ワイバーンの肉を食べる
辺境伯様が光る。ギルドカードを返してもらい、隊列を組んでいるので森の方へ移動する。歩兵が盾を地面に突き刺す。盾戦士?その後ろから魔法師達が結界を展開する。強度が弱いんだけど。余波ですぐ壊れるよね?
「偉い人ちょっと来て」
叫んで手招きをすると前線の盾戦士の人が近づいてくる。
「これが本当に最大防御?手を抜いていない?」
「全力だ」
軽めの風を発動すると結界は簡単に突き抜けた。
「これが全力?侮ったままでいいけど、侮ったまま死にたいならご自由に。こちらは見せろと言われてるだけだから、そちらに向かって放ってもいいんだよ?見せるのには変わらないし、死んでも全部辺境伯様が責任取ってくれるんだからね」
「こちらには向かって放たないようにお願いする。全部隊!全防御スキル全力展開!!」
列に戻るのを待つ。多少の防御向上はあるが耐えられるのかな。さて、やろう。魔力を集約して風の刃に変換して放つ。周囲の空気を巻き込んで上空に消えていく。さっきより威力が、レベルアップしたのを忘れていた。後ろを振り返るとヤバい、離れていたのにもかかわらず、隊列が丸く奥に押し込まれ結界はキレイになくなっていた。余波だよね?直接受けたわけではないので大丈夫だと思うけど。押し込まれているところに向けて歩いて行く。倒れている人達の間をすり抜けていく。踏まないようにしないとね。
飛び越えて、ヴァレンスさんのところまでたどり着く。
「ワイバーンはどうしたらいいの?買い取ってくれる?」
「お、おお。辺境伯様に聞いてくるので待っていてくれ」
辺境伯様のところに行ったのを見送ってワイバーンの置いてある場所に。クビのところがおいしかった。まだ他の部分を食べていないけど。獣臭さがないのでうまみだけを感じられることもおいしさのひとつかな?ナイフでちょっと切り取って火を通して食べる。うん、おいしい。時間がかかるかなと普通に食べていく。大きな話し声が聞こえる。無視無視。おいしいなあ。
「ねえ、それおいしいの?」
視線を向けるとミスリル製の装備をした女の子がいた。年は近いように思う。何で汚れているんだろう?
「美味しいよ、フォークとか持ってる?」
「あるわ」
手を横に出すだけでその後ろのメイドさんがフォークを手に持たせた。ここのメイドさんはあっちの執事さん級に何でも出来るのか?おそろしい。ナイフで刺して焼いた肉を突き出す。
「フォークで取って」
メイドさんが小皿を急に出してきた。ええ?用意よすぎるだろう。その小皿に焼いた肉を置く。それを女の子の前に出すとフォークで刺して食べる。
「なにこれ、おいしいわね。もっと焼いてくれる?」
「辺境伯様に引き取ってもらうつもりだからそんなに焼くつもりはないんだけど、ちょっとぐらいならいいのかな」
ナイフで切り取って焼いて小皿におく。それを作業のように繰り返す。何やっているんだろうか。
「引き取ってもらって帰りたいんだけど。どうしたらいいかな?」
「もうちょっと焼いて欲しい」
「お嬢様、おやつにしてはいただきすぎでございます。ご当主様はすぐにこられます」
馬に乗った辺境伯様がやってくる。メイドさん、なんでわかるのですか?
「ワイバーンの肉はうまいだろう、シルヴリン。戦うこともなかったがけが人ぐらいで終わってワイバーンが手に入るなら十分な成果だ。このワイバーンは傷が少なくとても状態がいい。剥製にすれば素材よりも高くなるだろう。多少の時間はかかるが大きな金額だ。大金貨50枚で引き取ろう。こちらも討伐隊を出しているのでな、多少の戦費もいるのでな」
「手持ちはいくらあるの?」
一緒にいた執事服の人が前に出る。
「大金貨で3枚ほど持ち合わせてございます。討伐隊の行軍には十分な金額と計算しておりました」
「それちょうだい」
執事さんは辺境伯様を見て、頷いたので大金貨2枚とバラになったお金を僕に渡す。リュックにしまい込む。
「では、報酬は頂きましたのでワイバーンは引き渡し完了です。それでは帰ります」
一礼して元来た道へと歩いて行く。ワイバーンの肉は美味しかった。ある程度の脅威には対応できるのがわかったので、十分な収穫だ。
「ちょっと待ちなさいよ」
「何ですか?」
振り返って彼女を見る。
「そのまま帰るつもり?」
「ええ、ワイバーンの囮になってきたので、死んだと思われてはいけませんからね」
「貴方、面白いからうちに来なさいよ。それといくつなの?スキルレベルっていくつなの?」
「13才です。肉体耐性Lv.8、精神耐性Lv.8、生活魔法Lv.7、ワイバーンの時に上がったのでLv.8。気配遮断と夜目、探索です。最初に辺境伯様への事情説明とワイバーンの引き取りにというお話でございましたので、こちらからは行く理由はございません」
辺境伯様が口を開く。
「ワイバーン討伐ご苦労である。ワイバーンの引き取り残りと討伐の褒賞がまだ終わっていない。それとも討伐隊相手に逃げ切るのか?」
「ワイバーンの引き取りは完了しました。全てを込みで先ほど頂きました。討伐できない場合は辺境伯様の討伐隊にお願いしようと引きつけて参りました。村に襲い来たのを倒せたので十分でございます。追いかけっこは好きではありませんが、ワイバーンから逃げ切った全力でお相手いたします。それでは失礼いたし」
イタッ。抱きつかれて固まる。いい匂いがする。上から落ちてくる髪が頬をくすぐる。
「よくやった、シルヴリン」
「はしたないですよ、お嬢様。嫁ぐ前にそのようなことをされるのはいかがなものかと。旦那様も助長するような言動はお控えください」
害意がないから気がつかなくて、背中に乗っている。メイルが痛い。
「のいてよ」
「逃げない?それが約束できるなら降りてあげる」
「帰りたいだけなんだけど、ここにいる必要ない。離れた瞬間に逃げる」
「じゃあ、勝負しましょう?ランスが勝ったら帰してあげる。私が勝ったら私のところに来て今後のことを話し合いをする。それでどう?」
わかりましたと返事をすると、やっと降りてくれた。
「勝負をするってどうするの?魔法?」
「魔法なんて使えないもので勝負はしないわよ。剣で勝負よ。これでも毎日修練しているだから祝福前の子に負けはない」
「魔法じゃなくて、剣?スキルの使用は?」
「殺さない限り何でもあり」
「じゃあ、さっきのヤツは使ってもいいんだよね?君を巻き込んで空に飛ばしても、落下で死ぬのは君のスキルがないからと言うことで間違ってないよね?僕は殺していない。スキルでなんとかすると思っていたからってこともまかり通るけどいいね?」
メイドが前に出てくる。
「模造刀での模擬戦でどうでしょうか?剣のみの勝負です」
「模造刀ってどんなの?」
さやごと渡され、しっかりとした金属の重みを感じる。抜き去ると刃は潰してある。
「使いようによっては殺してしまうけどいい?目から突っ込めば死ぬよね?骨が折れるとかは了承済みってこと?」
「そんなことになるのはランスだから問題ない。始めるわよ」
さやを地面に置いて一振り。重さと重心を確かめる。
「いつでもどうぞ」
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