エルミニド辺境伯家からの呼び出し6
「生活魔法か。まあいい。次はスキルありの勝負だ」
所定の場所に立つ。スキルありとして、別に剣術とは言われてないね。どうしようかな?
「それでははじめ!」
木刀を起点に氷の延長をしていく。今度は油断なく避けている。驚いた顔はしているけどね。
「反則だぞ」
「ちゃんと生活魔法だよ?」
「そんな生活魔法があると聞いたことがない」
「知らない人は多いよ。生活魔法はスキルだから、頑張って避けてね」
感知能力があるから、真後ろとかに風の塊とか作ったりして、振り返らせたり、魔法感知を逆手にとって遊ぶ。倒すのはすぐに出来そうだけど、反応が大げさで見ていて楽しい。火とか危ないのは使ってないよ。けがをしてもらったら困るからね。詠唱時間がいらないから、いくら短くても詠唱のいる魔法に慣れている戦いだけでは、魔物とは戦えない。対人では強いが、人間と同じようにスキルを持っている魔物達の前では、今のように慌てふためくだけかな。
「いつまで遊んであげればいい?」
「私は負けていない」
「そうだね」
多少、小さい水や風、土の塊を当てている。目くらましに作っている生活魔法に比べたら、無視できるぐらいの小ささだけどね。
出来上がる生活魔法に素早く対処しているのは、見応え十分だった。木刀で捌いていくさまは、最初に感じた凜とした雰囲気が見てとれる。
飽きずに生活魔法を発生させていく。剣の才能も鍛錬の成果だろう。魔法に関するスキルはどうなのかわからないが、高める努力はしているはずだ。普通、魔法は切れないからね。
「おおう、凄いことになってるな。隊長!冒険者ギルドから説明できる人間が来ましたよ」
「あとにしてくれ、今いい感じなんだ」
「ランスはエルミニド辺境伯邸より使者が来てます。ランス、もう付き合わなくてもいい」
その言葉に生活魔法を止める。ギラリと光る瞳が僕に標的を定める。一気に距離を詰めて、ソードスラッシュを放つ。それを木刀でタイミングを合わせて相殺。技のあとに距離を詰めた隊長が剣を振り下ろす。ヤバ。
「な?!」
思わずクリスタの剣を作り、木刀を受けたつもりが切り飛ばしてしまった。バランスを崩してエロイーズが倒れ込んでくる。技はいい使い方をしている。教える人がよかったのかも。倒れてきた衝撃で、何が起こったのかわからなかった。
「隊長のせいで辺境伯様のご客人の引き渡しが遅れてしまったじゃないですか」
「少しぐらい構わないだろう。向こうは招待した客人をほったらかしにするような非礼な貴族。問題ない。最も重要なのはランスがS級扱い、S級であることよ。子どもであるし、平民にしか見えん。警備隊には徹底に教育しておけ」
「そこは抜かりなく」
起きるとベットの上だった。
「起きたかランス、まさか倒れただけで気絶するなんて」
「頭打ったのかな?」
「そうかもしれない。まだ、体が出来ていない、技術は素晴らしいが体を壊さないようにすること。教官にたっぷりと怒られてしまったよ」
最後の体当たりはびっくりだよ。呆然として、ベットから降りる。体を動かして、痛みがないか確認していく。問題ない。
「まさか、エインヘニャル様が公認されているとは。疑って悪かった。でも、試合は楽しかったぞ。またやろう」
「もういいでしょ?」
「いいだろう。暇なときに付き合え」
「暇じゃないよ」
「そうか、つまらんなあ」
少しだけ寂しそうにうつむく。
「ランス、辺境伯様のところから迎えが来ている。こっちだ」
面倒だけどついて行く。警備の建物から出ると馬車が待っていた。
「ランス様、大変お待たせして申し訳ございません。お詫び申し上げます」
「じゃあ、帰るね。屋敷に行くっていうのは守ったからね」
「どうか、怒りを静められてお越しください」
「イヤなのを行ったんだ。そちらの事情には合わせたのに、どうしてもう1度?理由は?こちらはイヤなのを商業ギルド長に説得されて、行くことは了承した。行くことはね。それ以上は客の対応も出来ないのが悪い」
深々と礼をする執事。行くことには行ったから約束は果たした。
「こちらの不備に対しまして、お詫びをいたします。お詫びの品をご用意いたしますので、納めていただけますようにお願いいたします」
「いらない。じゃあ、お詫びとして今すぐに帰らせて。それで納める」
「そこを何卒、お願いいたします。歓迎の準備は整っておりますので、お願いいたします」
「なぜそれを僕が来たときに出来なかった?辺境伯の依頼とかどうでもいいんだけど?」
地面に額を押しつけながら、お願いしますと連呼する。
「話のみ。時間はかけない。必要外のことは話さないなら」
「かしこまりました。そういたします。馬車にどうぞ」
馬車に乗り込んで再び辺境伯邸につく。すぐに部屋に通されるが、誰もいない。はあ。面倒。帰ろう。
「すぐに来ますので、お座りになってお待ちください」
「時間はかけない」
「申し訳ございません」
座ってお茶が出される。
「いらない。出すな」
用意しようとするメイドはそのままお茶を戻す。待っているが、一向に来る気配がない。
「帰る」
「もう少しだけ」
立ち上がるとドアに向かう。廊下に出ると太った貴族の男と鉢合わせる。
「戻れ平民。貴族に楯突くなど、許されんぞ」
「それで?」
廊下で対峙し、ピリピリとした空気が流れる。
「なぜ当家の依頼を受けない?」
「お金ならもらったし自分で稼ぐから、行く必要なんてない」
「目的はそれだけではない。平民にはわからないだろうが、信賞必罰といってな、よくやった者には褒美をやらんといけないんだ」
「これ以上いらないから、依頼を下げてよ」
ため息をつく太った若い男。名前も知らないけど。
「褒美をやろうというのに、来ないとは貴族に逆らうことだぞ」
「シルヴリンに殺されそうになったからね。行きたくないよ」
「それにしては何かされたようには見えない」
「祝福前の子どもにソードスラッシュを放つヤツがいるところになんて行きたくない。祝福前にするなんて、貴族なら人を自由に殺してもいいんだね。貴族って偉いね」
太った男は顔を真っ赤にしている。
「むやみにそんなことをするはずがない。それにシルヴリンがスキルを使っただと?使うはずがない。行きたくないからって、勝手にそんなウソをつくな。これだから平民は」
「使ったんだから、それに行きたくない理由はそれで十分だよね?ウソと決めつけるならそれでもいいけど、本当だったときは2度とこういう依頼をしないで。ここに呼びだしているのに、知らないなんて信じられない」
「黙れ平民。これ以上の虚偽は許さない」
「約束は守ってよ。それじゃあ、これで」
「何事ですか?声が屋敷中に響いていますよ」
廊下を歩いているとドレスの貴族の女性がやってくる。誰なんだろう?
「サンデイヴ、あまり大きい声で話すのは感心しないといつも言っているでしょう?」
「違うのです、フィリーダお姉さま。この平民がおかしいことを言うのです。シルヴリンがこの平民に向かってスキルを使ったとウソをつくので、使うはずがないと教えているところなのです。フィリーダお姉さまからも言ってやってください。この詐欺師に」
「この方はどなたなのですか?本日はお父様から当家にとっての重要な来客があると聞き及んでいます。サンデイヴ、対応はあなたが任されていますよね?どうなっているのですか?」
「ですから、この平民のことで平民としての教育をしているのです」
2人の会話に少し時間が空く。
「重要なお客様との交渉をしているのに、うそつきと?確認はとったのでしょうね?本当のことかどうかもわからないのに、うそつき呼ばわりしたのですか?」
「このボロの服を着ているような平民が、シルヴリンのことを知っているわけがないのです。知らないのにスキルを使っただのと、口八丁にほざくのです。これは貴族としてウソはいけないと、平民に教えてやらねば貴族の教示に反します」
「本家に連絡を。シルヴリンがランス殿にスキルを使った事実があるのかどうか、今すぐに確認しなさい。それとすぐにお茶をお出ししなさい。当家にとって重要なお客様に失礼がすぎるわ」
廊下に立ったまま、お姉さまは指示を出した。メイドはすぐに対応を始める。
「フィリーダお姉さま、このような平民にそこまでしなくとも」
「お父様の手紙はきちんと読んだのでしょうね?」
「このような平民がワイバーンを倒したなどとおかしいと思いませんでしたか?」
「おかしいと思うのなら調べるべきでしょう。確認は招待をしたあなたの責任です。責務を怠っているのはサンデイヴ、あなたです。予定がずれてよかったです。ランス殿、サンデイヴに替わって私が交渉させていただきます。先ほどまでの無礼をお許しください」
そういって、ただこちらを見る。そっちが悪いんだよね?
「ウソじゃなかったら、依頼の取り下げてくれるので帰るよ。約束したからね。守ってよ。それに依頼以外でそっちに関わる気はないからよかった。確認までここで待つよ。帰るのに部屋に入る必要はない」
サンデイヴはフィリーダにニラまれる。
「お茶もご用意いたしますので、ぜひ」
「警備隊でもらったから、今日はもういい。クッキーも食べた」
「お話は出来るのでしょうか?」
「必要あるの?報償自体はあの場でもらったから、これ以上必要ない。わざわざ遠い辺境泊のところに出向かないといけないのも面倒。逆に僕が行かないといけない理由は?そっちのあげないといけないんだっていう理由は、僕の行く理由にはならないよ」
沈黙があたりを包む。渡さないといけない以外の理由がないなら行く必要を感じない。行くのが面倒だから、行きたくないんだよね。
「シルヴリンのことで気を悪くされたのでしたら、本人から謝罪をさせます。どうか、本邸に行ってもらえないでしょうか?」
「そういうことじゃなくてね、約束を守れないから嫌なの。僕は祝福前だからスキルが使えない。だから、シルヴリンとは剣のみっていう約束だったのにスキルを使うなんて。こっちも使えばよかったのかな?剣のみでスキル使うとか、殺す気だったんだ。そう考えると普通は死んでいるから、辺境伯家では死んだことになってるはずだね。死人が依頼や願いを聞き入れるわけがない。僕が聞かないのはそういうことだ」
「そこをなんとか出来ないでしょうか?」
「じゃあ、スキルなしでソードスラッシュをあれは何発受けたかな?防ぐか避けて。装備はなしでね。僕にやるぐらいだ。やってくれるならね、考える。あ、でも僕はいないことになっているから、行くことはないか」
やろうと思えば、出来ると思っている。ソードスラッシュは曲がったりしないから、見極めれば出来るはずだよ。練習すれば出来る。
「そのようなこと、出来るのは達人のような御仁だけです。普通ならば出来ないことです」
「普通は出来ないの?スキルを持っていない僕が出来て、持っている人が出来ないの?」
「はい、ソードスラッシュは受け流すか、相殺、受けるのが普通です。相殺も同じような技で打ち消すのです」
避けたりはしないってことなのか。剣だけでも相殺は出来るはずなんだけど。合わせるのが難しいけど、練習すればいいだけなのに。そんなに練習出来ないほど忙しいのかな?
「お嬢様、確認が出来ました」
執事がフィリーダに頭を下げる。
「どうだったのですか?」
「ランス殿の仰るとおり、シルヴリンお嬢様が何でもありにしようとしたところを剣の勝負にしたようです。シルヴリンお嬢様のソードスラッシュをただの模造刀で相殺し、その後剣を返却したランス殿にソードスラッシュを連発したそうです。そして、連発されたソードスラッシュを避けきって、シルヴリンお嬢様を無力化したということです」
「本当なのですか?にわかには信じがたいことです」
「旦那様と騎士団長、副団長が証言すると。ほかにも騎士団員の証言があり、幻惑等の魔法がないことを魔法師団が証言すると本家からの連絡がございました」
真実が告げられて、信じられないようだった。
「約束だ。依頼は破棄してよね。それじゃあ、呼ばれた理由はなくなったから帰るね」
「お、お待ちください」
玄関に向かって歩き出す。聞く必要はない。
「約束を何度も無視するなら、敵と見なすけどいいよね?もう、貴族だからって許さないよ」
「もう1度だけ機会を、お願いします」
「攻撃されるようなところに、商業ギルド長に頼まれたからきたんだ。2度はないよ」
歩いているといきなり扉が開いて、何かが飛び出してきた。
「シールドアタック」
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