薬を作る

「何をしようか」

 薬でも作れば今日中には間に合いそうだけど、薬師ギルドで道具を借りられないか聞いてみよう。また日の高い中、門を出て町の方へ。通りを進んで薬師ギルドへ。

「薬って調合できるの?調合がしたいんだけど」

「そうね、大人になったら教えてあげられるけど、ボクにはまだやらせてあげられないかな」

 昨日のお姉さんじゃなかった。普通はギルド員じゃないからね。ギルドカードを差し出す。

「ギルド員なら出来るの?作りたいのがあるんだ」

「ランス君?ランス君って、あのランス君?」

「ランスは僕の名前だよ。あのっていわれてもわからない」

「そうよね、ランス君が2人もいないわね。調合室が使えるのか聞いてみるから待ってて」

 薬待ちの人がそれなりにいる。人がいっぱいいると薬もたくさんいるのかも。そんなにギルド員が来るわけじゃないから、こちらの方は職員が多くいるようにみえる。

「調合室は使ってもらっていいそうよ。ポーションでも作るの?」

「薬を調合するだけ。魔草は使うけど、軽めにね」

「そんなに酷い症状ならポーションを飲んだ方がいいのに」

「それで治るならギルドに相談する」

 それもそうねというお姉さんを置いて、薬草を注文しに別のテーブルに。

「いらっしゃい、何がいるのかな?」

「カモミールジャーマンとパッションフラワー、マジョラムが欲しい」

「どのくらい?」

「このくらいの袋に満杯ずつ」

 身振り手振りで大きさを表現していく。目の前で丸をつくって、このくらい欲しいと言ってみる。

「1番小さい袋になるのかもしれない。ちょっと待ってくれ、どの袋に入れる?」

 袋が3種類、大中小、小はいっぱいにして両手に乗せるぐらいで今日欲しい量に近い。中はその倍ぐらいで僕だと抱えるぐらいかな。両手に1つずつだと引きずっちゃうかも。大は背負わないと無理。収納しないと1つずつしか運べないぐらい。

「小に詰めて欲しい。お金はカードに入ってる」

「よし、カードを預かるよ。用意するから待ってて」

 手際よく、薬達を袋の中に詰めて戻ってくる。

「引き落としも完了した。ありがとうね」

「うん、ありがとう」

 受付のお姉さんに調合室に案内して貰って中に入る。人はいなかったから、薬研の代わりにすり鉢を作り出して、薬草を放り込む。大きめに作っているので、最初は手で軽く混ぜる。すりつぶす必要あるかな?よく混ざるように上から叩きながら混ぜ込んでいく。そのあとに魔草をバックから取り出して混ぜ込む。あんまり混ぜ込まないようにね。薬の効果を上げると共に悪いことも出やすくなるので、悪いことはあんまりないから混ぜてもいいけど、うーん。魔草中毒にならないならいいけど。

 そうだ、グリじいと発見した魔草の能力に属性の魔力を込められるんだ。魔草って魔力を保持する能力があるんだけど、属性の魔力を込められる。自分で作れないと無理だけどね。魔草に光の属性を混ぜ込む。魔力ですり鉢の中が光る。

 茶こしを使ってもらうだろうから細かくてもいいか。調合の終わった薬を袋に詰め直して、すり鉢は消しておく。袋を3つ持ってギルド内に戻ると大声で叫んでいる人がいた。

「なんでなんじゃ。これでもB級の薬師として頑張ってきたんじゃ。あのように透明で調合の時の色の見やすいビーカーがあればA級に届くかもしれん。頼む、どうにかして売ってもらうように本部に取り次いでくれ。後生じゃ」

「そう言われましても、こちらも本部への交渉を行っているのですが売ってもらえないのです。精一杯交渉はしています」

「いつになったら来るんじゃ。同じ国の人間なんじゃ、どうにか売って貰えるようにしてくれ」

「ですから、交渉中でして」

 これはギルド長が言っていた薬師の人か。大声で受付に居座っているので、大変そうだなと思って通り過ぎた。

「ランス君!」

「え?」

「お主がランスなのか!?」

 眼鏡の奥から覗く鋭い視線に薬をバックにしまい込む。なんか取られそうな気がした。なぜだかはわからないけど。

「ランス、頼む。あの、キレイなビーカーを売ってくれ。見本が回ってきたときに天啓が降ってきたのだ。あのビーカーを使えばA級に至ることが出来るはずだと。長年の夢であったA級薬師への道が目の前に現れたのだ。すぐにギルド長に問い合わせた。しかし、売ってはくれなんだ。なぜだ?薬師ギルドはなぜA級へ至るための道具を売ることを拒絶し、B級であることをよしとするのかと」

 あのビーカーを使うだけでA級になれるの?

 ウィットとか天啓なんか出せるほど暇じゃないと思うんだけど。

「売ってくれたのむ」

「ギルドから買って」

「売ってくれんのじゃ」

「見本は見本で、先にこういうのがあるよって見せるためで、いくらで売るとか決まってないよね?値段とか決めるのに時間がかかっているんじゃないの?」

「いくらでも払う」

 そう。

「なら1つ金貨600枚程度で優先で売るように交渉をお願いしたら?そしたら優先で回してくれるはずだよ」

「な?600枚?そんなに高いのか?ひ、1つ買うだけで破産してしまう」

「本部も値段を決めかねていると思うよ。曇りのないビーカー。耐熱性もよく、大きさも大中小と特大も用意している。ゆがみや傷はなし、今まで使っていたビーカーがウソのよう。僕は頑張れば手の届く値段にしてといったけど、普通のビーカーと僕のビーカーとの値段を考えないといけない。いくらがいいと思う?」

「それは、わからん。いくらになるんじゃ」

「それを考えられるなら、すぐに売ってくれるよ。総本部に交渉するといい。他の要因もあるとは思うけど頑張ってね」

 ちょっと待てと引き留められる。

「直接売ってもらえばいい。売ってくれ」

「ギルドを介さないとどうなるの、お姉さん」

「え、あ、ギルドを介さない売買はギルド員であろうとも一切の関知はいたしません」

「僕は自分の家とかに直接来られるのはイヤだから、ギルドの人達にお任せすることにしているんだ。それでも諦められないなら、作り方を教えてあげる。お姉さん、どこかの部屋を貸して」

 ちょっと待っててとすぐに戻ってくる。ギルド長の部屋を貸すので上がって欲しいと言われた。お姉さんについてギルド長の部屋に案内される。薬の調合だけに来たつもりだったのに。遭遇してしまうなんて。

 階段を上って案内された部屋に通される。ギルド長だ。

「ギルド長、直接売ってくれんのだ」

「ギルドを介して売るって。ポーションと一緒だよ」

「まあまあ、落ち着いて座ってください。いいたいことはわかりますが、ギルドを介して売ってくれるのなら、うちは大手を振って喜ばなければならないので直接はやめてください」

 それでもギルド長に噛みついていたが、うまく言いくるめられている。

「作るところを直接見せて貰えると言うことでいいのか?」

「作り方を知ればいいと思うよ?」

「では、誓約をお願いします。我々職員は機密事項の守秘義務があります。ですが教えられたところで、あの製法はマネできない。ギルドの中でもギルド長ぐらいしか教えられないのです。作り方について、誰にも漏らさないことを誓約ください。出来ないのであれば、そのままお帰りいただき、売られるのをお待ちください」

 しばらく考えたあとに誓約を行い、光が包んで終了。みんなは珍しく出てこなかった。今までは出てきていたのにね。

「誓約はした。作り方を教えてくれ」

「それじゃあ作るね」

「初めて見るから楽しみだ」

 ギルド長まで乗っかってきて、2人の圧力が凄いのでさっさと作り出す。テーブルにビーカーが3種類並んでいる。いくつも作ったから同じ大きさのものを作り出すのにも慣れてきた。ギルド長は唖然としている。

「どうやった?マジックバックから取り出したのか?」

「結構作ったから練習できて、速く作り出せるようになったね。ゆっくり作ってみるね」

 ゆっくりと机の上に形が陽炎のように現れて、ふわふわした霧のようになり、実体として形を作り出していく。

「これはどうやったんじゃ。こんなこと誰が出来る?わけがわからん。未知の技術か?」

「生活魔法」

「はあ?火をつけたり、水を出したりするあれか。水を出すのは便利じゃが。聞いたことのない。他のスキルじゃないのか?」

「魔法のことを説明すると、普通の魔法は詠唱が全部指定しているの。だから、消えるようにしている部分があって、ある程度の時間がすぎたら消えるのは見たことあるかな?とりあえず消える。その消える部分を使ってない状態。あとから追加も出来るからいくよ?」

 ビーカーは空気に溶けるように粒子のようになって消えた。崩壊した。

「き、えた」

「魔法だからね」

「消さんでも、ええのに」

「作り方はわかった?」

 薬師は大きなため息をついた。

「いかに特殊な方法で、余人にマネのできん方法と言うことだけはわかった。素直にそこまで出来ることが凄いことだのう。見せびらかしていいものではない。見せてもらって、誓約をした意味がわかった。その技術だけで食べるに困らないじゃろう。これほどとなると取り合いがおこっても然るべきだ。ギルドを通すのが1番良いとしか言えなくなってしもうたわい。1種の芸術品と評価しても良い出来。待つとしよう。優先で回してもらうように、ギルド長には言い続けるがのう」

「頑張れば出来るよ」

「頑張れば、無理じゃのう。薬師の中でもA級にいければいいほう。ワシのようにB級止まりやC級で生活しているものもたくさんおる。それだけの才に恵まれておれば挑戦もできるかもしれん。薬師の上へ行くことしか目指していけない。それがワシの才の限界じゃ。ランスは思いもつかぬ事で我らの力になってくれ。ビーカーのようにな。今日は良いものを見た。生きると驚くことに出会うものじゃの」

 そう言うと立ち上がってギルド室から出て行った。ギルド長にお礼を言われて、通りに出て行く。王都よりは少ないけど、それでも人の出入りは多く、荷馬車が荷物を積んで運んでいた。馬車は少ないかな。

 城に向かって歩いて行く。武器の製作所を通り過ぎようとしたときに声をかけられた。

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