辺境伯家の秘密2

「何かわかったのか?」

「シルヴリンのはスキルの技を使うときに、使いきれない余剰の力を1番上のでているところで吸収しているかな?技をうまく使えれば、使わなければいいんじゃいないのかな」

「代々伝わるのはどうしてなのか、わからないのか?」

「それは長男の人が持っているんじゃないのかな?世代を超えるのは魔族式ぐらいしかないもんね」

 辺境伯の隣に座っているよく見る人が長男のバーナルドだと紹介される。

「ズワルト、ズワルト」

「少し待て」

 複雑でいて巨大で、見ているだけで圧倒される魔方陣が浮かんでいた。よく研究されているであろう古代術式と持てる力を引き出すためにつなげられた魔族式が見事に融合して、目の前に広がっている。

「おお、キレイな式」

 シルヴリンよりもつなぎの部分が違っている場所もあり、それがさらに複雑で魔族式がキレイに溶け込んでいる。解術対策部分もあるね。人によって解術をいやがるのはしかたない。呪われるからね。真剣に式を読み解いていく。

「根幹の部分は最初の男児に代々受け継がれていき、今はバーナルドが持っているということだね。あとはこれから、そのあとに生まれた兄弟にシルヴリンの持ってる呪いが降りかかる。一部を転写する感じかな。元の式に同じ物があるね、これが完体か。スキルとかの力をためているから、使用しなければ長生きできるね。一定になると死ぬ、それでその代の呪いは終わり。次の世代になるとまた兄弟の誰かがなる。その繰り返し、直系がいなくなれば終わるけど」

 重たい沈黙がこの場を支配する。

「なんとか出来そうなの?」

 妖精女王はお茶を飲みながら聞いてくる。

「あー、今は無理かな。スキルがない。ズワルトなら、この手の混じってるのってダメだっけ?」

「魔族部分がな」

「世代を超えるのって魔族式ぐらいしかないもんね。魔族式をかけられたのなら魔族関係か。解くのは、うーん。大事な代々の部分がどうにか、今はどうにもならないね。シルヴリンが死ぬのは、この部分を変えれば力が伝わらないから、でも山が1つないけど、なんで不完全なんだろう?あと力がたまらなくすれば、呪術がかかったままだけど普通に生きられるよ。面白そうだけど、今はスキルがないし、やる理由もないからしない。ズワルトがどうするかは知らないけどね」

「そのような些事に力など使わぬ。その辺の人間とどう違うのだ?我らが力を貸すとすれば祝福や加護を持つものだ」

 シルヴリンは泣きそうな目で見てくる。

「ランス、どうにもできないの?」

「何もなしにすると、誰でもしなくちゃいけなくなる。特別な人にしか使うなって言われている。あとは対価をもらえ」

「対価って?」

「知識や古代文明の遺跡とかかな?知識は知らない魔法とか魔道具とか魔法関係の」

 あとはその時に必要な知識でもいいけど。今は必要としていることはない。全員が頭を抱えている。

「グリゴリイよりも優れた知識とは、まだグリゴリイの知識を理解できていないというのに」

 魔法師団長が口を開いた。

「特別な人っていうのはどういう人のこと?」

「グリじいやティワズ。あとは家族とかって。家族はいないのになんで言われたんだろう?」

 そうなんだって思ってたけど、いない存在をどうして含めるように教えられたのかな。

「養子にすればいいのではないか?」

「宰相の系列の貴族が敵に回るのはまずいです、父上」

「しかしだな、金でもどうにもならず、教会もなんとか出来ぬ。目の前になんとか出来る者が、みすみす見逃せというのか?バーナルド、子が呪いにかかるのだ、消せるのならばなんとしても。どうしても。悲願なのだ」

「それは重々承知しておりますが、おりますが」

「誰かを降嫁させてでも。祝福前のシャローザなら。いや、シャローザも見て貰えないだろうか?もちろん、誓約はさせる」

 勝手に話が進んでいるんだけど、何のこと?

「誰?」

「1番末の娘でシャローザ。いつも黒い魔力を出していて、なかなか外にも出してやれん。いつも、何をするにしても苦しそうで、なんとかしてやりたいのだ」

「見るのはいいけど、何も出来ないよ?スキルは封印しているから」

「なぜそうなのか、原因を教えてもらいたい」

 原因を教えるぐらいならいいかな。頷いて返事をする。見るだけなら楽しいからいいか。部屋の中にいるメイドは1人だけ。目配せをされて退出していった。

「本当にスキルを封印して、魔方陣をこのように詳しく解析できるのだ?本当は封印というのはウソなんだろう?」

 魔法師団長だけは信じられないようだった。

「いや、封印をしていないと剣を振れないから、振れることは嬉しいよ。練習で技でも出そうものなら、この都市ぐらいは分断しちゃう。ただ振るだけでも練習場から城壁までは粉々になるから無理なんだ」

「ウソはこのような場でつくものではない。全くこのようなガキの世迷い言を真に受けて」

「封印したのは我らぞ?お主は目の前にいる我らも疑うということだな?」

 ウィットがゆっくり重く静かにしゃべる。

「代行であるかもワシにはわからん。霊獣かどうかもわからん。代行が地上にしかも神と女神の両方が1人の人間につくなど、聞いたこともないわ」

「前例はない。が我々がここにいるのは事実。それが何か不満か」

「代行であると証明してもらいたい」

「ならば、貴様の職を取り上げよう」

 ふっと魔法師団長が光る。何かされた。霊獣の時点で警戒をした方がいいはずなんだけどね。霊獣も都市ぐらいは壊滅するからね。ウィット達は国を壊滅させるのではなく消すからもっと凄い。

「何をしたんじゃ?何も変わったようには思わん。やはりただの霊獣じゃったか」

「我としたことが、虚け者を相手にしていたようだ。わからぬ者に何を解いても無駄じゃった。ランスもこれ以上あれは相手にするでない」

 話が通じなくてもよかったんだけど。これ以上は関わり合いのない人だ。わかったとだけいって、お茶に口をつける。吐きそうなため息と一緒に飲み込む。

 バンッ

 机に手をたたきつけて震えている。

「ふざけておるのか?ここまで侮辱されたのは初めてだ。辺境伯様、こやつらはたたき出すべきです。それから虚偽で極刑に処すべきです」

「ドリアレン魔法師団長。我らは信じてもおかしくない魔法を見ている。無詠唱、発動までファイアアローよりも速く、この都市を壊滅させる威力。目にしていないとは言え、ここにいる者達は決して代行様であることも、封印すらも否定しておらん。そうでもせねば、説明に納得がいかぬからだ。知っているからこそ、わかっている。我らはこのランスに劣っているのだと。では、魔法師団長よ、我が子らから魔方陣を出し、ランスよりも詳しい説明を。概ねの事実はあっている。今日知れたことも多い。古代の術式などは魔法使いならば、わかるのであろう?」

「長年勤めた忠臣よりも、どこから来たかも知れぬ子どもの言うことを信じると?」

「ならば、ここにいる者達に聞こう。ランスの話を信じるか、ドリアレンの話を信じるか。ランスを信じる者は挙手を」

 僕と魔法の師団長以外は手が上がる。

「何をふざけおって、このような茶番をするのか。信じられん。なぜだ?金か?金でも握らされたか?」

「さすがに見苦しいぞ。皆、認めているのだ。いい加減にせよ!話の邪魔だ。出て行け。牢で頭を冷やせ、エイブラム、連れていけ」

 返事をすると一緒に部屋を出て行った。外にいる衛兵に辺境伯命令で牢へ入れるよう言いつけて部屋に戻ってくる。

 うるさい人がいなくなって、お茶を飲みながら待っている。

「ねえランス、他のスキルっていくつなの?」

「戦闘系?ティワズが教えられる武器について10だよ。槍とか、棒術、弓とか剣術はもういったね。あとは短剣とか長剣。盾、格闘、柔術っていうのもあったな」

「それだけで1国は落とせるんじゃないの?」

「そういうことは想定しているよ。対軍団戦、国家戦レベルだと極大魔法を使用するけど、旅団ぐらいだったら使わなくてもいけそうな気がする。油断せずに行くなら、最初に威力の大きいのを使って殲滅かある程度数を削る。あとは逃げる。国境を越えるギルドだと大変そうだけど、戦う気を削ぐのが1番いい。国と対決までいって全滅させるときは、隣国に頼めばしてくれるかも。頼むことはないと思うけど」

「考えてることがいちいちおかしいのよ」

 それぐらいは想定しておくように。そう教えられている。それほどの能力、祝福、加護があると。でなければ自由を奪われる。一生を教会の神子として過ごすのがいいか、国の象徴として過ごすのか。どちらも自由はなくて、監視と仕事をさせられるだけで、出かけることも許されない。そういう生活がいいなら、何もしなくていい。食べることには困らない。そういう生活も出来ると言われていたけど。自分の力で自由に生きたいと、誰に頼ることもなく自分の力で生きていきたい。

「封印を解く事態は避けねばなるまい。封印が解けた時点で1人残らず殺すことも出来るであろうがな。隠れることすら出来ぬ。まあ、ランスがそこまでするようなことが起こらぬようにせねばな。ここが起こしてくれたようなことがのう」

「そうだね、命を狙われるようなことは避けないとね。生活魔法も使えるレベルになってきたから、逃げるぐらいは出来るようになったと思うよ?」

「逃げる必要などあるか。堂々と主張しダメなら滅ぼせばよかろう」

「それダメだから。なるべく争いはしたくないし、巻き込まれたくない。封印は絶対に解かないから。解くときは、国家戦とかになったらしかたないかな」

 ウィットはすぐに消滅とか消すとかいうので、出てこないようにしていかないとね。

「1人残らずに殺すって、逃げたりした人はどうやって殺すの?わざわざ全員殺すために追いかけるの?」

「殺す方法?呪いじゃないのかな?呪いの対象は呪う人が決めるでしょ?だから今この国の兵だった人とか、面倒だったら僕に敵意のある人とかにして振りまくの。呪い自体は決まった人にしか発動しないから人伝に広がって、ある期間を過ぎたら消えるようにすればいいかな」

「それだと生き残る人もいるんじゃないの」

「いるけど、生きているのなら人と接触しないで生きるのは無理じゃないかな?あとどこかの秘境の村にひっそりと暮らしているなら、放っておいてもいいんじゃないのかなと思うし」

 ふーんとだけ返ってきた。お茶が美味しいな。扉を叩く音が響く。

「入れ」

 目で見てわかるほどの黒い魔力が体からあふれ出ていた。イスに車輪をつけたのに座っていて、髪はボサボサで肌は荒れていて目の下にはクマが出来ている。ぐったりしていて、体調が悪そうだ。そしてイヤな感じで鳥肌が立って、一呼吸置いておさまる。

「シャローザ、ハンナ。彼がワイバーンを打ち破ったランスだ。お前と同い年だ。引き合わせたのは他でもない、シャローザのことを診てもらおうと思ってな。その前に誓約をしてもらわねばならない」

 辺境伯はそういって文言を教え誓約させる。いつの間にか消えていたのに現れる。誓約したあと、みんなと少し離れた場所へ。

「はじめましてではないよね?その黒い魔力は覚えている。王都にいたよね?」

「王都の家に、ああ、お客様の。凄い騒ぎになっていましたね」

 しゃべるのもつらいのかな?イスから立ち上がってシャローザの方へ。

「近づかないでください。診ていただかなくともよろしいです」

 力なく告げる言葉に構わずに近づいていく。イヤな感じはするが、黒い魔力に特に害はなさそうだ。触れているけど、何も感じない。

「具合が悪いのかな?」

 作ったローポーションを取り出して近づいていく。誰も止めようとはしない、彼女に飲ませようと。

「痛っ」

 ふれた瞬間に、全身に衝撃、痛みが走る。ふれた彼女には不安と恐れが見て取れた。このくらいなら平気だ。口にあてがって飲ませる。症状は一切変わらず。

「呪術の類いか」

「貴方に痛みを与えてしまいます」

「慣れているから気にしないで。少しこのままで」

 肌荒れはしているけど、この痛みだと寝られなくて荒れていると思える。赤っぽいヤツとかそういうできものは見当たらないな。

「ズワルト、なんかに呪われているみたいなんだけど出してよ」

 一瞥すると魔方陣が現れた。いびつに切り取られたような、これってシルヴリンの呪いのヤツからなくなった部分?浮かんでいる魔方陣を見比べれば、一目瞭然。キレイに一致する。どうやって引きちぎれてシャローザに?今、それはいい。シャローザの魔方陣を凝視すると、中心となる黒い魔力に変化する術式が中途半端についている。黒い魔力、体が吸収して黒い魔力っぽいモヤがでるだけだから無害だったのか。変換効率は悪いけど、むしばんでいくには十分。切り離したときのショックだろうか?わからないけど、生命力を吸って黒いのに変換しているところがまずい。命を削って黒いのに変換させられてしまっている。全身が常に痛みを受けている状態。寝られるわけない。

「どうしてかな?シルヴリンのが変になって、命を削って黒い魔力に変換して自分を痛めつけている。黒い魔力なのに無害なのは、シャローザの体がそれを受け止めているから。そうだね、あとで何か薬を痛み止めを作ってみるよ。でも先にやってみたいことがあるから手を出して」

 恐る恐る出される手を受けると全身に痛みが走る。自分の中に入ってくる黒い魔力を相殺するための魔力を作ってみる。光の魔力。うまく作り出せている、作り出したら痛みがおさまっていく。そのまま魔力をシャローザに流し込んで、黒い魔力を相殺していく。変な特性がなかったら闇属性の魔力って思うけど、痛みを伴っているのでやっかいだ。

「ウソ、そんなことって」

 白い魔力が手を通じてシャローザに流れ込んでいく。黒い魔力と出会っては消える。

「あ、ああ」

 驚いたかと思ったら目を閉じて、静かに息をしていた。寝た?

「ランス様、感謝いたします。いつも寝ているようで、痛みによってきちんと寝られないのでございます。こんなに健やかな寝顔を見るのはいつぶりでしょうか。少しの間はよく寝られるかと思います」

「手を離しても大丈夫かな?」

「離していただかなくてはいけないかと。このまま連れて帰らせていただきます。失礼いたします」

 眠ったまま連れていかれた。相殺してしまうのが1番いいんだけど、呪いの術式をどうにも出来ないからね。イスに戻ると冷めたお茶を飲み干す。

「何をどうしたら?何が起こった?」

「ランス殿、子細説明をお願いする」

 辺境伯と魔法の人が立て続けに質問してくる。

「黒い魔力は闇属性の魔力なのはわかる?」

「ええ、わかります」

「光の魔力で相殺しただけ。生活魔法で明かりを出すのがあるよね?その魔力を流し込んだ。術式を消すのが1番いいんだけど、今は無理だから」

「封印を解けば、解けるという自信があるのですか?」

「魔族式は魔族の血を引いていないと無理だけど、それ以外なら出来るかな。解術の術式を組めるとは思う」

 根本が消えないから呪いとして残るけど、無力化は出来ると思うんだ。

「ねえランス、あなた魔神様の祝福もらってたわよね?」

「うん、もらったね。守護はあげられないって」

「そこじゃなくてね。魔神様の祝福をもらったのは人間で初めてなのよ?どういうことかわかってるの?」

「わかんない。神々は嫌い」

 妖精女王はテーブルから飛んで目の前に来る。

「妖精の植物魔法と魔族の魔法も使えるかも知れないってこと。種族固有魔法をランスは、使えるかも知れないっていうことは覚えておきなさい。魔族の魔法は、魔族に教えてもらわないとわからないけども」

「ホントに?」

「封印が解ける祝福をもらうときまで楽しみにしてなさい」

「うん」

 種族固有魔法ってことは、普通の人には使えない魔法が使えるって凄い。早く祝福もらいたい。

「我が一族の悲願が叶うかも知れないと?」

「さあ?人の中で出来る可能性を持っているのは、ランスだけってことは確かね」

 みんなの顔が向くけど、する理由はない。そこははっきりとわかっている。

「今日の用事は終わった?終わったなら帰りたいんだけど?」

「聞きたいことが山ほどある」

 スキルのことや修行のこと、なぜこうなったのかは教えなかった。というかウィットが答えられぬと一蹴していた。それだけでも結構な時間を費やした。解放されたのは昼過ぎだった。朝の早い暗いうちから呼ばれたんだ。休憩もなしで長かった。研修も今日は中途半端な時間なのでなしになった。

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