辺境伯城にて2

 部屋を出ると廊下を真っ直ぐに進んで外に出る。まだ日が高く、寝るまで時間がある。どうしようかキョロキョロする。建物から視線を感じるけど、様子見かな?

 兵士達の野太い声が聞こえる方に歩いて行く。かけ声と金属の当たる音が聞こえてくる。どんなことをしているか興味が湧いて、音のする方へと歩いて行く。

 建物が途切れたと思ったら広い場所に来た。訓練場になるのかな。整列した状態で槍を突いたり、剣は人同士で戦っている。見ていて思うのは声だけは大きく力任せに振るうことを統一していること。力は必要だと思うし、鉄の塊の剣や槍を振るのに力はあったほうがいいけど、力でねじ伏せようとするのは違うかな。力でやる人はそれでもいいけど、僕はあまりないから技で対抗するしかない。訓練や練習は必要だけど、努力は必要。これもありなのかな?大勢でやったことがないからわからないね。スキルのレベル上げをするような練習ではない。本当に大勢で一斉に動けるように練習しているんだな。

 隅のほうでシルヴリンが剣を振っていた。練習をする姿に、時間の無駄をしているのはわざとなのかなと思った。練習している満足感があるんだろうな。

 思いっきりついている。整列した兵士が、槍を一斉に突き出すのは迫力があった。高スキルの技とは違った人数の迫力って言うのかな?

 うるさい、迫力のある声。壁によりかかって訓練をしている様子を眺めていた。

「来てくれたのかランス君。暇だったら一緒にどうだ?」

「重そうだからやめとく」

「軽いのはないな。支給品は鉄製ばかりだ。ランス君なら重くてもうまく扱いそうな気がするんだが、誰かの私物を借りるしかない。軽い武器か」

 周りを探しているが、そんなものはなさそうだった。

「練習用の棒なら代わりになるんじゃないのか?」

「それは槍術じゃなくて、棒術になるよ」

「槍の先がなくなって体勢が崩れているはずだと思っていたんだが違うようだ。それなら扱いが下手なる理由になる」

「槍が使えれば棒も使えそうだけど。スキルに頼り切るのをやめれば、両方ともうまく扱えるようになるんじゃないのかな?武器の重量が変化するんだから、振り方は変えないと」

 ただの長い棒を兵士の1人が当たり前のように持ってくる。思わず受け取ってしまった。

「それでどうすればいいのか?」

 当然のように副隊長は訓練用の槍を持っている。棒が長いので力がいるけどなんとかなるかな。そんなにしならない。突き出される槍を棒でいなす。いなした槍は跳ね返るように横薙ぎに来る。踏み込んで穂を避けて棒同士で受け止める。

「なるほど、槍同士の戦いと同じように見えて穂を避けるのか」

「鉄には負けるからね。耐えられるならはじくよ」

 いったん距離を取る。突くのかと思っていたら上から振り下ろしてきた。横から叩きつつ、手に当たらないよう移動もする。地面にたたきつけた瞬間に手元を狙って棒を突き出す。すんでの所で横から飛んでくる槍に対応して避ける。またにらみ合いになる。力では絶対に勝てないから技で対抗するしかない。前に突っ込んで棒を地面に突き刺してしなりを入れて、その反動を利用して槍の棒へ一撃をたたき込む。跳ね上がった槍の中に突っ込んで、胸板めがけて渾身の突きを出す。

 バキィッ

 木の折れる音が響いて棒が途中から砕けた。手を離すと距離を取る。

「負けだ。見事。鎧がなかったら危なかった。何を使わせても一流とは、どんな鍛錬を積んできたんだ」

「鍛錬に負けない心がいる」

「それだけじゃないだろう。それだけでうまくなるとは思えない」

「なる。鍛錬をする相手が強いのなら、ついていくだけの心がいる。まずはそこからだと思うけどね」

 兵士の隊列が乱れて割れたところからシルヴリンが現れる。

「ついていっているのに強くなれないのはどうしてよ?いろんな人に教えてもらって、努力もしているのにどうして強くなれないの?」

「手加減されているからじゃないの?僕は武技は教えてもらってはいない。お手本を見てすぐに修練。手合わせ。副団長さん、腕1本ぐらいならポーションで直せるよね?」

「それはそうだが、鍛錬に必要あるのか?」

「そうだね。僕は湧き水のように必要だった。それでも向かって行って強くなったんだ」

 何を言っているんだといった目で見られる。

「どうしてソードスラッシュが避けられるかと聞かれたことがあったよね?木刀を交えるのに必要だったから。そのレベルの師匠だったんだよ。ここにそういう境地へ達した人がいるかは知らないけどね」

「木刀を交えるだけでソードスラッシュが避けられるのか答えてない!どう必要なのよ」

「棒きれを剣のように振ると斬撃、ソードスラッシュが出る。避けないとさばけない。木刀で受けようとすると木刀ごと切れるから、ソードスラッシュのようなものを避けないと師匠と剣を交えることも出来ない」

「そんなこと出来る人がいるわけない。ウソもいい加減にしなさいよ、ウソをつくならもっとましなのにすることね」

 まくし立てるように大きな声を出すのでうるさかった。

「嘘つき呼ばわりするのはいいけど、せめて’今’の僕に勝ってからいって欲しい。スキルを持っているでしょう?スキルを極めていないのに、どうしてわかるの?見たこともない人に嘘つきと呼ばれたくないよ。特にシルヴリンには」

「はあ?うちにだって高レベルの人はいるけど、棒きれでソードスラッシュのようなものを出すなんて、聞いたことも見たこともない。嘘つきはランスのほうよ」

「高レベル?1桁じゃ、足りないよ。極めた人と言った。高レベルでは足りない。それは僕の基準では修練途中の人だ。まだ足りない人と比べないで」

「そんな人がいたら国家の英雄か、S級冒険者ぐらいよ」

「僕はS級扱いの冒険者だけど、ええと、祝福後はS級になるんだけど?知ってる?」

 ちょっと固まって、なんかもごもごしてから絞り出した声がヘエッだった。間抜けな顔をしている。驚きすぎじゃないかな。

「シルヴリン、君には負けてないし負けない。それにもう縛りや加減はしない。強くなってから挑戦して」

「あんだのせいで誰も教えてくれなくなったのに、どうやって強くなれって言うのよ!」

「剣を振ってみて」

「何?ランスが教えてくれるの?」

「どうして強くならないのかなって。剣って振るだけでもレベルが上がるのにね」

 疑問を浮かべつつ、剣を持って普通に振っている。なんかおかしい気がする。どうしてスキルレベルが上がらないんだろう?

「振ったわよ」

「スキルのことを聞くのは、よくないって言われてるから聞きにくいけど、筋力の補助スキルってある?教えてた人は剣を振り回せる筋力があると思うんだけど、剣の重さに負けている気がするんだよ。無理に合わせようとしているけど、僕が考えるのは細い剣で速度の出る戦い方がいいんじゃないかな?ちょと待って」

 クリスタルで剣の形を模して、片手剣よりは両手で扱えるように柄を調整、刃の部分は片手剣よりは長く太めに。

「こういう剣が向くんじゃないのかな?両手で軽めの剣」

 渡された剣の感触を確かめるように握りしめて振る。

「今までの戦い方じゃ、戦えないから自分で考えるように」

「どう違うのよ?」

「じゃあ、副団長さんと今まで通りに剣を交えてみて」

 2人とも自然に向かい合って、交えた瞬間にクリスタルの剣は砕けた。砕けたのに驚いてシルヴリンは固まった。

「わかると思うけど、軽くなると折れやすくなるし、曲がりやすくなる。素材でどうにかなることもあるけど、同じなら普通負ける。その辺をうまくしてあげないとね」

「ランスならどうするのよ」

 砕けた剣を消して、新しく同じ物を手元に作る。両手持ちの細剣。少し振り回す。体が持っていかれにくいから、安心して振り回せる。副団長さんはすでに正眼の構えでピリピリと殺気が伝わってくる。やる気に合わせて構え、深呼吸をする。

 止まったところから一呼吸。僕は動き出して、それに合わせるように振り下ろされる剣に横から合わせて叩くようにして、剣筋から体を逃がす。相手の戻るように跳ね上げられた剣に刃で軌道を変える。打ち合いになってもやることはかわらない。とにかく体への剣筋を避けていくこと。まともに受ければ剣自体が砕けてしまう。あとは粘るか、速度があれば手数で押していくことも出来るんだけど。今は今あるだけの力と速度で戦っていくしかない。太刀筋は最短で無駄なく。

「はあああ!」

 さすがに避けながら力をそらす。気合いが入りすぎて鬼気迫っている。

「おりゃあああ!」

 力の強い大ぶりの攻撃をいなしながら、剣が振り下ろされるのに合わせて剣を当てながら突っ込む。間合いに入った瞬間に、クリスタルの剣の腹を思いっきり鎧に当てて砕く。

 パキン

 甲高い砕ける音が響いて、飛び散るクリスタルがパラパラと音をたてて地面にぶつかる。

「「「「うううおおおおおおおお」」」」

 大きい野太い声にビクッとして、兵士の人達が拳を上げて叫んでいた。

「すげー!」

「副団長に勝っちまいやがった」

「やったな」

「うおおおお」

 褒めてもらっていたのでぺこりと礼をしてシルヴリンの元へ。

「力がないなら速度。両方ないなら諦めろ。諦められないなら、どちらか出るまでやるしかない」

「スキル。スキルあるのかな?」

「わからないよ?スキルを調べる人じゃないんだから。水晶の魔道具とかで調べられないの?」

「そ、そう。お父様にお願いしてみる」

 肩を落として城のほうへ歩いて行った。さて、僕も帰ろうかな。

「どこへ行くんだ?」

「え?」

 振り向くとフンスと鼻息荒く副団長はこっちを見ている。何?

「何が悪かったのか教えてもらおうか?訓練だからな」

「ええ?大ぶりとか?」

「そんなつもりはなかった」

「声を出してるときは動きが大きくなってたよ。力をそらしていたから力でねじ伏せようとしてるのかなと思った。捌かれるなら方法を変えたり、わざとつばぜり合いに持っていって自分の得意な力業にすればよかったのに」

 剣を振り回して、大ぶりだったのかとつぶやいている。

「ランス君、もう1本」

「あれはシルヴリンにわからせるためだったんだからもうしないよ。力を逸らすのも大変なんだから」

 転がるクリスタルを消してから訓練場の隅に移動して、再開される訓練を眺めていた。チラチラとこちらを見る視線が気になるけどね。スキルには恵まれていたのかも知れない。だけど、スキルを上げるのはひたすら努力と繰り返しをひたすら頑張るしかない。スキルを出すつもりで、スキルを上げる。レベルを上げるのは難しいんだ。生活魔法はまだ、最高レベルに達していない。上げるための正解を探していくために使い続けるしかない。

 夕暮れで空の色が変わってきたので、斥候の建物に戻って自分の部屋に入っておく。何も変わった様子はない。魔力での反応もない。ベットに横になる。本当に光が入りにくいようになっているんだ。

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