通行止め突破

 ホレス伯爵領の街に着いたので、薬師ギルドカードを見せて中にはいる。まずは店によって補給をする。それから前はゆっくり出来なかったから、街の中を探索していく。店もたくさんあるし、人も多いし、建物も石造りが多い。普通の店も石造りで作ってある。うちの領主街の店は木造しかないのにね。

 騎士の人たちが巡回をしている。前の街では見かけなかったけど。歩いていくと、冒険者ギルドがあったから、素早く通り過ぎた。冒険者は出入りしていたけど、気づかれることなく宿に入っていった。わかるわけがないんだ、一度くらいしか行ってないしね。前の宿と同じようにゆっくりしよう。


 白んだ空で起きて、宿屋を出る。準備をする人に道を歩いている人、それに混じって帰り道を歩いていく。いつも通りに検問に並んで待つ。貴族側は緊急の時だけに使えればいいかな。なんか馬に乗った騎士の人が検問にいるね。前の時はいなかったはず。

「身分証を」

 冒険者ギルドのカードを出す。

「ランス殿ですね。こちらにおられました」

 大声で門番は騎士を呼ぶ。馬が通る道は割れてこちらに一直線にくる。どうしたんだろうか?

「初めましてランス殿。申し訳ないが、冒険者ギルドからランス殿を支部へ来てもらうように言われているんだ。一緒に来てもらえないだろうか?」

「なんで?」

「なにやら依頼がどうこうと聞いているけど、詳しいことはわからなくてね。公爵の依頼が何やら関係しているという理由でこちらも協力している」

「公爵?誰?知らないよ。関わり合いもないのに」

 うーんと騎士は困ったようにしている。

「とにかく来てくれる?」

「ヤダ」

「どうして?」

「行く理由がないから。じゃあ、騎士の人は家政婦さんが呼んでるよって行く?」

「行かないね。冒険者ギルドはお手伝いさんか何かなのかい?」

「冒険者を手伝うのが冒険者ギルドじゃないの?家政婦さんは家のことを手伝ってくれる人だよね?あと一番大事なのは僕が冒険者ギルドを嫌いで信用してないってこと。連れて行くなら、全力で抵抗する」

 風の固まりを横に出す。うごめくようにシュウゥと音を立てる。

「これは困った。全軍緊急召集!閉門!ギルド長を即時連れてこい!」

「緊急召集!緊急召集!門から離れろ!下敷きになるぞ!閉門!」

 鐘の音が短く鳴らされて、あたりに響いて呼応するように次々と響いていく。騒然とする検問、騎士たちは囲むように馬を並べる。

「絶対に戦うな。囲め。逃げられないように囲むんだ」

「盾戦士前に!」

 馬の前に盾を持った人たちが出てくる。構えて、金属音が響く。がちゃがちゃと音を立てて囲んでいる。どうするべきか。どうしたら。

「そろそろあきてきたから帰ってもいい?ちゃんとしたところを通ったらこうなるなら、通る必要なんてない。前もそういうのがあったから、別にかまわないんだけど。食料補充に最低限通る程度でも」

「どうやって、帰るのか教えてもらっても?」

「空だよ。辺境軍の中から飛んで帰ったんだから。上は空いている」

「飛行魔法が使えるのか?それは希有な魔法師だ」

「違うよ、生活魔法だよ。こんな風に」

 ふわりと1mぐらい浮き上がって降りる。

「これをうまくやって飛んでいくの」

「なにがどう違うか、魔法のことはわからない。飛べるということだけは理解した。使わないことを祈るだけだ。ギルド長はまだか。あっちからの要請だろう」

 怒声が飛ぶ。僕を捕まえるために準備はしていたのかも。街に入ったときには気づかれて、軍に要請したんだろうな。出る時をねらっていたのかもしれないけど、迷惑なんだけど。このまま大人しくしておくのがいいのか、それとも逃げてしまうのがいいのか。

「この子だけで我々が全滅させられるから、対処に困る」

「隊長、どういうことですか?鉄を切れるという情報はありましたが」

「王都からの情報でミスリルが蒸発したようだ。辺境伯の息子が盾戦士なのは知っているか?ミスリル製の盾が青白い炎で爆発して跡形もなかったそうだ。わかるか?現状、ランス殿の生活魔法に対抗できる装備が我々にはない。輝く太陽を擁して何させずに勝負を止められ、国内最強と呼び声高い辺境軍の防御陣形を余波で破ってしまうんだ。結界や盾戦士の防御スキルを使用している状態でだぞ?攻撃を受けていれば、瓦解するのは目に見えている。本当に我々でははかりしれん」

「ミスリル製の盾が蒸発した?我々では対抗しようがない。それ以上になるといくらかかることか」

 結構時間はたっている。そんなに待たされる必要はあるのだろうか?

「時間経ちすぎだよ」

「もう少し待ってくれないか?」

「全軍集まる時間はあったのに、誰待ちなの?遅いよ?」

「どうなっている?伝令は行ったのだろう?」

 周囲がざわついている。

「行っているのに遅いぞ。どういうことだ」

「何名か追加で引きずってでも連れてこい!あっちの要請でこちらが被害を受ける前にな」

 どこにいるのだろうか、冒険者ギルドの人は?風をそっと消す。周囲の温度を下げていく。

「盾の人、手が使い物にならなくなる前に下がった方がいいよ?」

「何のことだ。報告せよ」

「温度が下がっています」

 僕の周りの地面は凍り付いている。それは徐々に外側に広がっていく。空気が白く凍って、太陽に反射してきらきらしている。

「上位属性も使えるのか。青白い炎、炎属性なのか?!下がれ、凍傷にならない程度に下がるんだ」

 僕を囲む輪が広がっていく。隙間が出来てくるのは仕方のないこと。

「連れてきました」

 メガネをかけたおじさんが押し出される。

「遅くなって申し訳ない。ランス殿、ビルヴィス公爵様より招待があり、ビルヴィス公爵領冒険者ギルドより指名依頼が来ている。受けてくれないだろうか?」

「ビルヴィス公爵領の冒険者ギルドは敵だから受けない。魔法の鍵のかかった部屋に閉じこめて、依頼を受けさせるようなやり方の支部からの依頼を受けるはずがない。そこからは何があろうと受けない。総本部が指導に入り、総本部長が直接謝らない限り、受けることはない。あと、賠償を求める。そこの冒険者ギルドで襲われた。返り討ちにしたけど、ギルド長が緊急クエストとして指示していた。僕の言いたいことはそれぐらいだ。そちらの返事は?」

「は、え?」

 メガネがずれる。少し間があって、メガネをなおす。

「確認をするのでこの街で待ってほしい」

「イヤだ。待つ必要はない。確実に全てが出来るというなら返事を待つけど、やっぱり全部出来ると誓約を行うなら待つ」

「誓約は出来ないが待ってほしい」

「じゃあ、交渉決裂。帰るね」

 検問の方に向かって歩いていく。門は閉じられたままで。兵たちはじりじりと下がって、門のところまでの道が出来る。

「用事は終わったよね?開門してくれないなら、壊すけどいい?」

 指示をしている騎士に向かっていう。淡々と抑揚なく声を出す。待つのに疲れたのもある。

「ぐ、交渉自体は冒険者ギルドがして、こちらの任務は完了した。開門!」

「交渉の時間を稼いでくれてもよいではないですか?」

「ランス殿はS級扱いだろう。知らないとでも思ったか?1国を滅ぼすことの出来るとも言われるS級だぞ。ギルド長が来るまでの時間を稼いだんだ。十分だろう。それをいうならそちらが対応する人員を出せばいい。こちらにはこれ以上対応しかねる。領地内の危機ならば死を覚悟でも戦うが、死んでまでランス殿を止める理由はこちらにはない」

「ですが、公爵様からの依頼なのに」

「冒険者ギルドが依頼を受けて、冒険者に受けてもらうのだろう。それを領軍が手伝ったのだ。それを。自分たちでなんとかしろ」

 後ろで大きな声が聞こえる。言い争っているね。止めないなら関係はないので、街道を歩いて行く。やっと出られた。ひと息ついて、次の町を目指す。

 外に出ると門の前には少なくない人が待っていて、門が開いたことで中へと入っていく。人の流れが街道から街へと。街の中からはまだ、出てきていないな。それよりも先に進むことにしよう。移動をする人達の中では、どうしても遅い方になる。どんどん抜かれるのはいつものことだから、夕方までに次の街へと入れればいい。

----------------------------------

読んでくれてありがとうございます。

☆や♡を恵んでください。お願います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る