王都でお仕事中3

「申し訳ありません。お待たせしました」

 ギルド長のそばにいた人が迎えに来た。当たり前のようにギルド長の部屋に連れて行かれる。

「わざわざ来てもらって悪いね。辺境伯とは仲直りしたと考えていいのかい?」

「ワイバーンの褒賞はもらった。だけど信用してないのは変わらないし、次がないのは今も同じだけど。それはワイバーンの件とは関係ない。それがどうしたの?」

「少しは関係の修復が出来たのかと思ってねえ。そのままか。細工ギルドが売るのを邪魔してくるのでね、ランスに頼んでその技を見せてもらえば納得するというからね。早く片付けてしまいたいんだ。誓約はさせるよ」

「辺境伯の商業ギルドで見せたけど、それじゃダメだったの?」

 目の前に用意されるクッキーとお茶。

「どうなったのか確認してみるよ。動きが速いじゃないか」

「売れるなら、婚約者も安心だからね」

「ほう、4女との婚約は噂じゃなかったんだね。呪いを持っているともっぱらの噂だけど、それはいいのかい?」

「あれはそうだね、僕の知っている人が協力してくれたから、押さえ込めたかな。呪い自体は消えてないし、縁が消えたときにはどうなるかわからない。祝福後にどうにか出来るようなら、出来る人を探してみるつもり」

「なら、辺境伯とは親子になるがそれでも敵になるのかね?」

 本当にそうなったら、どうするかな?

「結婚までしたなら、手加減していたのをやめる。貴族と平民じゃ、まずいことになるから殺さないように気をつけていた。多少暴力的な手段でやっていい家柄だから、そういうやり方でいいでしょ」

「そうかい、そうかい。暴れん坊を引き入れるなら、辺境伯の腕の見せ所だね。それはそれでいいと思うよ。相手のやり方に合わせてやるんだからね」

「それで細工ギルドはどうして僕の作った物を販売禁止に出来るの?」

「領分みたいなのがあってね。この辺はうちのギルドの管轄だって言うのがあるんだよ。うちは商取引全般、小さいものからギルドと国とか貴族の大口なんか。個人の貴族のお抱え職人とかの取引には関知しないがね。交渉や取引がきちんと出来ているか、不当な高値や安値での販売をされていないか、していないか。そういうのを監視したり、被害に遭ったたりしたときはうちが交渉をするのが主な仕事なんだ。たまにギルドから追放された職人の委託販売も請け負うが、面倒だね。イチャモンをつけてくるから、そっちが追放したのを戻せばいいじゃないかとね、なんとか販売まで持っていくのが腕の見せ所だね。ランスは当然、ギルドに所属する必要のないスキルだから、言いがかりなんだが、所詮ご機嫌とり。ちょっと違うね、こっちで扱いますって保証してもらわないと、あとあと高いつけになったりする、だから確認は必要なんだよ。確認をしておけば、あのときちゃんと許可は取ったと言えるからね。面倒なのは最初だけさ」

 ギルド間でも面倒ごとはあるようで、今回は巻き込まれた中心にいる。これを解決しないと販売が出来ないのか。

「まだ売れないのか」

「本部で確認すればだいたいのことは終わるんだがね。少し気になることがあってね、細工ギルドが絶対に祝福を受けていると強く主張していることさ。辺境伯で見せたときは何か言っていたかい?」

「生活魔法だから入れると問題になるから無理だって言ってた」

「ははん、どうしても細工ギルドに入れたいようだね。あっちも、見事な腕を絶対に諦めたくないと思っているんだろう。絶対に譲ってやるものか」

 補佐の人だと思うんだけど戻ってくる。

「確認はしたが総本部が納得していないとのことです。総本部長の代理として本部長を来ていただくように要請しました。今日は予定があるので、明日来られます」

「それで確実に話は通るんだろうね?」

「代理を代理と認めないならば、ここの細工ギルド本部を本部と認めていないのと同じ。そうなると全ての商取引は細工ギルド総本部を通して、こちらの商業ギルドに認可されることになって、この国の細工ギルド員が打撃を受けるだけです。そのような無理はしないと思いますが」

「明日まで時間があるんだね。ランス、すまないが明日は時間があるかい?どこにいても迎えに行かせよう」

 とてもとても面倒になっているようだった。

「明日はポーションを作るの休みだからいいけど。前に泊めてもらった宿にいる。追加で作れるだけクリスタルを作っておきたいんだけどダメかな?」

「こちらは大歓迎だよ。腐るものじゃないからね。どんどん作っておくれ」

 許可をもらって、前と同じようにギザギザクリスタルを作っていった。気合いを入れすぎて、輸送箱が足りなくなり仮の保管箱を即席で用意して対応していた。やり過ぎたかも。だけど、職員の人はイヤな顔1つせずに対応してくれた。


 いつもなら薬師ギルドに行って、抽出にとりかかっているはずなんだけど、休みなので出来ない。ついでに商業ギルドとの約束もあるからホールでうろうろとしていた。

「どうされましたか、ランス様」

「えっと、薬師ギルドに今日は休みって言われて、でも商業ギルドと約束があるから待っているんだけど、落ち着かなくて」

「そうでしたか、それでしたらあちらのテーブルでお待ちください。お茶もご用意いたします」

 言われたままに座って出されたお茶を飲んだら、そわそわが落ち着いてきた。大きく息を吐いて、うまくいくといいなとふんわり思っていた。落ち着くな、このお茶。ゆっくり飲んで時間をつぶす。高級そうな服を着ている人たちが行ったりきたり、どこかへ行ったり。こちらをちらりと見る人、じっと見ている人もいたけど、お茶を飲んで早く誰か来ないかなと待っていた。


「ランス様、迎えが参りました」

 案内を受けて外へ。待っていた馬車に乗り込む。商業ギルドで下ろされると昨日のギルド長室に通される。見たことのないちょっと太ったのおっちゃんが座っていた。この人が細工ギルドの本部長かな?そういえば、商業ギルドの本部長はいないの?

「製法について誰にも漏らさぬように誓約を。ひとつ見せる前に言っておく、細工ギルド本部長。総本部の代理というのなら、見た後に総本部を説得できないときは、総本部からの代理権限をうちとしても認められない。代理として総本部が認めないと受け取る。見せるからには手間は最小限にしたいからねえ」

「問題ない。必ず説得できる。総本部長も言えばわかるだろう」

「ならいいんだよ」

 長いすに座らせられ、作るようにいわれる。いいけどね。いつもの通り机の上に作り出した。

「これはどこから取り出したんだ?マジックバックから出したんだろう?」

「ランス、速く作れるのはいいんだが、作り方が見えないよ。ゆっくり作って、細工のような加工ではないことを見せないといけない。それが細工と作り出すことの大きな違いなんだからね」

 加工じゃないことを見せればいいのか。最初の頃に作ったように菱形を規則正しく配置する。その間を埋めていくようにしてクリスタルの瓶を作り出していく。

「これで作っているのが見えただろう。これで構わないね?」

「これは、なるほど、うちではマネ出来ない。細工ギルドは無からは作り出せない。こんな、ああ、素晴らしい細工。我がギルドの職人が作り出す物であって欲しかった」

 作り出した2つをじっくりと見つめている。

「これほどの同じようで均一なものを作り出すのは、恐ろしく腕のいい職人を見つけ出したのかと思ったのだが。本当に魔法だったとは。目で見るまで信じられなかった。素晴らしい。唯一無二の技術だ。それだけに残念だ」

「だからいったんだ。加工じゃなくて、作り出したものだと。あんまり手をかけさせないでくれ。こちらは早く売ってくれとせかされているんだ。文句を言われてもさっさと捌いていくよ」

「総本部には創造されたものと正確に伝えておく。心おきなく売りたまえ、価格はお願いしておく」

「その辺は把握しているよ。さあ帰った帰った。約束は守ったんだからね」

 たぷんとお腹を揺らしながら細工ギルドの本部長は出て行った。

「これで正式に売り出せる。手間をかけてすまないね。言質は取ったんだ、細工の総本部が何をいっても売っていくよ。忙しくなりそうだ」

 すんなりと終わってから、お茶を飲んで少しの間ゆっくりする。

「それでランス、婚約の話は進展しているのかい」

「わからないよ。話は辺境伯本人からあって、シャローザも乗り気なんだけど、正式な書類を待ってからでもいいのかなって思ってる。その前にある程度のお金は必要なのかもって、早く売るために動いているよ。薬師ギルドでもポーションを作っている最中。作っても量が足りないみたい」

「正式な書類が来たら1度、確認をさせておくれ。私も辺境伯の本気を確かめないといけないからね。偽物だったらランスも困るだろう?」

「そうだね、本物かどうかは僕にはわからないから見てもらわないと。受け取ったら見せに来るね。もう作らなくていいの?」

 今のところ在庫があるからなくなったらまた作りに来てもらうとのことだった。用事のなくなったところで、商業ギルドを出て大きな道へ出て行く。

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