エルミニド辺境伯家からの呼び出し4
「ランスだろう?身構えろ!オラッ」
腰に差していた剣を投げつけて来た。反射的に風を作り出して切り刻む。金属音を立てて、地面に落ちていく。いきなり剣を投げつけてくるなんて、危ない人だな。
「全員剣は抜くなよ。命令だ。ランス、辺境伯邸がお前のことを探している。正式に貴族街警備隊に命令が来ているんだ。大人しく行ってくれないか?鉄を切れるとか、ウソかと思ったがハーバードはウソをいってなかったようだな。となるとエイブラムのワイバーンも本当のようだ。ランスがこのまま出て行くというのなら、我々の手には負えないから国軍に要請することになるな。国軍でも本気出されたら無理だろうが」
馬を下りると近づいてくる。
「学友のよしみで連れて行きたい気持ちはあるんだが、どうして帰って行こうとしているんだ?」
「え?ちゃんと行ったけど?招待は辺境伯邸。馬車から降りてそのまま玄関の前で待ってたけど、誰も来なくて門番に出してくれるように行ったけどダメだった。しばらく待ってメイドが来たから、待たされた理由をきいたけど説明してくれなかった。だから、門をよじ登ってきたんだ。行くなら待たされた理由を説明してくれないと行けない。ずっと外にいたしね」
「そ、そうか。ちょっと待っててくれ。人を呼んでくる」
近くにいる人を呼ぶ。
「ランスの話を聞いたな。辺境伯邸に行って、人を呼んで理由を説明できる人間を連れてこい。むこうの依頼だ。人が来られないなら軍を呼べといえ。もちろん俺の命令で即応を求めているとな」
返事をすると騎士はマントのおっちゃんの馬を借りて走り出す。
「立ち話もあれだから、うちの詰め所で茶でも出そう」
「いらないから帰らせて」
「クッキーも出そう」
「クッキー?どうしよう」
「王都で有名な菓子屋のクッキーだぞ?」
「おいしいの?」
当たり前だと答えるのでついて行くことにした。
「俺は王都の貴族街で警備副隊長をしているマルコだ。そうだ、ワイバーンはどうやって討伐したんだ?」
「風だよ。おっきい風の刃で放ったら、首が落ちたんだ。図鑑で調べたけど、皮膚が鋼鉄ぐらいの強度があるって書いてあった。身の部分はそれほどじゃなかったみたいだけど。皮さえ通ればスパッと切れたよ」
「その皮を切るのが大変なんだがな。飛ぶのに魔法を当てるのも大変だろうに。詠唱とかはどうするんだよ」
「詠唱?生活魔法に詠唱なんかないでしょ。詠唱なんかしていたら、さっきみたいな時は死んでいるよ?違う?」
鎧のこすれるような音と一緒に歩いている。どこに向かっているのかはわかっていない。大きい家が多く、庭や噴水、門番がいる。門から家までが見えないところもあって、広い家もあるから中がどうなっているのか不明だ。
「それもそうか。詠唱なんかしていたら、さっきでけがになっちまう。まあ、外れるように投げたから魔法が使えなくても死にはしないからな。ちょっと切れるぐらいでなんとかなるさ」
「剣を投げるとか、騎士としていいの?戦えなくなるんじゃない?武器投げて、いけるの?」
「ああ、そうだな、剣を投げるとスキルが大半使えなくなるけど、身を守るぐらいのスキルはあるからいいさ。お前ぐらいの人を相手にするのに、俺ぐらいの技量じゃどうにもならんよ。大丈夫さ」
それでいいのかなと思いながら隣を歩いている。門の入り口には立派な建物がある。貴族街じゃないところの一軒家ぐらいの大きさだ。
「小さいが詰め所だから十分だろう?こっちだ」
その詰め所でも大きめの一軒家なのに、その貴族街警備隊詰め所と書かれた建物を通り過ぎたところに同じ大きさの建物があった。幹部室と建物の入り口に書いてある。
「狭いが時間はかからんだろうから待つんだぞ。ランスのことはハーバードから聞いている。この子に菓子屋のクッキーとお茶を。辺境伯様の客人だ。なんだ?噂のことを聞きたいのか?俺の剣は切られたぞ。支給品のやつな」
振り返るとメイドさんと警備隊の人たちが並んでいた。メイドさんはすぐにどこかに行ってしまう。
「マルコ副隊長、実際に出来ると思いますか?」
「同期の言葉を疑うつもりはないが、信じられん。しかし、実際に鋼鉄の剣を切られたんだ。信じるしかない。実際、辺境伯様のところから直々に依頼されたんだ。噂の真相を追求するわけにはいけない。わかったら戻れ」
言われたから仕方なく出て行くようだった。
「マルコ、捜し物は見つかったのか?」
出てきたのは女の人で、鎧はつけていない。凛と澄んだ感じのする、綺麗な人だった。立ち姿がピシッとしている感じ。
「この子がそうです、隊長」
「どこの没落貴族の家系だ?それだけの能力があるのなら、分家かもしくは平民落ちした者達か?そうなると調べがつかんか」
「たまたま、うまくできるだけじゃないんですか?魔法のことはさっぱりですが、剣はうまくやれば出来るでしょう」
「まったく、スキルは祝福後だ。剣のスキルすら持っていないのに、ソードスラッシュを消しただの、ワイバーンを単騎討伐しただの。信じられるか。坊やも有名になりたいからって、嘘はよくないぞ?」
見下ろすように冷たい視線が僕に刺さる。嘘をついていない。実際全部したことだから、嘘と言われても困る。
「認めないのか?早く嘘だと言っておけば、噂がタダの噂になるだけですむ」
「何が嘘なの?僕は嘘をついてないけど。どれが嘘なの?」
「ワイバーン討伐だな、まずは」
ギルドカードを取り出してみせる。
「F級のカードを見せられて、どうしろと?」
「このマークの意味は知ってる?」
「モンスターのようなマークとSのマークがある。それぐらいはわかる」
「マークのついている意味はわかるの?知らないよね?これは冒険者ギルドがつけたものだよ」
「マルコ、分かる者を連れてこい。説明させろ」
冒険者ギルドに連絡してきますといって、どこかに行ってしまう。取り残されてしまう。
「噂はどうあれ、辺境伯様からの依頼だ。こっちへ来い」
やたらと豪華な部屋に通される。無駄に装飾やらがごつごつとついている部屋だ。
「平民の子をここに入れることになるとは、全く辺境伯様は何を考えておられるのだ。このような子供にだまされて」
「そんなこというなら、帰らせてよ。行きたくないからさ」
「それは無理だ。辺境伯様がだまされていようがいまいが、任務なのだから引き渡さなければならない。せっかくだ、クッキーぐらい味わっていけ」
メイドさんが運んできたお茶のセットが机の上に並べられる。隊長は椅子に腰掛けるとお茶に口をつける。そしてクッキーを口に運び、少し頬がゆるんでいる。さっきまでの雰囲気がやや崩れる。
「エロイーズ様、お客様の前です。ご注意なさいませ」
メイドはそういって一礼する。隊長は咳払いをして、紅茶を飲んでいる。反転して出ようとすると、メイドさんにドアの前をふさがれて、なぜか隊長の横へと強引に座らされる。
「おいしいぞ、食べるといい」
クッキーをふつうに食べながら、すすめられた。なんか、なんかだけど、うれしそう。違和感を覚えながら、クッキーを食べる。
「おいしい」
口の中に入ると甘さと香ばしい感じが広がっていく。甘いのを食べる機会がないから、食べていこう。お茶は甘くなく、クッキーの味をジャマしない。手を出して口に運ぶ手が止まらない。
「そうだろう、そうだろう。この菓子屋は人気があって買うのも大変なんだ。うちのメイド達は優秀だから、切らしたことがない。実は私もお気に入りなんだ」
ゆっくりと一口づつ食べている。お茶を飲みながら聞いている。甘さとクッキーの味がどうこうといっているけど、よくわからなかった。おいしかったらいいんじゃないかな?
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読んでくれてありがとうございます。
☆や♡を恵んでください。お願います。
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