公爵からの依頼2
僕の横にはベイジーンが並んで歩いている。
「魔法が使えるって聞いたけど、どんな魔法なの?詠唱しないとか、規模が大きすぎて集団魔法じゃないのかとか、いろいろいわれているけど、ギルドの中で魔法を使っているとも聞いているから、短詠唱とかそういうものなのかな?職をまだもらっていないはずだ、どういうスキルなのかな?」
「祝福前の子どもが持っているスキルしかありません」
「スキルは教えてもらえないのか?」
「ベイジーン、仮にも冒険者だ。冒険者にスキルを聞くのはマナー違反だぞ」
前を歩く公爵からベイジーンに厳しい言葉が飛ぶ。
「魔法はお教えしておきます。隠しているわけでもありませんので。誰でも使える生活魔法です。祝福前でも扱える理由です。スキルに対して心血を注いで得たものです。ただ、見ても信じられぬ方はいらっしゃいます。信じないのは構いませんが、敵対だけはしないでいただきたい。敵に攻撃されれば、僕は排除しなければなりません。敵とは野盗のような存在ですので」
「敵に回れば討伐されるということか?」
「そうですね。その時があれば、そうなることもあるでしょう。冒険者ギルドのように不義理を働くような者がおられるとは思っておりません」
息子は目を輝かせて、僕のほうを見ている。
「ベイジーン様、どうかされましたか?」
「冒険者ギルドはどのような不義理を働いたというのか気になって」
「そうですね、どこから話せばいいのか。元ギルド長がいくら負けても認めようともしないところや謝罪しないこと。ギルドというのは自分の罪を認めようとせず、権力だけでごまかすような集団なのです。F級の失敗依頼を調査もせずに放置していたのです。幾人も帰ってきていないと。依頼は下水の掃除です。王都の下水に何がいたと思われますか?」
「なんだろう?大きなネズミとかか?ゾンビでもいたのか」
何だろうなと首をかしげながら、答えを教えてくれとせがまれる。
「下水にいたのは白いクロコダイルです。3メートルぐらいだったと。調査もされていないのです。受けたとして、生きて帰れるわけがない。仕事をする気がなく、F級は死んでもいいものとして取り扱っているのですよ」
「そのクロコダイルをどうしたんだ?まだ王都の下水にいるのか?」
「生きたまま冒険者ギルドへ連れていき殺しましたね。冒険者達が逃げ出して、本当にここはダメだと思いました。冒険者ギルドで思い出しましたが、公爵領の冒険者ギルドは敵対しているので立ち入ることはありません。依頼も1つ前のギルドでしましたし、報告も王都でします。依頼が終わりましたら完了の自署をお願いします」
ベイジーンが何があったのかと公爵領と本部ギルドでのいきさつを簡単にまとめながら説明していると演習場に着いた。2,300人ぐらいは訓練出来そうな広場で、これとは別に野外でも訓練をするそうだ。軍関係の一団が待ち受けていて、公爵の見学場所も設置済みだった。
「それで何を見せればいいのでしょうか?」
「どんな属性が使えるんだ?」
「まずは基本属性から。生活魔法でよく使われる火、水。そして風と土もありますので、4属性。あと明かりのライトの光。そして逆の闇。基本としてはこの6属性。そして、炎、氷、大地、嵐。上位属性4属性。属性としては以上です」
普通に使う魔法の属性は使える。一応、光と闇はやや希少な属性になるけど、いないわけじゃない。
「威力はどのくらいでるんだ?そんなちっぽけな拳ぐらいの大きさでは、薪に火をつけたりするのが精一杯なのではないのか?」
「生活魔法の良くも悪くも詠唱でやっていることを自分で行うことです。炎の属性で拳ぐらいの大きさでも、こうやって魔力量を高めてやることでミスリルの盾を溶かせるのです。このくらいだと思います」
「それでミスリルを溶かせるのか?」
「サンデイヴの盾に放ったのがこのくらいですので、溶けたか、蒸発したようなことを聞きました。真偽は不明ですが。威力は込める魔力量によって変えられます。範囲もこの訓練場を覆うようにすることも出来ます。人を殺すぐらいでしたら十分でしょう」
こぶし大の炎を演習場を覆うように形を変える。そのあとに消しておく。
「そこまで自在に操れるのなら回復も出来そうな気がするのだが、どうして出来ないのか?」
「回復魔法がなんというか、神の業に近しい存在ですので。回復魔法を使える者は教会に所属するような形になります。光の属性に近い存在ではありますが、よくわかっていません」
本当は解析をして使い方を研究したのだけど、他の魔法と違って詠唱だけであれほどのことが起こるのがまさに神の所業。普通の魔法が紙1枚で説明出来るとしたら、20枚ぐらいをまとめて行う感じになる。複雑すぎて何が起こっているのか把握するだけでも大変。その上でそれを詠唱なしでやるのは難しすぎて、使い物にならない。恐ろしく時間をかければ出来なくはない。覚え書きとかそういうの見ていないと何をしているのか、把握もきついぐらい。
「そうか、無詠唱で魔法が出来ることも凄いが自由自在というのも普通の魔法にないランスだけの魔法に見える。広い範囲の敵に対してどのような魔法を使う?」
「そうですね、敵によるとしか。魔物の厄災群衆突撃でしたらウォールの形にしてやればある程度は防げます。抜けてきたら、そこを攻撃すればよろしいかと」
炎の壁を作り出し、その手前にポイポイ火の玉を投げる。
「そうか、それなら効率よく倒せそうだ。それでランス君は辺境伯軍などはどうやって倒そうと思っていたんだ?」
「一撃であらかた戦闘不能にして、残りを排除していく方法が1番いいのかもしれないかと考えておりました。また、こういう脅しの仕方もあるのかとは思われます」
クリスタルランスを尖ったほうを下向きに整然と演習場内全体に並べて浮かべる。太陽の反射でキラキラとしていてキレイだ。
「この量はすごい。これを見せられたら士気が下がってしまうだろうな。こういうのをなんとするのか、普通の魔法では詠唱に時間がかかる。敵に回すと手強い」
「戦いたくはありませんので、冒険者ギルドのようなことをされませんようにお願いいたします。あくまで身を守るため、生活のお金を得るために使っております。理由なく力を向けることはあり得ません」
「ランスの魔法は凄い。質問に答えてくれたことに感謝する満足した。お父様はランス君に何か聞かれないのですか?」
鋭い眼光がこちらを向く。目つきが怖い。最初から敵意は感じないので目つきだけかな。
「魔法の威力を説明しているようで、見ていないのだがみせてもらえるか?範囲や形は様々変えることが出来るのはわかった」
「威力を見せるのはためらわれるのですが、当然全力を出せば演習場を消滅させたうえに、都市にどの程度影響があるのかわかりませんし、威力は自分のさじ加減でいくらでも変えられるのです。逆に質問させていただきます、魔法使いの方々が所属しておられるでしょうが最も高いレベルは?その魔法を見たことはございますでしょうか?」
「最も高いレベルはわからぬが、レベル6の魔法を野外演習で見せてもらったことはある。あれは戦況を一気にひっくり返すほどの威力であった」
「レベル6ですか。それよりも上が使えます。ご覧に入れるのは構いませんが、ここでそれ以上の魔法がなされたと考えていただければ、見せないのは当然ではありませんか?いくら草民が死んでも見せろとおっしゃるのなら、責任は一切とりませんがやりましょう」
ここで使ったら都市が壊滅する気がする。外で最大威力の魔法を使ったことがないからどのくらいなのかわからないんだよね。昔訓練で使ってたあそこって真っ白だったし。地形が変わるぐらいだと聞いてはいるけど。どの程度かは不明。
「それ以上の魔法が使えるというのか?」
「上空に向かって打つことも出来ますが、ここでは風系は皆さん漏れなく巻き込まれるでしょう。氷は落ちてきますし、大地も同じく。炎は熱に耐えられるのかという問題があります。演習場が燃えるだけですめばいいのですけど。そうだ、炎を大きくしていきますので、止めてくれればそこでやめるので満足いくまでご覧ください」
演習場の中央に歩いて行くと、手を上にかざして炎を出す。魔力を小さくまとめるのではなく、そのまま魔力と大きさが比例して大きくしていく普通の魔法として作っていく。
青白い炎は魔力を流していくと大きくなっていく。3メートル、8メートル。大きさを増していく。焦げたような匂いがするけど、関係ないか。下から見てもどのくらいの大きさかよくわからない。とりあえず大きい。演習場から火が出ているんだけど、止めないのかな?公爵が止めないと勝手に止めるわけにはいけない。演習場は火に囲まれた状態になっているが、止めることなく見られている。どこまで大きくするつもりなんだろう?演習場が使い物にならなくなるよ?
ベイジーンを見ると首を振っている。公爵を揺すっているが払うこともない。
「お父様、お父様。演習場を灰にしてはなりません」
公爵が少し動いた。
「ランスよ、十分だ」
それを聞いて炎を消すと周囲の火に水をかけて消火を行う。公爵は大丈夫なんだろうか?
「あまりに驚きすぎていたようだ。あれほどとは想定していた何倍も恐ろしく、美しい炎であった。十分に素晴らしいものを見られた。大義であったランス」
「依頼を達成出来たようで何よりです。それではこちらに自署をお願いいたします」
依頼書を出すと執事さんがどこからともなく羽ペンとインクを取り出して完了のところにさらさらと書かれていく。これでいいはず。依頼書をしまい込むと礼をする。公爵の体調が優れないので、もう帰っていいといわれ案内されて邸内から外に出た。宿をとって1泊したら王都だ。
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読んでくれてありがとうございます。
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