シャローザと婚約?2
研修が終わってからすぐに戻る予定だったが、シャローザのお願いにより1日だけ遅らせることになった。城下町を一緒に歩いてみたいと、上目遣いにお願いされてしまったからだ。帰る準備をするといっても、最後なので一緒に回りたいと食い下がるので、村には何もないからなあと思って付き合うことを了承して、職人の店がある地区にいる。
「たくさんの人のいる場所を歩くのはいつ以来でしょうか。護衛もいないのは初めてで、どうしましょうか。お店などは全く知りません」
「気になったところに入ってみたら?見るだけでも楽しいと思う。あと僕が護衛のかわりだからね?」
武器や防具、魔道具の店なら楽しい。どんなのがあるのか、まだ知らないんだよね。領主街の冒険者ギルドに売っている、ボロい感じの剣しか知らないしね。
「ここに行きたいです」
装飾、宝石を扱う店だった。胸飾りに髪飾り指輪などいろいろと揃えている。
「いらっしゃいませ、どのようなものをお求めでしょうか?すぐにご案内させていただきます」
店の人が出てきて話しかけてくる。シャローザは飾ってある宝飾品に見とれて聞こえていない。
「シャローザ、何を見に来たの?」
「何を見ればいいのでしょうか?」
「お嬢様、婚約指輪をお作りになったらどうでしょうか?」
「そうです、婚約指輪が欲しいと思ってランス様に残っていただいたのです。一緒に選んでいただきたいと思いまして」
選ぶといってもそういうのはわからないんだけど。店員は指輪の並んでいる一角に連れてくる。2人の指輪のサイズを測って、どの形状にするかを聞いてくる。
「どれが合うと思いますか?」
「結婚の時に指輪を作る習慣があると気いたことはあるんだけど、婚約の時も作るの?」
「貴族の場合はそうですね。財務的に厳しい貴族でも結婚指輪だけは作ると聞きました。当家では両方作るのが普通です。どうされますか?平民は作らないとも聞きます。降嫁しますので、作らなくても構いません。ランス様にお任せします」
「それじゃ作ろうか。辺境伯にもらったお金もあるしね。どれがいいかな?どんな感じが普通のなの?」
店員の話を聞くと婚約指輪は男性から女性へけじめとして贈るもので、男性はしない。結婚指輪は日常つけている物で素朴なものになるようだ。
「なるほど、それじゃあ、この青い目の色と同じ宝石の指輪でどう?」
「ええと、このようなのは。もう少し邪魔にならないものがいいです」
指輪にでっかい青い宝石をつけたものだったけど、気に入らなかったようだ。大きいのじゃダメなのか。ん?この宝石は輝光魔石では?透明でクリスタルと勘違いしやすいのだけど、魔力に反応する面白い石だ。
「この指輪が欲しい」
「クリスタルの代わりのような石ですがよろしいのですか?」
「そう、クリスタルのような石だね」
「これを婚約指輪にされるので?」
「石だけ欲しい。研究用に。婚約指輪は別のほうがいいよ」
石のみでも販売しているので、別に持ってくると店員が離れていく。
「どれがいいのかな?」
「生活に必要なものも買わないといけませんし、抑えて生活費に回していただければと思います。ですので、形だけでよろしいのです」
「そうなの?生活費は生活費で稼ぐようにはするけど、ローポーションだけでもそれなりに生きてはいけるはずなんだけどな。注文はたくさん来ているらしいし。他にも稼ぐ予定のこともあるから、辺境伯にもらったお金はある程度使っても平気」
十分すぎるお金は残ると思う、城を建てろとか言われると無理だけど。家はどうかな?建ててくれる人がいないからね。相場とかもわからないな。
「では伺いますが婚約指輪においくら使うつもりでしたか?」
「白金貨1枚までならいいかなって。結婚指輪は15才としてあと2年あるから、残りの白金貨2枚分あれば十分やっていけるはずだけど。そのあとは冒険者としてやるなり、薬師としてはやっていくつもり。他にどの程度お金を稼げるかはわからないけど、すすめていることもあるから大丈夫だと思う」
「お、お父様が白金貨3枚も支払われたのですか?」
シャローザの声がうわずる。
「そうだね、でも引き取ったワイバーンが剥製にされるともっとするらしいよ。それにワイバーン討伐した僕を殺そうとした。その上で謝罪を受け入れたんだから。本当はここに来るつもりもなかった」
「それで白金貨3枚なのですか」
「お金なんかよりも辺境伯家を滅ぼしたかったけど、国を出るのは嫌だからやめておいた。渡したいなら来ればいいのにね?そう思わない?」
「それは領民に示しがつきませんので、是が非でも来ていただきたかったのでしょう。貴族同士ならですが、平民ですよね?」
恐る恐る聞いてくる。のぞき込むように視線を向けてくる。
「平民だけど、S級扱いだから貴族の当主扱いらしいよ?冒険者ギルド長にそう言われた。対等なら戦えばいいのかな?」
「どうしてそんなに好戦的なのですか?私が降嫁するのですから矛を収めてください。けんかっ早いのは嫌いです」
「しけてきたのはそっちだけど、シャローザがちゃんと来たらそうする。来るまでは辺境伯を信用しない。最低限謝る気があるのかはわからなかった。謝らなければならない本人達は謝ってこないしね。その辺りも信用を失ってる」
「口約束だと?」
「うん」
正式な書面はないし、今のところ口約束の状態なのは間違いない。受け入れていいのかな?結婚させて関係改善をしようとしているのはわかるんだよね。
「逆に聞くけど、どうして僕のところへ来ようと思ったの?その辺りの説明はされた?」
「説明はされていませんが、受けて入れてくださったランス様のところ以外にいけるのは、塔の自分の部屋だけです。それにお嫁に行けるはずがないと決まっておりました。なら私の出来ることは、この私を唯一受け入れてくださる方に全てを捧げるだけです。如何様にもお使いください。必要とされるのでしたら、何でもいたします」
「平民の生活を覚えてもらえばいいよ。面白いことがあったらそっちに夢中になって、引っ越しするかもしれない。でも、祝福後かな。それよりもシャローザはどれがいいの?宝石を選ぶとかわからないんだ」
「派手すぎないものがいいです。どうしてもランス様に選んでいただきたいです」
指輪が並んでいるのを眺めているだけで、これがいいとかがわからない。この色が変わるように見えるのが面白いかもね。
「この白っぽいのはどう?」
「白っぽい?青色も見えますね。これがいいです。ランス様みたい」
「どういうこと?」
「白髪、碧眼。まさにランス様を閉じ込めたような石です」
確かにそうだけど、石自体は白く、青く光るので光が当たると変わるっぽい。不思議。
「お待たせしました、当店にあった魔石でございます。魔力に反応するものを総称して魔石と呼んでおります。魔物から取れた魔石は宝石ではなく、魔力源になりますが、こちらは魔力を発生しない魔石になっております。何らかの理由で魔力がなくなったものでございます」
「いろいろあるんだね」
「そうでございます。色を楽しむために収集される方もいらっしゃるとか。透明で色のついた魔石は飾りとして使いやすいですので。細工に融通することもあるので、ある程度は置いてあるのです」
「この透明のが欲しい。これとこれこれ」
大きさのバラバラな石を5つ店員に渡す。透明で少しだけくすんでいるような魔石。色がついていると気にならなくなるぐらい。
「あとこの白くて青く光るのが欲しい」
「かしこまりました。こちらはムーンストーンになります。旅の安全を守る石として、人気の石でございます。この高級品は貴族様のお子様が学園に行かれるとき、持たせたりすることもございます。箱をご用意するのでお待ちください。つけて行かれますか?」
シャローザを見ると頷く。そうするといって、店員はせかせかと動く。箱は装飾がきちんとされている高級そうな箱で、それを上等な布で包んでいく。輝光魔石は1つ1つ布で包んで大きな袋に入れている。
指輪をつけてシャローザは嬉しそうに眺めている。本当に嬉しそうだ。
「お会計のほうがええと、大金貨で2枚になります」
褒賞の袋から白金貨を出して、机の上に置く。店員は1度目を開き直して、目をこすって確認する。
「白金貨でございますか?」
「うん、そのはずだけど、これって偽造品?」
「いえいえ、久しぶりに見たもので間違いございません。ただ、少々問題がございまして、お釣りを常時ご用意しておりませんので、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「それならギルドカードはつかえるの?」
「はい、ご利用いただけます」
冒険者カードを出すと、何やら魔道具を持ってきて、指示されるままにカードを置いて手を魔道具に置く。こっち側にクリスタルの表示が大金貨2枚と出ている。
「お支払いは終了いたしました。お支払いにご協力いただき、ありがとうございます。他にご入り用のものがありますのでしょうか?」
「僕はないな。シャローザは?」
支払いの魔道具をずっと見ていて、そのあとにも1度同じ声をかけてやっとこちらを見た。
「あ、え?聞いていませんでした。何でしょうか?」
「他にいる物はある?」
「いえ、指輪だけで十分です」
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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