謝罪と

「ランス殿、馬車へ乗りたまえ。城へ行こう」

 なんか気がついたら騎馬兵達に囲まれていた。執事さんが台を用意して馬車の扉を開けていた。馬車の踏み段が高いんだけど、それを見越して用意をされている。切り抜けるには戦わないといけないだろうから、仕方なく馬車の中に乗り込む。

 クッションの効いた馬車の中。執事さんも一緒に乗り込む。

「ランス様、大通りを簡単にご案内させていただきます」

 馬車は辺境伯邸に向けて走り出す。お城なんだけど、行きたくないとは思う。

「今から降りることは?」

「素直に来ていただいた方が、こちらとしては非常にありがたいのですが。ここで全て終わらせて帰られるのと、何度も使者を派遣されてお誘いされるのと、どちらがよろしいですか?帰られるとなると、後者を必然的に選択されたことになります」

「何度も来るのはイヤだな。終わらせてから帰る」

「最良の選択と存じます。それでは辺境伯城塞をご案内いたします。まず城門でございますが馬車が4台並んで通れるようになっております。城壁も多少の魔物であれば中に侵入できず、はじいてしまいます。大通りも片側2台ずつの通行になっており、動きやすいようにしてあります。少し行きましたら見えて参りました、辺境伯領支部冒険者ギルド、そして薬師ギルド。宿屋と食事処が一緒になった宿屋が多くある場所でもあります。ここを抜けますと商業エリアになります。普通に物を売る店もあれば、職人が常駐する特注品の店などもございます。装飾や小物類の職人が多いです。何か欲しいものがありましたら、こちらへ来られるとだいたいのものが揃うでしょう。次が武器や防具を作る区画になります。城から1番近い区画になっております。ここから先が城になります。まず、兵舎に訓練場。そして目的地のエルミニド辺境伯城になります」

 扉を開けてお待たせしましたと外に出る。一気に説明されて、流れるように町並みが過ぎていく中でぎゅっとつまった感じのする街だった。城が大きいように見える。あと訓練場とかが併設されているので城全体としては大きいと思えるのかな。

 大きな馬に乗った辺境伯が降りてくる。そのまま中に入っていった。

「ランス様、旦那様はお召し替えをしますので少々お待ちください。ランス様もお召し替えをされませんか?その、服が少々問題がありまして、栄典としての形式を取りますので、礼を欠く服装をされているかと」

「服ってこれしか持ってない。あと礼は欠いていいよ。礼を尽くすつもりは一切ない。謝罪は受け入れるが許さないと言ったはずだけど?」

「失礼いたしました。礼を尽くさねばならないのはこちらでございました。申し訳ございません」

 後ろからガシャガシャと音がする。

「ランス君、着替えないのか?その土だらけの服は汚い。冒険者に対して礼服にしろとは言わないけど、せめて汚れぐらいは落としてくれ」

「汚れてたのか。わかった」

 でっかい水の玉を出してその中に突入。それを汚れが出なくなるまで繰り返し、風と火の合わせ技で温風を出して乾かす。そのあとクリーンで仕上げ。

「これでいい?」

「十分だ。しかし、生活魔法も便利な使い方があるもんだ。どこでも風呂に入れる」

「そうだね、返り血とか落とすのには便利だよ。ニオイも出ないように洗える」

 そのまま中に入って、別の部屋に通された。ソファがあるので勝手に座って一息つく。茶を入れてくれたので1口飲む。香りも出ていて美味しく飲める。

「美味しい」

 熱いので冷ましながら飲んでいく。半分ぐらい飲んだあとカップを置いた。ドアのところに複数の気配を感じたからだ。お茶をもらってまったりしていただけに残念。ドアが開くとメイドさん達がなだれ込んできた。何事?!

「失礼いたします。これはランス様、お召し替えをお手伝いさせていただきます」

「頼んでないよ」

「まあまあ、そうおっしゃらずに」

 取り囲まれて、逃げようと思うと凄い力で抑えられる。ちょっと、力はそんなに強くないんだから。

「髪も整えておきましょう。切るわけではありませんから」

 もみくちゃで何が起こっているのかわからず、服を脱がされて着させられる。抵抗しても押さえつけられるので、途中から諦めた。なされるがままにしている。

「あらあら、まあまあ。とても顔立ちが整ってらっしゃって、まあ。これはおもてになりますわね」

 なんか見る目が怖いんだけど。着たことない生地だったので、どうもしっくりこない。少し動いて、動くのに制限がかかる。着飾る服なので動きやすさは考えていないのかもね。髪もよくわからないけど、整えているらしい。

「それではランス様、広間においでください。褒賞の授与を行います」

 大きな扉が開いて部屋の中が見えるようになる。少し高いところの座具に座って、えらい人っぽくしている。広間の中央路の両脇には騎士と魔法使いがずらりと並んでいる。座具に近い場所には騎士団のえらい人。その奥にシルヴリンがいるので、家族が並んでいるのかな。ドレスなんか着てる。

「ワイバーン討伐功労者ランス殿。ご入場」

 立っていると呼ばれたので中央を真っ直ぐに歩いていく。上る手前のところで止まって、頭を下げる。そのまま、固まる。

「よく参られた。ワイバーン討伐の褒賞として白金貨3枚を授与する。ランス殿のさらなる活躍を応援しておる」

「ありがとうございます。精進いたします」

 誰かが降りてきてトレーの革袋を目の前に差し出す。それを受け取る。

「褒賞では足りぬのだが、希望通りに斥候部隊の研修が出来るように手配している。他に希望があれば聞くが要望はあるか?」

「叶うのならば、シルヴリンお嬢様とサンデイヴお坊ちゃまの首を所望いたしたます」

 周囲がざわついて、怒号が上がる。見上げると魔法師団の偉い人かな?

「貴様何様か!」

「ここには関係者しかおりませんので、敵として殲滅してもよろしいかと」

「褒賞を受け取っておいて、なんだその口の利き方は?」

「ではお返しします」

 顔を上げるとそういった魔法使いに向かって、革袋を投げつける。

「では、存分にやってよいですね?」

「静まれ!客人になんということか!こちらが非礼を詫びる立場で、やっとの事でここまで漕ぎ着けたのだぞ。部下の非礼、当主として詫びる。申し訳ない。重ね重ね申し訳ない」

 目の前には赤い炎が徐々に青白くなって、周囲を熱くさせていく。

「いえいえ、謝らなくて結構です。罪のない人々を巻き込みたくなかったので、ちょうどよかった。この城ごと消えてなくなればよいだけです」

「この城ごと?どのような魔法を使うつもりだ?出来るはずがない」

「この炎はサンデイヴお坊ちゃまのミスリル製の盾を蒸発させた。消えてなくなるまで使えばいい」

 炎が周囲を囲むように6個になる。さらに周囲の温度を上げていく。

「そんなことをして」

「だから言ったでしょう?関係ない人は巻き込みたくないと。城塞ごと焼き払ってもいいんですよ?そうしないために謝罪を受け入れたというのに」

 辺境伯は座具から立ち上がると降りてきて、革袋を掴むと膝を折って差し出す。

「重ね重ね申し訳ない、謝罪のしようもない。どうか許して欲しい」

「領主様、なぜそのような子どもに媚びへつらうのですか?我々辺境伯軍をもってすれば、一捻りです。何を恐れておいでで」

「魔法師団長、防衛のためにワイバーン討伐には出向いていなかったな。随伴した副団長説明せよ」

 魔法使いの人の列から出てくる。

「ご説明させていただきます。ランス殿はワイバーン討伐を行った状態で、我々の前に現れました。ワイバーンを浮かして陣営まで運び込んできました。信じられなかった我々は、倒した魔法を見せてもらうことに。防御陣形、結界、シールド兵による防御。もてる最大の防御を展開。しかし、見せてもらった魔法で隊は押し込まれました。直接受けたわけではなく、真後ろの位置にいたにもかかわらずです。そのあとシルヴリンお嬢様との対戦があり、ランス殿は怒って帰って行かれました。帰られたあと、斥候隊と共に調査のために倒した場所の調査を行いました。こちらの資料には目を通されているかと、その魔法を無詠唱で行えるのが目の前のランス殿です。信じられないかも知れませんが、事実なのです。すでに目の前で見せられているのに、信じる信じないではなく、受け入れるしかないのです。あの力に対抗できる力は軍にはありません。来られたときに、守りの兵達にやっていたのは、本気ではなく戯れ程度なのです。本当に我々と敵対するのならば、今頃ここは残骸の山か焼けた炭だけになっていたでしょう。ですので団長、ランス殿に謝罪を。ここまでされて騎士団が黙っているのは、和解に来たことをわかっているからです」

 凄く悔しそうにしてる魔法師団長。絞り出すように申し訳なかったとわなわな言っていた。

「次は領民すらも同罪にするのでそのつもりで。地図から消えなくてよかったですね。他はもういいから斥候の研修に入らせてもらえますか?」

「そうか、そうか。うむ、案内を頼む」

「ランス様、お召し替えをされましたらご案内いたします」

 辺境伯は切り替えて、僕は袋を受け取って執事さんと共に出て行くと、最初に通された部屋に戻る。メイドさん達がなだれ込んできて、また着替えをさせられる。元に戻れてホッとする。置いていた荷物を持つと執事さんに研修の場所へ連れて行ってもらう。

 兵舎のほうだ。訓練する場所じゃないのかな?どこに連れて行かれるのだろう?ほとんど窓のない兵舎に連れてこられる。

「斥候は夜間の任務が多いので、昼に寝やすいように窓を少なく、あっても採光には向いておりません。ランス様はお城のほうか、この兵舎にいるようにするか、選べますがどうされますか?」

「うーん、だけどな、なるべく入り口から近い場所がいいかな?お城はお城でシルヴリンがいるからイヤだ。兵舎に泊まることにする」

「かしこまりました。ご準備をいたしますので、しばらくの間お待ちください。研修に関しては斥候部隊の隊長にお任せしておりますので、内容等はそちらでお聞きください」

 何人かのメイドさん達が兵舎に突入していった。入り口の方から断末魔の叫びが聞こえてきた。中でいったい何があったのだろう?待っているのがいいかな?近づいて巻き込まれたら大変。少し後ろに下がる。叫び声が聞こえてくる。動物や魔物の咆哮は聞いたことがあるけど、人間の悲鳴に似た叫び声に少し恐怖を感じる。殺し合いとか拷問とかはないけど、一体何が起こっているの?

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