辺境伯領到着!

 特に問題がなく、進んでいけた。遠目に辺境伯の城塞が見えている。戦わないようにして来たけど、敵対することだけは分かるようにしないと。たぶん、結界が張ってあると思うんだけど、それを壊すように氷の塊を城壁のちょっと上を狙って発動する。威力は弱く、小さく。


 シュン


 速度を出しすぎたかも知れない。結界らしきものに当たると色が変わって、それが割れると消えていった。壊れたね。これで敵対する意味は分かるはずなんだけど。

 緊急を知らせる鐘の音がよく聞こえる。門から衛兵が出て、騎馬兵が遅れて出てきた。周囲を確認している。僕に気がつかないようだ。仕方ないので、わかりやすくクリスタルを城壁に当てていく。貫通させないようにと。尖らせないようにして、壁に当てる。尖ってないと刺さらないから、大丈夫。お、こっちを見て気がついたようだ。

 赤い狼煙が門から立ち上る。あの赤いのはなんだろうか?並んでいた人達は横によけるようにされた。開いた道を足の速い騎馬兵団が出て展開する。待ってあげる義理はないので進んではいるんだけどね。

「歩兵はまだか?シールド持ちは前線で防御陣の形成急げ!」

 馬車からシールドを持った全身鎧の人達が出て1列になる。

「魔法使いも防御の補助と結界の展開を!辺境伯様のご命令があるまで攻撃は許されんぞ!」

 なんか魔力の流れを感じる。大丈夫だね。防御系だったみたい。命令と統率は取れているようだ。ある程度の距離に来てから止まる。スキルが届きそうだけど、反応できない距離じゃない。生活魔法なら間に合うはずだ。お互いに手を出さない、にらみ合ったままで時間がたっていく。たまに遊びのような魔法を撃って、結界を壊したり防御のスキルをかけなおさせたりしていた。


 そろそろ飽きてきた。そっちに謝る気がないのなら殲滅しかないよね?

「十分待ったから、そろそろ威力を高めていくね」

 僕の横にクリスタルのつぶてがずらりと並ぶ。土魔法では最初のほうに覚えるストーンバレットの上位、クリスタルバレット。こんな量は出ないかな。きちんと消えるようにして発射する。結界はすぐに消えてシールド持ちが後ろに行かないように防いでいる。練度は高いようだ。きちんと自分の役割をこなしている。つぶてとはいえ、シールドでいなすと後ろに飛んでいって被害が出てしまうから、しっかりと受け止めている。どこまで耐えられるかな?

 さっきのが小さかったから少し径を大きくする。次はどうだろうか?さっきから結界が壊れやすいのか、すぐに消えてシールドに当たっていく。当たるたびにカンカン金属の音が響いている。仕事をこなしているシールドの兵達。いろんな大きさを混ぜて発動させてみる。音の種類や響き方が変わっておもしろい。大きさと発射する間隔をわけたり、ずらしたりして遊ぶ。


「ランス殿!エルミニド辺境伯領支部冒険者ギルド長デルバートだ。話をしたい。攻撃をやめてくれないか?」

「遊んでるだけだよ。これが攻撃なわけないでしょう!」

「私は非戦闘員だ。これでは話が出来ないので、やめて欲しい。辺境伯軍も話し合いの最中は攻撃をしないと約束してもらっている」

「油断させて攻撃するのが辺境伯の家の人だよ!信用できない」

「どうしたらいい?」

「約束ではなく、誓約が最低限だよ。代償は命」

 辺境伯軍にざわめきが起こる。カンカン金属とぶつかり合う中で、ざわめきが聞こえてくる。

「しないならしないで、そろそろ決着をつけたいんだ。上を見て」

 兵士の頭の上にクリスタルランスを配置している。先の尖ったクリスタルが頭上に現れて、ざわめきが一層大きくなった。

「こ、殺す気か?」

「敵は野盗と同じだよ!野盗の扱いは知っているよね!」

「全軍に次ぐ、このままでは全員死ぬ。解決のため、この話し合いの最中に攻撃したときは命を落とすと誓約をする。続け、この話し合いの最中に攻撃したときは命を落とすと誓約をする」

 よく通る声が軍に命令を下す。兵も言葉に従い、誓約の合唱を行った。うるさい。誓約の光が確認できたところで、頭上のものを消し去っておく。

「初めましてランス殿。辺境伯領へよく来られた。冒険者ギルドとしては辺境伯様とランス殿が和解されることを望んでいます。ランス殿はどうお考えですか?」

「敵だよ?あれだけやられて許すとか考えてない。辺境伯家と兵士には痛い目に遭ってもらう。僕の基準でだけど、耐えられなければ死ぬだけだよ。やり返すだけ。冒険者ギルドが辺境伯の味方をするなら、冒険者ギルドも一緒に、また罰を受けてもらうだけだ」

 近づいてくるギルド長に考えを伝える。

「許されることはないと?」

「そうだね。不敬罪を取り消すなら、攻撃はしないでおくかな」

「そうですか、そもそもランス殿に不敬罪は適用されないので、撤回も何もする必要などありません。冒険者ギルドが各国に対して、貴族当主と同等の地位を約束しているのであり得ません。貴族同士が不敬を口にしても罪には問われないのです。ランス殿はS級扱いで、祝福後にS級になることが決まっております。勇者のS級扱いとはわけが違うのです。祝福前はF級と決まっており、どんなことがあろうと覆ることはありませんのでS級扱いなのです。それでは攻撃はしないでいただけることになりましたので、辺境伯様とのお話し合いをお願いします」

 貴族当主と同等の地位?そんなの保証されてるの?え?知らないけど。ティワズもそんなこと言ってなかったよ?頭の中で同じ言葉が繰り返し繰り返し現れては消えていく。

「ランス、いや、ランス殿」

 大きい馬に乗った辺境伯が近づいてきて、馬を下りると目の前に立っていた。頭を下げられる。

「娘、息子の非礼をお詫びする。許されることではないが、どうか謝罪を受け入れて欲しい」

「許さないけど、謝罪は受け入れる、ます」

「報奨も受け渡したい。城のほうへ」

 貴族当主と同等の地位?どんな感じなんだろう?

「貴族当主と同等の地位ってどういうこと?」

「説明は受けていないのですか?」

「うん」

「そうですか、もしかしたらばたついていたので、説明を忘れていたのかも知れませんね。貴族と同じ扱いになります。わかりやすいのが貴族門の使用。貴族街にも自由に出入りできます。だからといって、勝手に王城や貴族の家に行けるわけではないですよ。貴族の方々も許可が必要です。それと貴族専用の店などもありますが、カードを見せていただければ使えます。冒険者ギルドでは各種購入の金額が冒険者の中では最高割引で購入していただけます。他のギルドの品もS級の割引価格で購入していただけますよ。欲しいものがあれば冒険者ギルドへどうぞ」

「商業ギルドで買うのとどっちが安いの?」

 少し思案するように指を顎に当てる。

「そうですね、ランクによります。商業ギルドの所属であるのでしたら、どうでしょうか?魔物の素材などは冒険者ギルドが卸値で売れるので安いですし、一般流通品なら当然商業ギルドが安くして貰えるでしょう。品目によるとしか。分かりかねる部分です。S級の割引価格は各ギルドの協議により合意したものですので、冒険者ギルドで1度、価格を聞いてから買う方を決めてもよいのでは?」

「そうなんだ。わかった。ありがとうございます」

 いつの間にか馬車が到着していた。

「ランス殿、馬車へ乗りたまえ。城へ行こう」


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読んでくれてありがとうございます。

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