正式通達

「はあ、冒険者同士の暴力での解決はよくあるし、それを抑えるための力もいるの。物を壊したり、けがをするまでになったらギルドも黙っていない。ソルはその傾向が強くて、勝ったらいうこと聞けって感じで今までやってきた。それをいきなり壊されたから、意固地になっているの」

「だから、力で解決すればいいんでしょう?冒険者ギルドはそうしたよね?スキルまで使ってF級を殴って、骨折までしたんだよ。あれはそれでも謝ってこない。僕がそれを返して何が問題なの?」

「それは冒険者ギルドでも御法度なの。ちょっとしたケンカぐらいなら見逃すけど、ランス君の件は冒険者ギルドが全面的に悪い。殴った冒険者は特定していて、ソルには謹慎処分が下っている。本部長が来てから正式に謝罪と賠償を行う予定が決まっているの。正式な処分もその時出される。冒険者ギルドで話し合いがあるから」

 冒険者ギルドで話し合い。イヤだな。

「結果だけでいいよ。そっちにあんまり行きたくない。道具が来たら薬師ギルドで頑張る。ギルド証はもったいないけど、仕方ないかな。こんなことになるのなら、冒険者ギルドに入らなければよかった。危険なギルドに入る必要性なんてない。合わないと思ったら続ける必要なんてないって」

「やめるかどうかは別にして、謝罪と賠償は受けて欲しいの。受けてもらえなかったら、薬師ギルドとの関係悪化が避けられなくて、お願いだから冒険者ギルドに来て。薬師ギルドにも正式に謝罪する書面を送って、貴方にもギルドを通じてくるはずよ」

「確認してから行くか決める。届かない、不備で僕の手に渡らなかったなら、その時は仕方ない。冒険者の監視があるから村に帰ろうかと相談していたところなので。デールさんが動いてくれているので、手を出すのはちょっと違うかなと思って放っておいたんだけど、謝罪するつもりがあるなら、そんなことさせてる時点でやる気ないよね?」

「すぐにやめさせる。お願いだから残って。本部長が来るまでお願いだから」

 泣きそうになりながらヘルセさんは必死に引き留める。僕は冒険者ギルドの今までの態度に対して怒っているの。

「監視されないなら、残ってもいいかな」

「わかったわ」

 すぐに出て行くと、監視しているであろう冒険者に向かって行った。扉から覗いていると冒険者達が出て、ヘルセさんに連れて行かれた。監視はなくなったかな?ヘルセさんの本気具合は伝わってきたので、書面を見てから考えよう。

「ランス、冒険者ギルドも規定通りならちゃんと話し合いが出来ることがわかってくれたか?」

「ケンカってどんなことなの?したことないからわからない」

「殴り合いだな。どっちかが負けを認めたりしたら終わりかな。殺し合いじゃないからな。力比べみたいなもんだ」

「道具は使っていいの?」

「使わないな。素手で殴り合いだ。見ながらどんなものか覚えていくといい。口で説明するのはそんなもんだな」

 力比べ、道具を使わない。格闘?そんなわけないか。スキル、使わないしね。通りに出て監視がないのを確認しつつ、いつもの串焼きとパンを少なめに買う。パン作りはあと温度のみ。あとは消滅の魔力操作。しかも時間がたつと消えるという仕組み。呪文に遅延発動型の消滅魔法が組み込まれているはず。消滅はどうやっているのか?後から発動させるにはどうすればいいのか?生活魔法で作った物は消えない。パンの種の瓶は消えていない。つまり、消滅するための何かが攻撃魔法にはあるということだ。自分で練習しているときは意識していなかった。自然に出来てしまうってことだ。生活魔法だから補助も何もないから気がつく。自然に消える不自然さに。クリスタルが量産できるからいいのかも知れないが、残す残さないは自分で決められるようにしておきたい。

 今日もせっせとパン作り。火をおこして、薪が炭になるまで待ってからパン焼きを始める。焼き始めてると待っている間は暇だ。炭が切れないようにする。上げすぎないように薪を追加はする。食べられるほどにはなった。あとは焼き加減。

 練習しよう。どんなことをしても考えて失敗して、何度も繰り返す。それでもまだ足りない。魔法が見てみたい。


 書面が正式に渡されてどうしようかなと考えていると、蒼白な顔のヘルセさんがよく寝られるような薬の調整にやってきて、僕のせいっぽいのはわかったので、ギルド長に配合をやってもらって、混ぜるのだけをやらせてもらう。魔草を使っているので、最高品質を目指そうとするとかなり難しい。そこそこなら誰でも作れるんだけど、この見極めが出来る人が薬師でも少ないらしい。職員でもある程度作れればいいってことで、調合集は置いてある。配合からするともちょっと効き目の高く出来るけどな。調合だけはしっかりとしておく。

「はい、これでいい」

「なんで、ランスがやると高品質になるんだよ」

「魔草をうまく混ぜればいいんだよ。魔力が薬全体に広がるように混ぜればいいの」

「いや、意味がわからん」

 わからないのはいいとして薬を渡す。

「ちゃんと行くから」

「え?」

「これ」

 薬師ギルドからの正式な通知として、冒険者ギルドから謝罪の件についての書面を見せる。

「よろしくね」

 はーいと言いながら調合室に戻る。結構疲れているように見える。ソルのせいで大変なんだろう。元々仕事はしていなかったと思うけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る