家に帰ろう

 宿の精算はすんなりと終わって、街の大通りを歩いていく。冒険者風の人たちもいるけど、素通りするだけだった。街の関所について列に並ぶ。早く出る必要があるときは抜いて先頭の門番に掛け合うけど、必要がないのなら普通の人たちに紛れて出て行く。時間はかかるけど、冒険者カードを使うのもなんかイヤだな。列の中で自分の番がくるのをじっと待つ。


 街道に出ると普通に歩いている。危険な魔物がいるっていう話だったけど、全然出会わない。普通の動物はいるようだし、平和な気がする。街道付近はあまり出会わないから、森の中の奥とかにいるんだろう。とにかく近くにはいない。


 次の町について宿を取って何事もなく過ごして、それから次に街へ進んでいく。何も考えていなくて、それでも何もないから薬師ギルドがうまく交渉を進めているのかな?絡まれたり、冒険者ギルドに連れて行かれたりしないだけでも心静かに道中を進んでいける。


 サルエン男爵領に帰ってきた。久し振りな感じがするけど、時間はそんなに経っていないんだよね。生活するためのお金を稼ぐだけだったのに、ひどい目にあっている。特に冒険者ギルドと関わる時がひどい。街の中を通れなかったり。食べ物がなくなって、お腹がすごく空いて大変だった。自分の感情が力へ影響を与えるんだって、体験できたからいい糧にはなった。

 帰ってきた報告と今どうなっているのかを聞きに薬師ギルドに向かう。

「帰ってきたよ」

「あ、ランス君お帰り。王都では大変みたいだったね」

「うん、大変だったよ。帰りも大変だった」

「そうだったの?何も聞いてないのよね」

 ゆっくりとしたしゃべりに帰ってきたって感じがする。フッセさんは手元で何かをしているのに、こっちを見ている。

「できたよ、ヘルセ」

 振り返ると目の下にクマを作ったヘルセさんがいる。びっくりして声が出てしまう。

「ランス君、お願いだから依頼を受けて。連日の問い合わせがきて、大変なの」

「公爵領の依頼?」

「辺境伯様からよ。公爵様の依頼は急がないと連絡を受けているわ。通りすがりにでも、受けて行ってきて。どうして受けないの?」

「死んでもおかしくない攻撃を受けた。招待するのにソードスラッシュやシールドアタックをしてくるような人のところには行けない。行くのなら、僕も攻撃をする。ワイバーンの時に見せた魔法を街へ放ってもいいと、冒険者ギルドが保証するなら行ってもいいよ?ヘルセさん、自分がやられたら行きたいと思うの?僕は絶対に行きたくない」

 わかったわと元気なく薬を受け取って薬師ギルドを出て行った。

「大変だったのね」

「殺されると思った。なんとか逃げ出せたからいいけど、貴族だと下手に反撃も出来ない。どうしようもないから関わらないことにしたんだ」

「貴族と関わるとろくでもないのねえ。ヘルセも断ればいいのに」

 あとは街のことを聞いたけど、輝く太陽っていう有名な冒険者パーティーが数日街にいたこと、よく通っているおばあちゃんの腰が悪化して、薬を持って行っているぐらいで平和だった。奥からデールさんが出てくる。

「ランス、帰ったか。いろいろあったって聞いてるぞ。今回もやってるな」

「やってるわけじゃなくて、近づきたくないのに向こうが近寄ってくるんだよ。辺境伯邸に行ったのは、商業ギルド長が1度だけっていうのを聞いて、イヤイヤ招待に応じたのに。商業ギルドに入ったばかりでこんなことになるなら、商業ギルドも信用しないほうがいいのかも知れないね」

「そうだったのか、それは商業ギルドも顔を潰されたら怒るだろう。商業ギルドのカードを見せてくれないか?」

 いいよってカードを出してみせる。普通に受け取るとカードを隅々までしっかりと見ている。

「このランクは、いや、鑑定でも本物だと。この場合はどう考える?商業ギルドがいきなりランクを上げて。資金力?技術か。となると商業ギルドにとって、重要であるってことだな」

 薬師ギルド長は商業カードを見ながらブツブツと独り言をいっている。

「商業ギルドもこっち側に来るな。カードを返しておく。ちょっとランスが帰ったって本部に連絡しにいく。裏の調合室は自由に使っていいからな。ランス専用みたいなもんだ」

 また奥に引っ込んでいった。後ろ姿が消えていく。

「王都はどうだった?おいしそうな食堂とかあった?」

「仕事で行っただけで、高級そうな宿に泊めてもらったぐらい。食堂を探すような時間がなかった。あとはうーんと商業ギルドに登録したぐらい。領主様の迎えの人があんまり好きな感じの人じゃなかった」

「あそこにいる人達って、確かに高圧的な態度で好きじゃないわね。偉そうにしているけど、自分たちは偉いわけじゃないのに。あんまり、しゃべりたくない」

「僕もあんまり貴族様達には近づきたくない。いいことないよね」

 そうだよねとか王都のあそこにいったとか、行ってみたいところとかを話して裏の調合室に行ってみる。久しぶりの中は前と同じで、戻って来た感じがした。薬研や色のついたビーカーが奥によせられている。人の入ったような感じはない。調合に来たわけじゃないので、そのまま外に出るとごっつい大きい人が立っていて、見上げる。

「ランスか?」

「うん」

「お帰り」

「ただいま」

 反射で挨拶を返すと頷いて、止まっている馬車に向かって行った。誰だ?薬師ギルドの人なのかな?馬車から木箱を降ろしている。降ろすのは慎重だ。中身は割れたりする物?近づいて降ろす作業を眺めてみる。

 もくもくと馬車から降ろしてく。荷馬車に満載の箱を倉庫に入れている。入れ終わったら薬師ギルドに自然に入っていく。薬師ギルドの人なのかな?人だよね。

 フッセさんと一緒に出てくると、倉庫の中へ。倉庫の扉からそっと覗く。木の板に何か書いているのを見ながら、木の箱の数を数え木の板に何かを書き込む。

「ランス君、どうしたの?」

「え、何をしているのかなって?気になって。邪魔ならどっかに行くよ」

「なんだ。荷物の数と物が間違っていないかを検分しているの。何かあって足りないこともあるし、そういうときは追加もいるの。王都との荷運びはこのイズムがやっているわ。いつも往復をしているから、顔を合わせることは少ないかも知れないけど薬師ギルドの職員なの。知っておいてね」

「荷運びは大変そう。よろしくお願いします」

 イズムさんは両腕を組んだまま頷いた。フッセさんと荷物の説明をしつつ、木箱の中を見ている。木の札に書かれていることを木の箱と比較しているようだ。そうやっているんだ。ふむふむ。

「全部あるわね。持っていってもらう物は今回ないから。急がなくてもいいわ」

 頷いている。終わったようなので、扉から離れて通りのほうに出て行く。まずは食糧の確保といつもの焼き串屋によって注文してから食べ物を買う。食料はパンとスープの材料、あとは塩も追加しておく。あとは干し肉を追加。おっちゃんに焼き串をもらって、口いっぱいにほお張りながらもぐもぐしていく。焼き串はタレが美味しい。アツアツの肉を口の中でかみしめて、濃いめのタレの味が一緒になってうまい。3本は普通に食べられる。よく食べた。


 領主街で1泊してから村への道を歩いて行く。道はあるけど、あまり使っている人がいないから草が結構生えている。ちょこちょこ刈りながら歩いて行く。水たまりも直しつつ、村のほうに進んでいく。結構なボコボコ道だよね。馬車だと大変そう。馬が普通に走るなら大丈夫かな?道を簡単に草刈りと穴を少しならしながら進んでいく。通る人が少ないから道もキレイじゃない。道だけでもある程度になればいいかな。


 帰るまでに野宿もしつつ村に到着。雑貨屋に顔を出す。

「帰ってきたよ。帰ってくるまでが長いよ」

「しかたないじゃろう。領主街まで馬車で2日はかかるんじゃ。人なら3、4日かかって当然じゃ。頻繁に行く人間などこの村にはおらん。だいたいは行商とうちでまかなえておる。用事があったとしても領主街まで行けば終わるが、片道4日も家を空けるのはあまり出来ん」

 じいちゃんのほうが今日は店番をしている。

「ばあちゃんはどうしたの?」

「腰が痛むから休んどる。まあ、年だからしょうがないの。イスに座っとるだけで痛むのはあんまりないんじゃが、誰かが店番はするしかない」

「そうなんだ。よくなるといいね。そうだ、行商の人に僕の家のことを聞かれるかも知れないから教えてあげて」

「なんで行商がランスに用事があるんじゃ?」

 ごそごそとポケットから商業ギルドのカードを取り出す。

「ギルドからの連絡とか、用事があるときには行商の人に伝言をするって聞いてる。行商の人がもしかしたら、伝言を持ってくるかも知れないなって」

「ふむ。商業ギルド員になったのなら、そのくらいはしてやろう。うちもギルドには加盟しているから行商が回ってきてくれる。加盟店がないと行商も適正価格で売ってくれないことがある。それを見極めるのもギルド員の力量じゃ。それなら、次に街に行ったときに腰に効く薬でも見繕ってくれ」

「腰に効く薬か。行くことがあったら聞いてみるね」

「頼んだぞ」

 なんとなく返事をしてから自分の家に向かう。家から村までの道は人が通る程度には道幅がある。草の生えていない道がね。村の人も時々森に入るために通ることがあるから人の通る道くらいは手を入れている。本来は馬車が通れるぐらいの道幅はあるんだけど、馬車なんて使わない。僕も含めてだけど。馬車で来るなら、村において歩いてくるのがいいかな。村からは迷うことない1本道だから大丈夫なはず。

 家の扉を押すと開かない。何かしたっけ?カギがついてるのが見えて、空けられた様子はない。カギをつけているのを忘れていた。鍵を開けて中に入る。中は特に変わった様子はない。窓も壊れた様子はない。干し肉もちゃんとある。窓を開けて周り空気を入れ換える。窓から入ってくる風が気持ちいい。イスに腰かけて、家の中を見回す。ベットの木枠と机とイスと暖炉。暖炉と釜が並列してついていて料理場もある。石の板と食器がある。食器は木の物に鍋は鉄の物にしたいな。買えるようになったら、揃えに行こう。鉄製品が高いかもね。木の食器は自分で作れるかな?家に着いたからなのか、うとうとしてしまう。

 窓を閉めると横になる。ねむい。何でかわからないけど眠気に襲われる。目が開けていられない。目を閉じるとすぐに意識が遠のく。

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