冒険者ギルドで夕食

 2日ほどかかって領主街に戻った。順番が来ると門番の人はすぐに通してくれた。お腹が空いたな。夕方に近いので薬師ギルドによる。

「ただいま。カギを貸して。ご飯食べたら作業に取りかかるから」

「お、帰り。2、3日で帰ってくるかと思ったら、10日も帰ってこないからどうしたのかと思ったじゃない」

「そんなにたってたのか。帰ってくるのに街道へ出て2日かかったから、どこまで取りに行ったのか、わからないんだよね」

「帰るのに、ふ、2日もかかるなんて。10日もかかるなら、王都からの取り寄せが間に合うのよ。あまりかかるようなら、相談してちょうだい。帰ってくるのかと心配したのよ」

 次からそうすると言ってカギをもらうと冒険者ギルドに向かう。中に入るとお酒のニオイがする。そっとカウンターの席に座る。

「エッジさん、食べ物欲しい」

「お、ランス鍋を買ったからどこかに行ってたのか?」

「薬草採ってた。薬師ギルドからポーションいっぱい作って欲しいって。いろんなところから注文があるんだって」

「商売繁盛だな。どんだけ作るんだ?」

「ローポーションしか作れないんだけど、多くて12箱で、瓶がそれだけだから作りすぎないようにって。ポーション用の瓶がないと品質が落ちてしまうからね」

 手を動かしながらしゃべっている。主にエールを注いでいるけど。

「水が飲みたい。それ貸して」

 エールのジョッキを受け取ると水を生成、氷を浮かべる。ごくごくと飲む。おかわりは自由自在だけど、夕食を食べたい。

「しかし、12箱とはどれだけの注文が来ているんだ?」

「わからないんだけど、結構あるみたい。ボルギ子爵のところが前回の倍の注文があったって。ギルドで前、4箱と半分作って置いていたのに。ボルギ子爵騎士団長が注文してくれるっていったけど、多くないかな?」

「騎士団指名か、上客を捕まえているじゃないか。確かにローポーションとはいえ多い。品質がいいのか?」

「本部で確かめてもらったけど、高品質に解毒小がついてる」

 は?という声を出して、何か液体のこぼれたような音がした。エールでも零したのかな?

「最高品質ならライトポーションに効果が負けないから、出来ないか研究してみたいんだけど、今は大量に作らないといけなくて出来ない。高品質でもライト並みの効力っていったけど、そんなに凄いのかな?」

「ああ、まあ、そうだな。最高品質に近い高品質なんじゃないのか?低品質と効果がそう変わらないなら、なんとか並みの効力って表現を使うときがあるからな。ローポーションの最高品質よりライトポーションを作ってくれた方がいいがな」

「祝福をもらってないから無理」

「そうなのか。どう作るのかは知らないんだがな」

 作りたい人じゃないと知らないよね。

「魔草と癒し草はスキルがないと混ざらないから、ライトポーション以上を作れないんだ。ローポーションだけは癒し草だけでいいから、祝福前でも作れるんだ」

「それでライトポーションは作らないのか」

「そう、作りたくても作れない」

「話が盛り上がってるわね」

 隣にヘルセさんが座る。

「リュックを背負ったままなんて、冒険者みたい」

「ポーションを作るための薬草を集めて、10日たっててフッセさんに怒られた」

「ええ?そんなにかかるものなの?」

「ギルド長、とりあえず12箱分の瓶を用意しているようです」

「え?この前登録したばかりよね?そんなに早く注文が来るものなの?」

 こっちを向いて、眼鏡越しにのぞき込んでくる。クマは相変わらずだけどね。

「前に来てたボルギ子爵の騎士団長が注文してくれるって。今回は前回の倍の注文が入ってるらしい。他にも注文が殺到しているらしいよ。人気の薬師より注文が来てるって。何でだろうね?」

「ランス君のはよく効くものね。前に飲んで楽になった。辺境伯も落ち着いてきたし、今日は早く帰れるわ」

「よかったね。ここに来る前に辺境伯の使者が来て追い返したけど、こっちには言ってきてないならいいかな」

「な、何か変なことしていないでしょうね?」

「手紙を燃やしただけだよ。手に持っていたヤツをね。それで済ましているんだから、火傷してるとかもないし、攻撃しているわけでもない」

 盛大なため息をつくヘルセさん。

「大問題よ。敵対行為と見なされるわ」

「先に殺しにかかったのは向こうだよ?敵だよ?何を言ってるの?僕が敵だと言ったら手加減はしないから。数をこなさないといけなさそうで、面倒くさそうだけど」

「敵とか。大変なことになるわよ?」

「それはしょうがない。身を守るためだから。ヘルセさん、レベル8級の魔法って見たことある?」

 ヘルセさんの横にジャステラさんが座る。

「何か、おもしろそうな話をしているようで、混ぜてもらっても?」

「レベル8級の魔法って見たことがあるかって聞いていたところ」

「そうだな、私は武技で冒険者の先輩に見せてもらったことがある。レベル7だったが。なかなかの威力があって大岩がスパッと一瞬で粉々になった。私では至らなかった高みだった。今でも思い出せる、それほどすごかった」

「そうなんだ。おもしろそうだね。魔法は?」

「パーティーメンバーがレベル5の水魔法だったら見たことがある」

 冒険者達がなぜかジョッキを持って並んでいる。チラチラとこちらの様子を窺っていた。

「話の途中にすまない。ランス、氷を頼んでもいいか?」

「前と同じぐらいでもいい?」

 出してきた板の上に氷の塊を出す。

「詠唱はどうしたんだ?」

「ん?生活魔法は詠唱しないよ」

「氷は上級魔法だろう。生活魔法で上級魔法が出せるなんて聞いたことがない」

「そうだろうね。文献には載っていない。生活魔法がこんなにいろいろ出来るとは思っていなかったよ。それにワイバーン討伐時にレベルが上がって出来るようになったんだから。魔法使いでも知らないだろうね」

 信じられないという顔をされる。目の前で出しているんだから、驚いているのかな?

「ジャステラ、ここに入るときに誓約して教えたでしょう?信じられないのも無理はないけど、この生活魔法だけでも驚異よ?」

「ミスリルを溶かしたって言うのは本当だったの?」

「ええ、正確には蒸発した。溶けたミスリルすら残っていなかった。レベル8級の魔法は見たことがないわね。レベル6は見せてもらったことがある。それでも、あの詠唱と規模を実戦で使えるとは思えなかった。魔法のために攻撃を凌いで、凌いで発動なんて。考えられないわ。それが詠唱なしに出来るなんて、信じたくないの」

「まあ、目の前で起こったとしても信じたくないことはある。頭は理解しても心がついていかないってことは、冒険をしていればあること」

 違う話になっているのは気のせいだろうか?

「それで辺境伯軍に勝てるの?」

「うーん、本気で防御してって言ったんだけど、風の刃を全力で撃ったら後ろの陣形が押し込まれていた。本気を出してないだけだと思ってる」

「後ろってことは撃った方向とは逆ってこと?」

「そうだよ。さすがに人には向けないよ。敵でないならね」

「それはギルド外の話だから、辺境伯とやり合っても仲介は出来ないわよ」

 大丈夫と一言だけ添えた。殲滅するんだから仲介なんか必要ない。敵なんだから。

「大丈夫って、ギルドに文句が来るんだけど?」

「敵なんだから、手加減しなくていい。炎で城壁ごと焼き尽くせば文句言う人もいないよね?」

「み、皆殺しにするつもり?」

「敵でしょう?殲滅が基本だよ。敵なんだから。野盗に慈悲はいらないよね?何言ってるのヘルセさん、普通だよ」

 ゴクリと何かを飲み込む音が聞こえる。

「ちょっと待って、どうして敵なのよ」

「聞いていると思うけど、模造刀を戻したあとにソードスラッシュ。屋敷の死角からシールドアタック。こっちはもろに食らった。どっちも殺す気でやってきた。僕は身を守るだけ。逆に戦士系だと思うジャステラさんは、されたら殺しにきたと思わないの?」

 飲んでいたエールを机に置く。顔は真剣だ。

「アタシか、装備はどうだったんだ?」

「ソードスラッシュは、今着てる服よりボロボロになった服だよ。シールドアタックのときはこの状態かな」

「普通なら死んでいる。アタシなら死んでいるよ。深手を負って、瀕死であることは間違いない」

「ほら、ヘルセさん。2度だよ?辺境伯家はおかしい、わからない?喉元に剣を突きつけられたままで進むようなものだよ。反撃もしてないんだよ?これでも問題にならないよう、ギルドのことを考えて関わらないようにしていたのに。僕は敵としないように、我慢していたんだよ?普通なら死んでしまうような状況でもね。これ以上は我慢しないから、本部にもそう言っておいて」

 十分に我慢はした。これ以上はない。身を守るために反撃に出ないといけない。

「だけど凌いだでしょう?」

「凌げばいいの?ギルドを攻撃して全壊にしても、人は死んでいないからいいねっていえばいい?」

「それは」

「僕がソードスラッシュのようなものを避けられるようになるまで、何回死んだと思ってる?剣を交えるまでに、どれだけの修練が必要だと?肉体耐性も勝手に上がるぐらいだよ?そこまでヘルセさんも上げてから、凌いだと言って欲しい。ジャステラさんは自分なら死ぬと言っている。僕が使っているのは生活魔法だ。ヘルセさん、魔法使いの端くれなんだよ、今の僕は。狩りや採集もするけど、致命傷を与えられる攻撃は魔法なんだ。魔法使いが誰でも避けられるなら、凌いだともう1度言ってくれる?」

 ビールを1口飲み込む。

「私も開き直ることにする。そうよね。ランス君が凄いから勝手に大丈夫だと思い込んでいたけど、祝福前で生活魔法が使えるだけ。スキルを使っているわけでも、反撃をしているわけでもない。なんか、腑に落ちたわ」

 目の前に肉と野菜の炒めたものと野菜スープとパンが並ぶ。パンをスープにつけて食べ始める。

「ランス君、氷頂戴」

 頷くとコップの中に氷を落とす。ジャステラさんもアタシもと続くので氷を出す。

「ランス君がいると冷たいエールが飲めて嬉しいわ。食べたら寝てからポーション作り?」

「そうだね。量が多いから仕分けも大変。抽出と調整に入ったら、なるべく目を離したくないから部屋に籠もりっぱなしになるね。食料を買い込んでおかないと」

「かなり作るのよね?私にも売ってくれない?」

「どうなんだろう?デールさんに頼まれて、依頼になるかな?瓶は用意されてて、わかんない。出来たらヘトヘトになるから、そのまま引き渡すことしかできなくなる。140本ぐらいは作るから、初めて作る量だし、何回かに分けるかも知れない。1度に作るかどうかもわからない」

 エールを飲み干して、おかわりを頼んでいた。

「ポーションのことは薬師に聞いてみるわ」

「僕もどれだけ注文が来ているのか、知らないんだよね。お金稼ぎのめどはついているけど、出来ることはやっていきたい」

「ふーん。他にどんなお金稼ぎしているの?」

「ここじゃ言えないよ?商業ギルドと薬師ギルドでやってる。それもどういうことになるのか、わからないしね。薬やポーションを作るのは、難しいんだけど頑張るんだ。エリクサーを作れるようにね」

 ふっと笑い声が横から聞こえた。

「名だたる薬師が挑戦してダメだった伝説の薬を?文献通りに作ったとしても出来なかったと聞いたことがあるわよ?」

「この国での出来事?」

「ええ。冒険者ギルドに龍魔草の採集依頼が来て、エリクサーを作るって言った熟練の薬師が失敗した。空想の薬なの。伝説ってそう言うものじゃない?」

「たぶん、王都であった人だと思う。古代語の本を解読して、レシピの再現までは出来ていたみたいだけど、龍魔草の使い方の文を模写で間違いをしていたから、原本の模写をお願いしてもらっている。解読できないわけだよ。そもそも古代語に存在しない文字だったんだから。解読者の書き込みも模写されていたけど、これは私には無理と。なんだろうね。模写が来たら教えてもらう」

「がんばってね」

 写本自体は間違っていないように思うんだけど、伝説は伝説たる理由が何かあるはずなんだ。なにか。それがわかれば、解決策も見えてくる。龍魔草以外の難しい素材がいるのなら、考え直さないといけないかな。

「そうだ、マジックバックのことを知りたかったみたいだから聞いておいたわ。両方とも時間経過型だって」

「両方!?リュックのと肩掛けのは両方そうなのか」

「商業ギルドに聞いたら、そういう回答をもらったわ。いつの間に増やしたのかしらね?商業ギルドからの伝言で王都に来ることがあればギルドに来て欲しいそうよ」

 わかったと告げて、夕食を食べていく。エッジさんに、氷はご飯代じゃ足りないが次もタダでいいっていわれたから帰る。いいのかなと思いながら調合室に戻っていく。薬草の袋がそのまま置いてある。薬草を広げると部屋一杯になるかな?今日はせめて布団をひいて寝よう。

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