薬の効果2

「どうしたの?」

「どうして痛んだろうって、考えたら止まらなくって」

「あの薬がよく効くのでランス様にご相談すれば、何か妙案があるのでないのかとお嬢様をお連れしました」

「まずは黒い魔力を抑えようか」

 スッと手を出してシャローザの目を見る。恐怖、怯え、人にふれることはあまり気が進まないようだった。手を取って光の魔力を調整しながら、外に漏れ出す黒いのがなくなるようにする。これくらいか。黒いのが漏れ出ていると畏怖の目を向けられるから、落ち着いて話すためにはそういうのは邪魔かな。

「人気のない場所で話したいんだけど?どこかある?別に聞かれてもいい話だけど、あんまり人目がない方がいいと思う」

「それでしたらこの前、お薬をいただきました場所でいかがでしょうか?お嬢様以外は滅多に来られない場所です。こられてもお嬢様には近づかれませんので、ゆっくり話をするにはちょうどよいかと」

「ならそうしようか。手を繋いでいてもいいのかな?とりあえず、落ち着いたと思うけど」

「よろしいかと思います。呪いを抑えるために繋いでいるといえば、何も言いません。辺境伯様やバーナルド様、シルヴリン様は目の前で抑えるのを見てるので、呪いのもやが見えなければ抑えていることは理解されるはずです」

 泣き疲れているのか、車椅子の上で寝ている。起こすのは向こうに着いてからでいいか。横を通り過ぎる兵士の人達が2度見していく。何かおかしいことがあるのだろうか?メイドの人が通るときには、立ち止まってじっくりと見られる。

「何か用?」

「いえ、なんでも、その、シャローザ様が寝ていらっしゃるので。それと黒いもやがないことが不思議で」

「僕がふれているからだよ」

「ふれるだけでもやが消えるのですか?」

 そうだよと答えてから庭の先に進んでいく。屋根のある東屋の下に入って、設置されているイスに座る。すぐ隣に車椅子を止めて、お茶が用意され、クッキーを食べる。

「いつ起こす?落ち着かないと命の削られる量が多くなってるってことだけど。もうちょっと待ったほうがいいかな?落ち着くのが先のほうがいい」

「ではお嬢様のお茶の準備が出来ましたら、手を離してください」

 ゆっくりとお茶を入れる。斥候の研修も中止になったからあせる必要もない。落ち着いて座って、クッキーでもいただこう。空いている右手でお茶を飲んで、クッキーを口に運ぶ。自分でクッキーを買うと高いんだよね。砂糖が高いからどうしても高くなっちゃうよね。パンに砂糖を使いたいんだけど、蜂蜜の方が安い。

「手を離していただけますでしょうか?」

 手を離すと多少は魔力が残っているので大丈夫そうだ。お茶に口をつけて注視していく。どうすればいいのか、薬が1番気軽なんだけどね。何かするにしてもスキルがない。

 黒い魔力が漏れ出してくるとうめき声をあげた。口から唸るような音が響いてくる。苦しそうだ。いきなり目を開けると自分の体を抱きしめるように手を回して、小刻みに震えて目をつぶり耐えているように見える。

「話がしたいんだけど、寝ないのなら手を貸すよ?」

「どうしたら」

「お話をされる間は手を乗せていただいてもよろしいかと存じます。普通のお茶を用意いたしましたのでどうぞ」

 カップを手に取って少し飲んだ。落ち着くといいんだけど。手を出しているとスッと乗せてくる。

「寝る前の薬は効いてる?寝るのが目的だからね。他の時間に飲まないようにいったのは、魔草中毒にならないようにするため。それは理解出来る?」

「わかっております。ですが、そうなのですが。そうですよね。どうしても、高望みなのはわかっています。呪いを引き受けると決めたときから命は惜しくないと思っていましたが、強烈な痛みだけは、どうにかならないか考えておりました。様々な方法、呪解に回復魔法、薬、ポーション。どれもランス様の薬ほど効いたことがありませんでした。痛みを抑えていただいて感謝してもしきれません。ですが、一時の痛みがなくなることにすがってしまうのです。どうしてこんなに痛いのか、痛くないのがこんなに嬉しいことだと思わなかったのです」

「全部は無理だよ。前もいったけど、命を削って痛みが出てるんだよ。寝られていないから少しでも寝られるように、この痛みに効く薬を調合したんだから。使い方を守ってくれないなら、作らなくてもいいんだよ?」

「守ります。その、今まで望んでも痛みが出ていたので、寝るまでの間しっかりと効いたことがなくて、出来るなら、起きているときも痛みを和らげてくれればうれしいのです」

 お茶を飲みながら話を聞く。

「そうだね、それがいいと思う。魔草中毒にならないならいいけど、すでに使っているからね。毎日、毎晩飲むことを考えれば、中毒にならない量はごく少なくなる。一時的に使うというのなら、別に構わない。好きに使ってもらっていい。どうせなら同じ物を薬師ギルドで作ってもらえば、どれだけ使っても買えばいいんだから、そっちのほうがシャローザには都合がいいはずだよ」

「いえ、ランス様に作っていただかなければなりません。いろいろな配合の薬は試し済みなのです。守りますが、今日のようになったときは、お時間をいただいてもいいでしょうか?」

「いる間はメイドさんに呼びに来てもらってもいい?斥候の人達って呪いに敏感だから、今日みたいにまき散らされると死んだ仲間を思い出すんだって。でも、あんまり邪魔はしないでね。早く終わらせたいから」

「終わったら、どこに行かれるのですか?」

 触れた手がこわばる。

「村に帰るよ。ギルドに呼び出されたら行くし、そういえば村に帰ってきてからあんまり村にいた記憶がないな。狩りに行ったりもするし、薬草摘みにも行くから家にあんまりいない」

「お目にかかりたいときは、どうしたらよろしいのでしょうか?」

「うーん。どうしたらいいんだろう?商業ギルドか薬師ギルドが連絡をとりやすいと思う。1番は薬師ギルドだと思うけどね。1番よく行くし、領主街にギルドがある。どうなんだろう?王都にも行かないといけないかもしれないし、わからないね」

「どこかにいるか、わからないということですか?」

 シャローザへ向くと寂しそうなまなざしでこちらを見ていた。握る手に少しだけ力が入る。

「そうだね。狩りをしているから家を空けていることは多いし、家のある村も領主街から馬車で2日ぐらいかかる。王都に呼ばれることもあるし、家にいたいとは思うけど用事があったらしょうがないよね。領主街で薬師ギルドの連絡待ちが1番いいと思う。薬師ギルドは顔を見せるようにしているからね」

「では薬師ギルドと商業ギルドに連絡をして貰えるようにお願いします。それとお願いなのですが、お休みの日に少しだけお時間を作っていただけないでしょうか?」

 少しうつむいて、空いている手でスカートを握る。

「休みの日?薬の経過も見たいからいいよ」

「そういうことでは、いえ、お会いいただけるだけでうれしいです」

 お茶を飲みながら庭の草木を見ている。

「ランス様、お薬の経過を見るとき、お嬢様の歩く練習に付き合っていただけませんでしょうか?私では呪いの痛みに耐えられなく、ランス様でしたら呪いをはね除けられます。部屋に引きこもって、外出の時も車椅子で足腰が弱っているのです。まだ、多少歩けるうちに練習していただきたいのです」

「練習?歩けるんだよね?」

「ずっと立っていられなく、痛みに耐えるのに歩くどころではなくなることもあるのです。ですので、呪いをはね除けられるランス様にお願いするしかないのです。この辺境伯領で出来る者はおりません。どうか、どうか、お願いいたします」

「そうなの?シャローザ」

 再びシャローザを見る。こちらを向いていて目が合う。

「お恥ずかしながら多少は歩けるのですが、すぐに疲れてしまうのと痛みが強くなることが多く、途中で練習を中止してしまうのです。最近では車椅子がなければ、ここに来ることも出来ません」

「出来る人って他にいないの?」

「いるのなら、その方にお願いしております。ランス様が出来るからこそお願いしているのです。いけませんでしょうか?」

「途中で買い物とかしてもいいなら、練習に付き合ってもいいよ」

「ぜひお願いします。お休みの日には準備をして待っていますね」

 笑顔を向けられてうんとしか言えなかったけど、凄く楽しみにしているのだけは伝わってきた。練習なんて面白くもないと思うけどな。薬のこともあるから合わないっていうのも出来ないから、様子見ついでに練習に付き合うことにするか。

「落ち着いた?」

「はい」

「じゃあ戻るね」

「はい」

 手を離すとき、名残惜しそうにちょっとだけ力を入れて離そうとしなかったけど、次の休みねというとすぐに離した。背中に感じる黒い魔力には害がないけど、呪いの証として彼女がまき散らすことを完全に止めることは出来ないだろう。呪解されるならば、もしくは無効化されるのならば消えるだろう。教会はそういうの貴族にやると思うんだけどな。高位の神官ならば出来ると思うけど、守銭奴らしいからお金が高いのかもね。払えないとしないらしいし。

 あんまり時間はたっていないはずだから、戻れば今日の研修をして貰えるかも知れない。急いで帰る。兵舎の前まで来ると入ろうとするのを止められた。疲れた顔をしている。

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