ブライス子爵領冒険者ギルド3

「ギルドカードがふふふふふふ」

「宿ってどこなの?」

 頭の中がギルドカードのことで一杯になっているのだろうけど、僕のことは目に入っていないのかもしれない。目の前で少し待っていよう。不気味な笑い声がギルドの中に響いている。何も考えないようにしているけど、受付のお姉さん方がひどく冷たい目でこちらを見ているのは気のせいじゃない。

 水をイアンの頭の上で作るとそのまま落とす。

「うぇ、何、水?!」

「そろそろ、宿に連れて行って欲しいんだけど。何ならそのまま冷たくしてあげようか?頭冷えていいでしょ」

「水で冷えたから遠慮しとく。じゃあ、行こうか」

 急に我に返ったのか、ギルドを出て街の中へ。大通りを歩いて少しだけ道に入ると宿屋があった。大通りに近くてとてもいい。

「ギルドに近くて、価格も良心的。荒くれ者も大丈夫な店さ。もちろん普通の人もね」

 丈夫そうなドアをくぐり抜けて、宿の中に。受付があるからそこへと連れて行かれる。

「可愛いお客さんだね。いつもの荒くれ者達とは違うようだ。冒険者なのかい?」

「F級だよ」

「そうかい、そうかい。支払いは最悪、冒険者ギルドにしてもらうからどんな部屋がいい?」

「うーん、安全に寝られるならどこでも。あとご飯も欲しい」

 おばちゃんはニコニコしながら聞いている。

「支払いはギルドカードで出来る?」

「ああ、大丈夫だよ」

「こっちも行ける?」

 薬師のギルドカードを出す。ローポーションの代金が残っていると思うんだけど。どうかな?

「薬師にも入っているのかい?偽造は罪が重いよ?」

「ちゃんと正式に入っているよ」

「祝福前の子どもは入れないって聞いたことがあるんだけどねぇ」

「職だけが加入条件じゃないよ。ポーションを作れるのが条件なんだから、祝福前でも入れるの。職を持ってる人は確実にポーションを作れるから、無条件に入れるけど、きちんとポーションの鑑定をしてもらってから入ったんだからね」

 疑うような目線が僕に向けられる。

「まあいいさ。うちは泊まってくれるなら歓迎だよ。他の冒険者に絡まれないように気をつけな。ケンカの仲裁まではしていないからね」

「そのことなんですが、ランス君は普通の冒険者が下手に絡むとやめさせてしまうかもしれないので、その時は冒険者のほうに注意をしてください。冒険者が再起不能にされるのは、宿にとっても困るでしょう?もちろん、冒険者ギルドとしても困ります」

「何言ってんだい?絡まれて困るのはこの子のほうだろう?」

「それは間違いありません。ランス君はこう見えて、高ランクの冒険者なんです。祝福前という色眼鏡で見ていると、大事になってしまうので冒険者ギルドとしてお願いしておきます。絡んできた方を注意してください。罰を受けるのはそちらになります。ケンカをしたのが両方悪いは、ランス君には適用されませんので。その点だけはくれぐれもご注意ください」

 事務的に淡々とおばちゃんに話している。

「そうなのかい?あんたがそんなに真剣に言うのなら、そうしておくよ」

「お願いしておきます。本当に。ランス君も相手にはしないようにね」

「わかった」

 ご飯は食堂で食べるってカギを渡され、部屋につくと荷物を降ろした。今のところ、外に出かける必要がないから魔法の練習でもしていよう。

 魔力操作もうまくなってきているはずなんだけど、たまに乱れることがある。練習していると感じるぐらいのすごく小さい乱れなんだけど。なんでだろう?普通に使うときには気にならない程度。何かが悪いのかな?

 宿を壊すわけにはいかないから、魔力量は抑えて炎や氷なんかを出してそのままにしておく。魔力の量が炎などを出しておくのにギリギリの量なので、それを保つための集中力が必要だ。魔力が多いと消えないから量を減らしていくんだけど、足りなくなって消えてしまうと出し直さないといけない。出すときは繊細にしないと他の属性に影響したり、間違って消えてしまうことがある。だからなるべく消えないように気をつけて、消えないギリギリの練習。


「夕飯だよ」

 廊下に大きな声が響いた。驚いた拍子に全部消えてしまう。ちょうどご飯だから食べに行こう。カギをかけてから、食堂に向かう。部屋から出てくる人達の流れに乗って、食堂について席に座る。入り口近くの席が空いているから、さっさと食べて帰ろう。

 運ばれてきたのは野菜にスープとパンと肉。肉をナイフで切って食べると弾力がありすぎてかみ切るのに時間がかかる。ぶよんぶよんしていて、おいしいとは思えなかった。ソースとかもないし、うっすら塩の味がしたかもしれない。大人の人達はビールを片手に飲んでいる。パンとスープを一緒に口に入れて食べる。パンは硬い、僕の焼いたのよりはましだけどね。野菜も食べてお腹がいっぱいになってきた。

 頑張ってお肉を食べて、スープとパンを飲み干す。野菜を口の中に入れてもぐもぐとしていく。ドスドスと足音が近づいてくる。もぐもぐと野菜を食べていく。

「くそが、あとちょっとだったのに逃げられるなんてよ」

「あんな逃げ方があるとは知らなかった。知識不足だ、次は逃がさないようにすればいいだけ」

「むかつくぜ」

 入ってきた冒険者達と目が合う。もぐもぐと口は止まっていない。

「なんでガキが泊まっているんだ?」

「子どもがいてもおかしいことではないだろう。それより何か食べれば落ち着く、席に着こう」

「ガキは何でここにいるんだ?」

 野菜を飲み込む。

「泊まっているからだよ」

「呑気でいいご身分だな。こっちは大変な思いをして、金を稼いでいるのによ」

「お金は自分でちゃんと報酬をもらって生計を立てているよ」

「どうせ、薬草を集めるとかがせいぜいだろう?そんなんじゃないんだよな。俺たちはもっと危険で大変な魔物と戦っているぜ?わかるか?」

 クビをかしげる。この辺りに危険で大変な魔物がいるのだろうか?街道沿いでは見かけなかったけど。

「まあ、ガキにはわかんねえよ」

「そうかも」

 野菜に手をつけようとした瞬間にテーブルのお皿とかが音を立てて床に落ちた。

「何するの?」

 冒険者が食器達をはねのけた。頬に当たって痛い。

「人が話をしているのに飯を食ってんじゃねえ」

「ここはご飯を食べる場所なんだから、食べるのは当たり前だよ」

「ガキがなめた態度取ってんじゃねえよ」

 睨みつけてくる。食べてないのは野菜だけだったけど、意味不明な理由でやられる気はない。

「謝って」

「ああ?ガキが勝てると思っているのか?調子に乗ってんじゃねえ」

 テーブルを殴り飛ばす。テーブルは殴られて倒れてしまう。パーティーのメンバーは誰も止めようとしない。むしろ笑いながら見ている。

「許さない。全員同罪だからな。パーティーごとだ」

「はあ?このガキ、ふざけやがってよう」

 拳を振りかぶった。腰に差している武器に攻撃を仕掛ける。ガチャガチャと音を立てて落ちるが、そいつには聞こえていない。

「くそガキが思い知らせてやる」

 手を振り上げた瞬間、後ろからパーティーの2人が抑えにかかった。

「すまなかった。許して貰えないだろうか?」

「許さない。いったよね?パーティーも同罪だと」

「どうにか納めて貰えないだろうか?」

「宣言したからには取り下げない。かかってこい」

 イスに座ったまま、そう告げた。

「教育はしておくので」

「パーティーも含めてギルドで指導してもらえるように、今から呼んでこい。見ていたお前らも同罪だ」

「ここで納めて貰えないだろうか?」

「教育すると言った。ならば、パーティーごとの教育がいる」

 抑えられている男が暴れる。

「なにガキに下手に出てんだよ。こいつをボコさないと気が収まんねえよ」

「わかっていないのはお前だ。目を覚ませ。剣はどこに行ったんだ?」

「何を言ってんだ、腰に差してある。今さら何を言って」

 取り押さえられた顔の前に切られた剣の残骸が蹴り出される。

「お、俺の剣、なのか?」

「そうだ。許さないといった瞬間に剣が切れて床に落ちた。キレていたお前は気がつかなくて、取り押さえた」

「どうやったら、こんなことが出来るんだ。今日も使っていたはずなのによ」

 驚きと信じられないというような入り交じった表情で、しかし現実は目の前にある。

「早くかかってこい。腕の1本程度で許してやる」

 もう敵としか認識していないので、許しを請おうが許されることはない。

「腕を持って行かれたら冒険者が出来なくなる。ゆるしてくれ」

「お前らは僕が殴られているのを止めたのか?止めないだろう?それが切られたから止めた。じゃあ、許されるまでやられるのがお前達への罰だ」

「すまなかった。本当に」

 気まずそうに許しを願っているが、どうせすぐに同じようなことをする。

「全員、片腕を切り落とせ。早くやれ、やれないならやるよ」

「金でどうにか」

「冒険者ギルドは白金貨10枚支払った。今回は1枚でいいか」

「は?冒険者ギルドが?白金貨10枚も」

 パーティーメンバー全員が顔面を蒼白にして立ち尽くす。

「誰か、冒険者ギルドのギルド長を呼んできてくれ。頼む。我々では無理だ」

「動けば刺す」

 氷の尖ったのを体の周りに配置して、動きを一切取れなくする。

「ギルド長に和解の案を出してもらいたい。冒険者ギルドに行かせてくれ」

「腕を置いていくなら構わない」

「それだけは」

 言葉が出なくなる冒険者達。周りは我関せずで遠巻きに見ているだけだ。

「早く決めろ。金か腕か」

 黙ったまま誰もしゃべることがない。どうしたいんだろうか?


「待たせた。どういう状況なんだ?」

 ルロイが来た。誰か呼びに行ったようだ。

「こいつが絡んでその子が許さないと。全員が腕を落とすなら許すと」

「そ、そうか、ランス君。クエストに失敗してムシャクシャしていたんだ。許してやってくれないか?」

「僕もムシャクシャしているからこいつら消していい?残るのはギルドカードぐらいだから、わからないよね?それに子どもだから絡んできたよ、そいつ。パーティーメンバーも見て見ぬふりだしね。じっちゃんも腕1本ぐらいはいいって、いってたよ」

 眉間にしわが寄る。

「ギリギリまで我慢もした。謝る機会もきちんと言葉にして伝えた。それでもひかなかったのはそいつらだ。腕を落として寝るからもういいでしょ」

「待ってくれ、こいつらはこの街で専属でやってくれている。必要なんだ。冒険者として活動できなくなるのは困る」

「そう」

 どうするのがいいか。

「わかってくれるかい?」

「わかった、街ごと消せばいいってことだね」

「なんで、それはやめてくれ。それはやってはいけない」

「だって、街があるからそいつらに処分が出来ないんでしょう?じゃあ、街ごと消せばいいんじゃないの?避難するぐらいの時間は待つよ?冒険者ギルドは僕に対して酷い扱いをしすぎる。我慢の限界」

 あいつらに使っている氷を消す。

「さあ、町の人を逃がすんだよ、ギルド長」

「待ってくれ、もっとやっていけない。どうすればいい?」

「じゃあ、薬師ギルドを仲介に挟んでくれる?また、だけどね」

「ここだけでどうにか」

「出来ないでしょう?街と薬師ギルドとの交渉をするのとどちらがいい?それに腕の話はじっちゃんが言ったんだよ?なんならじっちゃんに聞いてみて」

 歯を食いしばって考えている。

「わかった、薬師ギルドを仲介に挟む。冒険者ギルドまで来てくれるだろうか?」

「薬師ギルドの人と一緒ならね。いなかったり、呼べなかったときは問答無用でこの街に全力の魔法をたたきつける。わかった?」

「興味本位で質問させてもらってもいいだろうか?」

 なに?と返す。おでことかに汗が凄い。

「生活魔法のレベルはいくつなんだい?」

「生活魔法Lv.8だよ。普通の詠唱の魔法で同じレベルと比べると、威力側に振れば1レベルアップぐらいで使えるよ。生活魔法だから無詠唱だしね。ワイバーンの時はLv.7の全力で空中に向かってやって、周囲の木がなぎ倒されてあせっちゃったよ。辺境伯軍に魔法の威力を見せるときは、撃つのと反対側だったのに押し込まれたよ。辺境伯軍に見せるときはLv.8だったね」

「伏せたりはしていないんだね。冒険者でもLv.8はなかなかいないのに。その年でそれだけあげるのは素晴らしい才能だ。将来は魔法使いか、賢者もありえるんじゃないのか?」

「知らないよ。職が何であってもスキルからも取れるから何でもいいよ」

 そうかといって冒険者を連れて出て行った。僕も部屋に戻っていく。呼び出しがあるまでは待っていないとね。もしかしたら、明日になるかも。薬師ギルドのギルド長次第。時間外だったら、冒険者同士の争いに薬師ギルドを絡ませるのはどうかと思う。でも、こっちもひけない。じっちゃんがいいって言ったのをダメにするのは違う。じっちゃんより偉い人はいないはずだし。

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