シャローザと婚約?3

 店を出て街道を歩く。気がそぞろのシャローザはつまずいて前のめりになって、手を引いて引き寄せる。受け止めてからしっかり立たせる。

「歩いているんだから、前を見ないとこけるよ?何か心配事でもあったの?どこを見ているかわからないよ」

「も、申し訳ございません。気をつけます」

「どうしたの?来たときと同じように普通に歩くだけだよ。さっきの店で何かあった?無理に歩かせてしまった?」

「歩くのはなんとかなるのですが、お金の出所が気になってしまって。ランス様が冒険者カードに大金が入っているので、どうしてだろうかと持ってしまって。気になって躓いてしまいました」

 そのことはまだ話していないね。それで思い出したけど、白金貨がそのままだから1番近いギルドに預けてしまおう。

「ここから1番近いギルドはわかる?」

「ここからでしたら、装飾・細工ギルドか商業ギルド、もう少し行けば武器や防具のギルドもございます」

「商業ギルドに行くにはどうすればいい?」

 ハンナさんがご案内しますというので、後ろを2人で並んで歩く。

「お金が入っていることは説明するね。出来れば誰にも聞かれたくないから、聞かれない場所はあるかな?」

「私の部屋が1番人が来ないので安心です。呪いが軽減されたとはいえ、呪われていた場所に近づこうとする人はいないですから」

 あとでシャローザの部屋に行くとして、それなりに人通りがある。荷馬車の行き来が多くて、なるべく道の端を通るようにしている。歩いている場所が通り道なのはわかる。道は狭く感じるけど歩いて行く。

「こちらでございます」

 商業ギルドは王都でも思ったけど、質素な作りをしている気がする。飾り気がないというか、余計なものがないっていうのかな。扉自体はしっかりしているけど、装飾はないみたいな感じ。中に入ると受付があって、どこかにつながる通路がある。

「お金を預けたいんだけど、ここでいいの?」

「はい、受け付けております。ギルドカードはございますでしょうか?ギルド員の資産をお預かりするので、ないのでしたらお作りいただけます」

「ちょっと待ってね」

 服の中からギルドカードを取り出して出す。

「お預かりします、ランス様ですね。預かり金をお願いします」

 もらった袋の中から掴んで受付に置く。

「ええと、白金貨に見えるのですがお間違いないでしょうか?」

「うん、辺境伯にもらったから。偽物だったら辺境伯に文句を言わないとね」

「それはそれは。少々お待ちください。高額ですので、ギルド長に立ち会っていただく決まりになっておりまして、お呼びいたします」

 おじさんが奥から歩いてくる。おじいちゃんじゃなかった。

「この子がお金を預けに来られた子?お金を持っているようには見えないけど、この子が預けに来たので間違いない?」

「はい、そうです」

「名前はランス?聞いたことがあるな。商業ギルドに何か卸してる?」

「ええとクリスタル細工の製作と卸をされていると」

「思い出した。これは失礼した。ランス殿でしたか。預かりは確かにさせていただきます」

 何者か把握したところで預かりが素早く終わり、カードを返してもらう。

「それでランス殿、お願いがあるのですが」

「時間がかかるのと面倒なのはイヤ。一緒に人もいるから待たせたくない」

「お連れの方はお時間ございますでしょうか?」

 シャローザはありますとハッキリと答えた。待ってもらうのは間違いないんだけど、いいのかな?

「帰らなくてもいいの?用事が終わったら塔に行くけど」

「いいえ、ランス様が何をされているのか知りたいのです」

「でも誓約が、シャローザは誓約しているから見ても大丈夫なのか。待たされるのが嫌いだから帰ろう」

「ですが、よろしいのですか?取り引きをされているのでしょう?それにランス様が商業ギルドとどのような取り引きをされているのか気になります」

 周囲がざわついている。呪い姫という声が聞こえる。

「申し訳ございません。お連れ様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「名前ですか?シャローザ・エルミニドと申します」

「あの、あのシャローザ様ですか?」

「そうです、ランス様のおかげで外に出ることも出来るようになりました。本日は婚約指輪を買った帰りです。ギルドによられるということで、ご一緒した次第です」

 婚約?指輪?呪いが解けたとか、周囲のざわつきが大きくなっていく。

「婚約するとは正式にいわれていないし、本当なのかもわからない状態で婚約指輪がいるって」

「お父様が手続きがあるから、正式な発表は時間がかかると言っていましたよ。婚約することにしたと、あとはランス様が祝福を受けられてから結婚するとも聞きました。お父様から直接聞いたのです」

 言葉がいつもより強く、イライラしているのかな。

「正式なのが来たらね。それまでは気持ち半分ぐらいでいいよ。本当に降嫁させるのかぐらいは思っているんだけど」

「信頼しておられないのですね」

「そうだね。信頼は地についてる辺境伯家を信頼しろというのが、詐欺師を信頼しろと同意義だから。でも、婚約は本当な気がしている?」

「ランス様、それは言い過ぎなのではありませんか?」

 顔を赤くして口を結ぶ。手は力が入って服を掴んでいる。

「前に話したよね?シルヴリンはソードスラッシュ、サンデイヴはシールドアタック。何も持ってない今のこの状態にされたんだよ?ソードスラッシュはなんとかして、シルヴリンを無力化した。サンデイヴのは部屋の中からの不意打ちで骨折した。反射的に威力を殺すように体は動いていたけど、殺しきれなかった。普通なら死んでいてもおかしくない。サンデイヴのときは商業ギルドに言われたから行ったんだ。商業ギルドも信頼を失っているんだ。それに対して許し信頼しろと?それでもというなら、自分でどんなものか確かめてから、言い過ぎかどうか調べたら?でもシャローザには関係のないことだし、シャローザは僕と婚約したいんだよね?」

「う、帰ったら調べてみます。そこまで信頼が落ちるようなことなのか。婚約は、ランス様ならば結婚したいと」

 最後のほうは、声が小さくて聞き取れなかった。顔を赤くして、もじもじしている。

 用事を進めないとギルド長に振り向く。

「用意は出来た?」

「今すぐに。細工ギルド長にすぐに来るように連絡するのでギルド長室でお待ちください」

「シャローザ、行くよ?」

 聞いているのかいないのか、わからないけど。立ち止まったままだから手を引いてギルド長の後ろについて、案内された部屋で一緒に座る。

「シャローザ?」

 僕を見ると顔を真っ赤にして、耳まで赤い。

「疲れた?熱を出してる?」

 おでこに手を当てても熱い感じはしない。熱はない。

「動き回ってるから疲れを感じたら、ちゃんといってね」

「わ、わかりました」

「このあと商業ギルドでどんな取り引きをしているのか、お金稼ぎのことだから、一緒にいるなら心配事は少ないほうがいいしね。婚約するなら知っていたほうが、このお金をどこで稼いでいるんだろうって思わなくてもすむよ?お金のこと心配していたでしょう?シャローザのことは、きちんと向き合って信頼を築いていきたい。でも、ここで見聞きしたことは誰にもしゃべっちゃダメだからね。秘密だけど、婚約する人だから教える」

「こ、婚約者」

 声にならない声を上げながら、両手で顔を覆ってしまう。まだ、呪いを抑えたばかりだから、肌も荒れているし、髪も傷んでいるみたい。ちゃんとまとまっているから、まだマシな方かな。調子の悪い日はひどい状態だった。

 テーブルの上にお茶が用意される。シャローザはお茶を飲んで深呼吸をしている。大丈夫なのかな?

 落ち着いてきたのか、顔の赤みもなくなっている。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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