけど、抑えるための魔力が切れると、呪いが暴れるんだ。魔力を補給したから当分は持つはずだよ」
「呪いの解析?聞いたことがない。神殿ではそんなことをして解術しているのか?」
「わからない。神殿なんて行ったこともない」
「ならどうやって解析を?」
「呪いって魔方陣だからそれによって効果を発揮するの。だから、魔方陣を呼び出せれば、魔法の解析が出来るの。呪いの解析っていうのかな?魔道具の魔方陣を呼び出すのとそんなに変わらない。解術をするなら呪いの知識と解術の知識の両方が必要だから、高度にはなるけど魔法だしね。シャローザの呪いが他の人に影響を与えるのは、触ったときに痛みを感じるってことだけ。黒もやは体が痛みを受けて、終わったものが出ているだけ。呪いが広がることもないし、触らなければ痛みも感じない。シャローザの呪いの唯一恐ろしいことは、命を食らって痛みを与えていること。本当は解術出来る人を探すほうがいいんだろうけど、神殿では無理だしね」
虚を見るように1点を見つめている。僕を見ているんだろうけど。
「どうして神殿では無理なんだね?」
「魔法の種類って知ってる?」
「魔法は魔法じゃないのか?」
「魔法は魔法だけど、遺跡の魔法って古代魔法って呼ばれているんだけど、今の魔法は現代魔法で。あと魔族が使う魔族魔法。シャローザの呪いは魔族式と古代式が混ざったなり損ないの術式。魔族式が混じると普通では解除不可能。色々準備してからなら、もしかしたらって。神殿が呪解のみでやろうとするなら、魔族式で躓くから無理なの」
唸りながらうつむく。
「3種類もあったのか」
「よく使われるのはね。だから、無理じゃないかな?僕も解析の勉強をしていたけど、出来ないと解術出来ないはず。例えるなら、迷路にそのまま正面から突っ込むのが呪解で、地図を持って解術しようとするのが解析のほうだね」
「解析をしたほうがいいように聞こえるが、神殿にやり方を変えろといっても聞くわけがない。それでも助けを求めるものはいる。いくらお金を積んで助からないとしても」
「今のところ抑えるのも僕ぐらいしか出来ないようだから、他に誰か出来るといいんだけど。離れることはないからいいか」
婚約者になった経緯とかを簡単に説明して、ギルド長は信じられないというので正式な書類が出来ているはずなので見せに来ると約束した。話が終わってから一気に調合をやり始めて、終わったら次の日の昼だった。ギルドの人にすっごく怒られた。ふらつきながら宿屋に戻ると知らせの人をやりますといわれた。うまく頭が働いていない。部屋に戻るからと鍵をもらってベットの中に潜り込んで、眠りについた。
「ランス様、ランス様」
「お嬢様、お疲れのようですのお待ちしたほうがよろしいかと」
「ですが、やっと正式に認められたのです。少しでも一緒にいたいのです」
「無理に起こさずとも、横に座って起きられるまで待っていてはどうでしょうか。薬師ギルドから帰ったばかりだと伺っております。お嬢様に魔力を渡してから今までこちらに戻っておりません。お疲れのはずです」
夢のような夢じゃないような。意識を手放す。
-------------------
読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます