不敬罪

 眠ってしまった。瓶詰めまでは出来ていたのは覚えている。どれくらい寝ていたんだろう?でもまだ眠い。床にそのまま寝ていたから肩とかが痛い。抽出液はポーションを作るほど残っていない。きちんと作り切れていたようだね。少し残った液は1つにまとめて、他のビーカーは消してしまう。頭がうまく働いていないのかな?お腹が空いている。どのくらい寝たのかもわからない。

 ビーカーを持って外に出ると辺境伯の副団長が1人でいた。見ているだけで、何もしてこない。

 自分の作業をしよう。入り口の近くに流して土にしみこむ。すぐに中に入るとビーカーを消す。箱の中の瓶を確かめてから、箱の端数は自分でもらって、デールさんを呼びに行く。

「待ってくれよ。132本だな。運びだそう。ご苦労さんだった。また作ってくれ。いくらでも作ってくれていいぞ」

「この量は作るだけでも疲れるよ。最後は終わったら疲れて寝ちゃってた。こんなに作るのは大変だね」

「材料があればまだまだいけそうだな」

「作ることに集中させて貰えれば、作っていけるのかも知れないね」

 外に運び出されるポーションの箱。使った調合室にクリーンをかける。キレイになったかな?ビーカー以外は回収しておく。あとはいいかな?薬を買ったら帰ろう。

「ランス君、話をさせてもらっていいかな?」

「話すことはないよ」

「我々の非礼についてのお詫びと謝罪を。それと討伐の報奨。辺境伯様はこちらへ来られないので、領地への招待をしたいんだ。お願い出来ないかな?」

「イヤだけど。だって、王都の時も商業ギルド長が、1度でいいから行ってくれないかってお願いされたからだよ?その結果がシールドアタックだった。商業ギルドもあんまり信用は出来ない。全く信用のない辺境伯のところへ行く理由が僕にはない。副団長は敵の中に来てくれといって行く?2度の不意打ちを受けて。きちんと取り引きをするから商業ギルドは信頼して行った。これ以上、行くための理由を辺境伯は用意しているの?」

 騎士団に囲まれているが、剣を抜いた瞬間にクリスタルの分厚いので壁を作れば防げるかな。薬師ギルドの中で戦うわけにはいかない。

「庶民なんだから、貴族の命令には従いなさいよ」

「領民でもないのに従わないといけない理由は?」

「貴族だからよ」

 騎士の間から体をねじ込んで前に出てきた。貴族だから従うって。イヤだけど。

「貴族なら従わせる理由ぐらいは説明してよ。領地に住んでいるから従えとか、辺境伯に従う理由がわからないんだけど。報奨もその場でもらったし、何しに行くの?」

「報奨よ」

「だからそれはもらったって」

「面倒くさいヤツね。いいからランスは来ればいいのよ」

 話が出来なくて困る。副団長が間に入ってきた。

「ランス君、その場で渡した報奨が少なすぎるから、きちんとした報奨を渡したいんだ」

「ギルド経由でもらえばいいから、行く必要はないよね?」

「きちんとした形で渡したいから、来て受け取って欲しいんだ」

「じゃあ、いらない。生活するのに困っているわけでもない。ちゃんと自分でお金を稼げる。行くのも大変そうだし、行く時間があったら採集とかやりたい」

 行く必要なんかないよね。

「来て欲しいんだけど、どうしても無理なのか」

「必要なら行くけど、必要ないよね?行かないといけないなら行くし、取り引きとか関係があるなら行くけど、何の関係もなく、関係が悪いのに行くことはないね。何の関係ない人だと、誰かに頼まれていくかもしれないね」

 また、シルヴリンが前に出てくる。

「青い血をなめているわよ。ランス。いい加減、いい加減にしなさい」

 思い通りにならない彼女は足を踏みならして息巻いている。

「我々を馬鹿にしすぎている。舐められっぱなし。あんた、不敬よ。それだけ私たちに楯突いているんだから、わかっているんでしょうね?不敬罪よ!」

 犯罪者に仕立て上げたいようだ。捕まるのならそれでもいいんだけど。死んでしまえるのなら、それでもいいんだけど。

「何よ、急に黙り込んじゃって。不敬罪に問われて怖じ気づいたの?」

 頭の中に声が響く。ウィットの声だ。

「殺そうとするならば、そやつの地をなかったことにするしかないのう」

「ちょっと、悪いのは辺境伯の家で領民は関係ないよね?」

「そやつらの領地にいるならば一緒のこと」

「わかったから、なんとかするから、何もしないで」

「ふむ、ならば手は出さない」

 頭の中で話を終わらせると、シルヴリンを見上げて睨みつける。

「わかった。ワイバーン討伐の力が辺境伯や軍に振るわれるだけだ。戦おう。僕も僕のために力を振るう。辺境伯家のせいで犠牲になるのは最小限に抑えたい」

「ほ、本気?軍なのよ?」

「必要なら戦う。それがギルドであっても。じっちゃんとの条件を飲んで、冒険者ギルドとは戦わなかった。それだけだ。戦う必要をシルヴリンは口にした。もう撤回はさせないし、出来ない。僕はこれから辺境伯城塞へ攻め入る。準備して待っていろ」

「こっちには凄い魔法使いだってたくさんいるんだから。思い知るのはあんたのほうよ」

「全隊、緊急帰還。連絡係はすぐにギルドを通じて、最悪の事態になったことを伝えよ。お嬢をすぐに馬車へ。護衛を残し先行して戻る。行動開始」

 野太い声が響くと騎士団の人達は素早く動いていった。シルヴリンも連れ去られるように引っ張って行かれる。

 表側に回ると調合室のカギを戻す。

「辺境伯様の騎士団が急いでいたみたいだけど、何かあったの?」

「うん、辺境伯のところと戦うことにした」

「は?」

「とりあえず腰痛の薬と僕が作るための足りない薬草頂戴」

「そ、それどころじゃないでしょう。ギルド長、ギルド長!」

 奥からデールさんが出てくる。

「どうしたんだ。ポーションの数を確かめていたところだったんだ」

「辺境伯と戦うって、ランス君が」

「そんなことあるのか?たしかに揉めているのは聞いたことはあるが。うちじゃどうにも出来ない。ヘルセを呼んでこい。うちらが騒いでもしょうがないと思うが」

 フッセさんは板台を跳ね上げて表から出て行った。デールさんに薬の用意をお願いすると普通に用意をしてくれる。慌てて出て行ったフッセさんがヘルセさんを連れて入ってくる。

「ランス君が辺境伯と戦うって、ヘルセからも止めてよ。ランス君、辺境伯様と戦ってもいいことないわよ。下手すると殺されるわ。やめましょう」

「何がどうなって、そういう決断をしたの?ランス君、不条理やおかしいことに対して私は何も言わない。ギルド長として止めないといけないのはそうなんだけど。一体何があったの?」

「シルヴリンに不敬罪に問われた」

 フッセさんは驚いた顔で僕を見た。

「何をしたの?貴族でしょう?」

「辺境伯は僕を領地に呼んでいるんだけど、報奨はその時もらったからいらないって。きちんと渡したいっていうけど、行く意味がわからないから行かなくて。それでお金だったらギルド経由で渡してって」

「なんてこと。貴族の誘いを断るなんて。ああ」

 待合のイスに座り込むフッセさん。

「でも、気変わりしたの?絶対に近づこうとしなかったのに」

「出来れば行きたくないし、関わりたくないけど、それが関係ない人を巻き込まない方法だから。これ以上は誓約がいる」

「そう、ならギルド長室で話をしてもらうわ。ついてきて」

 防音対策のされた部屋に行くってことだよね。フッセさんが立ち上がって僕を見つめる。

「あのときの誓約しないと教えないって、意地悪とかじゃなくて本当だったの?そんなに知られたらまずいことなの?」

「ええ、うちの支部も私と副ギルド長。王都ギルド長達、本部の上層部が誓約をしているわ。あとエインヘニャル様もね。他に絶対に漏らさない保証をつけないとランス君の秘密には触れることは出来ないわ。それほどのことなの」

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