ランスの怒り

「ちょっと待ってくれ、君はランス君か?王都薬師ギルドのフリックだ。今日は討伐依頼でもあったのか?たしかF級の討伐はないはずでは?他の冒険者がいないからランス君が倒したんだろう。君は強いとデールから聞いているからね。ところでこの魔獣とは偶発的に出会ったのか、それとも依頼中に出会ったのか、教えてもらっても?」

「依頼中だよ。下水掃除に行ったらいたから、持って帰ってきたけど、冒険者ギルドでは処理してくれなかったんだ。F級だから、討伐クエストなんて受けられないでしょ?」

 冒険者ギルドのギルド長が苦虫を噛み潰したような顔で睨んでいる。受付に置かれたままの下水の掃除と書かれた依頼書を取るとフリックさんに渡す。掃除については水で洗い流したから依頼は出来ている。

「ランダギルド長、この依頼についての説明を求めます。F級には戦闘能力を求めないのは当然のこと、安全についても十分に配慮した形で依頼はされておられるのですよね?」

「F級の依頼は当然、王都内の依頼に限り、何度も失敗する時はきちんと調査をしています。この依頼もきちんと調査をしています」

「では調査に不備があったと言うことですか?誰が行いましたか?探索か、気配探知などのスキル持ちの冒険者に依頼をし、危険な動物や魔獣がいないことを確認されているのですよね?念のために調査をした内容の確認をさせてください。ラント国薬師ギルドの重点育成支援認定者に不備のある依頼をさせているとなると、薬師総本部より冒険者総本部に調査依頼を出さなければなりません。重点育成支援になること自体が希なのです。薬師ギルドでも現在認定者はランス君ただ1人。その子を薬師ギルドとして保護には普通のギルド員よりも一層の力を入れなければ」

「調査した資料を確認して来ます、お待ちください」

 受付の中に入っていく。広がる血が入り口のほうに流れてくる。鉄臭いニオイが辺りに充満している。

「ランス君、初めましてだね。薬師ギルドの王都のギルド長をしているフリックだ。よろしく」

「初めまして、エンケ村のランスです。先にクロコダイルをどかしますね。そうだ、ギルドカードです」

 薬師ギルドカードを取り出して渡す。クロコダイルは全長は3メートルぐらいなんだけど体高が高くて丸く見えるぐらい。血と一緒に水の中に入れると浮かせる。薬師のギルドカードを返してもらう。まだ唖然としている教官に向く。

「教官、これはどうしたらいい?」

「解体場はクエストボードの横にある入り口だ。そこに持って行ってくれ」

 入り口は通りそうかな?横に水が触れるぐらいでなんとか通る。中に入ると解体台がたくさん並んでいて、大きなものから普通の動物を裁けそうなものまである。クロコダイルを浮かべたまま近くの人に話しかける。

「解体はここですか?」

「おう、そうだぞ坊主。お嬢ちゃんか?」

「男だよ」

「そうかそうか、それで何を解体したいんだ?」

 ぐちゃっとなったウルフの解体をしている。撲殺したのだろう、毛皮は使い物にならない。中身も痛んでいるだろうな。

「下水の掃除で見つけたクロコダイルの白いの。どこにおけばいい?ここに持ってくるように言われたから」

「それはどこに?」

 目線が下に向いているので、邪魔にならないよう高めにしているから見えていない。

「僕の上にあるよ。下だと邪魔でしょう?作業を中断しないでいいように高めに浮かせているんだけど、下げててもでもよかった?」

 見上げた顔が止まり、口がゆっくりと開いて固まった。ちゃんと認識はしてくれているんだろう。固まったまま動かないので声をかける。

「おっちゃん、おっちゃん。どこに降ろしたらいい?ねえ」

 ゆっくりとこちらを振り向いて、口をパクパクしている。

「どうやって、宙に浮いているんだ?!」

「生活魔法だよ」

 おっちゃんの声が思いっきり大きかったので中の人達の視線が一気にこちらに向いた。普通に答えたけど。みんなが手を止めてこちらに来る。

「そんなキレイなクロコダイルは初めて見たぞ。これなら取れる場所も多いし、肉も多く取れる。こっちの大型用の解体台に乗せてくれ。肉とか、皮とかの希望はあるか?」

「美味しいなら、肉を一塊欲しいな」

「それだけでいいのか?皮もキレイだから防具に使うことが出来るだろうに。しないのか?」

 真ん中にある大きい台にクロコダイルをのせる。血の混じった水は排水口に捨ててしまう。

「F級だから討伐のクエストが、受けられないからいらない。こいつは依頼のところにいたから持って帰っただけ」

「は?おいおい、F級がクロコダイルを刈り取るとは、他の冒険者は形無しじゃないか。C級パーティーぐらいの討伐依頼でありそうだが。にわかには信じられないが、ギルドカードを見せてもらってもいいか?この品質で持ってきてもらったなら、相当な高値で引き取ってもらえるだろう。期待していいぜ。しかも白か。貴重品だ」

 冒険者ギルドカードを見せる。

「F級のランスか。このマークは?」

「ワイバーン討伐のマークって受付で教えてもらったけど。違うの?」

「ランスがいたずらしたわけじゃなく、受付で刻印されたのか。確かにこすっても取れねえな。誰か受付で確認をって、レスタじゃねえか。どうした、ボロボロで?」

 カードを返してもらう。打撲程度で済んでいるのか、多少出血は見られるものの歩いてきている。

「ランス、クロコダイルを生きたままギルドに持ち込まないようにしてくれ」

「F級は討伐しないんだよ?なら、冒険者ギルドがどうにかしないといけないよね?F級よりは冒険者ギルドは強いんでしょう?」

「冒険者ギルドには戦う力を持っていない人も大勢いる。その人達を危険にさらす行為は許されない」

「じゃあ、戦う力を持っていないはずのF級がクロコダイルを退治しろと?F級を餌にさせていた冒険者ギルドが?このクロコダイルも倒せないと?何度失敗した?何度、帰ってこなかった?何人向かわせた?全員を連れてこい。そしたらやめてやると神に誓約しよう。それが出来ないならこのギルドごと敵に回してやる!こっちだって、祝福前で必死に生きてるんだよ。その機会すら奪っているお前らにこの件に関して言うことがあるのなら、向かわせた全員を揃えて、ここに連れて来てからしゃべれ。さっさと連れてこい!」

 感情があふれて、自分勝手な言い訳ばかりする冒険者ギルドに腹が立つ。F級の使い潰しとか考えていない。そうじゃなかったら、何度かの失敗のあとにきちんと調査をしているはずだ。普通の職員が調査をして何もなかったと?そのあともずっと依頼はそのままのはず。

「それはこちらも調査が十分でなかったと」

 レスタを睨みつける。殺してやろうか、本当に。死んだら生き返ることは出来ないんだぞ?

「殺気を抑えてくれ。やめるんだ」

「やめる?勘違いするな。敵になるか、連れてくるかの二択を与えたはずだ。連れてくるまでお前らを生かしているだけだよ?」

 風を当てて、出入り口の向こう側に押しやる。こんなに感情が高ぶってしまうのはどうしてだろう?何でかな?出入り口をくぐると全員が僕を見る。

「レスタにはいったが、敵になるか、クエストをしたF級を全員連れてくるか選べ。ソルのように頭のおかしい連中の集団が。レスタ、さっさと説明してやれよ」

「これはギルドの問題だ」

「そうだな。つまり、全員が死んで詫びるってことだよな?」

「それは出来ない」

「なんでだ?責任は全員で取るしか認めないよ」

 後ろから動くような気配がして、風で天井にはじく。天井を見ると短剣を持って、軽装の男が張り付いていた。目の前に落とすと短剣ごと焼く。

「あああぐ、あ、ああああ」

 短剣と持っていた手は炭となって落ちていく。

「そうか、わかった。仕掛けてくるなら待つ必要はないということだな」


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