エルミニド辺境伯家からの呼び出し3

「ランス様、辺境伯邸よりお迎えが参りました」

「はーい」

 バックとリュックを担いで降りていく。足取りは一段一段重くなっていく。よく手入れのされた絨毯の上を歩いて、入り口に歩いていく。

「この子が本当にランスなのか?」

「間違いございません。商業ギルドより辺境伯様のお迎えがあるまで、宿泊していただくように承っております。また薬師ギルドからも、ここで泊まるようになるとのことで、紹介を賜っております。ですので、当宿にてランス様は身分が証明され、保証されております。他にはございますでしょうか?」

「いや、結構。どんな御仁かと思っていたのがこんなに幼かったのが意外でね。ではランス殿、今回御者を担当する、バンスと申します。それでは馬車にお乗りください」

 外にでると、馬車の入り口が開けられて乗り込む。馬車が走り出して、街の風景が流れるように見える。そんなに早くはないけど、お店の飾りが徐々に高そうに見えてくる。

 馬車が速度を落として止まる。着いたのかな?窓からは外のプレートメイルの騎士と目が合う。すぐに前のほうにいってしまう。

 そのあとすぐに、馬車は動きだして門をくぐった。中は外に比べたら大きくて広く、なんか高そうに見える家が並んでいる。服装からすると貴族かな?無駄に高級で着飾っている。派手って言うのかも。普通の街の格好の人から、目をひどくひく色や輝く何かをつけている。目につく人はあんまりいないけど目立つ。

 馬車に揺られながら、屋敷の中に入っていく。きちんと手入れのされた屋敷の庭。屋敷の入り口の前で止められて降ろされる。入り口ででかい扉だなと思って見上げる。誰もいないから、帰ってもいいんだよね?ちゃんと屋敷に来たから。馬車がたどった道を戻って、門のところに来る。

「なんで、子供が中にいるんだ?」

「さっきの馬車に飛びついていたんじゃないのか?」

「何か聞いているか?」

「客人が来ることしか聞いていない。こんな平民の子供の訳ないよな?」

「そうだな」

 馬車に乗ってきたのは間違いないんだけどね。

「帰っていいなら開けてよ」

「一応、聞いてみないと。今日の客人は首が飛ぶって言われているんだぞ?」

「ねえねえ、開けてよ」

「待て待て、屋敷に確認をとる」

 1人が人が通れる入り口を開けて入ってくると、屋敷に向かっていった。その入り口を通ろうとすると阻まれた。

 戻ってきた門番のおっちゃんはこちらを見る。

「坊や名前は?」

「ランス、それより出してよ」

 名前をいうと門番は答える。

「ら、ランス殿。本日の客人だ。それよりも絶対に門を開けるな」

 慌てるように聞こえた声。どうやって帰ろうかと考える。

 門番のおっちゃんはまた屋敷に走って行った。

 体にぞわりと悪寒が走る。なんだ?冷や汗が出て、気温が下がったのかと思えた。周りを見渡す。誰もいない。なんだこれは?久しぶりに感じる、呪いを受けた何かがそれをまき散らしている。それは呪いの何かをわざとまき散らしているのか?それは邪気とか悪いものとかの言葉で形容される。呼び方はいろいろあるとグリじいから教えてもらった。

 振り返ると車いすの上でグッタリとしている女の子がいた。魔力の流れが見えなくても、黒いものが身体から溢れ出しているのが分かる。

「今年もダメだったか。年々、顔色がひどくなっていくよな」

「あんなにやつれていなければ、絶対に評判の美人さんだったのになあ。この家にかかるモンだから、しかたないか」

 たまに動いて、庭の花を見ているのが分かる。少しだけ微笑んだような気がした。ただ、黒いもやもやの量がすごくて、近づくには相当な覚悟がいるだろうな。車いすを押すメイドがいるのが、単純にすごいなと思う。

「お客様かしら?」

「本日はワイバーンを討伐されたランス様がお越しになる予定になっております。まだ祝福前で、お嬢様と年の頃が近いです」

「そう。ならあの方はランス様なのかしら?」

「門にいらっしゃるのが、ランス様かとお見受けいたします。顔立ちが非常に整っておられて、着る服の状態がよくないので、間違いないかとお見受けいたします」

 メイドさんに服が悪いといわれたんだけど。

「初めましてランス様。エルミニド辺境伯4女のシャローザと申します。こちらはメイドのハンナです。ランス様はすごい方だと伺っております。本日はようこそおいでくださいました。すぐに誰か迎えが来るはずですので、お庭でも見ませんか?」

「初めまして、シャローザ。ランスと申します。お庭を見るのはよろしいのですが、その、魔力の流れが他の方とだいぶ違っていませんか?」

「そうですね、そうかもしれませんが、私はそういうことがよく分かりません。申し訳ありません」

「分かる人は少ないかと思います。ですので、気に病む必要はございません」

 近づいていくと身体がぞわぞわとする。ヤバいって身体が感じている。それでも近づいていく。ひどく疲れた顔をしていて、髪も手入れをされているようなのに、ボサボサしてハネが見える。

「庭が綺麗にされていて、手入れがよく行き届いていますね」

「ええ、本邸のほうがもっと広いお庭なんですのよ」

「そうなんですね。綺麗なんでしょうね」

 少しだけ、目に光が灯った気がした。漏れ出す黒いものは変わらないようだった。言葉が消える。

「申し訳ございません、シャローザ様がお眠りになりましたので、失礼いたします」

 外が気持ちよかったのかな?車いすの上で眠る彼女を、メイドは屋敷のほうへ向けて行ってしまう。行ってしまうのはいいんだけど、着いてからほったらかしにされている。そろそろ帰っていいんだよね?迎えに来てからの対応がないのはどうしたんだろう?昨日来いっていったのに。帰ってもいいかな?また門番のところに行く。俺らじゃ出せねえですからねとあしらわれ、僕はどうしたらいいのかな?

「ランス様でございますか?」

「いえ、迷い込んだだけなので出してください」

「ランス様ではないのですか?」

「呼び出されてきただけなので、もう用事は終了しました。ランスではありますが、十分に待ちました。そちらの要望を十分に満たしたので帰ります。早く出してください」

 メイドはハッとした様子になる。

「執事からはどのようにお聞きになられましたか?」

「ご招待とだけ。玄関前に降ろされて、誰も出てこない。門番に出せないとだけ」

「申し訳ございません、こちらの準備不足でございます。なにとぞお許しを」

「じゃあ、帰らせてよ。それでいいよ」

 メイドは頭を下げた。

「申し訳ございません。お許しください。準備に手間取りまして」

「なんで、迎えにきたの?準備できてからでもよかったのに。それに昨日の時点で招待しようとしていたのに、どうして?ほっとかれた理由が納得できなかったら帰るね?」

「そ、それは、申し訳ございません。なにとぞご容赦を。なにとぞ」

「じゃあ、帰るね。要望には応えた」

 門の鉄の柵に掴まって、登り始める。上まで来ると、トゲトゲみたいな突起がジャマだな。

「あぶねえぞ、降りてこい」

「お客様、おやめください」

 メイドと門番が叫んでいるが、気にすることなく、上まで登る。トゲトゲはさわっても手が切れることはなかった。ぎゅっと握って、慎重に抜けていく。よし、抜けた。表に出たので、するすると降りてこっちかなという方向に向かう。リュックやバックがひっかからなくてよかった。

 歩いていくと、騎士たちがたくさん歩いているのが分かる。聞こえてくるのは平民の子供を捜せと、僕と目が合う。

「君、どうしてこんなところにいるんだ?名前は?身分を証明するものは持っているかい?」

「帰るところだから気にしないで」

「貴族街にいるってことは、どこかの家の手伝いか何かでいるはずだ。どこの家で働いているんだい?」

「本当に帰るだけだから。通してもらってもいい?」

 集まってくる人達に通行人からは注目を浴びている。一般の人じゃないから、さっさとどこかに行って欲しいんだけど。馬に乗ったマントの鎧を着けた人が近づいてきた。

「ランスだろう?身構えろ!オラッ」

 腰に差していた剣を投げつけて来た。

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読んでくれてありがとうございます。

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