辺境伯家の秘密1

 いろいろと教えてもらいながら、技術の解説が多かったけど、とても勉強になっている。実際にやってみるけど、うまくは出来ない。筋はいいらしい。吸収できるものは吸収して帰ろう。

「ランス、主様がお呼びだ。ついてこい」

 朝、ヴァレンス隊長が来てそう告げられる。呼び出される理由が見つからない。今はお世話になっているので、ついて行くことにした。兵舎から城の中へと入っていく。謁見の間ではないけど、広い部屋へと通された。物はあまり置いていなくて、広い空間にしか見えない。

「ここは有事の際に作戦室になる場所だ。必要に応じて板書や机などが入れられる。普段はダンスのレッスンに使われたりするところだ。ここで待つように仰せつかっている」

 机やイスが運び込まれる。

 ほどなくして、辺境伯、その後ろからシルヴリン。よく見る人。騎士団長、副団長。魔法副団長。斥候隊長が揃った。何事が始まるのだろうか?

「ランス君、シルヴリンお嬢様のスキルをどうしてわかった?」

「わかった?うーん?」

「力系のスキルがないと看破したじゃないか?」

「ああ、なんとなくそうじゃないのかなってね。勘が当たったね」

 ざわつく面々。シルヴリンは珍しく大人しい。

「勘でわかるものなのか?」

「しかし我々はそういう人物を見たことがありませんので、そういう経験があるのではないですか?」

「経験とは何だ?速度系の剣術と我々の剣術の何が違うのだ。両方に恵まれたものは我々と似た剣を使うのだぞ?どこが違うというのだ」

「冒険者ならいろいろなものを見ているはずなので、そこで教わったのかも知れません」

 魔法副団長とシルヴリン、斥候隊長、僕は置いて行かれて、議論が交わされている。

「スキルは純粋に速度系のみだった。暇なときに指導を受けて、レベルが上がっているのだぞ?これは揺るぎない事実だ」

「一体どうやったらそんな経験が身につくというのか?スキルを上げるのと教えてもらうは天地ほどの開きがある」

「あのような構えはそうそうお目にかかったことがありません。しかも、なめてかかっていた雑兵を倒すほどに使いこなしている。ならば、シルヴリンお嬢様の力はついてきたと、確実に自信を持って言えます」

「この力を生かしてよいのかどうかも問題です。やれるのでしょうか?」

 壁にもたれて4人の議論を眺めていた。関係ないか。

「ランス君、どうしてスキルがわかり指導まで出来るんだ?」

「教えてくれないか?」

「どうすればいいんだ?」

 大人の男達が睨んでくる。

「僕の秘密は教えてあげられない。秘密だから。無理に聞こうというのなら全力で抗うよ」

「ハーバードが知っていることを教えてくれるのなら、喜んで誓約しよう。辺境伯様、別室での聞き取りを行いますので、使わせていただいてもよろしいでしょうか?」

「質問があるとすれば、聞くことによってどうしても漏らしてしまう危険があると言うことか?」

「それもあるね。あとは国の争いとかになるかも」

 うむと頷くと副長以上の招集をさせる。魔法団長と斥候副隊長が呼ばれる。その間に追加のイスと机が用意される。

「辺境伯、1つわがままを聞いていただいてもいいです?」

「聞けることならば」

「お茶とクッキーがあるといいなと」

「すぐに用意させる」

 メイドさん達が持ってきてくれる。あとは最後に魔法師団長が席に加わる。

「シルヴリンは部屋を出るように」

「私もどうか、同席させてください。ランスの師を知りたいのです。お父様、お願いいたします」

 一緒に聞きたいのか席を立とうとしない。メイドはカーラさん以外は出て行った。

「カーラ?」

「覚悟しております」

「ならば誓約の内容を」

「ランスの秘密を知らぬ者に伝えるないことを誓約してください」

 いつも通りの文言を伝える。

「「「「秘密を知らない者に伝えないことをここに誓約する」」」」

「誓約をしていない者がおる。ここにいる者全てに神の代行フェンリルの名において誓約を課す。ランスの秘密を知らぬ者に伝えることを禁じる」

「女神の代行スコルの名において同じ誓約を課す」

「妖精女王の名において同じ誓約を課す」

 誰か紛れて誓約をしない人がいたね。でも、それは出来ないんだ。女王用の小さいティーセットを用意しておく。周りで妖精が準備をし出す。

「それでは質問をどうぞ」

「なぜ?神々の代行の御方々がいらっしゃるのでしょうか?」

「神の考えることは僕にはわからないよ」

「それは神々のこと故、答えられぬ。が、我々はランスを守護しておる。不敬罪とかいうものにランスが振り回されるなら、神の裁きをし、そうすれば無駄な時間も取らずに済んだのだ」

「まあまあ、この人達のせいでここが消滅するのは、住んでいる人が可愛そうだよ」

 ウィットが見つめてくる。

「ほら、僕も意味もわからずやられるのは好きじゃないからね。理由があるならしかたないと思うけど、罰を受ける人は線引きしておかないと、国ごとでもよくなっちゃうよ?」

「ふん、必要ならばやるまで」

「一応の和解はしたんだから、それでいいんでしょう?」

「ランスが納得しているのならよい。誓約を宣言しなかった者はランスに近づくでない」

 相当のお怒りようだ。本当に消してしまう気だったんだ。緊張感の漂う中、空気を読まないシルヴリンが口を開く。

「ランス、師匠は誰なの?」

「ええと、その前に説明しておくと全部の職とスキルを与えられていて、今は封印して祝福前の子どもと同じにしてある。だから、スキルの上げ方も自分なりには持ってる。それで師匠は武はティワズ、魔法はグリゴリイから教わった」

「S級冒険者ティワズ。世界最強の武具使いとも呼ばれるあの?」

「そうそう、剣を振ったらソードスラッシュのようなのが出るようになってしまったティワズだよ。素手でも強いよ?」

 女王はティーセットのところに降りて、お茶を開始する。

「封印を解いて教えて貰えないの?」

「封印が難しくてグリじいがいるなら古代術式の魔法を制御して2人に協力して貰って出来るんだろうけど、ここにいる人じゃ無理だよ。それに僕と同じようにソードスラッシュを避けられるようになってないと無理だ。剣を振るだけで出るんだから。剣を交えるのは同じレベルにないと死ぬよ?」

「言ってる意味がよくわからない」

「剣はそうだね、一振りするとソードスラッシュが出る。素振りしてて出る。普通に剣を振るうと出る。その中でシルヴリンが修行できるかって言うこと。騎士団長と副団長がソードスラッシュを交互に打ってる中で剣を交えることが出来る?」

 それは無理と力なくつぶやいた。そういう中で修行していたんだけど、いいか。

「では魔法にも精通していると?」

「一通り教えてもらった。もてる全てを教えてくれた」

「待ってくれ、グリゴリイは死んだのでは?我々はそう認識している。誰も見たことがないと。あれだけ有名なのに見つからないはずがない」

「聖なる森で暮らしてるから、探せるわけがない。出る気もなくて静かに暮らしている。僕も行くことは出来るけど、送り出したのに戻ってきたら心配かけちゃうから戻らない。もう一度行くとしたら、グリじいが死んだときか、僕がこちらに住むことが出来なくなったとき」

 お茶に口をつける。妖精達は周りで飛んでいる。

「剣術は一体どんなレベルなんだ?」

「10だよ。ティワズがそんな中途半端なことしないよ。逃げ出したりしたら、ほったらかしにするかもだけど。最初は剣を交えることが最大の難関だね」

「だからスキルがなくても、戦えるということなのか?」

「そうだね。レベルが高いってことは補正がなくなっていくことだから、動きだけは出来る。速度や力はついてこないけど。普通の人なら、それなりには戦えると思う」

 大きなため息。

「あれでそれなりとは、自信なくすぜ」

「基準がティワズだからね」

「一応、軍の人間なんだがな。普通の人と一緒にされるとは」

「軍でも偉い人なんだから、人を動かす方がいるんじゃないの?僕は対軍隊を考える方だから、大勢で何かするのはわからないけどね」

 もう1度大きなため息。

「魔法に精通されているようですが、呪いや呪術の類いはどうですか?」

「それも上げたね。同時に解術もうまくなった。精神耐性も一緒に上がったよ」

「呪いを解けるのですか?」

「変なのじゃなかったらね。複合型のどう作ったのかわからないようなのは無理。呪いも魔法の1種だから、解析すればいけるはずだよ?」

 全員が注目してくる。何かあるのかな?

「実は代々の呪いがかかっていて、長男は呪われることがないのだが、それ以外の子に呪いが降りかかるのだ。どうにかして、この呪いから我が一族を救っていただきたい」

 辺境伯が重々しく口を開いた。

「子ども達で呪いにかかったのはシルヴリンなのだ。我々の家系は武技を得意とする者が多く、辺境と言うこともあって一族でもり立てている。直系の子どもには必ず、戦闘中や訓練中に突然死をする者が現れるのだ。その呪いを解いてもらいたい。原因が呪いなのはわかっているが、教会に調べてもらっても解けず、解放されることが悲願なのだ。シルヴリンも本来は学校に行かせるはずだったが、呪い持ちというのがわかって、この地で一生を過ごすことが決まっている。どうにかならないだろうか?」

「いつからそうなっているとかわかるの?」

「記録上ではこの土地を魔物から解放したときから、代々呪いが発症している。私の代では次男がなっていた。教会に念入りに調べてもらったが解けないとの一点張りでどうにもならない。何が原因なのかだけでも教えてもらいたい」

「面白そう。面白いよ、絶対。みたい、見たいよ。ねえねえ、ズワルト、スキルないから出してよ」

「しかたないのう」

 シルヴリンの頭上に現れる魔方陣。とりあえず何か変。だいたい左右対称のはずの魔方陣が1番上が片方ない?そこの長細くなって丸くになってる部分を足すと左右対称になってキレイな魔方陣になるね。

「ここから」

 ちぎれたところのある上から何かを吸収して、下に流して変換。変換したのを一番下でためる。ためたものが一定になるとそのちょっと上の魔方陣が発動。呪いがでてこれは死ぬね。黒い魔力に一気に変換されるから、その瞬間に相殺できないと無理か。呪いの系統だから治癒魔法か解術かどちらかの使い手ならもしかしたら、出来る可能性はあるけど。

「こうきて、複合術式になってて変換が」

 魔方陣のつなぎ部分の変換が知らない方式で繋がれていた。

「最後は魔族式か。古代式からだとこうなるのか。混じってるけど面白いね」

 魔法師団の2人は口を開けたまま見ている。

「魔法使いならわかるよね?」

「古代術式のしかも魔方陣はわからない」

「こんなに珍しい物があるのに、残念」

 スキルの技かな?そういうものの余剰した力を吸収しているみたい。

「何かわかったのか?」

----------------------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る