邪魔するあの人

 まずは2箱分出来た。デールさんに言って入れ替えてもらう。また大きいビーカーに調合をしていく。突然扉が開いた。

「あんたね、火傷したらどうするのよ」

 大きな声でびくりとして液を少しこぼした。危ない。少しだったのでまだよかった。抽出液を置くと入り口に顔を向ける。

「何の用?」

「何の用じゃないでしょう。火傷しそうになったんだけど、謝りなさいよ」

「調合室に勝手に入るのが悪い。部外者でしょう?それに調合中には立ち入らないのが普通だよ。緊急事態じゃないと勝手に開けたりしない。様子を見るときでも、静かに最小限。邪魔をしない。それが守れてないシルヴリンが謝るはずだけど」

「そんな理屈が通ると思っているの?私は貴族よ?」

「それが?辺境伯は薬師ギルドと関係悪化したいようだね。僕は薬師ギルドの正式なギルド員だよ」

 気の強そうなキリッとした目で睨まれる。

「あんた1人ぐらいギルドはどうも思っていないわよ」

「残念だけど、薬師ギルドで今F級は僕1人だけなんだ。どうも思っていないなら、冒険者ギルドと揉めたときに薬師ギルドは交渉してくれないと思うけど?総本部が動いてくれたよ」

「は?なんでF級でギルド総本部が動くのよ。絶対にウソよ。ウソをつくならもっとまともなものにしなさいよ、これだからわかってない子どもは」

 シルヴリンと凄く年が違うわけじゃないと思うけどな。

「それとあんた、手紙を燃やしたでしょう?敵対行為なのよ、わかってるの?」

「敵だよ。辺境伯は敵だ。それがどうしたの?」

 当然のことを聞いてくるシルヴリン。次の瞬間、腰に差していた細剣を抜いた。刃先は僕を向いている。

「いったわね。優しく誘ってあげようと思っていたのに、敵なら容赦なく痛めつけてでも連れていくわ」

「容赦なくやっていいんだね?前みたいな縛りはないから」

「お嬢!何をやってるんですか!いいから、出てください。ランス君、すまない。本当に申し訳ない。すぐに出て行くので、許して欲しい」

 剣を持ったシルヴリンは騎士の副隊長だったかな?が外に連れ出すと、扉が閉まった。

 よくわからないけど、調合室は静かになった。外から声が聞こえるけど、調合には問題ない。

「あいつ、辺境伯は敵だっていったのよ?剣を向けて何が悪いのよ」

「お父上のラスティン様に何を仰せつかってこられたのですか?遊びに来られたのなら邪魔ですのでお帰りください。これ以上の関係悪化、薬師ギルドへの敵対行動。どう考えておいでなのですか?」

「あいつが悪いのに何を」

「非があるのはシルヴリンお嬢様にサンデイヴお坊ちゃまです。祝福前の子にスキルの使用。言語道断。辺境伯家の追放を望む声まで上がっています。サンデイヴお坊ちゃまに関しては、後継候補の剥奪をすでにされているのです。力のある祝福後の人間が祝福前の子に対してスキルを使う、傍若無人に力を振るうオーガの所業。人にあっては人ならざること」

 声がよく通る。壁1枚しかないけど。

「あいつはワイバーンを討伐したのよ?ふざけていってるの?力は持っているわよ」

「では同じスキルで対抗されてください。あれは生活魔法だと判明しております。魔法師の使う術とは違います。お嬢様も使えますよね?それをあそこまで昇華したランス君が素晴らしいのです。スキルを上げるのがどれほど大変か、お嬢様もご存じのはずです。まして、誰も至ったことのない高み。称賛こそあれど、それを認めないはずはない」

「な、あ、せ、え、生活魔法?火をつけたり、ちょっと生活に便利な魔法でしょう?」

「そうです。生活魔法です」

 うるさいけど、調合するには問題なし。大きいビーカーに抽出液を混ぜていく。

「生活魔法ってあんな、高位の魔法師のようなことが出来るの?」

「目の前で見たのですから信じるしかありません。私自身も気になってギルドにしつこく問い合わせをした結果、生活魔法のレベルが高いことが判明しました。うちの魔法師団に聞いてみましたが、生活魔法の高位レベルを持つ者がいなく、また生活魔法のレベルが高いものでも3レベルでした。レベルが上がると少しずつ普通の魔法のようなことが、自在に出来るようになるそうです。その者もレベル3ですが、高み至る道筋すら見えないとのこと。生活魔法よりも魔法のほうが上げやすいとも。本来、魔法師が詠唱を必要とし発現させる。重要なことですが、生活魔法は詠唱がいりません。お嬢が同じ土俵で戦って勝てますか?」

「だからスキルを使わないと。勝てるはずない」

「しかし、ランス君はお嬢と今言った条件で戦い勝利しています。お嬢、格の違いを知った方がいい。いっている意味がわかりますか?彼は生活魔法を封じ、無手のままねじ伏せたのですよ?相手との力量差を。いや、我々辺境伯軍が全力で戦ったとして、勝てるかどうか。ランス君とは良好な関係を築きたいとお嬢と我々が派遣されたのですよ。敵になって力で対抗できるなどと、つゆほども思われないように」

「ランスは敵だって。手紙を燃やしたら敵対するっていったら、辺境伯は敵だっていってたもん」

 壁を隔てても聞こえるため息。

「それをどうにか、解消するために来たのです。お嬢とサンデイヴお坊ちゃまの行為は、殺しにかかっています。それで敵と思われて当然です。それでも関係を修復するために来たことは理解されていますか?辺境伯は関係修復できるなら、誰かを降嫁させてもよいとお考えです。それほどの事態なのです。今1度、ご自分のお考え、ここに来た意味をご理解ください。お嬢はワイバーンを単独討伐、A級の冒険者パーティーを本気にさせて、無傷で圧倒できますか?高名なエインヘニャル様を冒険者総本部から事態収拾にかり出させるほどの能力です。最後はあの冒険者ギルドが折れているのです。国家権力すら干渉できない冒険者ギルドが、F級のランス君には謝罪と賠償金まで支払っているのです」

「頑張ればそのくらい」

「無理です。まず、我々を圧倒する実力がないです。鍛錬と修行、実践を経てその高みに至れる者はこの世界でも片手。祝福前にして至る者など今まで現れておりません。武技で有名な御仁はおられますが、最も有名かつ近接、遠距離両方を使える武神ティワズ。そのレベルでも瞬時に構築される魔法へ対抗できるか否か。詠唱がいるのなら、その隙を突けるのが武技を扱う者の心得ですが、ランス君の生活魔法は武技の速度で発動する。思いつく限り、死角が見当たりません。ひとまず宿に戻られて、頭を冷やされてください」

「ああ、もう。鍛錬してくる」

 何人かついて行ったのかな?調合室の周りは静かになった。これで調合に集中できる。


 量が多い分時間がかかる。息を大きく吐いて手元に集中する。瓶に入れるときは注意している。全然見えないと思ったら、真っ暗だった。ライトで明るくして、作業を終わらせる。今日は頑張った。明日引き渡せばいいや。



 やっと半分、終わった。次の調合をしていく。

「あんたねえ、いつまでやっているのよ。私たちの用事を優先させなさいよ。ちまちまといつまでも待たせて」

 いきなり入って、大声を上げる。昨日、副団長に注意を受けていたと思ったけど。意味がなかったようだね。抽出液を配合して調合しているから、何があっても無視する。しかもある程度入れたあとで、微調整の段階に来ていて仕上げに向けて少しずつの量を入れている最中だった。入れる液のビーカーを取り替えつつ、慎重に加えていく。これで品質が決まってしまうので、集中して慎重に液を加えていく。

「無視するな!」

「勝手に中に入ってはいけません。出ますよ」

「ランスに話があるのよ」

「薬師ギルドにケンカを売るような行為はやめてください。薬師ギルドはギルド員を非常に大切にしています。ギルド内なんですから、ギルドの規定に従ってください。出すぞ!」

 何人かで外に引きずり出されている。扉が閉まった音がするが、調合中なのでビーカーを変えながら最終調整を行っていく。

「どうして止めるのよエイブラム。貴族である私よりもあいつのほうが偉いの?」

「ギルド内ではそうなります。もしも、ポーション作成中に入って失敗させた場合。失敗させた者の責任になります。その場合、賠償金、薬師ギルドへの出入り禁止となります。緊急事態であっても入れなくなります」

「ふざけているの?私たちが許可をしているから商売が出来るのでしょうに」

「薬師ギルドが撤退した場合、その地域で活動している薬師もギルドについて行きます。滅多なことでは残りません。薬師は薬草をギルドから供給されるものに頼っているからです。外に出れば戦闘能力はありませんので、薬草取りも命がけになるからです。許可を出さなければ、冒険者ギルドが撤退を突きつけることもあり得ます。冒険者ギルド支部がある地域では特にポーションは重要です。町の中なら教会で治療が出来るかも知れませんが、街外にいて回復するならポーション。我々も進軍、討伐などでけがをしたときに回復魔法で間に合わない、その場にいないときなどポーションを使用する場面、機会は多岐にわたります。我々軍に所属しているのならば、ポーションがないのは死活問題です。ですので、薬師ギルドを怒らせるような行動は、我らに剣を向けるのと同意義です。よろしいですね?」

 地団駄を踏む音と奇声が聞こえる。少しして、何も聞こえなくなったのでいなくなったのかも。

 よし、どうかな?ちゃんと出来た。瓶詰めだ。箱から瓶を取り出して入れていく。出来た、出来た、瓶詰めだ。ポーションの完成品を瓶に入れると、ポーションが出来たって実感

する。箱に詰めて、空き瓶を出して詰める作業を繰り返す。

 一段落ついたのでデールさんに空き瓶と入れ替えてもらう。抽出液が次は足りないかな。うまく量を計算できていたようでよかった。

「エルミニド辺境伯のシルヴリンお嬢様が、ちょっかいかけていないか?うるさくしないように、こちらも何度か注意したんだがな。邪魔になっていないならいいんだが」

「邪魔だから早くどこかに行って欲しい。調合中に入ってくるし、うるさい」

「調合中は敷地に入らないようにお願いしておくよ」

 疲れたのかな。だるさと共に床に座り込む。水を飲んで、パンを取り出して食べる。壁際に移動してもたれかかると目を閉じる。なんか疲れた。


「起きなさいよ、何寝ているのよ」

「疲れているから仮眠してた。いきなり調合室に入られたり、大声でしゃべられると集中しても知らず知らずに疲れるんだね。そういう普通はしない攻撃をされるとは思っていなかったよ」

「攻撃じゃない」

「剣を返した人にソードスラッシュするような、普通の攻撃をしない人と話すことなんてないよ?本当に生きてれば偉いっていう教育を受けてきたから、汚いとか勝負が決まって終わったら攻撃しないとか、一般的なことは知らないんでしょう?出て行ってくれる?」

 みるみるうちに顔が赤くなっていく。

「ふざけないで、そんな侮辱を受けたのは初めてよ」

「侮辱じゃなくて、事実からそうとしか考えられない。辺境伯家では決闘が終わったあとに、決闘相手に不意打ちするのが普通なんでしょう?死角から武器も持ってないのにスキルを使うとか。何か言いたいことがあるのかもしれないけど、僕は辺境伯家の直系の人間にされているからね。起こった事実に考えをいってるだけだよ?そう思われるようにやってるんだよね?」

「ふざけないで!」

「お嬢!」

 手を振り上げたシルヴリンを副団長が確保して引きずり出した。それを眺めながらあくびをする。扉が閉まったのを確認すると最後の調合を始める。

「あんな侮辱を受けたのは初めてよ。家をバカにされたのよ?あなたも辺境伯家を貶められて、なんとも思わなかったの?」

「貶められて腹が立ちます。しかし、その原因は全て事実であり、ランス君にはワイバーン討伐という功績に対し、不意打ちで2度も返すという前代未聞の恥さらしが、辺境伯家にいるのことへの誹謗は受けねばなりません。他の誰かがいうのなら黙らせますが、ランス君にそう言葉を浴びせられても当然のこと。わかっておいでですか?騎士道の風上にも置けない行為をされている事実を。お嬢、あなたは騎士にならないのかも知れない。ですが、最低限の礼儀作法も知らぬ貴族であることは、周知の事実となっております。嫁ぐこともないのが唯一の救いではあります」

 うるさいと大きな声が周りに響く。

「監視を強化しろ。これ以上、ランス君と薬師ギルドに迷惑をかけるわけにはいかない」

 疲れているのかな?調整がうまくいかない。鑑定で大きなビーカーを観察。どの抽出液が足りないのかな?多い?セントジョンズワードが多いみたい。他の液を足して調整を完了して瓶詰め。終わって気が抜けてそのまま。

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読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

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