シャローザと婚約?1

 休養日を挟んで宝箱の魔法鍵について、普通の製作された魔法鍵の場合は頑張れば解錠出来るようだ。時間はかかるが魔力の配置や配列を試していけば開くとのこと。時間がかかるので回収してから開けるのが普通。解除師にお願いする場合もある。なるほどと座学を受けている。

 ドアの開く音がして全員が固まる。

「辺境伯様、このようなところに一体どのような用件で?」

「すまぬな、ランス殿に用が出来たので訪ねてきたのだ」

 辺境伯が目の前に立つ。顔を見上げる。

「何の用事?」

「シャローザのことはどう思っているか、聞きたい」

「どう?薬が効いてるとか、これ以上は薬を強く出来ないなとは思ってるけど」

「シャローザを降嫁させるといったら受けてくれるか?」

 こうか?降下、落ちることかな?塔から落ちる?どういうこと?

「嫁にどうかと聞いている。降嫁は貴族から平民に嫁がせるという意味だ。貴族当主の地位を与えられているとは言え、平民である。呪いのせいでどこにも嫁に行くことは叶わぬ。しかし、呪われていてもいけそうな先がランス殿と聞いたのだ。それならば祝福後に結婚という形で、今は婚約でどうだろうか?」

「まだ早いよ。王都にも定期的に行くようになるかも知れないし、村の家にいる時間も少ない。生活自体が落ち着いてなくて、忙しいときもある」

「イヤではないと言うことでいいのか?」

「そうだけど、家が村から離れているから何かあると困るよ。魔物は近くに出ないけど、動物はいるから安全じゃない」

「そこはなんとかなる」

 そこはなんとかなるって、家も壊されたとこがあるのに。

「でも、何かあったら」

「うちの騎士から護衛のために派遣をする。落ち着くまでは常駐をさせるので心配はない。シャローザとの結婚は認めてもらえるな?」

「それなら、心配ないからいいけど」

「うむ、ならば決定だ。早速準備をさせる。家のほうには早めにいけるようにしよう」

 勝手に決まったけど、大丈夫なのかな?シャローザは何か思っていることはないの?行き先がないから僕のところっていうことなら、しかたないっていう感じなのかな。

「決まった決まった、めでたいめでたい」

 そういいながら辺境伯は部屋を出て行った。研修の面々がこちらを見ている。

「いいのか?シャローザお嬢さんだぞ?」

「薬師としては面倒を見ているけど、どうして結婚の話までなったんだろう?」

「厄介払いに、ランスと縁を繋ぐのにちょうどいいと言うことだろう。だいたい、塔からも出られないんだ。他に行き先もねえ。それにシャローザお嬢さんを止められる貴重な人材だ。天から使わされた神子のように見えたんだ。ここにいるうちに話が決まればよし、ダメなら今まで通り。いいことずくめってことだ。うちにとっては」

「そうなんだ。うちに来ても何もないけどいいのかな?」

「誰も反対はしないだろう。嫁に行くってだけでもみんな驚くさ」

 中断していた研修を再開してしばらくすると、シャローザが兵舎に来て騒ぎになる。急いで出ると唇をかみしめて、僕を待っているシャローザが車椅子で待っていた。黒いもやがすごい。斥候隊は扉を閉め切っている。

「どうしたの?ハンナさんに呼びに来て欲しいことは伝えていたと思ったけど。何かあったの?」

「お話は聞いておいでですか?」

「結婚の話は聞いたよ。祝福後だよね?それまでは婚約でって話だよね?」

「よ、よろしいのですか?呪いしかないのに、私などが嫁いでも。ご迷惑になるのではないでしょうか?ご迷惑しかかけられないのに、ランス様のところに行くのは厄介ごとしかならないです」

 もやが勢いを増して吹き出している。何事かと兵士達が集まっている。見世物じゃない。近づいて手を取る。

「場所を変えよう」

 黒いもやが消えたところで移動をする。前の東屋まで行くことになった。シャローザは上目づかいでこわばった顔をしている。歩いている間、視線をそらさずにずっと僕を見ていた。東屋に行ってイスに座る。

「ランス様は騙されているのです。私は足手まといにしかなりません。そのうち負担になって、もらわなければよかったと思うのです。呪いのもやも人に嫌われる原因です。ランス様がイヤなこと言われなければならないのですよ?こんな厄介な私をどうして、おかしいです」

「呪いのことだけ?」

「当たり前です。一番初めに考えることは呪いのことでしょう。呪いがあるような嫁を娶るなど、あり得ないことです。今から考え直して、お断りをされるほうがランス様のためです」

「呪いは解けると思っているから。今は解けなくても、僕はいいんだけどね。祝福後に呪解はすぐに出来ると思っているよ。人の家のことだから、これ以上は出来ないかなと思っていたんだ。嫁になるなら祝福を待たずに、別の方法を考えることも出来るしね。呪いを消すわけじゃないけど、もやを出さなくしたり、痛くなくすことも出来ると思う。嫁に来る前提でだけど、だから呪いで断ることはないよ。村は何もないし家はちょっと離れているから、シャローザがイヤにならないのかなって心配しているかな?」

 ぎこちなく笑って、シャローザを見てみる。

「でも、あの、何も出来ません。花嫁修業もしておりません」

「家に来てからでもいいんじゃないの?最初は何も出来ないよ。出来ようとするなら、下手でも出来るようになる。しないならそのままだけどね。シャローザはどっちの人なの?僕は生きるために、不条理な暴力から逃れるために死に物狂いで頑張ったよ。教えて貰えるなら、ハンナさんにでも教えて貰えば。そのぐらいはなんとかする」

「ランス様、あの」

「あとはシャローザがどうしたいかだけ」

 ぽろぽろと涙が頬を滑り落ちる。

「幸せを望んでもいいのでしょうか?」

「いいよ」

「呪われていてもいいでしょうか?」

「いいよ」

「何も出来ないですけど、いいでしょうか?」

「いいよ。ゆっくり覚えてくれれば。最初は何も出来ないからね」

「それでは不束者ですがよろしくお願いします」

「よろしくね、シャローザ」

 小さいズワルトが手の上に出てくる。

「人のいないところへ、結婚祝いの前払いをしてやろう。繋ぎにはなるだろう」

「呪いでも解くの?」

「光の魔力をためる魔方陣を与えるのだ」

「なるほど、それだと手を繋いでいなくても痛くなくなるね。魔力の補給はいるけど。どこか人の来ない場所はある?」

 一緒に住むという前提なら問題ないかな。補給はすぐに出来る。シャローザの部屋は人が来ないということで、そこになった。

 ベットの上に座らせるとズワルトは大きくなった。ズワルトに魔方陣を作ってもらって、一緒になって細かい調整を加える。呪いに負けないようにとか、少しずつ黒い魔力に合わせて量を調整するとか、盛り込んでいく作業が続いていく。こういうのって久しぶりだけど楽しい。最終的にいらないだろう余分を消して完成。

「ランスの縁者となるものに祝福としてこの魔方陣を授ける」

「ありがとうございます」

「互いに良い関係を築けるよう精進するがよい」

 ズワルトは魔方陣をシャローザの体の中に入れてしまうと消える。

「シャローザ、魔力を補給するから変な感じがすると思うけど、悪くなるわけじゃないから慣れてね」

 手を通して光の魔力を送り込む。量が多すぎるとあふれちゃうから、一定量を流し込んでいく。どのくらい吸収していけるのかな?このあたりはどのくらいって、量の基準があるわけじゃないから、感覚的にこのくらいっていうのを覚えていかないといけない。

 光の魔力があふれてくる。すぐに止めてしばらく手を繋いで、中の魔力を感じ取ることに集中する。出来るとは思うけど、相殺がうまくいかなければ意味がない。きちんと出来ているね。あとは様子を見ながら、悪いことがあったら直すだけ。手を離してシャローザの前に立つ。

「出来たよ。どこか痛いとかある?」

「手を離しても、全然痛くないです。すごい、1人でも大丈夫です」

「定期的な光の魔力の補給がいるから、そこは覚えておくように」

「はい、早くランス様の元に行かないといけませんね。本当に痛くない。ハンナ、痛くありません」

 嬉しげに抱き合っているのを見てから、部屋を出て塔から出る。結構魔力が必要なんだな。魔力は回復するけど、何かあって魔力を大量に使ったときはポーションなんかの補助がいるかも知れない。準備はしておこう。

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読んでくれてありがとうございます。

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