王都商業ギルドその4
「待たせたね。な、なんだいこれらは?」
「試しに作ってみただけ。暇だったから」
「こういうものを作るのに、たくさんの時間を使えるかい?」
「ううん、イヤ。それなら、他のことをやってみたい」
「そうかい。なら、世に出さないほうがいいね。せっかく作ったんだが、壊してもいいかい?」
「消すから待って」
崩壊をするように魔力を当てる。クリスタルはフワリと空気の中に溶けていった。
「特注品も可能ってことはわかったよ。難しそうではあるがね。特注の注文は高額にしておくけど、もしもの時は作ってくれるかい?」
「出来るなら作るけど、挑戦してうまくかは分からないよ?ここにある、花とかはちゃんと見て作れるけど、見られないとどうなっているのか分からないからね」
「絵で頼まれるのは無理ってことかい?」
「絵を作ることは出来ると思うけど、実物の細かいところや裏側とか分からないでしょう?実物をクリスタルで形作ることは出来ると思うけど、絵を形にするのは僕には難しい。さっき作っていたのもちょっと失敗したりしていたんだから」
そうかい、わかったと返事をした。
「ところで何か買いたい物があるそうだね?欲しい物をいってごらん」
「リュックをマジックバックにしたいのと布団と調味料とか長期保存の食べ物ぐらいかな」
「最初が一番やっかいだね。時間をくれるなら、総本部から各本部に照会をしてもらって、予算から一番いいのを取り寄せるんだけど。今あるのにリュック型があったかねえ?」
悩むようにして、ギルド長はいつも使っている机をさわると、壁に見えていた扉が開く。
「なにこれ、すごい。どうなっているの?」
「隠し部屋というやつさ、表からは分からなくしておくんだよ。防犯もかねて、重要で価値のある物を閉まっておくところさね。ついておいで」
魔法のランプの光で照らされた階段を降りていく。途中から何かの魔力を感じる。何かしているはずだけど、何もしないのでわからない。
「どうしたんだい?」
「魔力を感じる」
「それは泥棒除けだよ。正式な手順ではいらないとひどい目に遭うように作ってあるからね」
ひどい目に遭うっていう時のギルド長の目が一瞬鋭くなった。盗みに入ることはないから平気だよね。
鉄の扉が目の前にあらわれる。扉にギルドカードっぽいのをかざすと、音が鳴り出してガチャリと開いた。
「おお、開いた」
「ここが本当の高額商品たちだよ。ランスのも並べていいかもしれないね。量産が速いが高級感を出すためにはありだね。マジックバックはこっちだよ。おまえさんは武器なんかなくても、十分戦えるだろうに」
「いつか、作ってみたいから見てたんだよ」
「作れそうになったら、いくらでも見せてあげるよ」
中に入るとすぐに、剣や刃なんかの武器が見えたから近づいていた。手招きされるほうに向かっていく。肩掛けの鞄からリュックのもある。リュック型は数が少ない。
「少ないね」
「リュック型のマジックバックは冒険者が自分で使いたがるからね。それに大容量であることが多いから、引き合いが強い。高いってことだよ。物を運ぶ人間にも人気があるから、普通には手が届かないね」
「この白金貨10枚のって買える?」
「これかい?白金貨10枚かね。まだ商品が売れていないから、もうちょっと安いこっちの6枚のにしないかい?それなら売った金額と相殺するから、すぐに持っていけるよ?」
首を振る。
「払えるのかい?もしも払えるのなら、布団や調味料、長期保存の食料もオマケしてあげるよ」
「やったー」
「それじゃあ、持って上に行こうかね」
ちょっとお金が浮いたと思うと、うれしくて飛び上がった。ギルド長が10枚のリュックを持って、一緒に階段を上がっていく。部屋に戻ると準備をするから、ちょっと待っていなといわれたので、ソファの上で大人しくしている。
ノックが聞こえてから中に人が入ってくる。まずは冒険者ギルドで見た、マジックバックの登録するのを持ってきた人。あの薄い板は一体どういう仕組みなのか気になってしまう。何かわからない銀色の金属を持ってきている人。重くないのかな?大きいけど。
「じゃあ、支払いはこっちの精算機にカードをのせておくれ。上のくぼみがちょうどカードがはまるよ」
冒険者ギルドのカードを取り出してのせる。
「ギルド長、ギルド員割引は適用されるのですか?」
「ランス、商業ギルドカードを渡しな」
商業ギルドのカードを渡して、別の場所で使っているみたいだ。僕から見えない、お姉さん側から精算機に押しつけるようだった。
「確認いたしました。まずは商業ギルドカードをお返しいたします。商業ギルドのランクにより8分の割引が適用されます。お支払いは冒険者ギルドカードでお間違いないですか?」
「うん」
「はい、それでは支払いを行います。高額商品のため、カードが本人の所有の物か、確認いたします。カードの上に手のひらを乗せてください」
精算機のカードを置く出っ張りの上に言われた通り手を乗せる。銀色の精算機が魔力を少し奪う。それをカードに流している。そう魔力を感じた。
「認証完了しました。精算認証に移ります。手はどけて結構です」
あとは何をしているのかわからない。
「せ、精算認証、確認完了しました」
「ちょっと待ちな、白金貨9枚と金貨200枚だよ?あり得るのかい?」
「しかし、精算機はきちんと正常に作動しています。冒険者ギルドに確認を取るしかありません」
「それだけの金額となると総本部を通すしかないね」
ギルド長は僕のほうを見る。
「白金貨をもらった記憶は?」
「冒険者ギルドからもらったよ。カードに入れとくって聞いたけど。じっちゃんに白金貨10枚だって言われた。ちゃんと入ってるならいいんじゃないの?」
「じっちゃんって誰のことだい?名前は?」
「へインヘルニャンだっけ?」
「エインヘニャルじゃないかい?」
そうだった気がする。
「冒険者ギルド総本部長っていう偉い人なんでしょう?じっちゃんって」
「じっちゃんって呼んで、誰も何も言わなかったのかい?」
「え?何も言われなかったよ?じっちゃんも普通にじっちゃん呼びに答えていたのに」
「そうかい、それなら、冒険者ギルドのことだから。ねえ。何も言えないよ」
じっちゃんにじっちゃんと呼んで、いけなかったのかな?誰にも言われてないからいいか。
「この見たことのないマークはなんだい?」
「ワイバーン単騎討伐とS級扱いのマークって聞いたよ。S級扱いのマークがあると貴族の人が使う門が使えるって教えてもらった」
「そう、かい。待たなくていいからどんどんお使いよ。一応、確認をしておこう。いいよ、登録してしまいな」
リュック型のマジックバックの登録は無事済んで、新しいリュックを背負う。やった。これで布団も持ち帰れる。持ち運べるよ。お布団。
「約束は約束だ。布団と調味料、長期保存の出来る食料だよ」
「布団だ。布団。フトン」
フカフカの布団に顔を埋めて、感触を確かめる。んん、いい。
「他にもあるんだ。リュックに詰めてしまいなよ」
リュックを降ろし布団を詰めて、塩と胡椒かな?白い粉はなんだろう?乾燥した魚や果実、肉とチーズもあった。高くて買わなかった物まである。
「なくなったら買いに来るんだよ」
「わかった」
「ランスには驚かされてばかりだよ」
ノックと共に人が入ってくる。
「エルミニド辺境伯邸より使者がお越しになっております。ランス様にご用事だそうです」
「辺境伯様の使いならお通しして」
辺境伯からの依頼を受けていなかったような。
「失礼します。王都エルミニド辺境伯邸執事ダレルと申します。そちらのランス様を辺境伯邸にお招きしたくお捜ししておりました。お食事などをご子息様としていただけませんでしょうか?」
「イヤだよ。理由は言わなくてもわかるよね?」
「教えていただきたく存じます」
「わからないなら、行かない。祝福前にあれをやられて、普通なら死んでいたよ?本来なら全力で攻撃しているはずなんだけどね?僕はかまわないよ、辺境伯軍とやり合っても」
「確認をさせていただいて、明日もう一度、あらためてお迎えに上がります。よろしくお願いします」
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