採集しよう
「フッセさん久しぶり」
「いらっしゃいランス君。久しぶりね、村の生活は順調なの?」
「順調なのかな?あんまり家にいないからわかんない。狩りに数日出てることがよくあるし、村によっても雑貨屋ぐらいしか顔出ししてない。そうだ、ギルドの腰痛に効く薬ってある?雑貨屋のばあちゃんが腰痛で店番もきついみたいで」
「うちの配合?ランス君のはどうなの?」
ギルドの中には薬待ちの人とかがいない。
「カモミールジャーマン、マジョラムは持ってたからそれを出した。あとはクチナシかな。その3種配合のつもり」
「そういう配合もあるのか。ギルドではローズマリーとエルダーフラワーとセントジョンズワードで調合するわよ。私は薬を詰めることが多いから、ちゃんとした効果を考えたりはしてなくて、使ってる種類しか知らないけどね」
「誰か来たのか?ランス、何か買いに来たのか?」
ギルド長のデールさんが奥から出てきた。お客さんはいないから暇なのかも知れない。
「雑貨屋のばあちゃんが腰痛で大変だから、薬がいるって。薬師ギルドの薬も買ってきてくれって言われた。ギルドの配合を教えてもらってた。あとは調合用の道具を取りに」
「そうなのか、ランスはどんな配合なんだ?」
さっき言った3種を説明。
「うーん、そうだな、ローズマリーは加えるか、入れ替えてもいいかもな」
「追加してみる。セントジョンズワードは難しいから使わないかな。いろいろ効くけど、他の効果が早く切れたりするときがあるから、なるべく単体で使いたい」
「一緒に使う分には大丈夫だと思うが」
「そうかも知れないね。ギルドの薬と僕はクチナシとローズマリー頂戴。ばあちゃんにギルドの薬っていくらで売ればいい?」
「大銅貨3枚でいいんじゃないか?うちでもそうだからな」
なるほどと言って、カードを差し出す。
「ランス、実はローポーションの注文が来ててな。作ってくれないか?ボルギ子爵様からの追加注文が前回作ってくれた分の3倍。ゆっくりでいいとはおしゃってくれてはいるんだが、他のところからも使ってみたいと来ていてな。注文があり得ないぐらい来ている。人気の薬師よりも指名注文されているんだぞ。本部には依頼とローポーションの品質と効果について、問い合わせが殺到している。時間があれば作って欲しい。普通の薬師が1年で作るぐらいの本数が、すでに依頼で来ている」
「ボルギ子爵だけならわかるけど、他からも?」
「解毒がついていただろう?」
鑑定が出ていたな。本部でも間違いがないか、鑑定をしてもらった。
「ちゃんとした解毒用のポーションはあるんだがな。初期の腹痛とか、風邪っぽい症状が実地で消えるから、ランスのポーションをけがのついでに飲ましたら行軍の効率が上がってよかったそうだ。体調不良なほどけがをしやすかったりするから、それが治って元気になる。けがをしなくなる。いい循環だそうだ」
「それなら一般の解毒用ポーションを飲めば」
「飲むほどじゃない、体調不良ぐらいだ。ケガをして今日は調子が悪いなぐらいで、ランスのポーションを飲んだら調子がよくなる。調子が悪いぐらいでは解毒用ポーションは飲まないぞ。明らかに毒症状なら飲ませるだろうが。薬と違ってポーションは高いから使わないんだ。その点、ローポーションはポーションの中でも安い。そしてランスのポーションはライト並みの効力で解毒付き。使い勝手がいいんだ。ボルギ子爵騎士団ではあまりに使い勝手がいいと評判で、騎士団長もお気に入りだそうだ」
「前に買ってくれたから十分だと思ったんだけど」
騎士団は定期的に買ってくれるから気に入られたのなら安泰だと力説される。
「頑張って作るけど、手持ちの薬草じゃ絶対に足りないよ。使うのは売ってくれるの?」
「当然だ。薬師に薬草を提供するのもギルドの役目だ」
「じゃあ使うのをあるだけ出して。タイム、ネトル、ヤロウ、セントジョンズワード、癒し草」
「調合室にそのまま運ぼう」
カギを先に受け取ってから裏手にまわる。建物にくっつく形の調合室に入る。前と変わらず、ちょっとさびのある薬研と色のついたビーカーが置かれている。自分で作れる分は作り直して、色のついたのはここに置いていてもいいかもね。デールさんが袋を抱えて入ってくる。
「うちにあるだけだ、どれぐらい作ることになる?」
袋を空けて中を確認、品質はまあまあかな?悪くはない。これだと前回分ぐらいは作れそう。
「前の分ぐらいは作れるかな。あとは自分で取ってくるしかないね。これから取りに行くよ。そうだ、お金って下ろせる?」
「多少なら、大金は置いていないからな」
「ご飯を買うぐらいのお金だよ。何日か分のパンとか買っていきたい」
前のローポーションの売り上げが入っていたようで残高は十分に残っている。
「大銀貨10枚分ね。落とさないのよ。使いやすいように1枚は銀貨へ両替しているわよ」
「うん、ありがとう」
フッセさんにお金をもらってからバックの中に入れる。
「あれで足りないなんて、どれだけの量を作るの?ここにある瓶で足りるのかしら?ギルド長!ギルドにある瓶の量を言っとかないと、作りすぎたら困るでしょ。劣化したら品質が落ちてしまうのに」
「ああ、そうだな。ええと、前が4箱と半分で。倍はあるから10箱と予備で2箱だから、全部で12箱分ある」
「ランス君、それ以上は無駄になるといけないから調整してね」
わかったと薬師ギルドを飛び出すとパンといつもの串焼きを買ってカバンに入れる。串焼きを食べながら外に出ると、近くの森のほうに進んでいく。浅めの場所で薬草を集めていく。集められる分をカバンに詰め込みながら、ちょとした開けた場所や木の低い場所を中心に探していく。とにかく量が欲しいので、見た目や品質を考えたりはしない。
はあ。ナイフをクリーンでキレイにして、自分にもかける。どこまで来たのかわからないけど、前みたいに魔力の濃い場所ではないから大丈夫そうかな。周りを警戒しつつ、食事休憩。木陰に座ってパンと串を食べる。肉のタレ、美味しい。濃い味がいい。
一休みしてからまた薬草取りを再開。作れる量は多くても12箱。ひと箱が12本入るからえっと12、24、36・・・144本だ!多い。前は取った物も結構あって作ったから、買った物を含めても必要な量は多い。作るときは量を調整すればいいだろうから、あればあるだけいい。見つけ次第取っていく。
夜目があるとはいえ、見分けが厳しくなる。夜になって普通なら見えないだろう状態で、見えるってすごい。休める場所を探して、開けた場所に簡易の寝床を作って、入り口を閉める。森の中は静かで、たまに風が葉を動かす音がするぐらい。
何日かかけて収集をしていった。あんまり採る人がいなかったのか、群生地とかもあったので量は足りるかな?どうかなぐらいは集まったと思う。ウサギやイノシシとかと出会ったので、狩って空間倉庫のほうに入れて保存。薬草はマジックバックに詰め込んだ。
問題はどうやって帰るかだ。方向を気にして集めていない。どっちから来たのかがわからないね。誰かに聞いてみようかな?
「誰か、領主街の方向わかる?」
ふわっとウィットが出てきた。真っ白なさらつやな毛が目の前に現れる。
「そっちの方に出ると大きい道がある」
「あっち?ありがとう、行ってみる」
ウィットの目線の先に向かって歩いて行く。木々の間から草むらと馬車がチラチラと見える。よかった。道に向かって歩いて行く。道が見えてきた。馬車が行き交うぐらいの道幅がある。歩いている人がいた。
「すいません、サルエン男爵領主街はどっちの方向か教えて貰えませんか?」
「森から出てきて、捨てられたんか?かわいそうに。向こうに行けばサルエン男爵領の方向だが、捨てられたんなら帰っても困るんじゃないのか?」
「ちゃんとギルドに所属しているので大丈夫。両親は死んでいないから捨てられることもないんです。それじゃありがとうございます」
おじさんの指さす方向に歩き出す。森を出たばかりで汚かった。勘違いされても仕方ないのかな?クリーンをかけて教えてもらった方向へ歩いて行く。
たまに馬車が行き交うぐらいの街道なので、人の行き来は結構あるように思う。王都周辺はひっきりなしだけど、サルエン男爵領よりは、人の行き来がされていると思う。何日で帰れるかな?森の中を進んでいたとはいえ、どういう方向で進んでいたのか、覚えていない。採るのに夢中になりすぎた。
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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