王都でお仕事中5

 今日は時間があるから何か依頼がないか探してみよう。あるといいんだけど。冒険者ギルドへ入るといつも感じで、まばらに人がいる。依頼の張り出してある場所にはそれなりにいるけど、F級のところはいない。庭掃除にドブの掃除に草抜き。薬草集めのクエストあるけど、自分で使うから受けない。他に何かあるかな。掃除のクエストが多いね。

 馬屋の手伝いっていうクエストがある。内容は水くみや藁をどけて新しいのに変える作業。そのくらいなら出来るかな。依頼の紙をレスタのところへもっていく。

「これを受けるのか。ランスなら大丈夫だろう。行って来い」

「なんか危険なの?」

「魔馬を扱っている店だから普通の馬屋よりも危ないが、ランスならうまく対処出来るはずだ。ランス以外がもってきたらやめとけっていうけどな」

「そんなに危ないの?」

「そうだな、魔物化した馬だ。下手すると死ぬ。他のF級にはやらせられん」

 依頼を受理されて依頼された馬屋に行く。パーシング魔馬屋の看板。依頼の紙に書かれている名前と同じだ。扉を開けて入っていくと割と凄い音がする。何かを叩いているのかな?従業員の人を探していると水のバケツを持った人がいた。

「冒険者ギルドから依頼を受けてきたランスだけど、何をすればいいの?」

 依頼書を見せておじさんに聞いてみる。

「おう?この依頼か、ええとな、馬の世話だ。寝わらを新しいのに交換したり、水の入れ替えだな。他のことはしなくてええぞ。寝わらの交換は1度通路に出して、こっちだ」

 奥の方へ連れて行かれる。目の前が広がると広場があった。小屋があって、道具が入っている小屋と交換用の寝わらの入っている小屋、あとは使った寝わらを入れておく小屋と教えてもらった。道具小屋から寝わらを掻き出す道具と水桶と荷台を持っていく。

「馬がいないところからやるんだぞ。じゃねえと蹴られて大けがするからな。気をつけろ」

 独特のしゃべっている感じのおじさんにひと部屋分を教えてもらいながら一緒にやって、次の部屋からそれぞれ別れてするようになった。馬がいないのを確認して、寝わらを出して荷台に載せて運んで新しい寝わらに交換する。水も交換してやる。馬がいるところは通り過ぎて、空いているところを探す。

 運動させるところへ順番に馬を連れて行っているから、その間に掃除を済ませる。忙しい。そんなに広くないけど、何回か荷台に載せて運ばないといけないから時間がかかる。おじさんもちょっと藁の運び入れとかは手伝ってくれて、頑張ってこなしていく。


 全部終わったかな?運動の場所に近い馬房に茶こけた馬がいる。汚れていて、ケガをしている。誰も世話をしていないようだ。

「ブヒンッ」

 顔を上げるとこちらを睨みつけるように嘶いた。怒ってるの?

「運動に行かないの?他の子は行ってるよ」

「ブシュン」

 鼻を鳴らしてこちらを見ている。ケガ自体は治ってきているのかなって状態。何かで切られたような痕があるけど。剣か何かかな。それでも生きているので強い魔馬なんだろうな。

「ねえ、寝わらだけでも替えない?」

 こっちを見ているだけで、動こうとはしない。少し離れてポーションを取ってくると、水の塊を出して底にポーションを混ぜて塊を馬の前まで持っていく。

「飲むとケガが治るよ」

 鼻を近づけてニオイを嗅いでいるのかな?ひとしきり嗅いでからぱくぱくっと口の中に入れた。

 傷自体はキレイに治っている。馬は柵から顔だけ出して、水の塊を顔の前で浮かせると大人しく飲んでいる。扉を開けて風で中の寝わらを全部出す。それをせっせと荷台に積んで運んでから、新しい寝わらを持ってくると中に入れた。すると僕の使っていない風が吹いて寝わらが全体に敷かれた。扉を閉めて、作業完了だね。

 どうもこの馬、風の魔法が使えている。魔馬だから魔法を使える子もいるんだろうな。

 全部のところをまわって、やり残しはないからおじさんを探して声をかける。

「全部終わったよ。確認の署名して」

「おお、お疲れさん。偉い頑張ってくれとったなあ。確認だけしとくか」

 一緒に入り口から順番に馬房の藁が変わっていることと水の入れ忘れがないか見ていく。途中で水のなくなったところがあった。

「こいつは相当水を飲むんでな、朝やってもすぐになくなるから大丈夫だ。飲み過ぎていかんから構わんぞ。どこもキレイに出来とる。十分じゃな」

 馬房の様子を見ながらそういうので、出来ているんだろう。奥に向かって行くとおじさんが止まる。

「な、て、天馬種がなおっとる。なんでや」

「キレイにしたらいけなかった?」

「ランスがやったんか?」

「うん。寝わらを替えるついでに」

 何かまずかったのかな。

「うちに引き払われてきた馬で勇者王子の気まぐれで連れてこられたんだが、乗りこなせないってんでうちに持ってこられたんだ。魔馬っていうのは力を示さないと乗せんから勇者王子は乗れんかった。連れてくるのに何人も犠牲になったっていうのに、本当に何を考えとるんだ。うちでも面倒を見られるかどうか」

「凶暴なの?」

「だいたいの魔馬は世話をする人間をわかって攻撃しないんだが、こいつがそうかはわからん。関係なしなら飼育に向かない魔馬ってことになるな。そういう種類もいる」

「でも、寝わらは自分でひいてくれたよ」

「どういうことだ?」

 もう1回やってもいいかと聞くといいというので、片付けた道具を持ってきて扉を少し開けて寝わらを掻き出そうとすると、また寝わらを押し出してくれた。

「新しいの持ってくるね」

 荷台に藁を積んでから新しい藁を持ってくる。入り口にてんこ盛りにして。すぐに風が吹いて藁を全体に敷くと横になる。ちゃんと扉を閉める。

「こんな感じ」

「世話をする方はありがたいが、乗るのは無理やろう。天馬種でも高貴な白で、人を乗せることがないなら売れんやろな。運動に出してもええもんか」

「ケガが治ったなら運動してもいいんでしょ?」

「それはそうなんやが、馬具をつけさせてくれるかが問題やな」

 おじさんが馬具を持ってくると白い馬が立ち上がって、入り口に近づいてくる。

「つけるのはええんか」

 中に入ると大人しくしていて馬具をつけさせる。手綱を持って運動場に連れて行き一緒に歩き回る。運動もちゃんと大人しくしている。運動場の入り口に立って、白い馬ってかっこいいな。光を浴びて毛が光って見える。キラキラしている。キレイな馬だ。

 目の前を何度か通る。こっちをじっと見ている気がする。僕も見ているけど。そして、目の前で止まると動かなくなる。

 体がふわっとして服を口で噛むと背中に乗せられる。鞍は着いてないけど。

「乗せてくれるの?」

 暴れるそぶりもないので、そのまま乗っていようかな。

「はあ、今日はえらいことばっかりや。ランス、馬に付き合って運動させてくれるか」

 手綱をもらって運動場をくるくると回る。人が歩くよりは速く、自分の歩きたいように歩いているんだと思うけど。なんで落ちないんだろうね。体がゆれて傾いたけど、落ちることはなかった。不思議。

 

 運動が終わったのか、自分で戻っていく。途中で降りて、扉を開けると普通に入っていく。熱かったのか、風を起こして涼んでいる。頭のいい馬だ。

 おじさんも途中からやって来て、馬具を外していた。

「こいつを買わないか?」

「え?買えないよ。王都に来たときに困るしね」

「その時はうちで預かるから、どうにか買わないか?」

「世話も出来ないのに連れて行けない。無理だよ」

 そうかと残念そうにしている。依頼は終わったので、確認の署名をもらったらギルドに報告して依頼は完了した。明日から忙しくするぞ。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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