外で魔法練習

「待て、これを飲んでから入れ」

「何これ?」

 ポーション瓶とは違う、もうちょっと豪華な瓶だ。底にはポーションと同じ魔方陣が書いてある。なんだろうか?透明な瓶と液体。

「聖水だ。黒い魔力で穢れている。これで浄化してから中に入るんだ。飲めば入っていい」

 手を出して黒い魔力の塊を出す。

「呪われていたのか?すぐに教会に行って清めてもらえ」

「過剰反応しすぎだよ。闇属性の魔力を作り出しただけなのに、教会に行くなんて大げさ。あとイヤな感じがするけど、シャローザのもやには害がない。シャローザの呪いの効果を相殺出来るのに聖水なんて必要ない」

 黒い魔力を白い魔力に置き換える。

「聖なる魔力を扱えるのか?」

「光属性の魔力だけど、そうとも呼ぶって聞いたことはある。呪いを発生させるのに闇属性の魔力が使いやすいから、どうしてもイヤな思いを持ってしまうけど魔力はどう使うかだからね。それは僕にいるのかな?」

「そうだな、聖なる魔力が使えるのなら聖水は必要ないか」

 聖水を持ったまま、1番つっかかってくる隊員は兵舎の中へ消えていった。警戒されているのかな?とても警戒して、しすぎている気はする。呪いの被害はあるって言っていたからそのせいかな?

 研修をして貰える?聖水を持って来るって、凄く警戒されているから無理かも。部屋の中に入ってベットに座る。

 シャローザの呪いは間違いなくシルヴリンの一部が転移したもの。中途半端に移した代償は命を削る呪いの効果。自分の命が痛みに変わるとはどんな気持ちになるんだろう?痛みが強すぎて何も考えられない?考えられないことは逆にいいのかもしれない。今日のように中途半端に考えられると、命を暴走させて黒い魔力を振りまくから痛いほうがいいか?でも、寝られないのはつらいんだよな。

 訓練で寝られない状況をしたことがあったけど、立ったまま寝られた。本能で攻撃して避けるようになるまでつらかった。やめたいとは思えるぐらいに苦しい修行の1つだった。だから寝られるようにしてあげたいなと思ったんだけど。

 生活魔法の修行がしたい。ここじゃしちゃいけないから、他の場所に行かないといけないね。どこに行けばいいのかな?とりあえず兵舎の出入り口の人に聞いてみる。

「魔法の練習はどこでしてもいいの?」

「魔法か?魔法師団の練習なら城壁の外でやるのが普通だな。その時は騎士団も護衛に出るが、1人だと危ないぞ?」

「城壁の外ってどこの城壁のこと?」

「そうだ、騎士団の訓練場があるだろう?そこの奥に門があるから、開けてもらって外で練習するんだ。そこにも門番がいるから聞いてみな」

 わかった、ありがとうと手を振り走って行く。訓練場には練習している人達がいたけど、通り過ぎて奥の方へ向かい、門があった。

「魔法の練習がしたいんだけど、外でならいいの?」

「そうだな、だいたいこの外で進んでいって練習をしているな。魔法の練習をするなら騎士団の誰かと行かないと危険だぞ」

「どういう風に危険なの?」

「詠唱中に魔物が来たら襲われるだろう。魔法使いならわかるだろうに。誰か騎士団に頼んで行ってもらえ」

 騎士団の人か。訓練の邪魔をするのも悪いしな。

「どうしたんだ?」

「この子が魔法の練習をするのに1人で外に出たいっていうもんだから、誰か騎士団の人と行けと言っているのです」

「ランス殿なら大丈夫だ。問題ない。私が保証する。出入りの仕方を教えてやってくれ」

「隊長がそうおっしゃるんでしたらわかりました」

 隊長と呼ばれた人はさっさと訓練場に戻っていった。

「出るときはいいんだが、城の中へ帰ってくるときは上に見張りがいるからそっちに声をかけて、名前を言って入れてもらうようにいうんだ。入出証にはなんて書いてある?」

「ランス、辺境伯勅命入出証」

 カードをそのまま見せる。

「あんれ、見たことのない入出証だ。ここの偉い人呼んでくるから、待っててくれ」

 もう1人の門番の人と一緒に、誰か来るのを待っていることに。門番の偉い人に入出証を見せて、上の見張りの人も一緒に確認することになって時間がかかる。なんとか通してもらってから外に出ると、広々とした草のない大地だった。焦げた痕などがあるから魔法の練習をしてるんだろうことはわかった。城門の近くだと壊してもいけないから、歩いて城壁から離れていく。離れると森がまだあって、高い木も残っている。村の近くの森よりは低い気がするけど。

 いいぐらいまで進んだと思うんだけど、軽く水をばらまいて地面をぬらす。威力の強くない火の魔法を当てていく。ぬらした場所がジュッと蒸発する。そこを見ると水だけをうまく蒸発出来ている。面白いなこれ。水を魔法でばらまきつつ、地面を焦がさないように蒸発させる。焦げ目が出来ないようにして遊ぶ。

 パシャン、パシャン、ジュ、ジュ、ジュ

 立ち上る蒸気を見ながら風で払いのける。そろそろ遊びは終わりにして、真面目にやろうかな。氷と炎を作り出して大きくする。同量の魔力で調節を行う。5mぐらいの大きさにしたとき、両方をぶつける。大きな爆音と共に水蒸気の爆風が木々を大きく揺らす。なかなかの威力だった。水蒸気は風で当たらないように横をすり抜けさせた。今度は大きな氷と風と炎を組み合わせてぶつける。

 さっきとは比べものにならないぐらいの大きな水蒸気の塊が木々を焼いてしまう。とっさに水を細かくして霧状にすると広範囲にばらまいて、焼いたところを冷ましていく。危ない危ない、山火事にするところだった。でも、こんなに派手にやるのは久しぶりだ。ドンとクリスタルの塊を出して、嵐の魔法をぶつける。弱いかな?ちょっと削れている。威力を調整しながら、クリスタルの塊を削り取っていく。ガリッ、バリッ、パリンッ特有の音を立てて削れていく音が響いていく。削りきって粉々の山になったクリスタルを消す。次は何をしようかな?

 空を見上げながら嵐魔法を打ち上げる。風向きが中心に向かうように渦巻いている。それに向かって炎を少しずつ打ち込んで、大きくなっていく。熱くなり、太陽のように光を放ち始める。青白い炎は熱く、燃え上がっている。次の嵐魔法を逆方向の風向きで、威力を倍にして青白い炎に向かって打ち上げる。どんどんと近づいていって、近づいて、ぶつかる。

 ドンッ

 変な音がしてぶつかった瞬間にパアッと円状に広がって空を一瞬、青白い炎で覆った。キレイだなと思って、普通の空に戻った空を眺める。

 変な音が聞こえると思って、森のほうを見ると大きなクマが凄い勢いで突っ込んでくる。あいつ、なんか、普通のと違う?ベア系の魔物か?魔物だからか下り坂だからなのか、わからないけど速いな。風で浮き上がると狙いが僕なのか、通り過ぎようとしているのか見てみる。勢いをつけて飛びかかってくるのを反射的にクリスタルで串刺しにした。心臓にも突き刺しているので、間違いなく死んでいるはず。降り立つとこの前のブラウンベアよりも大きかった。

 どうしようかな?石と土の道もないボコボコしたところを走って、門のところまで走って行く。

「門番のひとー」

 門の外で叫ぶと城門の上から見張りが顔を出す。入出証を見せて叫ぶ。

「ベアを倒したんだけど、回収して欲しいんだ。人手がいる。誰か呼んで」

「魔物を倒したんか?どのくらい大きいんだ?」

「人を2人分の高さ」

「それはオオモンだ。人を、いらっしゃるので?行ってくれるってよ」

 今呼びに来たんだけど、行ってくれるってどういうこと?

 門が開いていき中から副師団長と騎兵の人達が現れる。

「何を倒したって?」

「ベアの大きいの。襲ってきたんだ」

「なら、拾いに行こう。乗れ」

 馬に一緒に乗ってゆっくり目に行く。足下が悪いから馬が進むのに任せているのかな。

「ところで外で何をしていたんだ。もの凄い音がしていて、調査に出向いたらランス君がいた。ベアを倒したという」

「ここって魔法の練習場なんでしょう?魔法の練習をしていたよ。久しぶりにちゃんと使うと楽しい。新しいことも試してみたから楽しかった」

「新しいこと?」

「嵐で炎を集めておいて、逆の嵐で飛んでいくようにした」

 何をいっているのかわからんと上から声がする。上級魔法の話だからわかる人にしかわからないか。

「それでベアはどの辺にいるんだ」

「森の近く。魔法が城壁に当たっても嫌だったから」

 馬は関係ないとばかりに進んでいく。他に何人かいるけど、重装備だね。何と戦うつもりなんだろう?

「もしかして、見えたあれか?」

「うん、大きかったんだよ」

「確かにでかいな。よく倒したな」

「襲ってきたから反撃しただけだよ。通り過ぎるだけなら見逃したのに」

 近づいてあらためてみても大きい。この辺りにはあんなのがいっぱいいるなら、狩りの練習にもなっていいね。詠唱していると間に合わないかも知れないけど。

「血抜きするのを忘れた。持って帰ってもらうことばっかり考えてた。こんなに大きいのってどうしたらいいかな?うーん」

 手足の血管を狙って切り離す。獲物の穴の開いた心臓部分に来るとそこから大量の水を流し込む。切り離したところから赤い液体が出てくるので、様子を見ながら透明になるまで流しておく。

「持って帰るのはどうするの?」

「部位に分けてしまえば、持って帰れるだろう」

「中身はどうするの?食べないなら出しておきたい」

「じゃあ頼む」

 ベアのお尻のほうに穴を作ると腹を割って中身を押し流す。キレイにね。汚いのがつくと食べるときにお腹が痛くなる。あとは切り分けて持って帰ってから皮剥とかしてもらえばいいかな。自分でするには大きいな。

「そういう使い方をすると生活魔法が便利に見えるな」

「便利だよ」

 騎士の人達が降りてきて、適当に切り分けて馬に乗せると戻っていく。門をくぐって訓練場まで来ると、馬を下りてベアが1カ所に集められる。

「解体して焼いてくれ」

 普通の兵士達が集まって、皮を剥いでいく。うまくはないけど、皮は剥げている。皮は皮で集めている。何かに使うのかな?肉は骨から切り離して棒に突き刺して焼き始めている。

「野営の練習もかねて、肉を焼くぐらいは出来るようにしている。その場で倒した食料を無駄には出来ないからな」

 慣れないながらも焼くまでは出来ているから、十分なのかも知れない。食べるのにちゃんと火が通っていればいい。

「今日はこの肉が追加だ。ちゃんと分け合えよ」

 待っていると他の人よりも大きな肉の塊が目の前に置かれる。

「取ってきたヤツが1番大きな肉を食べる。そういうことだ」

 焼けた肉を豪快に食べている。出された肉をもぐもぐと肉汁あふれ肉味にあふれ口の中が肉だった。野性味溢れる肉汁が口からあふれそうになりながら食べすすめていく。大きい。

 お腹いっぱいになって兵舎に戻り眠りについた。

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