エルミニド辺境伯家からの呼び出し5
お茶も終わったので、暇だなと思いながら部屋の中を見回す。豪華というか、いろいろと高そうな物を置いている感じだ。やっぱり、貴族の相手をするためにはこういうゴテゴテしていないとダメなのかな?
「どうした?暇なのか?食後の運動でもどうだ?多少の剣術の心得があると噂が流れてきているぞ?」
心得はあるかもしれないけど、今はスキルがないから職持ちなどには相手にならない。負けると思う。
「なに、木刀で打ち合うだけだ。スキルは禁止としよう」
「ほんとにスキルなし?」
「思わずでるかもしれないが、そのときは私の負けでいい」
「打ち合うだけで勝ち負け決めるの?面臭そうだからやめとくね」
部屋を見ていただけで、大人しく待っているからそのままでいいでしょう?
「いいだろう。どうせ暇だから」
「暇だから手合わせしろって、祝福した人間に言ってよ。僕はまだだから。お茶でも飲んで待っていればいいんだからね。そんな必要ないよ」
「何よ、誰も手合わせをしてくれないから言ってるの。隊長だからとか、強すぎるとか聞き飽きた。誰でもいいから向かってきてくれるならいいの」
「それこそ、僕に関係ない。だいたい、貴族っていうのは、自分で決めたことも平気で踏みにじるんだからイヤだ。エロイーズさんも貴族でしょう?」
一瞬で顔がこわばる。
「確かにそういうことはあるかもしれないが。だが、貴族が全員そうであるわけでは」
「相手にしてもらえないなら、自分でどうにか練習するしかない。修練はそういうものだと聞いているよ」
「は?誰がそんなことを?」
「武の師匠がそういってた。レベルの先を見てみたいとも」
口をつむぐと立ち上がり、どこかへ行ってしまう。殺気を身にまとって帰ってくる。面倒な人だ。
「そんなにいうのなら、弟子の貴様もそれなりにやれるのだろう?口ではなく、実力で証明して見せろ」
「面倒なんだけど、実力をどうして見せないといけないの?」
「師匠はお前を腑抜けに育てたのか?」
師匠を悪くいわれるのはイヤだ。
「スキルなしを守ってくれるなら、いいよ?」
「ふん、よかろう。スキルを使えば、私を好きにするがいい」
剣の人はどうしてあんなに戦いたがるのかな?実力とか、そういうことじゃなくて、戦わなくてもいいよね。何で戦うことになっているんだろう?
ついて行くと広場にきた。何人か戦っているのを見ると、訓練場なのかも。隊長が入っていくと訓練をやめて、訓練用の剣をしまう。別にやっててもいいんだけど。
「いつものことだ、気にするな」
寂しげに口にする。
「木刀でいいだろう。軽いが問題ないだろう。短い方がいいか?」
「ふつうので大丈夫だよ」
「久々に人と打ち合える」
愉悦の表情を浮かべるのをこの人平気なのかと考えつつ、受け取った木刀を振る。使い込まれた木刀、扱えはするかな。
「お互いにスキルはなし。先に使ったら負けだ。優劣の判定はどうするかな」
「それは教官の私がやりましょう」
傷が顔に入っている、頭がツルツルのおっちゃんがやってくる。
「公平に頼む。スキルを使ったら負け。それ以外は教官の判断に任せる」
「かしこまりました。それではお互いに準備をしてください」
彼女は素振りをしていて、僕はちょろちょろと訓練場を歩く。ふつうの訓練場だ。地面があって、1人で練習するための木の棒が突き刺さっていたり。
「そろそろ始めます。君、戻っておいで」
教官に呼ばれたので戻っていく。木刀は大人用に作られているので、僕には大きい。それを振りながら、身体を振られ戻っていく。持って行かれるね。
「木刀が大きいようだけど、短いのに変えないのか?身体を振られていたから、軽いのにしないか?」
「うーん、それよりも自分自身が軽いから木刀まで軽くなると体力切れをねらうしかなくなる。訓練だから、それじゃ勝つことは出来ないよ。だからこのままで」
「君がいいなら構わない」
教官は2人の位置を調整して、勝負を始められるようにした。準備が出来た確認を再度される。
「では、勝負を開始します。構え!」
木刀を正眼に構える。
「はじめえぇぇ!」
気合いの入った声がしたが、2人とも構えたまま動かない。動かないか。
僕のほうからじりじりとにじり寄る。スキルの使用は禁止だから、負けても死ぬことはないはず。守ってくれればだけど。じわじわと寄りながら、相手の反応を伺う。見る限りは踏み込みに合わせる形で剣先が動いている。シルヴリンのように猪突猛進してくることはないようだ。
エロイーズの剣が届きそうな場所で止まる。剣はいつでも交わることが出来る。動かない。しかたない、すっと横薙ぎに木刀を当てる。その木刀を受け流すようにして、刃を内に入れる。いい腕だ。少し下がる。追っては来ない。
「何で来ないの?」
「早く終わってはもったいない。基本に忠実な素直な剣だ。いい筋をしている」
どうも長く戦いがために好機を捨てて、様子見に徹しているようだ。また近づいて、下から上に切り上げる。上から刃を交えると、これも受けて右へと流してくる。
何度か繰り返していく。何度も終わらせることは出来たはずだが、一切追うことなくその場に立ち続けている。そろそろ、ちゃんとするか。
「うっん」
太刀筋に合わせて、剣を外にしたまま懐に入っていく。正直、何の変哲もない突進だ。刃の下をくぐり抜けると、バランスを崩したところに木刀を捨てて、片足を持ち上げて倒す。それと同時に手にけりを入れて、木刀をそらす。素早く身体を入れて、馬乗りになるとのどに向かって拳を振り下ろす。
「勝負あり!そこまで!」
地面に倒されたまま、目を開いて僕を見ていた。止めた拳を戻すと彼女から離れる。これでいいかな。
「卑怯だぞ、剣術の勝負だろう」
「エロイーズ殿、勝負をしなかったのは貴女だ。彼は何度も撃ち合いを仕掛けて、勝負をしようとしていた。誘いを一切受けず、流されなかったのは、勝負としてはよいのかもしれません。剣術としての勝負は貴女、エロイーズ殿の勝ち。総合としてみれば、彼の勝ち。判定はそう判断します。それと最初に私は勝負としか聞かされていませんでしたので、彼の勝ちととります」
「な、どこが勝ちなのだ?殴られそうになっただけなのに」
「あの状態でねらうのは顔ではありません。喧嘩ではなく勝負として、のどを潰すつもりで拳を降ろしていましたよ?それに逆の手は頬の上を押さえていたでしょう?」
確かにと隊長は答えている。
「勝負ではありましたが、殺し合いではないので、目を潰すまではしなかった。本来は目を潰してから、のどを潰す2段構えになっていて、上に乗られた時点で片目はやられていたでしょう。のども本気ではするつもりはなかった。スキルなしではうまくやられましたな」
「なんだと、もう1回勝負だ。次は負けん。剣術の勝負だ」
すごい勢いで目の前までくると木刀を出してくる。
「隊長さん、何度やってもスキルなしなら結果は変わらなないよ」
「1度勝ったぐらいで調子に乗るな。証明して見ろ」
肩をすくめて、始まりの位置に立つ。
「いいのかい?」
「あと1回だけね」
「それでははじめえぇぇ!」
かけ声と同時に駆け出して、間合いにはいる。彼女の木刀の下を滑るようにして、木刀と一緒にくぐり抜けると、そのまま横薙ぎを当てる。
「勝負あり!」
「何だ、奇策ではないか。あんなのなし、なし。認めない」
「油断としか言いようがない。純粋な剣術でございました」
「あんな奇策がか?」
「討伐速度優先の立ち回りになれば、あることでございます。先兵を得意とする剣士では、使うことのある方法であります。剣士の使う技であるのなら剣術でございましょう」
不満で納得いっていないのを隠そうともせずに地団駄を踏んでいる。
「もう1回だ」
「もういいよね?剣術で戦ったんだから」
「もう1度だ、あんな不意打ちに次は騙されん」
「不意打ち?あれが?距離はあって、走って行ってからの攻撃なのに対処できないのが悪い」
対処を知らなかったのか、間違ったのかは知らないけど、油断していたのが悪いね。勝負の最中だよ?不意打ちなはずない。
「ランス、お前は面白い。もっと勝負しよう」
「仕掛けてこないから面白くもなんともない。面倒だから魔法攻撃の的にでもなっていて。それだけ動かないなら、詠唱から発動までは十分でしょう?」
「私は魔法感知を持っているから、狙われていたらわかる。詠唱の時間の終わる前には移動している」
「詠唱短縮は?」
「短縮しても数秒は必要だ。大魔法ならば余計に時間がかかる。その間になんとかすればいい」
それで待っていることが出来るのか。それが自信なんだろうな。ここじゃなくても、軍隊で活躍できそうなスキルだけど。
「いいから、私の相手をするんだ」
「もう出来ないよ。次はスキルありでやろう?ね?」
「それはかまわないが祝福前の子どもには絶対不利だぞ?」
「そう?ワイバーンを倒したスキルだよ?教えてもらったおかえしに生活魔法ってことは言っとくね」
「生活魔法か。まあいい。次はスキルありの勝負だ」
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読んでくれてありがとうございます。
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