ブライス子爵領冒険者ギルド2

「さてと、ランス君のことは必要最低限の情報共有しか行ってこなかった。名前と出身と何才でぐらい。どういうことが起こって、どういう経緯でS級扱いになったのかも。噂としては流れているけど、そういう報告は秘密になっていて見ることが出来ない。事実としてわかる人は本人ぐらいか、総本部の人間か。ちなみに総本部の職員が認証すれば、すぐにやめられる。それはいいとして、ええと今、そうだね、この国の各ギルド長がわかる情報はエルミニド辺境伯からの褒賞授与の依頼とビルヴィス公爵からの招待の依頼ぐらいだ。それ以外のことは知らないんだよ。だから、同じことを説明してもらわないと我々はわからない。仕事として依頼はお願いしないといけない立場だしね。問題が起こってランス君が何で知らないんだって、怒ったとしてもわからない。事実確認も必要になってくる。ランス君と話すための情報が、我々には全く足りないんだ」

 ルロイは自分でお茶を入れてテーブルに置く。僕の方にも出してくる。一口飲んで不自然に無言の空間になる。そう思うとギルド長の机の中から水晶を取り出して、座っている机の上に置く。何が始まるのかと思って見ている。もう一口お茶を飲む。

 いきなり赤く光って大音量で耳に刺さる音がする。思わず耳をふさいだ。ルロイは慌てることなく、手をかざして水晶に話しかける。

「ラント国ブライス子爵領ギルド長ルロイです」

「ラント国本部長ジェロイ。ランスの脱退がなされたようだが、確認しているのか?」

「私が許可しました。出来ない理由も説明しています。なにやらゴタゴタがあったようで、怒っていますよ。何度同じ説明をさせるんだと。どうして知らないんだと。ビルヴィス公爵の依頼については知らないとまで言われました。ギルド長に報告の共有がなされないと、依頼を頼むときの障害になっています。事実を知らないままに、彼の逆鱗に触れてしまったら街が消えるかも知れないんですよ?それほど好戦的な性格ではないようですが、我慢の限界はあるのですから」

「情報共有のために行ったと?総本部には事実確認後に連絡を行うと報告したが。やったとこはいたずらではすまん」

 本部長のため息が聞こえる。ため息をつきたいのはこっちなんだけど。

「せめて、ギルド長への報告共有を行っていただきたい。信じていないギルド長もいることでしょうから。ビルヴィス公爵領で何があったのかをまずは知りたいのです」

「まだ、報告があがってきていない」

「ランス君、説明してくれる?ロビーのところで何があったのか。ランス君がやられたことと、やったことを話してくれる?」

「ランス君がいるのか?」

「ええ、どうして知らないのかということの私なりの彼への回答です」

 手招きされソファで隣に座る。

「何があったのか知らないの?」

「すまない、まだ知らないんだ」

「前の街で領軍に囲まれながら説明したんだけどな。ああいうときって、冒険者ギルド依頼は道を切り開いていいの?交戦しないように気をつけたけど。いきなり止められるのは理由がないとイヤなんだよ。ビルヴィス公爵領のギルド長に宿屋から捕まえられて、冒険者ギルドに連れて行かれた。次から力づくの時は抵抗するからね。今回は我慢した。冒険者ギルドの特別な魔法鍵の部屋に閉じこめられて、依頼を受けろっていわれた。扉を切って出て行こうとしたら、ギルド長が緊急クエストで捕まえろって、襲われたから反撃した。ビルヴィス公爵領の冒険者ギルドは敵だ。そこからくる依頼は絶対に受けない。襲われたから冒険者ギルドも敵に認定しようと思っているけど、どうする?じっちゃんぐらいのと戦うならガンバるよ」

「エインヘニャル様とは戦えない。事実確認をした後に賠償を行う。領軍には手を出さないで欲しい。領主様たちは依頼をくれるので、関係が悪化するのは避けたい。依頼だけでなく、活動についても支援していただいている。これからも交戦を避けて欲しい」

 領軍と戦わないとなると、逃げるのが一番いいのかな。

「輝く太陽以上のを用意してよ。自分の実力がわからないから。あと冒険者ギルドがイライラさせるから、本気で戦ってみたいんだ」

「それは用意できない。エインヘニャル様がこられただけでも大事なのに、冒険者を用意するなど不可能だ。実力がわかっていないのなら、師匠方に聞くといい」

「まだまだ強くなるから怠けるなっていわれたけど?ちゃんと修練もしているもん」

「はあ」

 本部長は顔を覆ってしまう。神様とつぶやいている。

「師匠方を教えていただけないのですか?ヘルセに聞いても教えてくれないので」

「当然だ。ランス君のことは誓約がかかっている。しゃべるのも限界がある。冒険者ギルドに所属してから今まで起こったこと、それと今起こっていることはギルド長に共有できるようにしよう。ランス君がサルエン男爵領に帰るまでには報告をまとめよう」

「誓約ですか、知れるというならして師匠を聞いてみたいですね。依頼はどうされるのですか?」

「誓約のことはヘルセに聞いてくれ。依頼は保留。事態の把握と収拾をつけないと、これからの依頼を考えなくてはいけない。依頼の件はすぐにでも報告としてあげる。ランス君は依頼はなるべく受けるようにしてくれ。じゃないとほかのギルドにもお願いすることになる」

 ほかのギルドって関係ないはずなんだけど。なんでほかのギルドにいうと依頼を受けることになるんだろう?商業ギルドは絶対に何もいわせない。薬師にいわれたら、考えるかな?受けないといけない理由は聞くけどね。

「情報収集を急ごう。ランス君、あんまり無茶はしないでくれ」

「有無もいわせずに力ずくで、いうことを聞かせようとしているのは冒険者ギルドの方だけど?それに無茶するなら冒険者ギルドの支部ぐらいはぶっ飛ぶよ。関係ない人に被害を出さないように、前の街だって領軍に取り囲まれたけど戦いにならないようにしたよ。領軍も冒険者ギルドの要請で協力しているなら、冒険者ギルド側ってことでもよかったんだけどな」

「無闇に人を傷つけていないならいい。領主様の関係者と問題になることは避けてくれ。頼むぞ」

「エルミニドは敵だから次はない。ロビーのいる公爵領冒険者ギルド支部も。それ以外は考えるよ。ロビーのところはいようがいなくなろうが、支部自体が敵だから」

 わかったといって姿が見えなくなる。

「悪いのはロビーだから冒険者ギルド支部は許してくれないか?」

「捕まえるために冒険者に襲わせるようなところを許せるの?じゃあ僕も捕まりたくないって理由で冒険者ギルドを壊しても許されるんだよね?どこの支部でもやるよ?許すけど、いいって保証してね」

「いや、それは。一存では決められない」

「水晶で聞けばいいよ。目の前にある」

 水晶を指さして、ルロイにそういう。

「えっと、今のままで。本部長にお任せしよう」

「用がないなら帰るね」

「ちょっと待ってくれ、魔法使いとして魔法の極意とは何だと考える?」

「極意?極意って何?」

 魔法の?何だろうね。

「一番大切な、これが極めるためには必要なことといったところかな」

「魔法を極めるための一番大切なこと。うん?え?わかんないの?」

「いろいろ考えすぎて、わからなくなる」

「魔力の使い方。魔力の方法だから、魔法。それ以外にあるの?」

 いろいろ考えると?何を考えていたのかな。

「詠唱とか、短縮詠唱。魔力量。補助道具。魔導道具」

「魔力量以外は魔法を使うための補助。必要ない」

「どうやって魔法を使うんだ?」

「生活魔法と呼んでいるあれが極意っていうのになる。他のは魔法を使うだけなら必要ない。詠唱は魔力の使い方の練習にはいいかな」

 少し考え込んでいるので、お茶を飲む。詠唱するのが普通らしいから、魔力を感じて自分で変えるのは自分の感覚でやれるまでが難しい。だから詠唱が簡単で楽。詠唱が魔力を導いて変換して現れるから。導くための損失が発生するんだけど、それは大きな魔法ほど詠唱の導きに頼らないことで、魔法の威力が上がっていいことずくめなんだよね。

「私はレベルが上がったんだが、なぜ上がったのかがわからないんだ。よかったら教えてくれないか?」

「四属性をひたすら使っていくことだよ」

「普通は使えないと思うんだが」

「使えないんじゃなくて、使い方を知らないんだよ。レベルが上がっているなら四属性を使っているはず。詠唱をマネするところから、自分でどうすればいいかを考える、やってみる。生活魔法と呼ばれる魔力を使う方法なら、こんな風に属性にはこだわらないことが書物に記されているはずだよ」

 光を浮かべ、真っ黒い固まりをその横に浮かべ、さらに横に上位属性を浮かべる。

「四属性の上位属性と光と闇。使い手の希少な魔法ばかりだ。これを詠唱なしで。やろうとしても出来る気がしない」

「上位属性は魔法使いの人に見せてもらって、魔力の流れを解析してなんとか使えるようになった。もっと洗練して、もっと魔力をうまく、早く、効率よく使えるようになりたい。誰にも負けないように。負かされないように。生きるために暴力に耐えながら、空腹のままでなされるがままではいたくなかった。何も出来なかった。無力だったから生きる術を師匠達に教えてもらえて、生きることに希望がもてた。自分の力で生きていくことが出来るんだって、たくさん、たくさん教えてもらえた。もらったものを僕は蔑ろにしたくない。ずっと、修練もしている。教えてもらったことを使える、使うこと、それをさらに向上させることが僕のやりたいこと。教えてもらったことで僕は生きているんだから」

「そうか、師匠達は幸せなことだ。こんなに小さな弟子が日々精進に邁進しているというのはなかなかやれることではない。その年齢なら力を持って増長していてもおかしくないのに。すばらしい、私も師匠に習いやっていたが、途中で自分の力に溺れてしまった。ランス君のようならもっと多くの魔法を使えていただろうに。後悔はしてもしきれないよ」

 魔法はいつでも使えると思うけどね。しないのは諦めているだけだとは思う。生活魔法は使おうと思えばいくらでも使えるからやる気がないなら、ギルド長としてやってくれればいいよ。

「どのくらい、いや、明日には行ってしまうか」

「そうだね」

「生活魔法を使うコツはあるのかな?」

「詠唱や使える人の魔力の流れをまねする。出来るまでずっと。それならわかると思う。レベルがあがってくると自分のやり方とか、感覚とかに頼るしかなくなるから、詠唱で魔力の流れを感じるところから始めてみたら?もうレベル持ちなら出来るはずだよ」

 最初は何もわからない中で使い始めないといけないから、そこが大変だと思うけど終わっているのならレベルはあげやすいと思う。あとは続けられるかなってこと。他のよりもあがるのが遅いからね。

 教えられることは教えたと思って、バイバイと行って部屋を出る。下に降りるとお使いのイアンがいた。

「待っていたよランス君。普通の宿を取っておいたよ。それでなんでS級扱いをされているのか、教えてもらってもいい?」

「カードに書いてあるマークのワイバーンを倒したから」

「ええっ!ギルドカードにマーク入ってるの!見せてよ。まだマーク入りのカードを見たことがないんだ。お願いだよ」

 いきなり肩をつかまれたかと思うと、すごい力で固定されて顔を近づけてくる。近い近い。

「わ、わかったから離れて」

 ごそごそとして冒険者カードを取り出し見せる。カードにはワイバーンのマークとSのマークが入っている。名前とF級ってことも書いてある。

「本当だ。カードの説明通りだ。ワイバーンのマーク。それにあまり使われたことのないS級のマーク。討伐は1人でしているからワイバーンのマークに円がついていない。すごいよ。丸がついている人はたくさんいるけど、ついていないのは珍しい。すごいよ」

 目を輝かせながら説明されても、珍しい存在だってことはわかったよ。使われたことのないマークなんて困る。

「S級のマークを一般の人に、祝福前に使うなんて。勇者一行に使われることがあるから、ギルド職員には再周知されたんだ。勇者が現れたけど、見られることはないと思っていたのにうれしいよ」

 とりあえず普通には使われないマークばっかり入っているんだね。ギルド職員はわかるけど、普通の人は知らないってことかな。

「少し冒険者のことを知っている人なら討伐系のマークは知っているから、子どもだからって侮られることはないはず。カードを見せてみるといいよ。フフフ」

 不気味な笑いをするイアンからカードをひったくるように奪い返す。なんかゾワッとした。カードをしまうと残念そうにしていた。カードを見せるだけでおかしい感じになるなら、イアンには見せないようにしよう。

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