エルミニド辺境伯家からの呼び出し7

「シールドアタック」

 体が反射的に横に避けて、廊下にたたきつけられながら転がる。片腕をやられた。すぐに立ち上がると玄関に向かって走り出す。サンデイヴが盾でスキルを使ってきた。痛い、出そうになる声を反射的に押さえ込む。

 いつの間にかいなくなっていたので、気にしていなかったが盾を用意していたのか。

「逃げるな、痛い目に遭わせてやる」

「い、やっぱり」

 太っているので体が重そうだ。走り抜けると玄関の外に。後ろで息を切らせながら追いかけてくる。門のところまで走っていく。

「出すな」

 開けてくれそうな門番は手が止まる。

「ぼっちゃんには逆らえんのです」

 門の前で止まる。後ろからはサンデイヴが意気揚々と歩いてくる。反撃するしかないか。

「ここまでくれば、射程範囲だ」

 地面に盾をたてる。本気でやるようで、スキルには入っている。タメを行って、威力を上げるつもりのようだ。急速に魔力を集約して、サンデイヴに青白い炎を放つ。炎に速度はないが、周りのものを焦がしながら進んでいく。

「避けなさい」

「ですが、射程内です」

「はやく!」

 盾をそのままにして後ろに向かって逃げる。炎は盾に当たると急激に燃えさかり爆発した。爆煙がすごくて向こうが見えない。門の柵を切るとかいくぐる。腕を押さえながら貴族街の門を目指す。治す前に王都を出るんだ。各家の門番に見られながら急いで走って、息も切れながら警備隊のある門に到着する。

「身分証は?」

 ギルドカードを出して見せる。見た瞬間に表情が変わる。

「どうぞ、お通りください。失礼いたしました」

 通れるならいい。急いで出て行くと、今度は王都の門を目指す。人通りの多い中をかき分けながら進んでいく。腕が痛い。だけど、王都は貴族に有利な場所。外に出ないと、いつ捕まってもおかしくない。あんな頭のおかしい連中に付き合っていられるか。祝福前にスキルを使うなんて、やっぱりおかしい。

 息を整えつつ歩く。見つかる前にどうにか脱出するんだ。急げ。

 人が多い。王都は早く動くのは難しい。馬とかあればすごく助かるんだろうけど、世話とか無理だ。家にいないときもある。魔物におそわれるのはかわいそうだしね。人混みをかき分けるように進んでいく。腕が当たる度に痛みが出るけど、それよりもここを出ないと。

 痛い。苦しい。じゃまだよ。何で逃げないといけないんだろう。ここで戦ったら、関係ない人が巻き込まれてしまうことだけはわかる。威力を調整するのを間違えたら、店や建物が壊れてしまう。ここでは戦うことは出来ない。戦えないから逃げるしかない。走るしかない。息が苦しくても、腕が痛くても人がたくさんいて進みにくくても進むしかない。逃げろ、走れ、逃げろ。


 門の通行待ちの列が見えた。息を切らせて列の横を走っていく。一般の門のところまでくる。そのまま横の空いている貴族門に向かう。

「身分証を見せてくれるか?」

 ギルドカードを差し出す。

「少々お待ちください。確認をとって参ります」

 ギルドカードを持って詰め所に聞きに行った。深呼吸して息を落ち着かせる。ここを抜ければ、何とかなると思う。すぐに戻ってくる。

「ランス様、お返しします。どうぞお通りください」

 なにを確認したのかと思うぐらいにすぐ戻って、ギルドカードを戻してもらう。貴族門を通って、外に出て一安心。歩いて、人通りがまばらになるまで進んでいく。

 道からはずれるとローポーションを飲んで、傷にもかける。痛みは引いたのである程度は回復しているはずだ。痛みが引くと落ち着いていくのがわかる。その時ズワルトが出てきて完全に治してくれた。油断は禁物だけど、気を抜きながら道に戻って歩いていく。次の町までは明るいうちに着きたいな。


 町に着くと普通に入って、何事もなく宿屋に泊まる。明日からの食べ物は商業ギルドでもらったものでまかなえるけど、安くて買えるものは買って入れておこう。

「ランス様にお客様がこられました。下でお待ちです」

「追い返しておいて」

「すいません、こちらでは追い返せない相手でして」

「じゃあ、ここからでないからご飯は持ってきて」

 静かになって、ドタドタと靴音が外から聞こえる。部屋の前で音が止まる。

「いるんだろう、ランス。出てこい。扉を壊すぞ」

 外から乱暴な声が聞こえてくる。

「それは困ります。やめて」

 宿が悪いわけじゃないから、扉を開けるとごついおっさんが立っていた。近接系の人かと思う。

「おまえがランスか?ちっちぇえな。まあいい、おとなしくついてこい」

「なんで?それより誰?」

「ビルヴィス公爵領の冒険者ギルド長ロビーだ。エルミニド辺境伯様からの依頼を受けない不届き者が、この街にいる貴様だと聞いてきた。身に覚えはあるか?」

「辺境伯の息子のサンデイヴと依頼を取り下げる約束をしたよ。まだ出来ていないだけだから。でも、約束を守れない人の依頼を受けるのは出来ないかな」

「ええい、言い訳はいいから受けろ」

 え?今、話したよね?聞こえてないの?

「とりあえず、ギルドに行くぞ」

 黙っていると強引に腕を捕まれて、ヒョイと小脇に抱えられる。???

「離せ、ギルドなんか行かない」

「ジタバタするな。依頼の受理作業をしないといかん」

 イヤだと手足をばたつかせているけど、全く意に介さずに進んでいく。暴れているけど、腕の力で押さえられている。力だけだと負けちゃう。技術とかそういったもので、どうにか出来る部分と出来ないこともある。純粋な力だけでやられるとどうにもならない。筋肉のついたおっさんにスキルの効果もあるんだけど、子どもは勝てない。大人に子どもが力で勝てないんだよね。どうしても。

「離せ」

「黙ってついてこい」

「連れ去りだよ。人攫い」

 人攫いという言葉に歩いている人たちが、ざわつき始める。それが広がっていく。

「離せ、人攫い」

「うるさいぞ。黙っとれ」

「はなせー」

 騒がしくしているのに周囲の人たちは遠目に眺めてるだけだった。騎士団とかが助けにきてくれないのかな?人通りの多い場所を歩いているのに、そういった様子がない。

「あれ、人攫いってどんなのか見に来たらギルド長じゃないっすか。とうとうそういうヤバイ商売に、手を染めてしまうんですね。バカなことをたくさんするとは思っていたっすが、人身売買とはなかなかエグいっす」

「バカたれ、なにをいっとるか。こいつにクエストを受けさせるために、ギルドに連れて行ってる最中だ。おまえも逃げんように見張れ。さっきから暴れて逃げ出そうとする」

「見たところF級にしか見えないんすけど、受けさせないといけない依頼があるんすか?」

 しゃべる口調は軽い感じでさらりと髪をかき揚げている。ジャマなら切ればいいんじゃないのかな?

「お前はまたクエストをサボって、ナンパか?」

「違っす、女が離してくれなかったんすよ。だから、これからギルドに行くんす」

「夜間のクエストは難易度が上がって、お前には無理だろう。さっさと女のところにでも行って、明日の朝に出直せ」

「今は空いていてギルドの受付嬢が暇している時間なんで、話をしにいくんっすよ。クエストなんて、長期を探すくらいで、今からこなすヤツなんていないっす」

 大きなため息をついて、手足をバタつかせる。

「宿に返せ。ギルドでクエストなんて受けないぞ」

「ギルド長、この子にどんなクエストを受けさせるつもりなんですか?」

「辺境伯様からの指名依頼がある」

「はあ?F級に指名依頼っすか?この国の貴族様もおかしくなってしまうんっすね」

 冒険者は軽い様子で口走っている。立ち止まるとギルド長は冒険者の方を向く。

「そうなると、一番おかしいのは冒険者ギルドってことになるな」

「え?なんでっすか」

「わからんならいい」

「そんなこと言わないで教えてくださいよ」

 進行方向になおると歩き始める。ちょっと苦しい。腕の力が強くなってる。

「噂も知らんのか?子どもの冒険者のあり得ない話を」

「なんっすか、それ。冒険以外の話には興味がないっすよ」

「それならエインヘニャル様と輝く太陽の話は聞いているのか?」

「エインヘニャル様がこられていたのなら、一度拝見したかったす。冒険者の憧れっすから。でも、信じていないっす。冒険者ギルドが誇るA級パーティー輝く太陽が祝福前に負けたなんて。その前にどうやったら負けるのかが、想像もできないっすね。誰が流した噂でもたちが悪い」

 僕の上でそんな会話が繰り広げられている。もののように持ち上げられて、運ばれ苦しい。たまに暴れるけど、離してくれる様子はない。話も聞き飽きちゃった。ギルドまでは離してくれなさそうだ。

「それがこのランスらしい」

「・・・・・・まじっすか?」

「そういうことだ」

 もうどうでもいいからさっさと終わらせて帰ろう。ぐったりと大人しくしていよう。腕の中で揺られながら、ギルドに早くつかないかとだけ考えていた。


「特別室を開けろ」

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読んでくれてありがとうございます。

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