王都商業ギルドその3

「おはようランス、こっちにいるのは鑑定士のマットロックだ。売値を決めないといけないからね。あとは費用面の決めごとを説明して、ランスの取り分も決めてしまうよ」

 促されるままに昨日と同じ場所に座る。鑑定士のマットロックは作ったクリスタルを真剣に、じっくりと回しながら見ていた。静かに上等そうな布の上に置いた。

「売価としては最低金貨400枚かと。底値でです。これ以上下げると、他の細工の値崩れをおこしてしまうかもしれません」

「金持ちには手が出ない金額ではないね。ランス、形は変えられるのかい?フタなんかもつけられないのか?」

 ビーカーの失敗でできたから、フタとかは考えたことはなかった。大きさはビーカーで出来ていたから、変えられるかな。

「やってみるね」

 フタ。難しい。大きさを合わせるのが、うまくいかない。うーん、一緒に作ってみるか。これだとうまくいくね。フタだけだと作りづらい。

「フタだけは作りにくい。大きさを合わせるのが難しい。形は何かあるの?」

「そうだね、四角の形に円じゃなくてね」

 四角、角はギザギザがこないようにしないと飛び出て変に見えるね。縦長の6角クリスタルの配置を円から、四辺にしてその上にフタを配置する。その間にクリスタルを埋めていく。

「こんな感じ?」

 うまくはいっていると思うんだけど。

「いい、思っていたとおりだよ。大きさは変えられるのかい?」

「うん、できるよ」

 大中小で今まで作っていたぐらいが中だね。

「これはいいね。一体、いくらの値を付ければいいのかも思いつかないよ。うれしい悲鳴だよ」

 ギルド長は声高らかにクリスタルから目を離さずにしゃべる。同じように全体の出来などを見ているようだった。

「物によって値段の差をつけないといけないね。輸送と販売、保管に3割5分。腹が立つけど、男爵とやらには5分を払って、残りはランスの取り分だ。要望があれば聞くよ」

「直接作ってくれって来たらどうしたらいい?貴族の人とか」

「それは商業ギルドに連絡してくれれば、その貴族から慰謝料とむしり取ってやるよ」

「追い返していいの?」

「手荒なマネをしなければ、構わないよ。ギルド員に手を出して、ただではすまさない」

 目をぎらつかせる。そういってくれるのなら、安心なのかな。マットロックは作り出したクリスタル達を一つ一つ丁寧に見て、値段の紙を置いていく。

「最初は高めに出しますか?」

「そうだね。少しづつ出していこう。他国への輸出も視野に入れていい品じゃないかと思うが、どうだい?」

「見本を総本部に送りましょう。大量生産は出来ないとも。あとはギルド長と総本部の戦略しだいですね」

 総本部ってギルドで一番えらいところだよね?ビーカーの出来損ないだけどいいの?

「場所は確保しているかい?」

「大丈夫です。輸送用の箱もギルドからかき集めておきました」

「よし、ランス。ついていって、これらを作っておくれ。頼んだよ」

 はーいと返事をしてからついて行くと、箱だけが積んである広めの部屋に通された。上等な布も用意されている。

「箱はこれが限界です。詰めものはおがくずを材木屋から馬車でもらってきました」

「よし。ここで起こることはギルドの重要機密事項にあたり、他人にしゃべることは禁止だ。最悪、借金奴隷もありうることを先に忠告しておく」

 男女数名が部屋の中にいる。

「詰め込み作業にかかる。ひとつが金貨数百枚する物だから、丁寧に頼む。割れても欲しくない。ランス君、この布の上に作ってくれないか?」

 丸から大中小作り出していく。

「おお」

「話には聞いたが、本当だったのか」

「うそ」

「詰め込むぞ。動け。見ている暇なんかない」

 ひとつひとつを布で丁寧に包んで、それを箱に詰めている。詰め終わってから、箱を入れ替える人がいる。

「ランス君、交互には出せないのか?」

「形が似たものが作りやすいから、丸なら丸だけ、四角のやつだけのほうがやりやすい」

「10組づつならいいかい?」

「うん。それなら」

 1,2,3・・・・・・


「箱がもうありません」

「わかった。その組が最後にして、終わろう」

 最後の10組を作り終える。

「運び出しをして、おがくず詰めだな。ランス君はお疲れさま。誰かギルド長のところにランス君を連れていってくれ」

「ランス君こっちに」

 声をかけてきた人について行く。ギルド長はいなかった。

「どこに行ったのかな?」

「買い物もしたかったんだけどな」

 ギルド長にリュックのマジックバックあるか聞いてみたかった。布団を入れられると便利なんだけど。干し果実や干し肉じゃなくて、調味料になりそうな塩だけじゃないものも見てみたいのにな。

「部屋で待っててくれる?ちょっと探してくるから」

 言葉に従って、ソファに座っている。特にすることもなく。ギザギザクリスタルの形を変えることは出来るのかを試してみよう。もともと縦長い6角のクリスタルを出して、それをうまく隙間を埋めれば、ビーカーに出来るんじゃないのかと思ったんだ。普通の攻撃魔法の形が縦長いクリスタルで。

 でも、自在に形を変えることが出来るから何でも作れる?残っているティーセットの形をまねる。数回作るとうまくマネができたと思う。

 次は花瓶と花を形をマネしてみる。こっちの花瓶はすぐに出来たけど、花はうまくできない。難しい。1本手にとって、よく観察してから目の裏に浮かぶまで、じっと見つめる。よし出来た。クリスタルの花瓶に挿す。


 カラン

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