辺境伯城にて1

 入っていったメイドさん達が出てくると篭にゴミを山盛りにしている。

「思ったよりも汚れているので少々お待ちください」

「はい」

 ゴミを運び出している様子なので、邪魔をしないように離れてみている。

「ランス君暇かい?」

「掃除してくれてるのを待ってるの」

「ああ、兵舎に宿泊するのか。研修で暇があったら騎士団のほうにも来てくれ」

「ん?何しに?」

「我々の訓練に付き合ってくれるとありがたいんだ」

 暇があったらねと伝えると頼んだよと去って行った。副団長って暇なのかな?暇がなかったら相手にしなくていいか。

 それに街にも行ってみたい。うちの領主街よりも広くてたくさんの店があるから、いろいろと覗いてみたいな。食べ物も売っていそうだし、武器とか防具も多少は良さそうな物がありそう。とりあえず切れればいい剣ぐらいしか冒険者ギルドには置いていなかった。手入れとはどうやってやるのかわからないけどね。

 もう1度出てきたメイドさん達。

「ご準備整いました。どうぞ」

 促されるままに中に入るとうっすら光がともっていて、建物全体がやや暗めになっていた。普通の人だと暗すぎるかも知れないけど、探検とかするのには十分な明るさだ。入り口近くの部屋の扉が開いていたので、その部屋をのぞき込むと誰もいなかった。キレイにされている部屋の中へ。ベットと机にタンス。必要なものは揃っている。カバンを降ろすと部屋の中を見回す。机の上にはろうそく立てが置かれている。ろうそくもある。寝る場所としては十分。

 他に何かあるわけではないので、そのまま廊下に出る。そこから奥に進んでみる。同じような扉ばかりで特別な部屋があったりするわけではなさそう。みんなが集まるような部屋がありそうだけど?突き当たりに来ると階段と大きめの扉があった。扉を眺めて、人の気配がありそうなので少し下がる。一瞬、殺気のようなものを感じる。

「来たか、所属員に紹介する。入れ」

 斥候隊長さんが階段から下りてきて、扉を開ける。中にはイスに座った隊員の人達、一斉に目を向けてくる。ビリビリと視線を受けて喉が渇いた感じがする。

「本日より斥候としての技術を教えることになったランスだ。質問があれば受け付ける」

「どうしてうちで引き受けるんですか?」

「ランスが希望したからだ」

「隊長、その希望した理由を聞きたいんです。騎士団とか他にも引き受けてくれるところはあるはずだ」

 強めの語気で隊長に質問している。

「ランスどうして斥候を希望した?」

「騎士では学ぶことがない。同じく魔法使いも教えて貰えることが期待できない。斥候や隠密は教えて貰っていないから希望したよ。ここ以外だと馬の乗り方ぐらいじゃないかな?」

 質問している隊員は立ち上がって睨みつける。

「辺境伯軍は国でも最強クラスなんだぞ。それなのに学ぶことがないとは、どういう了見だ。返答次第によっては、ここにいる全員が敵に回るぞ」

「うーん、武器は一通り教えてもらったし、魔法関係もいろいろと教えてもらった。だけど、ここみたいなことは教えてもらってないんだ」

「だから、教わることがないとはどういうことだ?ふざけているのか!」

 声を荒らげ大きな動作で手を動かす。

「静まれ、ランスは生活魔法でワイバーン討伐をなしている。シルヴリンお嬢様のソードスラッシュを何も持ってない状態でよけて反撃した。以上の確認されている事柄から、両隊より勉強をさせてくれとの願いが逆に来ている。教える教えないは自由だ」

「待ってください隊長、そいつがワイバーン討伐?両隊が教えを請うほどのガキなんですか?」

「そうだ。他にどんな魔法が使えるのか知らないが、無詠唱で上級魔法を操る。見せてくれれば納得もしやすい。何か出してくれないか?」

 何か?何を?出そうと思えば全部出せる。

 小さい炎、氷、クリスタル、風の塊。練習セットの属性を出しておく。

「小さくも出来るのか。なるほど。では他に質問は?」

「ソードスラッシュはどうやってよけるんだ?」

 魔法は消しておく。

「剣筋から軌道がわかるから、それを見てよける」

「は?軌道がわかる?わかったところで動ききれるわけがない。かなりの速度で迫ってくるんだぞ?」

「だって、それが出来ないと剣を教えて貰えなかったから、頑張って覚えた」

「いやいや、どれだけ厳しいんだ。ソードスラッシュをよけるのが最初の練習とか意味がわからん」

「それが出来ないと剣を交えることが出来なかった」

 大きな部屋の中にざわめきが広がっていく。

「どんな、人間に教えてもらったのか?別の種族とかか?」

「人だよ?師匠達はちゃんと人間だよ」

「いまいち信用できないな。お前自身が年を取りにくい種族かも知れないだろう?」

「努力で必死に生きるための術を覚えていただけ。誰にも負けないように、誰にも縛られないように」

 そして、死なないように。

「実力は研修の中でわかっていくだろう。祝福前なので身体能力では劣るのはしかたないとして、技術は確実に教えてやるように」

 短い返事がある。隊長は1人呼び出す。他の隊員は出て行く。子守は大変だよなと言っていく人もいた。

「エレン、ランスにいろいろ教えてやってくれ。男衆では殺し合いになりかねん。隊員が減るのは好ましくない。出来ることを教えてくれ」

「出来ること?今できるのは生活魔法と夜目、気配遮断ぐらい。あと探索。これだけあれば狩りが出来るよ」

「他には?」

「肉体耐性と精神耐性があるよ」

「レベルは?」

「両方Lv.8」

 2人とも固まった。どうしたんだろう?じっと見ていると動き出した。

「それは本当か?」

「ヘルセさんやデールさんも見たことあるよ」

「誰なんだ?」

「ヘルセさんは冒険者ギルド長でデールさんは薬師ギルド長。僕の街のギルドの人」

 スキルがわかる水晶で見せたことがある。

「どうしてそんなに高いんだ?」

「秘密。教えるには誓約がいる。師匠達のことと一緒に知られるといけないことなの」

「ソードスラッシュはなぜ避けられる?」

「秘密だよ。誓約なしでは教えられない。拷問とかするつもりでもいいけど、身を守るために対抗する。この都市が焼け野原になるぐらいは覚悟してね」

 諦めた隊長は外に出てエレンさんと2人になる。

「教えられることがあるのかわからないけど、武器は使える?」

「普通の武器は使える」

「暗器は使ったことある?」

「投げナイフとか投げる武器は使ったことがあるぐらい。斥候で使う武器はわからないよ」

 エレンさんにイスへ座るように促された。いわれたままにイスに座る。座った瞬間に何かの魔法が発動するのを感じた。とっさに吸収される魔力を遮断して、発動した魔法から何が起こったのかを把握する。吸収した魔力はいすに張り付けられた魔法陣に供給されて光るだけのようだ。

「どうしたの?」

「魔法陣があったけど、光だけのいたずらみたいだから、発動させるか考えていただけ」

「魔力遮断も出来るの?」

「スキルじゃなくて技術としてね。魔力の制御をして、わずかに漏れている魔力を遮断する。それだけ」

 遮断を解除してそのまま発動させると光を放出して終わった。

「魔法については私たちが教えることはない。こうやって、何か仕掛けられているかも知れないから、調べてから座りなさいって」

「どうしても座らないといけないときや調べられないときはどうしてるの?」

「魔方陣の書かれた札を使って魔力をそっちに吸わせるようにしてる。魔力遮断が使えなくても簡単にできることだから」

「座る前に魔力を渡して発動させるのは危ないか。近づかないと調べるのは難しいもんね」

 エレンさんは頭を振るとこっちを見据える。

「私たちの得意分野を教えていくから、覚えるなり見ているだけなり好きにするといいわ。今日はこれで終わり、明日の朝から本格的にやるから遅れないように」

「わかった」

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