王都薬師ギルドへ
「ランス君、落ち着くんだ。待つんだ。薬師ギルド総本部にかけ合う。一旦引いてくれ。ギルドを潰したとなると、うちも君を手放さざるおえない。君の実力を見る限り、今の冒険者ギルドでは止めることすら出来ないように思う。ギルドを敵に回して勝てるのかもしれないが、君の将来のために薬師ギルドに交渉を任せてくれないか?」
大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。冒険者ギルドは嫌いだけど、薬師ギルドは手助けをしてくれている。助けてもらったこともある。ここは助けてもらった助言を聞くべきだろう。わだかまりやもやもやは残っているけど、抑えよう。歯を食いしばって、拳に力が入る。
「・・・・・・わかりました。薬師ギルドにはお世話になっているので交渉をお任せします」
「よかった。薬師ギルドに行こう。ここよりは安全だ」
フリックさんの後ろについて冒険者ギルドから出て行く。大きな通りで馬車の合間を一緒に渡りきるとビーカーの看板のついた薬師ギルドに。作りのいい建物で扉は重厚感があり細工もしてあって、入っていいのかなと思わせる。その扉を自然に開けて中へと招き入れられる。
「さあ入って、ランス君」
中は掃除が行き届いていて静かな感じだ。受付が数カ所あって、場所によって何をしているのかわからない。顔色の悪い人が待っているところは薬の受付になるのかな。冒険者ギルドのような騒がしさはない。話し声はあるけど、誰かがしゃべっているなぐらい。
「さあ、こっちだ」
入り口から真っ直ぐの階段に向かって登る。2階をすぎて3階へ。本部長室と書かれたドアの前に立って、ギルド長がノックする。
「フリックです。本部長、よろしいでしょうか?」
扉を開けてくれたのは女の人で、どうぞと言われて中に入れられる。その場に立っているとソファに座らされる。書類と格闘しているおっちゃんが手を止めて、こちらを見た。
「彼がランス君か?フリック」
「はい、そうです。冒険者ギルドとトラブルになっていたので、薬師ギルドが代わりに交渉に入るために連れてきました」
「トラブル?」
「F級の失敗続きの依頼をランス君がこなしたのですが、依頼の場所にクロコダイルが生息しており、それを冒険者ギルドに持ち帰り、冒険者ギルドが対処できず、代わりにランス君が仕留め、持って帰った行為を咎めようとしていました。ランス君の気持ちが高ぶり、ランス君が冒険者ギルドに危害を加えようとしたので、うちに交渉を任せてもらえるようにして連れてきました。王都の冒険者ギルドが壊滅の恐れがありましたので、そういった犯罪まがいのことを起こさないようにです」
「失敗続きとの依頼は調査が入るのがギルドの常識だが、してなかったと?」
書類を机の上に置いて、こちらのソファに座る。
「調査はギルドの探索などのスキルを持たない職員が行っていました。当然ながらF級は討伐を出来ない前提なので、その場にいたクロコダイルを持ち帰ったことについてギルド側が咎めることは出来るはずもなく、自分たちで対処できない事態にランス君がすぐに殺傷。冒険者ギルド側はそのような魔物を持ち込んだランス君を咎めようとし、彼は冒険者ギルドを壊滅させると宣言しましたので、薬師ギルドとしてもギルドの壊滅で失うのは非常に惜しい才能と判断し、こうして連れてきました。本部長、落ち度は冒険者ギルド側にあり、また背後から襲う行為も目撃しました。薬師ギルドとして、総本部に交渉をお願いしたいのです。必要十分な依頼を行い、それを殺害しようなど言語道断。絶対に許してはいけません。薬師ギルド員に危害を加えようとしたこの行為が2度目。今回は本部ギルドです。総本部に上げるべき事案です」
「そうだな、総本部にかけ合うとして、ランス君はどうしたい?」
「壊せばいい、消し炭も残さない自信がある。あそこだけ消してもいい?」
「想像が出来ないんだが、どうやるんだね?」
青白い炎を出す。
「炎だけで十分消せるはずだけどね」
「上位属性が使えるのか。ビーカーの話を聞いたときから予想ではあったが、実際に見てみると驚いてしまうな。ギルドとも十分、戦える力があることはわかった。何かされたら仕方ないが、そうでないなら力は抑えるようにしないとな。むやみやらたらに人を殺せる力を振るうべきではない。薬師ギルドが仲介に入って落としどころを探るから、暴力的なことはなるべく避けて欲しい。薬師ギルドに所属しているのなら人を癒やすことを目指すべきだ。そのために薬師ギルドはあるのだから」
「身を守るためにやっていることだよ。振るうことが目的じゃない。おかしいのは冒険者ギルドでF級を使い潰しの道具だと勘違いしている。普通なら死んでいておかしくなかった。僕は修練のおかけで助かっただけ。普通の子では出来ない修練をね」
扉が開いて片眼鏡の男の人が入ってきた。机の前に立つ。
「本部長、ランスが来たのならすぐに教えてもらわないと。デールのところのギルド員はお前さんか。俺はガスタンス、鑑定師長をしている。デールがローポーションに効果がついているって騒いでいたんでな、本部でも鑑定をしておこうっていうことよ。鑑定結果が間違いなければいいだけだ。ローポーションをだしな」
まくし立てられるように言われて、バックからローポーションを取り出して渡す。
「確かに、高品質。なかなかの才能だな。間違いなく作成はランス、解毒がついているな。借りていくぞ、下で他の連中も間違いないか確認してくる」
ポーション瓶をじっと見ながら、そのまま出て行ってしまう。
「そういえば、ビーカーが作れるそうだね。ギルド長、下で作って品質などを確かめて、いくらか作ってもらえ。総本部にあらましと交渉をしてもらうように、報告をあげるからあとは頼む」
「お願いします。ランス君、ビーカーのことを聞いているから、下の道具部門に行こうか。デールの話だとかなりの高品質だということだ、お金がある人達は欲しがるだろう」
ギルド長について行って1階に戻ると職員用のドアを開けて入っていく。
「ガスタンス、仕事だ。鑑定は出来たんだろう?」
「おう。全員で確認したが解毒小が間違いなくついている。次はビーカーか。品質は一定なら問題なしだ」
「それをこれからするんだろう。鑑定部門も人手を出せ、ランス君の作るスピードに負けるなよ。道具部門、梱包のためにできる限りの人員を回してくれ」
もう1つのドアをくぐると品物がたくさん置いてあった。ポーション用の箱や箱から独特のニオイの混じった薬草たちが主張している。長い机を目の前に用意される。
「ここにビーカーを作ってくれないか?」
いくつかの大きさを作って、鑑定に入り品質は最高だと言われた。必要な個数を聞いて、1セットずつ作ることになった。まだ、片手間に出来るほど慣れていないのと制御が難しい。集中だ、集中。
「ランス君、ランス君」
「へ?」
肩を揺すられて周囲を見渡す。
「悪いね、高級ポーション用の箱や予備の箱も使ったんだが足りなかったんだ。今回はここまでにしておこう」
ビーカーは机の上に並べられたままで丁寧に布で巻いて空き箱に入れている。終わった、集中していたので机の上しか見ていなかった。
「値段は総本部とも相談して決めるから、少し時間がかかるけど大丈夫かい?」
「うん、いいよ。そうだ、宿屋を紹介して欲しい」
「わかった。こっちにおいで」
ギルド員の相談を受け付ける場所に連れてこられて、宿を紹介してもらった。冒険者ギルドとは違う宿だったから場所を聞いて外に出る。少し薄暗く、夕日が街を赤く染める。
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