ワイバーン対決

 雑貨屋に顔を出してから自分の家には帰らずに森の中へ。山の麓を飛んでいるワイバーンを確認する。こちらに来ないのならいいか。引き返して家の中に。荷物を下ろして、一息つく。狩りが出来なくて困るけど、食料は十分に確保している。リュックや袋などに詰め込んでいるのでどこから出したとかはない。狩り用の道具を整備して悪いところがないか、ナイフの研ぎ直しを魔法でやってみたりとその日は動くことなく過ごす。静かな時間、動物たちもいなく風で木の葉がこすれる程度の音しか聞こえない。大丈夫だろうか?どのくらいの攻撃で、どのくらいの速度で移動して襲ってくるのか?魔法は使うのか?口で食べようとしてくれるのなら反撃できそうだ。初めての竜種との戦いにいろいろ考えて不安になってしまう。静かすぎて余計に考えが加速してしまう。


 数日動きはないが村に近寄るようなそぶりもなく、空間倉庫のクマの解体をして燻製にしてみたり、あとはパンを買いに戻ろうかなと考えていた。時間が空いたので不安は少しずつおさまっていくようだ。自分の死力を尽くして戦うことしか出来ない。燻製肉をパンの代わりにリュックに詰め込んでおく。食べ物のことも考えて不安を紛らわせよう。


 近づく大きな気配。昼間に近づく大型の魔獣を感じた。外に出ると村の方に向かっている。悲鳴が聞こえワイバーンはそちらに向かって進んでいく。なりふり構っていられずに、風の力で村の広場まで加速して行く。

「家の中に!」

 ワイバーンを見てガタガタ震え座り込んでいる女の子。誰かに似ていて見たことがあるような。首根っこを掴むと立たせて、ドアから心配そうに見る親元に風で押し飛ばす。エイシェトの両親は見てすぐわかった。家の中に引きずりこんで、ドアが閉まるのを確認、矢を射かける。風で矢を加速させて気を引けるか?いけ。いまいち気を引けていない。目を狙えるか?風を使ってどうにか目の付近を狙う。嫌がっているな。弓を射かけつつ、降下して来たのを慌てて、避けると村を出て森の方へ進む。後ろを追ってくる、誘導には成功した。村を出て風の魔法でけん制を威力は弱めている。

 グワワワワヮヮヮヮヮ

 鳴き声を上げて、威圧の効果を持っているようだけど、関係ない。さっさと加速して森の中へと進んでいく。もう、村からは離れて村人からは見えないだろう。木々の間を抜けていくのは難しい、このスピードだと体がついていけない。スキルがあれば反応できるんだけど、風の魔法と身体操作にひたすら神経を注ぎながら、服が枝に引っかかって破れるのも気にせずに痛みを感じても、前を見て木々の間を抜ける。スピードを緩めない。絶対だ。探索を使いながら後ろのワイバーンがついてきているか確認。振り返るなんて出来ない。そんな余裕なんてない。上空をしっかりとついてきている。地図を思い出しながら西南方向に向かえるように調整をする。もしもの時を考えて辺境伯様のところに向かうことにする。誰か討伐できるなら助けて欲しい、ギルドも誰も助けてくれない。もしも失敗すれば押しつけて逃げ切ろう。自分の領地が危険になるとわかれば、討伐隊をだしてくれるはずだ。

 さすが竜種、めちゃくちゃに早い。悠々と飛んで追いかけてくる。木々の間を抜けないといけないから、こっちはこれが精一杯なんだ。風でけん制を行いながら、ワイバーンを引きつけられるように頑張って走り抜ける。追いかけてくる。僕なんか食べてもお腹が膨らまないぞ、クマの干し肉もリュックにあるか。だけど全然足りないと思うけどね。

 降下しようとするのに合わせつつ、風の魔法でけん制と急加速を繰り返しながら、徐々に風魔法の威力を上げている。軽い傷が入るくらいにして、イライラしているのか雄叫びを上げながら追いかけてくる。いいぞ、ついてこい。辺境伯様のところまで連れて行ってやる。森を駆け抜けながら増えていく傷を気にしないようにして、走って行く。途中に村などの集落はないはずだ。斜め上の力を加えて、空に舞い上がり、空での真っ向勝負。うまく風の魔法を避けながら寄ってくる。速度を上げる。あぶな、噛みつかれそうになった。1口で食べられるぞ。冷や汗をかきながら森の上を駆け抜ける。距離を少しでも稼ぐんだ。辺境伯領にもっと近づいて。

 開けた場所から森の中へと戻って、少しずつ速度を落として見上げると、上を旋回している。いつでも狙ってやるって思っているのか雄叫びが響く。森の中からそろそろ決着をつけてもいいかと考える。そろそろ辺境伯領の近くにはいるはず。ワイバーンは標的と思ってくれているのか視線は僕を見失うまいとして上を旋回している。ここからなら辺境伯様の軍隊が最悪なんとかしてくれるだろう。止まって見上げる。食べられたら、もの凄く痛いんだろな。大きく息を吸い込んで。

「勝負だー!」

 大きな声に応えるように大きな雄叫びを上げて、森の中を滑空してくる。木々をなぎ倒して迫ってくる。魔力を集約して風の刃に変換して放つ。周囲の空気を巻き込んでワイバーンへと放つ。巻き込まれた空気が太い木をなぎ倒し、急激に方向転換したワイバーンのクビを切り取った。やばい、やり過ぎた。


 生活魔法のレベルが上がりました。


 頭の中に無機質な声が響いた。

「やったー!!!」

 生活魔法だけは伸び悩んできたので凄く嬉しい。思わず飛び跳ねて喜んだ。ハッと我に返る。周りは嵐が通り過ぎたような後で、ワイバーンも落ちている。肉は美味しいのかな?ナイフを取り出して肉を切り取って火で焼く。火力は弱め。肉の焼ける音しか響いていない。倒せたからいいか。サッパリとしているのに濃厚な味わい。肉のうまみがつまっているのに後味がくどくない。普通の動物とは違う味だ。もうちょっと味見を。ナイフで肉を切ろうとした瞬間に悪寒がして飛び退く。誰?知らない人がいた。何で気配消して後ろにいるの?ワイバーン狙い?人がいるなら空間倉庫は使えない。空は安全なはずなので、風の魔法で木の上に飛び上がると様子を見る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る