ブライス子爵領冒険者ギルド4

 木窓から外を見ながら上を見上げると、たくさんの星が輝いていた。小さく輝く、他の星の光に消されそうな星。たくさんある。ひときわ輝く星達に光で消されそうで儚く隙間を埋めるように光っている。

 宿に手持ちの光で道を照らしながらやってくる者がいる。夜もふけてきたので眠たくなって、目をこすりながら上を見上げている。息を吐く。


 コンコン


 部屋をノックされる。返事をするとイアンが冒険者ギルドから迎えに来たというので、何かあるといけないので荷物を持って出る。

「ランス君、薬師ギルド長が来てくれているので行きましょう。うちのギルド長は厳しい交渉になりそうだって、ため息をついていたよ」

「冒険者の腕で終わる交渉を引き延ばしたのはギルド長なんだからしかたないよ。それに冒険者ギルドとしても悪いはずの冒険者をかばっている自覚はあるのかな?」

「S級に八つ当たりして無事で済まそうっていうのはちょっとね。でも、この街のために活躍している冒険者だから、できれば冒険者として続けて欲しいんだ。その気持ちもわかるから、どっちがいいのかは判断しづらいよ」

「それと薬師ギルド員でもあることを忘れてるしね」

「王都でも何かあったみたいだって聞いてる。ギルド長しか情報は知らないんだけど」

 ふーんと体験してきているので、教えようと思えば教えられるけどやめておく。情報がギルド長で止まっているってことは、その前にギルド長ですら知らなかったんだから、あんまり僕のことは知られたくないんじゃないのかな。王都での出来事が伝わっていたら、こんなに問題になるようなことは起こらない気がするんだよね。

 冒険者ギルドにくるとテーブルに2人座っている。1人は知っている人でもう1人は初めて見る。

「仲介として薬師ギルドのギルド長にきてもらったよ。テーブルに座ってくれ」

「ランス君、ギルドカードを見せてもらってもいいか?」

 席に着くとテーブルの上に2枚のカードを載せる。冒険者ギルドと薬師ギルド。

「間違いなく、薬師ギルド員だ。そうなると薬師ギルドとしては冒険者に危害を加えられそうになったということで、話を進めさせてもらう」

「しかしながら、その、ランス君にも多少の悪い点はあるのではないでしょうか?」

「どういった点で?祝福前の子どもにつっかかって、ましてや八つ当たりをしようという冒険者達に、大人な対応をしているのはランス君だと思うが。そこにどんな悪い点が?一方的に絡まれて、悪い点とは一体どういうことか。説明していただけますか?」

「最初に冒険者であることをいっていない」

「冒険者が冒険者ですと名乗る慣習があるとは聞いたことも、名乗っているところも見たことがありません。冒険者同士ではやっているので?」

 そんなことをしているのすら見たことがない。

「やっているのもいます。ですから、ランス君にもやっていただきたいと」

「これからの話は冒険者ギルドによって、冒険者に守らせる形で規律を作っていただきたい。この話には関係ないことだ。そういう慣習があるのかと勘違いしました。冒険者ギルドでランス君が悪いところなら聞きますが、これからやってくれればいいなどという願望を聞きに呼ばれたのではない。その点は勘違いしないでもらいたい」

 ルロイは何をいっているのだろうか?

「それよりも冒険者達は子どもに八つ当たりをする方を冒険者ギルドとして止めるべきではないのですか?いくらなんでも、素行が悪すぎます。そんな冒険者が街で普通に生活しているとは。騎士団や警護の担当にはきちんと説明を?まさかと思いますが、もみ消してなどはいないでしょうね?初犯ということもないみたいですしね」

「その辺は我々も調査の及ぶ範囲を超えておりますし、依頼に関してはきちんとこなしているかは調査はします。が私生活までは我々の関知するところではない」

「なら、僕が処分をしても問題ないんだね?」

 ルロイが僕を見て固まる。宿の中で依頼をこなすとかない。だいたい外。

「冒険者ギルド長が私生活について関係ないといわれた。その通り、ランス君が処分を下す。それで決まりだ。こちらは冒険者に手を出されたことに抗議と賠償を求めるだけですむ」

「それではこの街の依頼が回らなくて困るので、折衷案をお願いしたくお呼びしたのです。冒険者の腕を切り落とすという処分はどうか取り下げていただきたい」

「冒険者の腕を切り落とすと?それは随分と物騒な。ランス君、それは冒険者ギルドが認めているのかい?」

 薬師のギルド長がこちらを向く。

「冒険者ギルドのじっちゃんが手を出してきたらいいって。殴る格好になったから、まずは武器である剣を切り刻んで使えないようにした」

「じっちゃんというのは?」

「冒険者ギルドで一番えらい人で、この前会ってヘインルニャだっけ?そんな名前だったよ。あと謝るなら許すともちゃんといったよ」

「もしかして、エインヘニャル冒険者ギルド総本部長では?」

「そうそう、そんなヘインヘニャルって名前だった」

「あー、うん。普段は温厚だと聞いたんだが、腕を切り落とそうと思ったのに何か理由があったら教えてくれないか?」

 理由?冒険者を警戒。

「公爵領の冒険者ギルドで僕に緊急クエストで冒険者をけしかけられた。それに反撃して、公爵領は出て行った。次の領地では冒険者ギルドのせいで領軍に包囲されて動けなくなった。領軍は冒険者ギルドに頼まれただけって。向こうも囲むだけで敵意はなかったからお互いに攻撃はしなかった。けん制はしたけど。ギルド長が来て、話すための条件を突きつけたら確約できないって。領軍はギルド長との話をしたから僕を取り囲むのをやめた。ここに来て、イヤなのに冒険者ギルドに連れてこられて、宿で冒険者に絡まれた。冒険者ギルドがらみ。攻撃的になるのは普通じゃないの?宿屋で依頼に失敗した冒険者に絡まれた。これで警戒もしないなら冒険者としては終わってるか、狂ってる」

「他の支部でもあったのかい?」

「今説明した通りあったよ。冒険者が不機嫌を理由に口だけじゃなくて、手を出してきた。謝る機会もちゃんと伝えたけど、関係ないみたいだった。だから、腕を切り落とすことにした。じっちゃんがいいといっていたからね」

「そうか、これは一度持ち帰って薬師ギルドとして検討しよう。ランス君、預けてもらっていいかい?」

「うん。僕じゃ、冒険者ギルドを壊して回りそう。ぜんぜん取り合ってもくれない」

 ため息をつく。僕のいってることは何も聞いてもらえない。冒険者ギルドはイヤだっていっても無視するしね。

「話し合いは?」

「王都でもねらわれて、またやられた。冒険者ギルドが我々薬師ギルドを軽んじ、処分をしていればいいという認識なのがこれではっきりした。薬師ギルドは断固として、冒険者ギルドに罪を償ってもらわなければならない。前回から日も経っていないというのに、どうすればこのような事態を招くのか。覚悟はしておいてもらいたい。ランス君はそのまま宿に帰るのか?」

「そうだね。何かあったら、次の町の薬師ギルドに報告する」

「話し合いはギルド同士で行う。支部ギルド長がどうこうという問題ではない。最低本部管轄の問題だ。ギルド長の一存で決められる問題ではない」

 薬師ギルド長と一緒に冒険者ギルドを出るとお礼を言って別れた。気をつけるように注意はされたけどね。暗い夜道を歩いて、満点の星空を眺める。たくさんの星が空にはちりばめられて、部屋から見えない世界が広がっている。どうすればいいのか、冒険者にどうすればいいのかが僕にはわからない。じっちゃんがいっていた方法は間違っているのだろうか?罰としては悪くないような気がするんだけどな。

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