エルミニド辺境伯家からの呼び出し2

 同じ高級な宿屋に泊まるようになった。明日の迎えがあるまでは、ここにいないといけない。まだ時間はあるから、何をしようかなとベットの端っこに座って考える。窓から聞こえる声や音。王都にいるけど、何があるのか見ていなかった。お店とか。ベットから降りると、カギを預けて外に出る。馬車の通る大きな道沿いを歩いて、いろんな粉を売っている店を見つけて入る。小麦粉だ。

「坊や、初めて見るな。お使いかい?」

「違うけど、自分でパンを作りたいんだ。いつも失敗するから」

「いつも失敗するのか。体がちっこいから、練りが足りないのかもしれないな」

「膨らむのは膨らむんだけど。焼いたときにしぼんで固くなって」

「それが原因かわからないが、予想で話すぞ。膨らむときと焼くまでの時間を調節してみたらどうだ?パン屋の使う種と普通の人が使う種は違うらしい。パン屋は代々受け継いできた秘伝の種を使う。師匠から弟子へとかな。坊やががんばって作っても、パン屋は特別な種や小麦の粉挽きなんかのこだわりがある。うまくすりゃ、貴族様の卸し先だって見つかる。特別なパンってやつだ。でも、うまく作りたいっていうのはキライじゃねえぜ。いろいろ試してみろ」

 うーん、膨らむ時間や焼くまでの時間の調節はあまりしてこなかった。パン屋は特別な種を使っているのか。でも、自分は自分でやれるだけやる。もうちょっとふっくらした、カチコチじゃないパンを作りたいから。お店ぐらいのは出来ないかもしれないけど、近づいていけるかもしれない。

「失敗しているんなら、このくらいの小麦粉でどうだ?」

 茶色が混じった小麦粉をすすめられる。隣には茶色の少ない小麦粉が置いてある。

「うまくできたら、白いのを買って作るといい。まずはちゃんと出来るようにだな」

「うん、そうしてみる」

 1袋分だというとおっちゃんは驚いていた。お金は冒険者カードで払えたので、そのままマジックバックに入れてしまう。

 店の外に出て、たくさんの店が並ぶ道を見つめる。馬車が石畳を進む音、道を歩く人、会話の言葉。お店に呼び込む声も遠くから聞こえてくる。たくさんの人が目の前を通り過ぎていく。

 宿に帰らなかったら、行かなくてもいいかな?商業ギルドからお願いされたし、オマケもしてもらった、1回だけ、イヤだけど、行くのも好きじゃないけど、行かないといけないのかも。シルヴリンみたいなのだったら、絶対に二度と関わらない。商業ギルド長も1回は行って欲しいってことだから、次は行かなくてもいい。

 おいしそうなにおいがして、それに引かれていく。においの元に向かっていくと、肉を焼いていた。たれが焼けるいい匂いが鼻をくすぐる。香ばしく、甘いような食べたくなる。お金あったかな?ポケットやマジックバックを探す。あった、よかった。

「これで買える?」

「銀貨か。何本ほしいんだ?」

「2本」

「ちょっと待ちな」

 銀貨と交換でタレ付きの焼き肉を串に刺してくれた。

「ほら、釣りだ。なんだ、ガマンできなかったのか?」

 すでに口にをつけていたのを笑われながら、お釣りをもらう。肉をほおばりながら、ウゴウゴ言ったけど、のどを詰まらせんなよって笑われるだけだった。

「勇者が、勇者様が現れたぞ!」

「王子様が勇者を授かったぞ!」

 その声におっちゃんは顔をしかめる。どうしたんだろう。

「今日は第3王子の祝福の日か。あのくそ王子が勇者になっちまうなんて、どうなっちまうんだこの国は」

「そんなにヤバいやつなの?」

「やりたい放題だ。決まっていた婚約を破棄するわ、普通の庶民を食い散らかすわ、挙げ句の果てには他の貴族と婚約の決まっていたのに横取りするわで、女癖の悪い王子って評判だ。やり過ぎて貴族からの反感を買って、王になる継承順位ってやつを一番下にされた。これで上がっちまうんじゃないのか?」

「そんなのが王になって大丈夫なの?」

「あんまりよくはないが、お貴族様がなんとかするだろうよ。お前さんにはまだ早いかもしれないが、女が出来たら気をつけろよ。今じゃ、彼女が出来たやつに王子が奪いに来るっていう脅し文句もあるぐらいだ。この国もヤバくなっちまうな」

 誰かがなんとかしてくれる?

「そいつって強いの?」

「第3王子か?悪い噂しか聞こえてんな。強いっていうなら第2王子が騎士の職を持っているから、強いとは聞くけどな。頭がいいとも強いとも聞かねえから、女遊びに夢中でそんなことは眼中にあるはずねえ。見所があれば、多少は聞こえてくるものなんだがな。職を持ってから強くなるのは、よくある話だ。勇者だと強くなりそうだがな」

「ちゃんとするのかな」

「さあ、やりそうにない。それでも祝福後に結婚式が決まっていたはずだ。嫁さんが出来て、うまいこと尻に敷いてくれればいいんだがな」

 第3王子の祝福の話をしながら食べ終わって、大きな道に帰って行く。何を売っているのかを見ながら道沿いに進んでいく。武器や防具。服に雑貨に果物や野菜、パンに穀物、たくさんの店を外から見ている。どこでも勇者が出たという声が響いていた。

 辺境伯の所へ行きたくないな。このまま宿に帰らなければ、分からないんじゃないのかな。シルヴリンみたいなのがいるんじゃないのかな?イヤだな、いきなり切りつけたりしないよね?でも、商業ギルドにおまけも付けてもらったし、うーん。ギルド長も1回だけっていってたし、うーん。今回だけ今回だけガマンすればいいんだから、イヤだけど行こうかな。これで最後だから。

 イヤだなと思いながらも、宿に向かってあるいていく。足取りが重たいながら、道を歩くだけでついてしまうので、宿屋の前に立っている。追い返してくれないかな?

「お帰りなさいませ、日が傾いて参りましたので中へどうぞ。ここは影になりますので、明るい中へ」

 ドアが開けられて、場違いな感じがする。高級なふかふかの絨毯の上を歩く。

「お帰りなさいませ、ランス様。夕食はお部屋でよろしかったですか?」

「うん」

 カギを渡されて、部屋に戻っていくと食事も運ばれてくる。このふわふわしたパンはパン屋の特別な種で出来ているんだよね。うーん。食べ終わると、服を脱いでクリーンをかける。そのまま湯浴みをしてから、いつの間にか用意されていた、ふかふかのタオルで体を拭いた。服を着てから窓から下を覗く。馬車はたまに通るくらいで、いなくなっている。人は少なくなっているけど、歩いていた。

「ラント王国万歳!」

 叫び声の方向を見ると、数人の男が固まってあるいていた。同じように声を出して、歩いていく。それからお店に吸い込まれていった。普通に歩いている人もいる。王都は夜も人通りが多いんだな。領主街だったら冒険者が少しいるぐらい。暗くなったら、家の中が普通。村とか絶対に出てこないよ。壁に守れているから出ても大丈夫なのかも。王都は城壁がしっかりしているから、夜でも外に出られるんだろうね。

 街灯の明るさは田舎じゃないんだなって感じがする。道も照らされて、真っ暗で何も見えない訳じゃない。月明かりよりは十分に明るい。都会ってすごいな。ベットに戻って、明日はイヤだなと思いながら布団にくるまる。


 朝の日の光でふわふわのベットで目が覚める。まだ、寝ていたい気がする。起きないと、ベットから降りて窓を開ける。朝も早いけど、人がたくさん動いている。馬車もたくさん通っている。人がたくさんいて、開いていない店もあるけど、食べ物を売っているような店は開いているようだった。野菜や果物、もちろんパンなどを買っていく人も見える。

「お食事をお持ちしました」

 返事をして、テーブルに並べられた朝食を食べていく。食べ終わって迎えの来る時間までは待っていないといけない。めんどくさい。行きたくない。ソファの上で転がる。


「ランス様、辺境伯邸よりお迎えが参りました」


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