冒険者ギルドへ
魔法の解明には至らなかった。消滅させる手順や魔力の流れがよくわからない。本部長っていうのが国の取りまとめで、総本部長っていうのが本部長を取りまとめているから、今回くるのはこの国の冒険者ギルドで1番えらい人だね。薬師ギルドってすごいね。神官に治してもらうのもあるけど、価格や携帯性で考えると薬師ギルドのポーションになっちゃう。神官でも治せないってこともあるから、何ともいえない。
冒険者ギルドから職員が迎えに来る。後ろをついて冒険者ギルドへ。ピリピリとした、いつもとは違う雰囲気がギルド内に漂っている。その中を職員に連れられごっつい護衛の人が立っていて、それを抜けてギルド長室に入っていく。連れてきてくれた職員さんはどこかへ行ってしまう。中にはソルとヘルセさん、あと見たことのあるギルド長がいた。3人である。
「王都のギルド長だったよね?」
全員の目がこちらを向く。僕はイスに座る。
「お久しぶりです」
「確かに王都でギルド長をしていたが、ランス君は最近ギルド登録をしたと聞いている。会ってないはずなんだが、貴族のご子息かな?」
「違うよ。盗賊退治の訓練で師匠と一緒に相談に行ってついてきたでしょう?1年前ぐらいになると思う」
「師匠?」
「ティワズが僕に盗賊退治させろって。心配でギルド長がついてきたでしょう」
あっという声がして手に持っていた書類を落とした。
「ら、ランス君という名前だったのか。名前を教えてもらえなくて、あのことは褒賞などが宙に浮いた状態でティワズに振り込んでしまったけど、大丈夫だったか?」
「僕に渡すのは無理があるから大丈夫」
「今回のこと、報復されてもしかたないことだけど、ここに来たってことは話し合いで解決してくれると思っていいんだよね?」
「薬師に所属していなかったらとヘルセさんが謝っていなかったら、報復してもおかしくなかったね。ちゃんと話し合いに来たよ」
話に置いて行かれている、2人は知り合いなのって感じで見ていた。
「本部長、その、お知り合いなのでしょうか?」
「ああ、ティワズがふらっとあらわれて、盗賊退治の依頼がないか聞きに来たときに一緒にいたんだ。この子にやらせる盗賊退治がないかとね。耳を疑ったよ。気が狂ったと思ったね」
「それで盗賊退治って」
「これ以上は話せない」
首を振って肩をすくめる。
「この2人は誓約済みにしてあるから話せるよ」
「では、フェンリルのことを知っているのか?」
2人は頷いた。
「それでこの子に挑むとは」
「知らなかったんだ」
「その前にF級だろう。それも知らなかったと?職員研修からやり直せ」
ソルは口をつぐんだ。F級なのは当然知っていたはずだ。王都のギルド長はため息を吐く。
「すぐに仲裁に入れるのはいいが、こういったことになるのは、また別のことだ。ランス君、王都のギルド長からこの国の本部長になったから覚えておいてくれ」
「はーい、それでいるんだ」
落とした書類を拾っている。
「その盗賊退治っていうのは、どういったものだったのですか?」
「盗賊退治か。あの傍若無人の集団には手を焼かされた。王国騎士団も返り討ちに遭い、冒険者の討伐隊を組んでも敗走してしまう。このまま奴ら夕暮れの血達に好き勝手にされてしまうのかと思っていたところ、ティワズとランス君が現れた。ランス君のために盗賊退治の相手を探しているとね。そんな、手頃なのは全部、夕暮れの血に取り込まれてしまっていないと説明したんだが、ティワズはいいのがいるじゃねえかと連れていったんだ。知られた手前心配になってね。ティワズが数を減らしてから、ちょっとやらせるぐらいだろうと思っていた。これは秘密だからと誓約をしてついて行き、そろそろ見つかるぐらいのところまで来て、ティワズは何をしたと思う?」
「盗賊を挑発したのですか?一気に刈り取ったとか」
首を横に振る。1つ大きな息を吐く。
「その辺の枝を拾ってランス君に渡し、俺以外とは初めてだが手加減はいらねえ。やってこい。あとスキルの技なしでなと送り出したんだ。絶句したよ。我に返って詰め寄ったが、あのくらいいないと油断が命取りだとわからないだろうと。結果は夕暮れの血の全滅、言葉も出なかった。帰ってきたと思ったらすぐに消える。こっちは夕暮れの血の全滅報告にティワズが来てやったことにして、事なきを得たが。本当にあれが現実だったのかと今でも思うよ」
「あと魔法は禁止だったよ」
「まだ、魔法は見せてもらっていないのか。木の棒でS級盗賊団退治が出来るから十分だとは思うよ」
「祝福を受けるまでその力を封印しているから大丈夫だと思う。祝福前の子が使えるものだけ使えるようにしてる。封印は自分で外すことは出来るけど、自分じゃすることが出来ないから外さないけどね」
「封印と手加減をして元A級の冒険者を倒すか。どれほどの能力があるのやら」
同席している2人は顔を引きつらせている。
「さて、話は逸れたが本題に行こう。冒険者ギルドとして管理が行き届かなかったこと申し訳なかった。ラント国冒険者ギルドとしてF級の保護の再徹底と周知、冒険者への指導を教本としてまとめ各支部に配布した。薬師ギルド員としても登録しているランス君へスキル使用による暴力を合わせて、謝罪金として大金貨5枚を支払うことを決定済みだ。君に暴力を振るった冒険者はE級に降格の上、罰金だ。ソルはサルエン支部ギルド長を解任、王都で冒険者指導教官とする。その前に研修に合格できなかったらクビだが、F級に負けた元A級の冒険者としてしっかり指導出来るようになれ。それに伴い、ヘルセをギルド長に任命する。ジャステラを副ギルド長として着任させる。急だったからここに来るまで、少し時間がかかるだろう」
「許可はないの?そっちから仕掛けてきたんだからいいよね?」
「なんのだ?」
「今使えるスキルでの全力反撃」
「それは出来ない。封印したランス君に勝てる見込みがある冒険者がパーティーのA級以上になってしまう。上乗せする、大金貨10枚で手打ちにしてくれ。頼む」
「こっちはなにもしていないのにスキルを使われて、骨折までしたんだよ。それに規定も知らない元ギルド長に殺されかけたのに反撃できないとかおかしい」
「こ、殺さない程度で頼む」
「鋼鉄製の剣は切れたから人も切れる?」
「五体満足で殺さない程度までだ。それ以上は犯罪だ。反撃も犯罪になったら国には住めなくなるぞ」
「この前、領主様のところでヒントをもらったんだ。わからなくしてしまえばいいって。どれだけ目撃が多かろうと消し炭にしてしまえばわからないって。最近、上級魔法っぽく生活魔法が使えることに気がついて、出来るんじゃないかと思っているんだけど。あ、そうだ。封印が外せないからクリスタル系の大地魔法を使っているところを見たいんだけど、見せてくれるなら適当にあしらう。でも、手加減ってどうするんだろうか?」
「それならこちらも出来ることだ。すぐに手配する」
本部長は外に出て人を中に入れる。事務員さんかな?書類を作っていく。
机の上に書類を置かれて、それを読む。内容はF級の保護をギルドとしてすること、冒険者、ギルド員に過失があること。薬師ギルド員に手をあげたこと。支払いは大金貨10枚であること。双方これで合意するサインをした。
「ランス君、師匠はどこに行ったんだ?」
「冒険に戻ったはずだよ。修練が十二分に出来たって。一緒に行ってくれる仲間を探してから伝説のダンジョンに挑むって。気合い入れたら家がちょっと壊れて怒られてた」
「伝説のダンジョン、無慈悲の絶望か?」
「そんな名前だったと思う」
数々の冒険者、勇者達を敗走、全滅させてきたというダンジョン。攻略した者はこの世の全てが手に入るだろうとか言われている。攻略した者がいないので言われていることも伝説なんじゃないかな。
「そういえば、どうしてクリスタル系の魔法を見たいんだ?」
「生活魔法だとクリスタルが消えないんだ」
貴族に売るギザギザクリスタルを目の前で作る。
「ほう、これだけ透明度あるとばらしても売れそうだな」
「攻撃魔法はそのうち消えるでしょう?でも消えないんだよね。数日たってるけど。消えるための遅延発動型魔法が組み込まれているはずなんだ。それを見つけるのと、どのくらいで消滅させるのかが調節できればと考えていたんだ。炎は魔力が切れるとすぐ消えてくれるけど、あ、そうだ、他の属性はどうやって継続するのかな?それはどうなってるんだろう。すぐに消えなくする?練習の時はすぐに消えていいんだけど。氷はどっちだ?濡れるってことは残ってるってこと?」
謎が増えてしまった。誰に頼めば見せてくれるんだろう?知り合いなんていない。
「練習するにも山奥でしないと危ない。解析だけでも出来れば」
「練習は訓練場ですればいいだろうに。魔力障壁もある」
「魔力障壁を展開して練習してたときがあったけど、詠唱って魔法の形にしてくれるでしょ。それを防ぐために出来ているから、一点集中型だと軽く突き抜ける。分散する分には防いでくれるんだけど。何回壊してもいいって言うなら練習させてよ。その前に、その魔法障壁ってレベルいくつ?生活魔法がレベル7だからそれ以上じゃないと分散した一部で壊れる」
「レベル7?生活魔法が?聞いたことがない」
同席のソルとヘルセさんに見せたので確認する。それでも信じられないらしく、スキル用の水晶で確認される。
「確かに。うちでは無理か。練習するのはいいが、あんまり地形を変えんでくれ。怒られるぞ」
「この辺、ダンジョンってないの?」
「この辺にはない。隣の隣のボルギ子爵領ならあるが、F級では入れないぞ。子爵の許可がいる。冒険者ならD級以上だ。低級ダンジョンではあるがF級にギルドとして入場許可は出せん」
「許可はもらえそうだけど、今回の件そのボルギ子爵にも口添えを頼んでいる。そっちの支部からも苦情が来るからよろしくね。騎士団長が文句言ってやるって。このクリスタル、宰相に献上できるぐらい凄いらしいよ。それを普通にあげるってことで渡して、透明のクリスタルのティーセットをお嬢様が欲しがったからいいよって言ったんだけど、ただでもらえないって言うから口添えをお願いしたよ。薬師からも文句は出してもらったし、ちょっとぐらい文句が大きくなっても大丈夫だよね」
本部長の口が開いた。どうしたんだろう?
「宰相に献上?ささっと作ったそれが?」
「そうそう、キレイに出来てるって。これと同じのを領主様は宰相に献上しに出発したよ?貴族向けに販売するんだって意気込んでたよ。ささっと作れるからみんな出来そうだけどね」
「貴族対策までいるのか。宰相にまで呼ばれるかもしれんとは」
ソルを睨みつける。
「ソル、冒険者に戻れ。成果を上げたらギルド職員に戻してやる」
「無理。けがで引退したのに、昔みたいに動けない」
「お前が悪い。貴族の覚えもよく、薬師ギルド所属。この2つでどれだけ大変かわかるか?F級の保護規定違反と薬師ギルド員の暴行の二重違反をどう責任取るつもりなんだ?風の噂だが薬師ギルド総本部長がランス君に興味を持っているそうだ。ギルド員でもローポーションの高品質は難しいようでね。そちらからも手を回されると、こちらは冒険者ギルドの総本部長が対応しないといけない。さっきの処分は保留。ラント国冒険者ギルド本部預かりとし、荷物をまとめ次第、本部に出頭するように、以上。書類は先行して本部宛に送って薬師ギルド本部に写しを回せ。ワシも早く帰らんと。和解したということで押し通さなければ。言うのを忘れていたが、ランス君に手を出した冒険者は降格と罰金刑だ。それを1番目立つところに張って周知させろ。これ以上何かあったら、本部では対応できない。最悪の場合、冒険者ギルド追放のうえ即時借金奴隷とすると書いておけ」
欲しいものは手に入るかな。薬師ギルドでの支払いも出来るはず。
「なんで頑張ってきたのにこんなガキのせいで、しかも貴族でもないのになんでなんだよ」
「下の者のせいじゃなくて、これはお前が悪い。力でいうことを聞かせるのは冒険者ギルドではあることだ。それは認める。だが、冒険者間での処分に首を突っ込んで状況を悪くしたのはお前だ。なぜ、非を認めて仲裁しない?薬師ギルドの所属だろう?言うことを聞かせられると甘く見ていて、こういう解決方法を今までもやってきたんだろう。許されるはずがない。F級から優秀な冒険者は出ている。ティワズもそうだ。祝福前の子どもは可能性の塊だ。それを潰していいはずがないだろう。そのためのF級の保護規定だ。スキルという凶器で消されることを防がないといけないんだよ。最低限、ギルド長ならそのくらいわかって行動しろ。お前はギルド職員失格だ。総本部に処分を任せる。荷物もまとめなくていい。ヘルセ、あとで送っておいてくれ。一緒に連れて帰る。拘束しろ!」
入り口のごつい人達がソルを拘束する。
「ソル、悪いことしたら謝らないと。僕は謝ったらもやもやは残るけど、薬師ギルドや貴族の人にお願いしたりはしなかったよ。僕に謝ることを一切しなかった。僕が許せなかったのはそこだよ。考えを改めるんだね」
「お前見たいな生意気なガキに、けがをして苦労をした私の気持ちがわかるか!」
手足に拘束具をはめられて床に置かれる。バタバタと暴れる。あきれてしまう。頑として認めないのが気持ちとして残ってしまう。
「それじゃあ、王都に戻る。貴族の動向を注視しておかなければな。いくぞ」
護衛の人達がソルを担いで出て行った。ソルを見送って、部屋を出る。職員の人や酒場の連中はじっと見ているのがわかったけど、そんなことは関係なく調合室に戻っていく。お金を確認するのを忘れた。暖かい布団で寝られるかも知れないのに、冷たい板の上に寝転がる。布団をどうするのか考えないと。1度村に戻って雑貨屋に確認をしよう。
それから戻ってきて、マジックバックの受け取りを。確認しないといけないのは時間経過をするかと入る量だ。時間停止のときは生き物を入れられない。空間倉庫がそうなってる。だけど、空間拡張の場合は時間経過ありで空間を広げている。全てのものが入る。広ければ人であろうと魔物であろうと。マジックバックは登録制になっており、商業ギルドで登録される。譲るときも一緒だ。冒険者ギルドでも登録代行は出来るので、商業ギルドがないところでは冒険者ギルドで登録出来るとティワズは言っていた。商業ギルドの話はグリじいから。冒険者ギルドで代行するのはダンジョンで発見されることがあるからだ。発見者は自分のものにするのもいいし、そのまま売るのも自由。高価なものだけど、稼げばなんとか出来る。
「1度村に帰って、ちょっと確認してからすぐに戻ってくる」
「こっちも荷物の往復で時間がかかるからゆっくりでも大丈夫よ。冒険者ギルドの謝罪も受けてくれたからこっちも引き留めることはないしね」
「荷物は置かせておいて」
カギを置いて準備をするとパンと串焼きを買ってから門を出て、村の方に向かって歩き出す。こっちで作ったパン生地用の板などは置いておく。持ち歩くには大きいからね。
門から歩き始める。来たときと同じく行き交う人はいない。草原と空と山が遠くに見える。近くは草原と草原と道ぐらい。急ぐ必要もなく、のんびりと道を歩いていく。お金は稼いだし、持ってきてはいないけど。草原なので動物達もいない。風景は多少変わっているが、わかる人にはわかるけど変化に乏しい。途中に村があってもよさそうだけど、なぜかないんだよな。見晴らしはいいんだけど。歩き続けて、1泊する。それからは速度を上げて帰った。村の近くにくると普通の速さで帰って行く。出迎えもあるわけではないので雑貨に立ち寄る。
「ばあちゃん、街から戻ってきたんだけど布団って頼んだ?」
「ああ、ランス。行商が来てないからまだ頼んでないよ」
「それなら違うところで頼む予定だから取り寄せなくていいから」
「街では何をしていたんだい?」
「ギルドへの登録をしていたよ。F級で家の手伝いみたいな依頼しか受けられないけど、お金はちゃんと支払われるから布団が買えるまで向こうで頑張ろうかな?それより家の掃除しないと。また来るね」
店から出て家のカギを開けて、ほこりっぽいかな。クリーンで掃除をする。誰かさんのゴミ屋敷にはしていないからクリーンで十分だ。石鍋でスープを作って食べて寝る。ここのベットも冷たい。布団があるともっと落ち着いて寝られると思うんだけどな。
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