シャローザと婚約?5

「落ち着いた?」

「はい」

 すっきりとした様子で、ハンナさんがタオルで顔を拭いていた。服にはクリーンをかけてキレイにしておく。このくらいなら、なんとかなる。

「それじゃあ、まずは戸締まりをしよう」

 窓と扉を閉めて、明かりをつける。

「閉める必要があるのですか?」

「そうだね、僕が言いすぎないようにしないといけないからね。ウィット、ズワルト、女王。質問には誠意を持って答えたいのだけど。立ち会いをお願い出来るかな?あと、防音も」

「防音はしておこう」

 ズワルトがそう答えて、結界の中にもう1層結界が作られる。妖精女王は当然のように机に座るので、いつものセットを出しておく。

「誓約済みのなので、必要ないね。あのときのシャローザには紹介していなかったよね?ズワルトは会ったことあるよね」

「霊獣の方と理解していたのですが、お間違いはないでしょうか?」

「改めて紹介するね。白い狼のウィットが神の代行フェンリル。黒の狼のズワルトが女神の代行スコル。天使の代行の妖精女王と妖精達かな。霊獣よりも高位の存在になるのかな」

「代行様!恐れ多いことでございます。失礼がありましたら寛大なお心によりお許しくださいますようお願い申し上げます。お目通り叶いましたこと伏して御礼申し上げます」

 2人が地面にひれ伏してしまったんだけど、そんなに偉かったっけ?

「うむ、信心深い良き者である。楽にして良い。話し合い故、我らは教えてはならぬことを監視するのみ。ランスとの会話の邪魔にはならぬようにしておる。ゆるりと話すが良い」

「あ、ありがとうございます。お心遣いに感謝いたします」

 ウィットが楽にしていいと言ってるけど、ひれ伏したままだ。しかたないので、シャローザをベットに座らせて、ハンナさんにも座っていいと言ってなんとか、いつも通りかな。シャローザは震えているんだけど。イスを近づけて手を取る。

「大丈夫だよ、僕の婚約者を守ることはあっても、危害を加えることないよ」

「本当ですか?」

「うん、心配なのが婚約を蔑ろにされたときに、どっちかが怒ると辺境伯領が消えるかも知れないけど。それはシャローザが悪いわけじゃないからね。それよりも質問はある?」

「どうしてこんな、代行様がいらっしゃるのですか?」

 ウィットが神の領域の話になるから明かせないと言って、シャローザは口を閉じた。

「お金の話をまずはするね。冒険者のカードに入っていたのは、ギルドと揉めて和解金をもらったから。何だっけ、じっちゃんが来て白金貨10枚で、マジックバックに使ったかな。商業ギルドで買ったけど、割引分が残ってるはずだから、その残金。さっきのクリスタルは商業ギルドを通じて販売される予定。薬師はローポーションが作れるから入れた。ローポーションの注文はたくさん来ているから、作れば必要なものぐらいは買える」

「冒険者ギルドで和解金?じっちゃんとはどなたのことをおっしゃっているのでしょうか?商業ギルドと薬師ギルドは商品を作って納品されているということですね」

「自分の街の元ギルド長が引き金になったけど、冒険者ギルドがF級の扱いをきちんとしていなかったから、ギルドに怒った。直さないなら戦うぞってね。F級のクエストで魔物がいたんだよ。しかも王都内で。調査もキチンとされてなくて、何人も行方不明になっているクエストがね。僕も生活魔法がうまく使えなかったら、行方不明側になっていただろうしね。それから、薬師ギルドが事態収拾に乗り出してくれた。薬師ギルドでは重点育成支援っていうのになってるから、総本部同士での話になった」

「お話の途中ですいません。薬師ギルドの重点育成支援でどうして薬師総本部が動いてくれるのでしょうか?」

「重点育成支援っていうのはF級はお金がなくて道具も買えないから、古い道具を格安で売ってくれたりするような支援をしてくれるんだ。過去の重点育成支援者は、どの人も高ランクの薬師になっているから、その人達と同等の扱いで保護してくれるみたいだよ。それに今は薬師ギルドに重点育成支援は僕しかいない。悪い理由は冒険者ギルドにあったから、交渉をしてくれた。そのあと冒険者に襲われて自分の街に戻って、誰だっけ?じっちゃんはえーと。リャル?エインヘニャルだ。がきて、輝く太陽っていう人達を倒して、本部に連れて行かれて白金貨10枚で和解したことになった。それでS級扱いになったんだ」

 一息つくようにお茶へ口をつける。女王達はすでにお茶を始めていて、クッキーも食べていた。

「間違いでなければエインヘニャル様は冒険者ギルド総本部長のはずです。そう簡単に来られる方ではないはず。国王よりも会えない方です。そんな方がお見えになって、和解するなどとは考えられません」

「今の状態で戦いたいとは思わなかったけど。強そうだったね。実力を測るための輝く太陽もA級の冒険者パーティーらしい。ワイバーン単騎討伐はS級冒険者がすることなんだとか聞いた」

「どうしてそんなにお強いのですか?」

「今は封印した状態なの。生活魔法とかスキルを祝福前に合わせてある。言えない神の領域で全てのスキルと職が与えられているんだ。本来は対国家戦とか大規模集団戦をも想定して修練していたよ。個人で戦うほうが気が楽でいいけどね」

 目を開いたままで動かなく、手が少し震えている。しかし、今まで話した人々には恐怖や畏怖が少し見られるのに、シャローザには一切感じられない。不思議だな。

「なんとか、どういえば」

「お茶を飲んで。聞きたいことはゆっくりね。あせらなくてもいい」

 テーブルを移動させてお茶を近づける。口をつけて飲むと落ち着いたように見える。

「おひとりでそこまでのことが出来るのでしたら、王になられても良いのではないのでしょうか?」

「国を治めるとか考えたくないな。自由に冒険したり研究したりしたいって思ってるから、一所に留まることはないと思うんだ。家、うーん、帰る場所があるのならそこに戻るけど。王様って国にいるのが普通だからイヤかな。冒険したいんだ。いろいろ見てみたいと考えているよ」

「あまり家にいらっしゃらないのですか?」

「それは、いないほうが多くなるかな?祝福後は行きたいところに行って、拠点に住んで転々とするつもりだし、最初は生産系のスキルをあげたいからそこで過ごすつもり。そのあとはそうだね、龍魔草のことを研究したいからドラゴンの住む近くの国に拠点を移すつもり。そのあとはまだ考えていないな」

 頷きながら聞いている。今のところの計画はね。

「結婚したら、その、子が出来ることもあると思うのですが、気が早いのですよね」

「その時はどうしようかな?」

「幼子は弱い、殺したくなければ、なるべくついていてやることだ」

 ズワルトがそんなことを口にした。そうなのか。近くにいればどうにも出来るか。

「気に入ったところで拠点を作って、すぐに行き来出来るようにしよう。なるべく、生産系のスキルをあげるようにして、家にいることにしよう。どうしても行かないといけないこともあるだろうけど、ついていられるように努力する。死んでいなければ、なんとか出来るだろうしね。家族なら本気出してだしていいんだよね?」

「当然だ。その辺の人を贄にしてでも生かすのだ」

「そんなことしなくてもエリクサーも作れているはずだし、呪解、回復魔法で完璧だよ。ズワルト達も協力してくれるなら、無理なことなんかない」

「備えはしすぎということはない。万全で備えよ」

 力強くズワルトの言葉にシャローザはホッとしたような表情を見せた。

「結構先まで考えてるの?」

「そういうわけでは、ないです。塔からでられたらどんな生活が待っているのかと思っていまして。少々、先走りました」

 先を見据えることは大切だよね。想像もつかないことが僕には起こったんだから。

「その前に村での生活。祝福前を乗り切らないとね。村ではあまり食べ物が売ってないから、買いに行かないといけないよ。いつも売っているのは大麦、小麦。たまに野菜ぐらいだって。まだ、村に帰ってから買い物したことや物々交換をしたことがないから、どのくらいで交換とかはわからない」

「今までランス様はどのように生活されていたのですか?」

「パンは自分で作ったりしようとして失敗してる。あとは狩りもするから肉を入れて、スープを作って食べたりしているよ。おいしいかはわからないけど、食べられればいいかなって。肉は村ではほとんど出回らないものだから、売るのもありかな。雑貨屋しかないからそこで聞くしかないけどね。必要なものは領主街で買うといいと思う。あればだけど」

「欲しいものはどうすればいいでしょうか?」

「雑貨屋にいうか、領主街で探すか、王都かな。欲しいものは早めにいってくれれば、いろんなところに聞いてみるしね」

 うなずいて理解はしてくれているのかな。自分のいるのはだいたい揃っている。シャローザが何を必要としているのかわからないけど。

「王都もご一緒してみたいのですが、よろしいでしょうか?」

「いいよ。いる物があるならそこで買えるかな?売っているかどうか。それ次第かな。お金があるといいけど」

「そのようにお金のかかるものは、ですが平民の値段がわからないです。これは見落としていました。買えると良いのですが」

「クリスタルが売れれば、買えるはずなんだけど。ちゃんと売るように今日見せたから問題ないはず」

「無理にとは思いませんから。とにかく外に出られることで十分です。2人で王都を散策出来ると思うと期待が高まって、想像を膨らませてしまいます」

 白金貨があるから変な物を買わなければ十分買えるはずだね。そんなに凄い物を買うとなるとお金がいくらあっても足りないよ。

「生活に必要な服とかを一緒に選びたいなと。家具などはあるのでしょうか?ご一緒に生活するのでしたら、必要なものを揃えるのも必要かと考えておりました」

「うん。必要最小限の物しか必要としていなかったから、シャローザが必要なものはないだろうね。王都で探すのがいいかな。いるものはそこで買うことにしよう。僕は、そうだな、いったん村に帰るね」

「いつまでここにいらっしゃるのでしょうか?」

「研修が終わったから帰るよ。ここには褒賞を受け取りに来ただけで、長くいるつもりは全然なかった。今ここでしか出来ない用事があるなら残るけど、ないなら1度帰る。そこが僕の帰る家だからね。何もない家だけど、これからは賑やかになる。何かあったらギルドを通じて連絡をするようにするね」

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読んでくれてありがとうございます。

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