出発、辺境伯領へ

 悲しそうな、寂しそうな感じのフッセさんを残して冒険者ギルドに入っていく。そのまま2階のギルド長室に入って、扉が閉まる。

「どうしてそうなったのよ。辺境伯と距離を置いていたんじゃなかったの?絶対に行かないつもりだったんでしょう?」

「うん、シルヴリンが不敬罪を口にして。不敬罪って殺されることもあるでしょう?それにウィットが反応しちゃって、辺境伯領ごとなかったことにするって。たぶん消される。領民は関係ないのに消されるのはイヤだなって。それなら辺境伯と戦うしかない。そうしたらどうにかなるかなと思って」

「消される?」

「うん、文献では神の天罰の1種として記録されてる。一夜にして都市が消える。その本では1000万人都市らしい。それを知ってるから辺境伯領なんかはすぐかなって」

「うそでしょう?」

 ふわりと白い獣が現れる。いつも突然現れるよね。

「神を信じぬのは構わぬが、神を貶めようとしておった故、天罰が下されることになった。昔の話はしておらぬ。ランスを害すというのなら、神の代行の力を振るうまで。今回はランスがなんとかするというのじゃから、見守っておる。ランスに害がなければよい」

 いいたいことをいうと消えていった。現れたり、消えたり自由だよね。あんまり出られても、テイマーってことで誤魔化せないからダメか。わかる人にはわかる。

「どうしようか?」

「辺境伯と戦う」

「戦っても不敬罪が消えるわけじゃないわ」

「一族だけいなくなってしまえば、不敬罪に出来ないんじゃないのかな?」

 ヘルセさんは少し考え込む。

「不敬罪を撤回してもらえばいいのよね?そうすれば刑になることもない。ランス君の受けた被害に関して、謝罪もしてもらえば少しは溜飲も下がるんじゃないの?仲良くしろとはいわないけど、不敬罪の撤回と謝罪をしてもらえば、敵からはずれるんじゃないかしら?」

 敵から外れる?わからないけど。不敬罪の撤回が出来るなら解決かな。

「敵から外れることはないけど、罪のない人を巻き込むのはイヤだから、不敬罪がなくなればいいか。ダメだったら辺境伯の領地がなくなるだけ」

「罪のない人を巻き込むことになるのよ?」

「辺境伯領が更地になるよりは、犠牲者は少なくてすむよ?」

「辺境伯領全体のことをいってたの?ウソでしょう?」

「え?1000万人都市って、辺境伯領じゃ一部に過ぎないんだから消してしまうよ。神の力は恐ろしい。一瞬でなくなるから。人も建物も生き物も木々も山も川も全部、全部消えて広大な土地になるだけ。それだけになる。あったことすらウソのように。それを教会は神罰と呼んでいるはずだけど、教会で聞いたことないかな?教会に行ったことがないからわからないけど」

 そうなのと考え込むようにして、目線を机の上に落とす。

「それなら、私から辺境伯様への助言をする分は、例えば不敬罪を撤回して、ランス君に謝罪を行うようにすれば、対決することは避けられると言ってもいいかしら?」

「それはいいんじゃないのかな?神罰には触れていないし、生活魔法の威力を知っているから平気のはず。ダメなら、生活魔法で攻撃するしかない」

 軍とかに対抗するには心許ないけど、なんとかするしかないよね。

「辺境伯様にはランス君に和解をするように伝えておくわ。不敬罪の撤回と謝罪。それがないときはギルドの撤退もあり得るとね」

「冒険者ギルドが僕の味方をするの?嫌われると思ってた」

「確かに認めようとしないソルみたいなのもいるけど、エインヘニャル様が認めたらそういう連中も黙っちゃったのよね。素行に問題のないランス君の味方をしないのもおかしいしね。暴れたりとか無闇に力を振るう冒険者はいるのよ。そういった類いは普通に犯罪者にするけど、ランス君は違うでしょう?力を持っていても無差別に使ったりしていない。今回はどう見ても辺境伯家が悪いから、こっちも強気で言ってやるわ」

 少し楽しそうにしている。

「でも行かないといけないから。食べ物を準備して、村によってからそのまま辺境伯領に向かう。あんまり行きたくないな」

「連絡はしておくから、ちゃんと行くのよ?そうしないと辺境伯領が消えてなくなるんでしょう?」

「わかってる。ちゃんと行く」

 腰を上げてギルドを出ると食料を買いに出かける。串焼きのおっちゃんにあとで買いに来るからたくさん焼いててって言ってからパンやら干し肉、あと少し果実を。日持ちしないからすぐに食べるけど。ちょっと贅沢した。串焼きを最後に買いに行く。

「坊主、たくさん焼いておいたがどっか行くのか?また王都か?」

「辺境伯のお城って遠いかな?」

「辺境伯領か、王都よりは近いさ。ここから馬車で4日ぐらいか。王都がだいたい7日かかるから十分に近い」

「ちょっとは近いんだね。途中に泊まれるところあるかな?」

「村はあったが泊まれるのかは知らねえな。まあ、商人もよく利用する道だ。泊まれるところもあるだろうよ」

 代金を払って串焼きをもらう。もらった串焼きをバックにしまい込んで、街を出て行く。村に薬を届けたらある程度の方向がわかっているから、森の中を突き進んでいく。泊まれる村に当たるはずもなく、方向感覚だけで進む。木が高いから空があんまり見えなくて、採集も魔草や癒し草が中心になる。普通のところより魔力は高いのかな?光があんまり地面まで来てないせい?たまに木の上に登って、方向を確かめるけど、一面木々でよくわからない。

 木の間がある場所に向かってみよう。木々が分かれてるから道っぽい。広場みたいなところだと、穴が空いているように見えるはずなんだけど。上から見ただけじゃわからない。とりあえず行ってみよう。

 木々の間のある場所へ歩いて行く。開けて見える。光が照らしている平坦な土の幅のある場所。どこかへ続く道だろう。道に出たのはいいけど、どちらへ行くのが正しいのか?逆に行っちゃうと時間がかかって、行きたくなくなるよね。でも、領民が消えてなくなるのも困る。

 目の前を馬車が通り過ぎていく。荷物が多いのかゆっくりだ。走って追いついて、御者をしてる人に話しかける。

「教えて欲しいんだけど、辺境伯領ってどっちに行けばいいの!」

「うんあ、おう、迷ったんか?」

「うん、へんきょ、はく、の。はあ、どっち、お城」

「反対側へ、まっすぐ行け」

「あり、がとう」

「気いつけろよ」

 止まると息を整えて、教えてもらった方向へと歩き出す。急ぐ必要はないから自分のペースで歩いて行こう。道が結構整備されていて、轍があるのはしょうがないけど、きちんと馬車がすれ違える程度の広さがある。ぎりぎりだけどね。道の端を通っていると馬車が通り過ぎていく。人の行き交いはまばらにあるんだね。そんなに人が行き交う場所でもないのかなと思っていた。

 日が傾いてきたので野宿をどうしようかと思っていると、ちょっとした広場みたいな場所に人が集まっている。馬車の人達が寄り集まって、まとまって泊まっている。よく分からないから隅っこのほうで、パンを食べていく。干し肉をかじるとリュックを背もたれにうっすらと眠りに入る。


「なんでこんなところにガキが?」

「知るかよ」

「売り飛ばしたらいい金になるか?」

「やめとけ、俺らは護衛なんだ。犯罪を犯したらギルドからも追われるぞ。冒険者ギルドを相手に逃げ切れるもんか」

「商人共がいやがるか。しかたない、見回りをやるかぁ」

 おどけたように1人がしゃべり、もう1人はいさめていた。起きそうになるのを我慢して、通り過ぎてから目で後ろ姿を追う。見張り役の冒険者。いいか。放っておこう。


 空が白み始めて目を開ける。パンを食べながら歩き始める。方向が分かっているから、そっちに向かうだけ。商隊は片付けをしていたので、出発に時間がかかるみたいだ。普通に歩いていたら、後ろから商隊が抜いていった。大きい集団なので追い抜くのにも時間がかかっている。端のほうにはよっているけど、大きいものが通るので緊張する。引かれないかなとか。心配をしていると何事もなく過ぎていった。静かになった道を歩いて行く。馬は飼えないな。家を空けることが多いし、馬に乗ったことがないんだよね。餌は家の周りの草を食べててくれればいいけど、魔獣とかそういうのに襲われたら困る。お世話できない。

 しょうがないと歩いて行く。見つかってもいいなら、風魔法で高速移動も出来るからね。時間がかかるのは仕方ないかな。公爵にも呼び出されているから、辺境伯のところに行くならよらないとダメだよね?確か、王族の次に偉い爵位だったからね。王都に行く用事が出来たらよる。顔見せみたいなものだから、何かさせられるとかないよね?

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