討伐隊に見つかった

「隊長が気配を消すからびっくりして逃げたじゃないですか」

「逃げてはいない、びっくりしているだけだ。そこにいるだろう」

「まあ、そうっすけど。君、我々はエルミニド辺境伯所属の斥候部隊。私は副隊長ディナルド、でこっちが隊長のヴァレンス。名前と所属を教えて欲しい。出来るなら倒した方法も。気配に敏感なようで脅かせて悪い。敵意はない。ワイバーンの討伐隊を組んで来たら目の前で倒された。辺境伯様にどう報告をすればいいのやら。ワイバーンのことを話そう。本陣で辺境伯様と話してくれないか?」

 ええ?辺境伯様と話すの?イヤなんだけど。

「冒険者ギルドと薬師ギルドに所属している。倒したのは風」

「降りてついてきて欲しい。辺境伯様って怖いから怒られたくないんだ。頼む」

「いきなり襲われない?」

「安全は保証する。野外だからそんなにいい待遇は出来ないが襲ったり、傷つけたりは絶対にしない。隊長も」

「少年の方が強いであろうから仕掛けることはない。少年が敵対しないでくれればこちらも敵対する理由はない」

 とりあえず木から下りて近くに行く。

「近づくと思ったより小さいな。何才なんだ?」

「13才」

「祝福前!?」

「うん」

 2人とも驚いた顔をしている。どうしたんだ?

「ど、どうやって倒したんだ?」

「風の生活魔法」

「生活魔法!?」

 さっきから驚きすぎだ。隊長さんは表情を変えてもいないぞ。

「隊長、どう説明すれば」

「祝福前というのが。辺境伯様に直接説明してもらうしかない。我々の理解の範疇を超えている」

「これを持って帰りたいんだけど、処理のしかたって冒険者ギルドで教えてくれるかな?」

「辺境伯様に進言しておくので、処理はこちらで行おう。引き取りもしてくれるだろう、相談してみるといい。これを金に換えてしまった方が帰りは楽だ」

 それもそうかと思う。お金はあった方が助かる。マジックバックも届いていないから荷物の誤魔化しが出来ない。

「それじゃあ、ついていきます」

「来てくれるのなら、軽く走る程度でいいな」

 ハイといって、走り出して行くのを見て、ワイバーンを浮かせてからついて行く。木よりは上に浮かせておかないと森が破壊されて、攻撃の時に自分も破壊してしまったけど、これ以上は破壊されないようにしよう。2人の走るのについて行くのに副隊長が振り返ってギョッとする。

「隊長!先行して狩ったワイバーンだと伝えてきます」

「なんのことだ」

「上です」

 隊長も空を見上げる。表情が少しだけ動く。

「最速で討伐隊に周知せよ」

「了解です」

 副隊長は速度を上げて森の向こうへ消えてしまう。速いね。隊長は一定の速度を保ったまま進んでいくので、僕もそれについて行く。変わらない速度でこっちを気にしながら走っている。よく木にぶつからないな。コツでもあるのかな?斥候系は本か自力、ティワズはほとんどの武器が使える武神と呼ばれているが、索敵などは気配でなんとかしろって。こういうところは訓練あるのみみたいにいってた。教えてくれないかな?後ろから見る限り、ごく自然に最小限の動きで木々をすり抜けているのが凄いなと観察する。

 そのまま観察し続け、いや走り続けて速度が緩む。それに合わせてゆっくりと歩く。だんだんと木々が少なくなって、広い場所に出る。たくさんのフルメイルの騎士達と後ろは魔法師達。騎馬に乗った人もいる。これが討伐隊。人がいっぱいだ。何人ぐらいいるのかと端っこの人から目で数えてみる。

「報告は間に合ったようだ」

 15人ぐらいしか数えてない。端っこのちょっとだけ。馬に乗って傷の入った顔にぶごつい甲冑の精悍な戦士って感じのおっちゃんが来た。その前に2人いるね。何だろうあのおっちゃん達は?

「して、この者がワイバーンを退治したと?」

「おそらく。その場でワイバーンの肉を焼いて食べておりました。我らでは手に余りますので同行してもらいました。辺境伯様に判断をお願いいたします」

「どこの者だ?名と出身は?」

「ランス、サルエン男爵領、エンケ村出身。辺境伯様、ワイバーンはどこに降ろしたらいいですか?」

 ついてこいというのでついて行く。人が割れるように道が開く。通り抜ける人々の目線が僕に向けられる。魔法師の一団の後ろに置いていいというのでそのまま降ろす。

「それでランス、どうやって倒した?その弓でないのはすぐにわかる。ミスリル製には見えん」

「生活魔法です」

「ははは、冗談にしてはひどい。本当のことを話せ。何のスキルを使ったのだ?」

「生活魔法。祝福前なのにスキルを使えないの知らないの?」

 2枚のギルドカードを出す。祝福前はF級と決まっている。隊長がギルドカードを受け取って辺境伯に渡す。

「確かに祝福前の子どものようだ。更新していないかの確認は出来ないのか?」

「領地に戻りギルドで確認しませんと、ここでは無理でございます」

「生活魔法でそれほどの威力が出せるのか?」

「発言をよろしいでしょうか」

「どうしたエイブラム。騎士団副団長が魔法に詳しいのか?」

 後ろから騎士の人が出てくる。

「魔法には詳しくないのですが騎士団学校の同期、ボルギ子爵騎士団長グレイからサルエン男爵領で鋼鉄の剣だけを切られたと。祝福前の子どもだと聞いております。名前も一致しています。元A級の冒険者を生活魔法で退けたとも。気が触れたのかと思いましたが、ワイバーンを倒せる子どもで、サルエン男爵領出身ならあり得ることかと愚考いたします。元A級の冒険者を退けた時はサルエン男爵様とボルギ子爵様がご観覧されており、間違いありません。友人の証言にこの剣をかけます」

「ふむ、エイブラムがそこまで言うなら信じよう。領地に戻ってカードの真偽は一応確認しよう。では頼み方を変えよう、倒した魔法を見せてくれないか?」

 半信半疑かな。戸惑っているようにも見える。

「条件があります」

「なんだ?」

「この討伐隊の最大防御でご覧ください。あと巻き込まれて死んでも一切の責任はないとここで誓約ください」

「ヴァレンス、それほどか?」

「上に放っているはずなのですが、周囲の木々が消えており、更にその周囲も倒されておりました。人ぐらいは軽く飛ばされるかと想定されます」

「今回の魔法に巻き込まれてもランスの責任は一切問わない。ここに誓約する」

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