ブライス子爵領冒険者ギルド1

 街道は平和で何もなく、明るいうちに次の街へと来ることが出来た。冒険者カードを出して、検問に止められる。

「ランス。待て、冒険者ギルドに連絡を」

「何で待つの?」

「我々は冒険者ギルドに協力している。理由は聞かされていない。上からの命令で動いているだけだ」

 よくわかっていないけど、命令だから止められるみたい。また止められるのか。宿も取りに行きたいんだけど、早くしてくれないかな?端に寄せられて、誰かが来るのを待つ。たくさんの人達が目の前を行き来して、出入りしている。いいなあ。


「冒険者ギルドより参りました。お待たせして申し訳ございません」

「ランス、来たぞ」

 さっき止めた門番に呼ばれる。来たのが冒険者ギルドの人なんだろう。

「何の用?」

「すいません、迎えに行くようにだけ。子ども?」

「用がいえないなら、いかない」

「困るよ。必ず連れてこいって言われているんだよ」

 関係ないようだったから、検問の終わった人々に交じって街の中に向かう。

「ま、待ってよ~」

 歩いている人達の間をすり抜けつつ、パン屋で買い物をする。次に通り沿いの宿屋に入って、宿が空いていないか探していく。

「見つけた。待って」

 見つかったので、人混みの中に入ってすり抜けていく。宿屋が見つからないね。どうしようかな。

「捕まえた。行くよ」

 リュックを引っ張られて、宿をどうしようか考える。今のところ、部屋は取れていない。引っ張ってどこかに連れて行かれている。

「なんとか連れてきました」

 どこかの中に連れてこられて、手を離されたので外に向かって歩き出す。目の前を冒険者らしい人が立ち塞がる。

「話があるってよ」

「僕にはない」

「生意気なガキだな」

「冒険者ギルドがなくなってもいいかな?」

 答えるように言い返す。

「やめとけ、お前らじゃ敵わん。誰がこいつを呼び出した?おっかなくてしょうがない」

「こんなガキが?」

「さっきから魔力の動きだけで酔いそうだ。攻撃するつもりで隠さなくなったら、ダンジョンのボスぐらいの魔力を感じる。この街ぐらいは吹っ飛ばすくらいはやりそうだ」

「そんなわけない。こんな子どもが」

 急いで降りてくる音がする。階段のほうを見ると眼鏡をかけた人が降りてくる。

「君が話しに聞いていたランス君か。確かに可愛い顔をしている。うんうん。ヘルセには聞いていたが、これで祝福前とは。魔法はすでに世界有数の能力。輝く太陽を無傷で倒し、未だその能力を測れる者なし。逸材だね」

「誰?」

「自己紹介が遅れたね、ブライス子爵領冒険者ギルド長ルロイ。昔は魔法使いの冒険者をやっていた。研究もやっていたから、生活魔法もレベル持ちなんだ。よろしく」

「それで用件は?」

 髪をかき上げて、眼鏡をかけ直す。

「何か、用事でもあるのかい?」

「まずは宿を決めておかないといけない」

「イアン、ランス君に宿屋の手配を」

「迎えに行ったのも大変だったのに」

 文句を言っているね。僕が逃げたからとてもイヤそうだ。

「ちなみにランス君はS級だからね」

「ギルド長はF級だと、おっしゃっておりましたが。うそだったんですか?」

「いや。S級よりF級のほうが優先されるから、S級扱いのF級なんだ。祝福前は何があろうとF級。どんなに強くても凄くても、F級は変わらない。輝く太陽ってA級パーティーでS級に最も近いパーティーと呼ばれているはずなのに、総本部長の前で何も出来ずに負けたんだよ。わかるかな?」

「こんな子どもに負けるなんて、本当にA級なんですか?」

「エインヘニャル様の伝言として聞いているけど、冒険者ギルドの情報を疑うのかい?」

 しぶしぶと引き受けて、外に出て行った。

「さあ、これで宿の確保は出来るはずだ。ランス君には冒険者ギルドとして、依頼を2件受けて欲しい。強制するつもりはないけど、受けないなら受けない理由を教えて欲しい。理由については関係者でどうにか出来ないか、考えてみるつもりだ」

 何も答えずにじっとルロイを見る。

「では、最初の指名依頼。エルミニド辺境伯様よりワイバーン討伐の褒賞の授与について。偵察部隊訓練をやれるようにも手配してあるね」

「ワイバーン討伐の報奨は討伐したときにもらった。あと、辺境伯の信用がない。シルヴリンと剣で戦ったときに、スキルを使えない僕にスキルを使ったこと。王都の辺境伯邸でサンデイヴにスキルありで攻撃された。祝福前にスキルで何とかしようとした時点で無理。謝っても、報奨の上乗せがあっても信頼のない家に行きたくない。そんなに渡したいなら、冒険者ギルドを通じて送ればいいのに。危険なところには行かないよ。ワイバーンの巣に行きたいと思う?」

「行きたくないね。ふむふむ、行けるほどの信頼がないと」

「敵認定したから皆殺しでいいなら」

 何で僕が譲歩して王都の辺境伯邸まで行ったのに、これ以上は譲歩する理由がない。商業ギルドは1回だけでいいって、だからもう辺境伯のところに行く必要はない。大変だったけど、ちょっとほっとしている。

「敵認定?」

「敵は敵だよ。盗賊や魔物と一緒」

「危害を加えるから、盗賊とかと一緒だと?」

「敵を容赦する必要はない。ためらうことが油断で、自分が殺されることにつながる。必要なら排除する。盗賊や魔物の扱いだよ。魔物に出会ったときどうするの?戦わないときもあるけど、なるべく殺すよね?盗賊は殺してもいいはずだし、油断せずに排除する」

 おかしいことは言っていない。サンデイヴは殺すつもりで攻撃を仕掛けているんだから、僕が敵にする理由はもう十分すぎるほどある。

「辺境伯を殺してもいいと?」

「仕掛けてくるならね。何もしてこないなら何もしない、そのままだよ」

「なら、何かしてくるなら?」

「あらがうだけ。僕は生きるために戦う。ワイバーンも生きるために戦ったんだ。必要ないなら戦わなかった」

 ワイバーンも村に来なければ、戦うことも関わることもなかったはずなんだ。身を守るために戦うことを選んだことは、正しくて後悔もしていない。だけど、辺境伯に関わろうとしたのはいけなかった。こんなに面倒なことになるとは。倒せるか、確証がなかったし、もしも討ち漏らしたときのことを考えると、この国の辺境伯に任せるようにするのがいいと思ったんだ。辺境伯っていうのは強い軍隊を持っている必要があるから、僕が倒せなくてもなんとかしてくれるだろうって。見つかってしまったのは、しょうがないところなのかもしれないけどね。

「そうか、そう伝えておくよ。依頼方法とかも考えないといけないか。じゃあ、2つ目ビルヴィス公爵との談話の誘いを断ったのは?」

「その依頼知らない。前の街でなんか言われたけど、冒険者ギルドとしての対応待ち。条件はそこのギルド長が聞いているはずだよ。知らないなら冒険者ギルドが悪い。毎回毎回、同じような質問ばかりで話すのが面倒なのに。いい加減にして欲しい。冒険者ギルドって手間しかかからないから、やめてもいいんだよ。薬師ギルドの所属と商業ギルドの所属になったから、別に必要ない。やめる手配してよ」

「やめるなら、エインヘニャル様に通してからになるかな」

「いいから手続きして」

 口元がヒクヒクと動いている。冒険者ギルドっていつも同じ説明をさせるから、質問とかされたくない。

 受付のお姉さんの前でカードを出す。お姉さんは困ったようにルロイを見ている。

「いいよ、やってあげて。責任は取るから」

「わ、わかりました」

 入会の時のような、同じ物かな?カードと水晶の乗った台を出してくる。

「カードをここに載せて、水晶へ手を乗せてください。決まりだから聞きます。冒険者ギルドの優遇特典がなくなり、預け金があるときは別の預け場所、ギルドが必要です。また借金がある場合は速やかに返済していただきます。よろしいでしょうか?」

「いいよ」

 言われたとおりに冒険者のギルドカードを台のくぼみに置いて、水晶に手を乗せる。水晶は光ると真っ赤になった。最初の時は光って消えただけなんだけどな。

「少々お待ちください。ギルド長」

「ああ、そうなるとは思っていたんだ。冒険者ギルドが勝手にやめられたら困る人、等級の人がギルドをすぐ抜けられないようにしてあるんだ。S級、S級扱いは最上級だから当然だね。A級もかかっているよ。冒険者ギルドの本部から総本部に連絡して、やめる手続きを行わないと出来ないんだ。つまり、ランス君がやめたいって、すぐには抜けられないんだ。それとこれで総本部に連絡されたことになるね。ギルド長室に来てくれる?連絡が来るはずだ。これで1度に全部の話が、この国のギルドでわかるようになる。これからは同じ説明を冒険者ギルドでする必要はなくなるよ」

 なにやら、面倒なことになっている。ギルド長の後ろについて、ギルドの2階ギルド長室に通される。

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