公爵からの依頼1

「待たせたな、1週間以上はかかりそうだ。それとは別なんだが本部からビーカーを作って欲しいという連絡があった。王都に来て欲しいそうだ。ポーションもそちらで作れるから行ってみるか?調合室も使えるようにしておく。どうする?」

「王都?そうだね、行こうかな。準備したら出発する」

「急いで行かなくてもゆっくりしてからでもいいんだぞ」

「何かいるなら王都で買うかもと思って」

 行くことを連絡してもらい、ギルドから出ると店を回って保存食の調達を行う。途中で串焼きのおっちゃんに焼いてもらって、終わったあとに取ってから街を出て行く。王都に行く道はわかっているので、街道を進んでいく。領主街に続く道は他の道よりも狭く感じる。あんまり人が来ないからかも知れない。荷馬車が少ないせいかな?王都まで遠いなあ。

 街道の街で宿に泊まって、朝早くに出発をする。辺境伯の依頼をこなしたので止められることはない。冒険者カードを使ってすいすいと進んでいく。公爵との面会とかなんとかもあったような?公爵領の冒険者ギルドでは依頼を受けないので、1つ前の街の冒険者ギルドに入っていく。うちの冒険者ギルドと違って、大きいし人もたくさんいる。受付も多い。冒険者達にじろりと見られるけど、気にせずに受付の列に並ぶ。

「なんでガキが並んでるんだ?誰かの子どもが代わりに達成の報告でもしに来たのか?」

「この辺じゃ見ない顔だな」

 普通に話しているので全部聞こえている。祝福前の子どもは冒険者ギルドによることはあんまりいないんだろうな。受付の順番が来て、受付が高目に出来てるので、背伸びをして目だけ机の上に出してカードを渡す。

「どうしたのかな?誰かのお使い?」

「公爵からの面会依頼を受けるからこのギルドで受付出来る?出来ないなら受けないって思ってる」

「ええと?公爵様の依頼があるの?妄想じゃない?遊ぶんだったらお友達にしてね」

 周囲の冒険者達は大笑いをしている。あるって聞いたんだけど?

「ないならいいんだ。依頼があるって聞いてたから、公爵領の冒険者ギルドでは襲われたから行くつもりがないから、1つ前のここで聞いたんだ。ないって僕は確認したからね」

「へーそうなんだ。公爵領のギルドで襲われるなんて、大変だったね」

 笑い声がギルド内に響いていて、子どもの思い込みは凄いなって言われている。騒ぎを聞きつけたおじさんが奥の方から歩いてきた。

「どうしたんだ?」

「この子が公爵様からの依頼があると妄言をいうので、帰るようにいっているところでして」

「カードを見せてみろ」

 奪い取るようにカードを取り上げるとおじさんの顔色が変わる。

「カードを返してよ。依頼はないんだから」

「失礼いたしました。依頼の件は聞き及んでおります。すぐに手続きを行いますので、少々お待ちください。中の来賓室にお通して、早く!」

 戸惑う受付嬢は動かない。おじさんは自ら受付から出てくると別室に案内されて、お待ちくださいとお茶を出して部屋を出て行った。

「カードの確認をしないか!あのランス殿だぞ。公爵領のギルド長が更迭された原因の方だ。公爵支部に、公爵支部か?ランス殿が依頼を受けに来た、依頼書をすぐに転送してくれ。早く!」

 外は騒がしいがお茶を飲んで座っていればいいのかな。辺境伯の依頼を受けたから、公爵の依頼も受けないと不公平な気がする。辺境伯よりも偉いので、受けてないとシャローザのことで何か言われると困る。会うだけだから気楽に行こう。貴族対応っていうのをしておいたほうがいいかも。

 急に扉を開かれさっきのおじさんが入ってくる。机の上に依頼書とカードを置かれる。

「大変お待たせいたしました。依頼の受領を行っております。入り口の門番に見せれば、依頼の公爵様のお住まいにお連れする手配になっております。依頼者をお持ちになって、今回は公爵様との面会でお話等をされます。それが終わりましたら依頼書に完了の自署をしていただきましたら、依頼の完遂となります。よろしくお願いいたします」

 机につくぐらいの深々と頭を下げられて、依頼書とカードを受け取る。おじさんは入り口までついてきて、冒険者ギルドから見送りまでされて、なんか変な気分だった。そのまま宿に泊まって、次の公爵領に向かって行く。


 門の検問の列に並ぶと時間がかかりそうなのと、依頼があるので貴族門側に歩いて行った。

「待ちなさい。ここは特別な方々のために作られた門のため普通のものは、あちらの検問に並びなさい」

「公爵の依頼っていうのを受けてきたんだけど、これ、門のところに行ったら公爵様?のところに連れて行ってくれるって聞いてきたんだけど?」

「むむ、確認をさせてもらうので待ってもらいたい」

 ひげのおっちゃんは依頼書を持って、向こうへと歩いていく。人の集まる場所で何か話すと戻ってくる。

「公爵様の御客人と確認が取れたので、こちらへどうぞ。形式ながら水晶に触っていただけますか?害あるものを持ち込んでないでしょうか?」

「ないよ」

「確認いたしました。それでは馬車を待たせておりますので、そちらで邸宅のほうへお向かいください」

 貴族門をくぐると馬車の前に人が立っていた。

「このたびは主人の依頼を受けていただきましてありがとうございます。それではお連れいたしますので、馬車にお乗りいただいてもよろしいでしょうか?」

「質問してもいい?」

「なんなりと」

「この格好でもいいのかな?」

 全体を眺めると少し考える。

「冒険者はそういう作法は苦手と認識しておりますが、ランス様はそういった作法をご存じなのでしょうか?」

「言葉遣い程度は出来ます。作法はこの国の細かいところまでは存じ上げません。各国で共通となるような作法は教えを得ております。それでこの身なりでお目通りするのは失礼ではないでしょうか?」

「出来ることならば礼服などがよろしいですが、ご用意が間に合いませんので汚れを落としていただければ十分でございます。主人も冒険者の方にそこまでの作法を求められておりませんので、失礼いたしましてクリーン。お気遣い感謝いたします。それでは馬車にお乗りください」

 馬車に乗せられると窓から見える街道の建物が流れていく。王都に負けないぐらいの建物が並んでいる。王都に似ているのかな?歩いて通ったことはあるけど、高さが違うと違って見える。食料店しかわからないけど、他にも店はたくさんある。

 馬車を下ろされると扉を開けて中に案内される。絨毯とかフカフカなんだけど。置いてある物とか装飾がされていて、ゴテゴテしている。うわ、なにあのよくわからない彫刻。何のために置いてあるのかわからない。見せるために置いてあるのかな?貴族ってそういうものだとは教えられているけど、わからないな。

 案内してくれている執事さんのあとをついて行っているだけなので、1人だと迷子になりそう。広くて大きい建物だ。部屋はいくつぐらいあるのだろうか?そんなにいるのかな?

「少々お待ちください」

 扉を叩いて開けると入室の許可を取っていた。通すようにと扉を大きく開けて、中に招き入れられる。長椅子にシュッとしたおっちゃんが座っていた。この人がビルヴィス公爵?

「よく来られた、ランス。私がサイモシー・ビルヴィスだ。かけたまえ」

 奥の机のイスに座っている目つきの鋭い男が話しかけた。この人が公爵なのか。言われたとおりに座る。

「お招きに預かり光栄です。冒険者のランスと申します」

「そのような口ぶりをどこで教えられた?実は没落貴族の家系で教育をしてもらっているのではないか?」

「サルエン男爵領エンケ村の生まれ育ちでございますので、そこで教育などは受けておりません。命を助けていただいた魔法使いに教えをいただきました。大まかなものですので、子細失礼がございましたら申し訳ございません」

 軽く頭を下げてゆっくりと1度止めて、顔を上げて公爵に視線を合わせる。

「辺境伯からの無礼具合が伝わっていたが、イヤイヤどうして十分な作法だ。辺境伯のどうして依頼を受けなかった?貴族からの依頼を断るのは反旗を翻したと捉えられてもおかしくないのにだ」

「シルヴリンお嬢様と手合わせを所望されましたとき、定めごとをもうけましたが守られず、最後には無手の私にソードスラッシュを放ってきたのです。私は定めごとを一切破っておらず、向こうが一方的に敵意を向けてこられましたので、そのような殺されるようなことをされて誰が行きたいと思うのでしょうか?公爵様は約束を違え、首元に刃物を突きつけられて、その中に行きたいと思われますか?」

「そうであったか。ならば断っても致し方ないか、それで気変わりしたのはどうしてだ?」

「あまりに無礼極まりないので、攻め込むつもりで向かいましたら冒険者ギルドの仲介に応え、形は和解したとこになりました」

 口元が少し上がっている。目の鋭さは来たときよりも柔らかくなり、真剣に話を聞いていた。

「そうか、それで和解の証として呪われた娘と婚約になったのか。他にも良い娘はいるだろう。それならばどうして呪われた娘にしたのだ。厄介ごとを引き受けさせられたと考えなかったのか?」

「厄介といえば厄介ですが、私がいればどうとでもなりましょう。方法は明かせませんが、私との契りを結ぶ限り呪いはどうにか出来ましょう。それならば貴女との交流にて、良い人と思ったのですから悪くない縁談と判断しております」

「ほう、どうにでもなると?それは辺境伯には明かして我らには明かせぬと?」

「神々への誓約をお願いしております。とるに足りない私にそこまでなさる理由が公爵様にあるとは思えません。辺境伯にはありますので、そうなったというだけのことでございます」

 ぼそりと誓約かとつぶやいた。

「ランス殿は魔法が得意と聞き及んでおりますので、魔法を見せていただくのはどうでしょうか?かのA級の冒険者パーティー輝く太陽を封殺して見せた技術は唯一無二と噂で持ちきりでございます。直接見たことのある貴族も少ないですので、公爵様が直接ご覧になればより一層の価値がますというのです。いかがでしょうか?」

「そうだな、社交場で噂になっているその腕前を見せてもらってもよいか?」

 静かに頷く。公爵が礼を失していることもなく、普通に頼んでくるのであれば見せるのは構わない。取り巻きがどうかと聞いて返事をさせられるのであれば断ったけどね。ここで見せるのかな?

「それならば、演習場を開けさせるように出来るか?」

 公爵は執事を見ると少々の時間でしたら将軍も配慮いただけるでしょうと応えて部屋を出て行った。

「入り口に立っていないでかけなさい。そういえばランスに家の息子が興味を持っていてね、同席させても構わないだろうか」

「構いませんが、祝福前の私を見ても面白いことはありませんよ?」

「なにぶん、好奇心旺盛なのでな、自分で見てどう感じるかは本人次第。本人の許可もあることだ、ベイジーンはおるか?今年祝福を受けて、受験に向けてまだ家にいるのが幸いした」

 使用人が部屋を出て行き、興味津々な息子を呼んでくる。隣の部屋にいたのかと思うぐらいに、息が上がっているのを見ると走ってきたようだった。

「貴方が噂のランス君ですね。本当に幼い顔をしている。祝福前だとすぐにわかる。キレイな顔立ちをしている、どこかの庶子だったりするのかな?」

「母と父はとても仲が良く、母はとても美しいと評判でした。いつも見ているのでわかりません。他の人がそういっているのを聞いたことはあります。自分はどちらかというと母に似ているようなことは聞いています」

「お母様がお綺麗だったんですか。それなら納得です」

 身なりの整った貴族の人にいわれるとそうなのかなとも思う。社交辞令というものもあるので、話半分ぐらいで聞くのがいいだろうね。廊下からガチャガチャと金属の当たる音が響いている。

 静かに扉が開くと執事さんが軍団長がお見えですと中に通す。顔に傷のあるひげのおっちゃんだ。

「閣下、訓練を少々中断するのはよろしいのですが、公爵領軍としてお願いがあります。我らも見学に参加をお願いしたく、お目通りいたしました」

「軍としても興味があると?」

「辺境伯軍をして全滅必至と言わしめた者の実力、立ち会いをお願い申し上げます。邪魔のならぬように高位の者のみの立ち会いだけでも」

「どうするランス?人目が気になるようならば下がらせるが」

 どっちでもいいけど、邪魔になると困るんだけどな。

「演習場がどの程度の大きさか存じませんが、どれだけいていただいても構いません。ただし、要望にお応えした結果、その場にいる人が死んでも罪に問われないと誓約をしていただけるなら構いません。そうでないのでしたら、同席される人数を制限されてください。人を殺すことはしたくないです」

「では、軍の高位の者だけ立ち会わせていただきます」

「よし、話はまとまったようなので、演習場に移動しよう」

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読んでくれてありがとうございます。

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