使いの人

 平穏に何かが起こるわけでもなく、朝食を食べてから狩りにでも行こうかと準備を始める。バックと弓も準備する。街に行った方がいいかもしれない。鉄鍋もそうだけど、矢の補充もしたいかな。食料は必要十分だと思うけど、買い置きをするならしたい。王都ではゆっくり出来なかったし。買い出しへ他の街に行ってみるのも、でも変に絡まれるのはイヤだからやめとこう。

 家を出てから戸締まりを確認して、森の中に入っていく。焦らずにゆっくり進んでいく。音には気をつけて、動くものには風の動きにさえ敏感に反応する。葉が風にゆれる。立ち止まって周囲を確認。地面も足跡が残っているかも知れないから注意しておかないと。探索を使わなくても狩りが出来るように教えられている。弓を使うのも変に目をつけられないためだったけど、今の状態だと村で平穏に暮らすためぐらいのためなのかな?面倒な貴族やその類いの人間に、いいように利用されないよう隠すのをやめてもいいのか?でも、スキルを使うのは祝福を受けてから。それは約束だから守る。あまり使わないようにするのは、普通のことなのかもね。普通は使える人が少ないから、使わない方がいいよね。

 不意に鼻をつくニオイがした。腐ったような、なんだろう?糞かな?ニオイの方角に向かっていく。匂いが強いってことは肉食系の動物かも知れない。糞のまだ表面が乾いていないってことは近くにいるな。割と村に近いから追い払うか殺すか。人が近くにいないのなら空間倉庫にしまっておける。どこにいるのかな?足跡の方向を確かめつつ進んでいく。静かに息を吐き、緊張感とピリッとした空気感が漂う。心の中で気を抜いたら死ぬぞと気合いを入れる。一瞬が命取り。

 足跡を追いつつ先を見据えながら、敵からは見つかってはいけない。ん?木々の間から覗く影が見える。なんだろう?でかくない?おっきいんだけど、あれって熊だ。矢だと厳しいかも。毛が硬いのもあるけど、体は脂肪で矢が通りにくい。両目を射貫くとかきつい。手負いになった時点で死にものぐるいになるから、凶暴性が増してどうしようもなくなる。

 探索。周囲に人や動物の類はこいつだけ。見つからないように素早くやろう。首と胴が切り離される。頭が地面に転がり、体はどさりとたたきつけられる。頭は炭に変えて、体はいつも通りに素早く血抜きを行ってから解体。素早く回収する。大物がとれた。

 血のにおいが立ちこめている。においを飛ばしつつ土に水を大量投入して血を薄めていく。ある程度やってから森の奥へと歩いていく。熊だけでも十分なんだけど、もう少しだけ粘りたいかな。とれるときにとりたいしね。


 奥に進んでいくけど、今日は手がかりもない。足跡も草が生えていて、通ってから何日かたっている。魔法を使って進んでいないから、かなりゆっくり進んでいく。森のことを感じたり、自然の流れみたいなものを全身で受ける。大きな流れを感覚で掴んでいく。聖なる森はもっと濃くて強い流れが渦巻いて、わざわざ感じることをしなくてもわかるぐらいだった。普通はこんなものなんだ。

 ここに戻ってきたけど、何もしない日ってない。やりたいことも食料の調達とか狩りとか。薬草の管理や新しい薬草を採ってくることもやるから、ずっと家にいる日ってない。たぶんある程度のお金は稼いでいるから、ちょっとぐらい家で薬の調合とかやっててもいいと思うけど。でも薬の調合道具って領主街の薬師ギルドに置きっぱなしにしているんだよね。マジックバックを買ったから入れててもいいか。ボロいけどまだ使えるしね。帰ったら領主街に行こう。鉄鍋も買わないといけない。今は狩りを続けよう。



 泊まりがけで狩りを続けたけど、あんまり良い成果ではなかった。ウサギと鹿も小さめのしかいなかった。獲れないってことはなかったから、獲れただけましと考えよう。森を抜けて川を越えて自分の家に帰った。カギを開けて家の中に入ると眠気が出てくる。ふわっと口から出てくる。帰ってくる時間が夕方ギリギリだったから、すっかり暗くなっている。大麦と肉と塩を鍋に入れて煮込む。火が通ったら食べてクリーン。布団を敷いて寝る。



 よく寝た。狩りに出るとやっぱり疲れるね。ずっと気が抜けない。襲われたら死んでしまうかも知れないし。うまい気の抜き方があればいいんだけど、油断してやられるよりはいいか。安全な場所を作ると安心はできるけど、少し安心できるかもってぐらい。町とか危険が来たらわかりやすい場所なら多少の油断は、でも人に気を付けないといけないか。安心できる場所を作らないと。せめてこの家に警戒用の結界とか。それ用の魔法はまだ使えないから自分じゃ作れないな。

 領主町へ行くのに持っていくのは狩りと変わらないので、出発はできそうだ。薬草を乾燥させているぐらいだから、取られるものはなさそうだけど戸締まりを確認する。

 ゴンゴン

「ランス殿はおられるか?」

 誰だろう?扉を開けるとそこそこよさそうな馬車が止まっていた。身なりのきちんとした男が立っている。

「何か用?」

「ランス殿であられるか?」

「そうだけど」

「エルミニド辺境伯様より招待状をお届けするように拝命して参りました。こちらをお受け取りください」

 差し出される手紙を見て、首を横に振る。

「王都で招待された。責務は十二分に果たしたから招待は受けない」

「どうしてもですか?」

「そうだね。暴力しか振るわない一家のところになんて行くはずない。普通だと思うけど?あの家と関わりたくない。2度と来ないで」

「そこをどうにか折れていただきたい」

 一礼をする。ただそれだけ。

「なら、同じ条件で同じことを当主に受けてもらってから、ワイバーン討伐を単騎でしてくれれば行こう」

「同じ条件、同じこととは?」

「無手でソードスラッシュから逃げ切る。無防備なところに横からシールドアタックを受けて逃げ切る。まずそこからだね」

「いやそれは、当主への危害は困ります」

 見上げた目を外さずに一言。

「なら、僕の全力を辺境伯の城で受けてよ。自分たちは僕にやっておいて、いざ自分に降りかかるとダメだなんて。招待にはそれ相応の対価を求めると伝えて。何を僕に謝罪してくれるの?」

「大金貨500枚」

「いらない。そのくらいは自分で持っているし稼ぐ。冒険者ギルドの手打ち金以下では納得しない」

「ちなみにいくらでしょうか?」

「その程度も知らないのに僕と交渉しようとかふざけてるの?何があったか、なんで行かないのか、答えてみてよ」

 男は黙る。手紙を渡すだけの要員なのだ。何も知らない。

「帰れ。何も知らないのをよこすなんて、馬鹿にしすぎている。交渉もなにもない。2度と来させるな。次に来たら本当に戦う。準備しておけ」

 戦うのは自分を守るため。辺境伯が敵ならば軍隊も敵だ。敵ならば情け容赦なく戦える。

 手に持っている手紙に火をつける。慌てた男は手を離し、手紙は中で炭に変わる。

「次は辺境伯の城塞都市がこうなるね」

 男は怯えた様子で馬車に乗り込むと逃げていった。こんな道の悪い場所で飛ばして横転すると困るから見送る。

 カギをかけて戸締まりをもう1度確認したら、馬車の通った道を歩いて村のほうへ。一応雑貨屋に顔を出す。ばあちゃんが座っていた。

「どっか行くのか?」

「領主街に薬の調合道具を置いてあるから取りに行くのと、薬はギルドで買ってくる?行き来する人がいるなら、僕じゃなくてもいいけど」

「座れる程度にはましになったからね。もうちょっと効くといいんだけど、薬師とランスとどっちが効くんだい?」

「効かせようと思えばどっちでも。もう1種追加するつもりでいたから、手元にあるのは2種類だけで薬師で買えばちょうどいい具合に効きそうだね。とりあえず、薬師のを買ってくるから飲み比べてみたら?それでも効かないっていうのなら、もう1段階薬効を強めることも出来る。あんまり使いたくはないけど、一時的にっていうのなら出来るよ。そうか、ギルドと僕のどっちも作れるようにしておくね」

「買ってくれるなら金は払うよ。頼んだよ」

 じゃあ買ってくるねと言ってから、村から領主街に続く道を歩き始めた。相変わらずの道の悪さだね。新しめの車輪の跡がついている。馬車がないから横転はせずに帰って行ったんだろう。この道をよく通ってこようと思ったよ。そういえば、ここを通って行商の人がうちの村に来るんだ。行商の人って凄いんだな。そんなことを考えながらいつも通りに進んでいった。


 カードを門番に見せようとするといいぞと通してくれた。いいのかな、ちょっと遠くから見ていると何人かそのまま通っていた。顔を覚えているってことかな?まずは冒険者ギルドに入っていく。中に入った瞬間に冒険者達がざわつく。依頼を受けに来たわけじゃないから、そのまま売店に向かう。剣とかも一応置いているのか。これが普通の品質なのかな?なまくらにしか見えない。

「その剣は長いんじゃないのか?もう少し短い方がランスには合うと思うぞ」

「剣があるんだなって見てただけだよ。エッジさん鉄鍋ある?石の鍋が割れちゃったから欲しいんだ」

「おお待ってろ、普通の物しかないがいいのか?」

「普通じゃない鍋って何?」

「料理とかで鍋が数種類あるだろう。そういう意味だ。うちには半円球の取っ手のついたやつしかないぞ。冒険者がよく使っているのだ」

 エッジさんは乱雑に積まれた商品の中から鍋を取りだしてきた。

「それ、思ってたヤツだ」

「これでいいのか?なら銀貨で15枚だな。ギルド割引でだ。王都で買うともうちょっと安くなるんだが、行く用事とかなるならそっちで買った方がいい」

「王都に行く用事なんてないよ。カードで払う」

 冒険者カードを取り出す。鍋と一緒に受付に案内される。一番端の入り口から一番遠い受付に鍋が置かれる。

「銀貨15枚で精算をお願いします、副ギルド長」

 ムキムキの女の人が座っている。戦闘系の人だと思う。体格がいい。エッジさんよりも腕とか太い。

「お金を持っているのか?家がお金持ちで冒険者ごっこしてるなら、他の受付に連れて行け」

「ジャステラさんは初めてですが、この子がランスです。輝く太陽を無傷で全滅させることが出来るんですよ。子どもだからと見下すことしかしないのならば、ここのギルドは辞めるべきだ。これ以上、問題はおきて欲しくない」

「な、あ、この子がランスか。副ギルド長になったジャステラだ、よろしく」

 よろしくと返事をしておいた。鍋の精算はカードを出して終了。

「そういえば、この袋って時間停止型なの?時間経過型?」

「ソルに勝ってもらったヤツか。ギルド長に聞いてみないと、こちらではわからん。機密情報に当たるからな」

「ヘルセさんはいるの?」

「わからん、夕飯時分には食べに来るから言っておく」

 忙しいのかもね。必要なものは買えたので冒険者ギルドを出ると薬師ギルドに向かう。

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